太陽にほえろ! 1973・第74話「ひとりぼっちの演奏会」
この原稿は、事件の核心、物語の展開について詳述しております。ネタバレ部分もありますのでご注意ください。
第74話「ひとりぼっちの演奏会」(1973.12.14 脚本・長野洋 監督・石田勝心)
永井久美(青木英美)
川合隆夫(佐藤仁哉)
「テアトロ」マスター(山本廉)
マンション管理人(加藤茂雄)
高田鑑識員(北川陽一郎)
剣崎龍次
岩田博行
「ダーティーエンジェルス」メンバー(広田正光、相馬優子、渡部雄二)
須田一郎(成瀬昌彦)
予告編
「俺、一度でいいから、大勢のお客の前でドラムを叩いてみたいんだ!」
「次回「太陽にほえろ!」「ひとりぼっちの演奏会」にご期待ください。
第48話「影への挑戦」以来、久しぶりの内田伸子(関根恵子)主演エピソード。今回は麻薬常習者のジャズ・ドラマーが急死。最初は過失と思われたが、バンドボーイの隆夫(佐藤仁哉)が犯行に関わっている可能性が出てくる。少年係出身のシンコがボスの名を受けて、その若者に接近する。ジーパンとシンコの淡い恋愛感情が描かれ、ジーパンが嫉妬したり。微笑ましい場面が展開される。クライマックスに登場するライブハウスは「渋谷ジァンジァン」。渋谷公園通りの東京山手教会の地下に、1969年オープンしたミニシアター。淡谷のり子さんのライブ、イッセー尾形さんの一人芝居、永六輔さんプロデュース公演など、渋谷のサブカルチャーの発信の場だった。
川合隆夫を演じた佐藤仁哉さんは、高校在学中に内藤洋子さん、吉沢京子さんの『バツグン女子高生 16才は感じちゃう』(1970年)でデビュー。「正義のシンボル コンドールマン」(NET)では主演を果たした。山口和彦監督の東映『サーキットの狼』(1977年)がきっかけで、プロレーサーとなる。「太陽にほえろ!」では第15話「拳銃とトランペット」から第675話「死にゆく女のために』(1985年)、PART2の第4話「俺は殺された」(1986年)まで9作品で出演している。
麻薬中毒でショック死をした若者の検死をしている。麻薬の常用者が量を間違えるのはおかしいとジーパン。しかし高田鑑識員(北川陽一郎)は「それは私にはなんとも言えませんが、しかし、より刺激を求めるために量を増やすってことはよくあることですから」。マンションの管理人(加藤茂雄)によれば、亡くなったのは「ダーティ・エンジェルス」というロックバンドのリーダーでドラムのジョーだった。第一発見者は管理人ではなく、バンドのわかい衆だった。ダイニングにいるそのバンドボーイの川合隆夫(佐藤仁哉)にシンコが事情を聞こうとすると、新聞か週刊誌の婦人記者と間違えられてしまう。少しムキになるシンコ。「私は刑事です」「まさか?」「いいから名前を言いなさい!」
捜査第一係。ボスが電話で山さん報告を受けている。麻薬の常習者による過失死という線で、クスリの出所を調べることに。バンドメンバーは、ペット吹きのサム、ベースのゴロー、レミ(相馬優子)の3名。ゴリさんと殿下が事情を聞きに出かける。
一方、ジョーのマンションでは、シンコが川合隆夫から事情を聞くのに四苦八苦している。それを山さん、ジーパン、ゴリさんが面白そうにみている。名前を聞くのにも「3本川の川に、逢引きの相・・・」「逢引き?」とシンコ。住所は「新宿区西大久保2−3−8みどり荘」「みどりは漢字?それともひらがな?」だんだんイライラしてくる隆夫。ムキになるシンコ。みかねたジーパン「おい、もうちょっと静かにやれよ。怒鳴りゃいいってもんじゃないんだよ」。隆夫「なんだよお前?」「お前とはなんだよ!」と怒り出すジーパン。「社長シリーズ」のチーフ助監督だった石田勝心監督らしい、笑いに溢れた滑り出し。結局、シンコとジーパンが大声で喧嘩を始める。
一係。長さんがボスに報告。被害者、いや亡くなったホトケは、前夜、相当酒に酔って、バンドボーイの隆夫に担ぎ込まれて帰ってきた。ボスが「高尾ってのは?」。シンコが応えようとすると、ジーパンが先に、隆夫の説明を始める。送り迎えは隆夫の仕事だったと。面白くないシンコ。管理人は「大きな声でジョーが歌っているのを聞いて目が覚めたそうです」と、シンコがジーパンを制して早口で説明。ボス「それで?」。ジーパンとシンコ、同時に喋り出すと、山さんが「あとは隆夫の話ですがね・・・」と割って入る。これもコメディの常套手段。隆夫はジョーをベッドに寝かして、アルバイト先の深夜スナックに出かけたという。ボスが「部屋を出る時、鍵はどうした?」。またシンコとジーパンが言いかけると、山さん「隆夫が合鍵を持っています」。「社長シリーズ」の朝の会議での三木のり平さん、小林桂樹さん、加東大介さんのシーンみたい。今朝も隆夫が迎えに行って返事がないので中に入ったらジョーが死んでいた。
ゴリさんと殿下が帰ってくる。サムもゴローもリサも、ジョーに関しての評判は悪い。ヤクを打つようになってからは、プレイヤーとしてダメになったね、と亡くなったリーダーに対して冷たい態度だった。隆夫に暴力は振るうし、実際に暴力団との付き合いもあった。ピアニストは「隆夫なら腰巾着だったから知ってるんじゃないの?」。口にこそ出さないが、メンバー全員、ジョーが死んで良かったという顔をしている、とゴリさん。「嫌われていたっていうより、むしろ、憎まれていたって方がぴったりですね」と殿下。
「すると全員が殺しの動機を持っている?」とボス。殺人事件と思っている。とにかくジョーに詳しいのは、バンドボーイの隆夫。ボスは「おい、シンコ、元少年係のキャリアを生かしてみるか?」。嬉しそうなシンコ。そして「おい、ジーパン、お前、アシスタントでついていけ」。喧嘩ばかりの二人、果たして無事コンビが務まるのか。石田監督の演出はあくまでもコメディタッチ。ジーパンの乱暴は運転に呆れるシンコ。BGMもユーモラス。
隆夫のアパート「みどり荘」。隆夫がいきなりヤクザにボコボコにされている。冬の午後の優しい日差しのなか、シンコとジーパンも到着。「いいわね、今日のあなたはアシスタントなんですからね」とシンコ。ジーパン、大いにクサる。「知らねえたら、知らねえんだよ」「野郎、しらばっくれるのか!」。隆夫とヤクザの声がする。ジーパンとシンコ、2階の部屋に駆け上がる。「お前ら、何やってんだ」「刑事さん!」。そこでジーパン、久々の大暴れ! 外へ逃げるヤクザたちお追いかけるジーパン。シンコは隆夫の部屋へ。隆夫は殴られて血だらけ。介抱するシンコに「ほっといてくれよ」「いいからいうこと聞きなさい」。一方、ジーパンは、屈強なヤクザ三人を一人でボコボコにする。
「どうしてこんなことになっちゃったの?」。シンコの質問に隆夫は「麻薬のせいさ」。ヤクザたちはジョーの部屋に残っていた麻薬を、隆夫が盗んだのではないかと、押しかけてきたのだ。シンコの「知ってるの?麻薬をどこから手に入れたか?」の質問に、隆夫は「知らない」。ジョーが麻薬を打っていたのは知っていたが、用心深いので決して入手経路も、どこに隠しているかも知られないようにしていた。信じられないなら、警察に連れて行って拷問でもなんでもしたらいいじゃないかと隆夫。シンコはその目を見つめて「嘘じゃないわね。信じるわ」と微笑む。さすが元少年係! 隆夫を手当てしてあげるシンコ。次第に二人に信頼関係が芽生える。そこへジーパン、チンピラを逮捕してきて、二人の睦まじさに少し嫉妬する。「医者に見せた方がいいんじゃないの?」
一係。ジョーの死体から検出された麻薬はなんと20グラム。「これならどんな奴だって、一発で参っちまうよ」とゴリさん。どんなに酔っていても乗用者がこんな間違いをするはずがないと山さん。ボスは「明らかに殺しだ」と断定する。
ボスのアップの次のカットが「渋谷病院」(笑)「大都会PART2」で裕次郎さんがここの医師になるのは4年後のこと。治療を終えた隆夫につきそうシンコ。姉と妹のような感じである。「さっき、お医者さんの前でベソかいていたくせに」「どうも、刑事さんっていうのはピンとこないな。内田さん、シンコちゃん」「馴れ馴れしいわよ」「じゃ、シンコさん」。隆夫はシンコが手当をしてくれた時のハンカチを出して「これくれる?」。和やかに話す二人。シンコは七曲署で、事情聴取の続きをしたいので隆夫を誘うが「病院より怖いよ」と断られる。ちょうどその時ペイジャー(ポケベルの前身)がなりシンコは近くの電話へ。
ボスによればジョー殺しで、一番の容疑者は隆夫。ジーパンを送るから隆夫と一緒にいてくれ。しかしシンコはそれを信じることができない。ぼうっとしている間に、隆夫はどこかへ消えてしまう。ボス「渋谷病院あたりで、隆夫が消えた」「アパート行ってきます」とジーパン。裕次郎さんと優作さんんと渋谷病院。やっぱり「大都会PART2」を連想してしまう!
渋谷病院の近く、隆夫を探し回るシンコ。ジーパンは隆夫のアパート「みどり荘」へクルマを飛ばす。しかし隆夫は帰ってきていない。渋谷・宇田川町、シンコが隆夫を探していると、電信柱に「ダーティ・エンジェルス コンサートNo.5」のポスターが貼ってある。「ビッグジョー追悼コンサート」とステ貼りしてある。12月14日(金)7:00 渋谷ジァンジァンと書いてある。渋谷ジァンジァンは、教会の下にあったライブハウス。渋谷のサブカルチャーの拠点として1990年代まであった。ジァンジァンの地下に降りる階段で、係員に話を聞くシンコ。この階段、よく並んだなぁ。懐かしい。
一方、ジーパンは「みどり荘」の近辺で主婦から聞き込みをしている。やがてシンコは、ジャス喫茶DUGへ。バンドボーイの隆夫はそこにいた。管理人(加藤茂雄)はロックと言っていたが、ダーティ・エンジェルスはフリージャズ。やはり、そこへジーパンもやってくる。シンコ「よく、ここがわかったわね」「刑事だからね」とジーパン。「いつまで見ているつもりだ」と立ち上がるジーパン。シンコは「確証があるの?彼がやったという」と隆夫を庇う。「そんなものがあれば、入ってくるなり、捕まえているよ」「どうするの?」。困ったジーパンは、何かきっかけを作って口を割らせるか、証拠を掴むか、と曖昧な返事。シンコは「だったら私、ひとりにして。ひとりなら聞き出しやすいわ」。口を割らせるなら俺の方がというジーパンに、シンコは「だめよ。あなた男でしょ」「どういう意味だ?シンコ、お前、どういうつもりなんだ」。女を武器にして隆夫を丸め込むつもりなのか?とジーパン。
「私は刑事よ。容疑者や参考人の口を割らせるのに、みんなそれぞれのやり方があるわ。山さんには山さんの、ゴリさんにはゴリさんの、あなたにはあなたのやり方が・・・私は私の方法でやってみるだけよ」
早くひとりにさせてほしいというシンコに、ジーパンは「嫌だね。俺はそんな考え方をする女は嫌いだね」と言って立ち去る。ジーパン、シンコのことが好きで心配なんだね。
DUGの店内。シンコが隆夫に親しげに話しかける。「麻薬を守っている奴から、君を守れって命令されたのよ」「そうか」安心する隆夫。そこへ須田一郎(成瀬昌彦)が「よお」と声をかけてくる。ジョーの追悼コンサートのことを聞く須田。「ドラムはお前が叩くんだろう?」。満更でもない隆夫。嬉しくてしょうがないようだ。伝説的プレイヤーの須田は、隆夫を引き抜こうと思っていたが、ジョーが死んでしまい、隆夫が後釜になるなら、それも叶わないと嘆く。「お前にもやっとチャンスが回ってきたんだ。頑張れよ」。シンコは隆夫のチャンスを祝福する。「頑張ってね。あたし、必ず聞きに行くから」。シンコ、それじゃ隆夫は惚れてしまうぞ!
公園。シンコと隆夫が会う。デートみたいな雰囲気。「俺たち恋人同士に見えるかな?」「恋人?」「厚かましいかな? でも友達かな?」うなづくシンコ。「自分が女だということを利用して、奴を丸め込むつもりなのか?」ジーパンの声がリフレインされる。ペイジャーが鳴る。「忘れたよ。あんた刑事だったんだ」。シンコ、ペイジャーを切って「もうこれで鳴らないわ」。
ジーパン、シンコと隆夫のデートを陰から見張っている。隆夫のマッチに目を留めるシンコ。黒いマッチ棒が珍しかったのだ。隆夫はシンコにそのマッチをあげる。「使い道ないもん」とバッグにしまう。あくまでもシンコは、麻薬のことで隆夫に近づく悪い奴を見張っている。つまりボディガードであることを強調する。「女じゃ頼りねえなぁ」「もしゃもしゃ頭のひょろっとした男より、あたしの方が頼りになるわよ」。ジーパンの話題になる。ベンチの二人。隆夫は自分の恋人はドラムだと胸を張る。辛いことがあってもドラムを叩いていれば平気。「随分辛いことがあったのね」「ええ」。ジョーへの恨みをそれとなく確かめるが隆夫は「済んじまったことさ」と口を閉ざす。隆夫は近所の赤電話からバイト先の「テアトロ」に、隆夫の友人を装って2時間遅れると電話をする。「声色なんか使っちゃって」「俺、人真似が得意なんだ」。笑う二人。その様子をじっと見ているジーパン。少し嫉妬している。それに気づいた隆夫ショック。「俺がジョーを殺したんじゃないかって疑っていたんだろ?」
「確かにあなたは疑われているわ。ただね、私はあなたが犯人じゃないって信じたいの」シンコが隆夫と付き合っていたのは、隆夫が犯人ではないという証拠が欲しかったからだと伝える。アリバイさえしっかりしていれば問題はない。「アリバイならあるさ」。あの晩、ジョーを送っていった隆夫は、バイト先の「テアトロ」へ。そこにジョーから隆夫宛に電話があった。マスターが受けて隆夫に取り次いだというのだ。
シンコとジーパン。「テアトロ」マスター(山本廉)から話を聞く。山本廉さんは東宝の第3期ニューフェース出身のバイプレイヤーで、同期に小泉博さん、岡田茉莉子さんがいる。マキノ雅弘監督に可愛がられ「次郎長三国志 第七部・初祝い清水港』(1953年)での七五郎役が印象的。東宝特撮映画の常連でもある。
マスターは、その日は、隆夫が遅番で、店に来てまもなく、午前1時ぐらいにジョーから電話があったと証言する。隆夫が表にゴミを捨てに行っている時で、マスターが電話を受けた。「明日の朝、何時までに、迎えに来いって言われてましたね」。
「テアトロ」の店の外。ジーパンはシンコに「隆夫がここに来た時、ジョーは生きていた。完全なシロだな」。しかしシンコは腑に落ちない。「隆夫くん、どうしてジョーが殺されたって思ったのかしら?」。シンコは「ジョーが殺された」とは一言も言ってなかった。麻薬のことしか言ってないのに。「俺がジョーを殺したんじゃないかと疑っていたんだろ?」と隆夫は言った。しかし隆夫にはアリバイがある。シンコは「テアトロ」で張り込み、ジーパンは隆夫のアパートへ。
一係。ジーパンからの無線報告を受けたボス。隆夫のアリバイは一様成立したものの「どうも引っかかるところがあるんだ」。ジョーから隆夫に電話があったのが午前1時ごろ。死亡推定時刻と同じなのだ。「死にかけた人間が電話したことになりますな」という山さんにボスは、シンコに合流して隆夫に当たるように命じる。
「テアトロ」に出勤してくる隆夫。店の隣は「トルコ・ウヰンザー」。マスターは刑事がジョーのことを調べにきたと隆夫に話す。「お前にかかってきた電話のことをしつこく聞いてきたな」。ゴミを捨てに店の外に出る隆夫。近くで張り込んでいたシンコ。電話ボックスに隠れる。旧式の電話ボックスで、クリーム色のもの。全面ガラス張りではないので、しゃがんで取手の穴から、隆夫を見ているシンコ。立ち上がる時、シンコはボックスの中に落ちている黒いマッチ棒を見つける。バッグから、先ほど隆夫に貰ったマッチを取り出すと、なんと同じもの。ここで賢明な年少視聴者なら、トリックがわかってしまう(笑) シンコは、隆夫の「俺人真似が得意なんだ」のことばを思い出す。シンコはマッチを見て「テアトロ」に電話をする。
マスターが電話を受けて、隆夫に「電話」と伝えて、そのままタバコを買いに行く。電話に出る隆夫「もしもし、誰だろ?」。店のドアが開いて「あたしよ」シンコが現れる。
「表の公衆電話からかけたの。あそこからだと、走れば、ほんの何秒かでこの店に帰って来られるわね。隆夫くん、あなた声色が得意だったわね。いつも一緒にいたビッグジョーの声色なんか、特に上手だったんじゃない?」
「あなたはジョーが生きている限り、ドラムを叩くこともできないし、他のバンドに移ることもできない。だからジョーが酔い潰れている時に、大量の麻薬を注射して、ショック死させたのよ。その後にこのお店へ出て、あの公衆電話から、あなた自身へ電話をした。ジョーがまだ生きてるって、見せかけるためにね」
隆夫、シンコに体当たりして店の外へ走り出る。ちょうど止まっていたバイクをアベックから奪って逃走。シンコ、タクシーを止めて「あの男を追ってちょうだい」。運転手、最初「バッキャロー」と急に車を止めたシンコに怒鳴るが、警察手帳を見て「へい」。性差別の描写というより、この時代、女性に対してこういう感覚だったのだなぁと。ようやく山さんが到着するが、すでに隆夫もシンコも去った後だった。山さん、バイクの青年の「オートバイ泥棒、待て」の言葉で全てを理解し、覆面パトカーで追跡開始。
新宿西口の京王プラザホテル前、隆夫のバイクが走る。追跡するタクシー無線で、シンコはタクシー会社に「七曲署捜査第一係に連絡してほしい」とメッセージを伝える。すぐに山さんのクルマにボスから「犯人は甲州街道に向かった」。シンコはタクシー無線で「ただいま犯人は甲州街道から環状8号に向かっています」。この連携プレー。今見るとまだるっこしいが、当時、小学四年の僕は、感心しながら手に汗握っていた。やがてバイクは多摩川河川敷へ。バイクを捨て、川に逃げ込む隆夫。タクシーを降りて追跡するシンコ。しかし川の中に入るのに躊躇してしまう。「無理だよ。女刑事さん!」
やがて山さんが到着する。「隆夫くん、戻ってきなさい。もう逃げきれないわ」とシンコ。「わかっているさ、けどあんたさえ黙っていてくれたら、あと二、三日は稼げる」「二、三日?」「刑事さん・・・シンコさん、頼むから明後日まで待ってくれないか。明後日、俺たちのコンサートがあるんだ」
「俺、一度でいいから大勢の客の前でドラムを叩いてみたいんだ。俺のドラムで大勢の客を酔わせてみたいんだよ! お願いだ。明後日まで待ってくれ。俺たち、ちょっとの間でも友達だったんだろう?」
逃げようと思えば細い道を行くこともできた、だけどシンコのためにわざと広い道を走ってきたんだと隆夫。シンコに待ってほしいと懇願して、逃げ去ってしまう。そこへ山さん「逃げられたな・・・隆夫と何をしゃべった」。口ごもるシンコ。
「シンコ。殺された奴がどんなに嫌な奴でも、殺した奴がどんなに可愛そうな奴でも、それでもやっぱり逮捕しなきゃならんのが、デカの仕事だぞ」と山さん。うなづくシンコ。隆夫との会話を山さんに伝える。
一係。山さん帰ってくる。シンコとジーパンは「テアトロ」へ。隆夫のアパートに張り込んでいたゴリさんによれば、隆夫は戻らずに麻薬組織のチンピラがウロウロしている。バンドメンバーのところにも来ていない。隆夫はどこへ?「スナックにもまず、顔を出すことないでしょうね」と長さん。ボス「テアトロ」に電話をする。ジーパン「隆夫はやっぱり麻薬組織のことを知っている。下手すりゃあいつ、消されるぞ」と言い残して外へ。再び電話。隆夫からだった。「約束、守ってくれたかい? 誰にも話さなかったんだろ?」「ええ、誰にも話してないわ」「シンコさん、もう一度だけ会ってくれないか」。隆夫はライブ会場の渋谷ジァンジァンに、シンコ一人できてほしいと告げる。「わかったわ、必ず一人で行きます」。
ジーパン戻ってきて「どこへ行くんだ?」「・・・」「隆夫だな」。シンコは黙って、一係に電話をする。「ボスですか? 川井隆夫の居場所がわかりました」。シンコは情に流されず、刑事としての職務を全うしたのだ。
ジァンジァン。観客のいない真っ暗な空間。隆夫、首に白いマフラーを巻いて、ドラムを叩き始める。ゆっくりとリズムを刻む。ジーパンとシンコがジァンジァンに。「裏に回ってくれる?」とジーパンに頼むシンコ。しかしジーパン「俺、ここで待ってるよ。あいつ、きっとシンコに聞いてもらいたいと思ってるんだよ」「柴田くん・・・」「待ってるよ」「ありがとう」。ジーパンの優しさ、シンコとの信頼関係が伝わってくる良い会話。
シンコ、店内に入る。無心になってドラムを叩く隆夫。シンコ「やめないで。そのまま続けて。思いっきり叩くのよ」
長さんと山さんもやってくる。山さん「こうやっているうちにも気が変わって逃げ出すかもしれん」。長さん「裏へ回って」。そらそうだ。店内では演奏がクライマックスに、隆夫を見つめるシンコ。優しい微笑み。その瞬間、ライトがついて、長さん、山さん、ジーパンが現れる。
「川合隆夫、殺人容疑で逮捕する」と山さん。
隆夫、裏切られたことを知り、スティックとマフラーを叩きつける。「あんた汚いよ。一人で来るって言ったじゃないか! 汚ねえ、あんた汚ねえよ」よシンコに罵声を浴びせる。涙を浮かべるシンコ。山さんたちは隆夫を連行。一人残されたシンコと隆夫のマフラー、スティック。
一係、しょげかえっているシンコ。部屋を出て向かいの資料室へ一人入る。そこへジーパン、明るい声で「オス!」と入っていく。ボスと山さんも立ち上がって資料室の方へ。
資料室。「あたし、あの子を裏切ったのね」「刑事としてシンコは正しかったよ。ただし、隆夫と君の間では、君は隆夫を裏切った。まあ、ホシさえ挙げれば何をやってもいい、ってもんじゃないんだよ、な」「・・・」
その会話を廊下で聞いている、ボスと山さん。
「ま、長い人生にはいろんなことがあるさ。な、良い勉強になったな」
「・・・」
「これからはね、シンコがアシスタントになって、俺の下でもっと修行するんだな」
ジーパン紙袋の中から「森永ハイクラウンチョコレート」をシンコに「気分直せよ」と渡す。その優しさが嬉しいシンコ。「またパチンコ?」「そう。鬼の係長の元でこき使われてさ、せいぜいこれぐらいしか楽しみがないのよ。そういう哀れな私って、挫折だ・・・」。シンコ笑う。
廊下で山さんも吹き出す。「おい、山さん。何がおかしいんだよ」とボス。思わず笑い出す。