太陽にほえろ! 1974・第110話「走れ!猟犬」
この原稿は、事件の核心、物語の展開について詳述しております。ネタバレ部分もありますのでご注意ください。
第110話「走れ!猟犬」(1974.8.23 脚本・長野洋 監督・山本迪夫)
永井久美(青木英美)
加治田登(今井健二)
木原(石山政五郎・のちに石山雄大)
ヒッピー(福崎和広・のちに福崎量啓)
競艇場の情報屋(小高まさる)
パチンコ屋のサンドイッチマン(花巻五郎)
セキトラ・カーアクション(関虎実)
予告篇。ナレーションは小林恭治さん。
シンコ「あの子は死んだわ、あの時、あたしたちのクルマですぐに運んであげたら、あの子は助かったかもしれないのよ」
N「逃げるホシが少女を跳ねたことを知らずに、ひたすら追っていったすぐ後、取り返しのつかぬ言葉が耳をつんざく。やるせない心でいっぱいのジーパンが、刑事として再び立ち向かう場所は・・・次回「走れ!猟犬」にご期待ください」
ジーパンとシンコ主役回。ゲストに東映出身の今井健二さん。翌週の殉職回を前に、少しずつ描いてきた柴田純(松田優作)と内田伸子(関根恵子)の愛の物語がクライマックスを迎える。山本迪夫監督に話を伺った時に「二人の心が少しずつ向き合い、お互いを愛し合っていることを意識するシーンとクライマックスを重ねたかった」と話してくれた。強盗殺人犯がひき逃げした少女を助けられなかったことを、詰るシンコ。そのことで自責の念に苛まれるジーパンに、刑事としての心構えを叩きつけるボス。必死の潜入捜査で、敵に捕らえられたジーパンを捨て身で救おうとするシンコ。「死ぬときは一緒よ」のセリフが、クライマックス、操縦不能の小型トレーラーのアクションで生きてくる。シンコからの愛の告白。それを受け止めるジーパン。視聴者のテンションが最高潮となる。
射撃練習場。シンコが拳銃を連射!「違うんだよな」とジーパン。「何が違うのよ?大体、腰が座ってないんだよ、腰が。射撃の基本てのはな」とジーパンが偉そうに指導する。今回、ジーパンは白の上下。最終回に向けて、松田優作さんのアイデアの衣裳。シンコむくれて「余計なくちばし入れないで」「くちばし?」「そりゃあたしは下手かもしれないけど、どうせコーチしてもらうなら、ボスかゴリさんにしてもらいたいわ」「そりゃ、俺はな、人にコーチするほど上手かないよ、だけどな、いざという時、相手はバカみたいに突っ立ってやしないんだぞ!」と、かつてボスに言われたことをシンコに話すジーパン。それを聞いたシンコ、真剣に標的を狙い、見事な腕前を発揮。ジーパン、サングラスを外して凝視する。「どう?」「うん、立派」とごまかし笑い。
夏の日差しの中、ジーパンとシンコの覆面車が信号で停車。時刻は3時15分、銀行の時計が指している。青信号になり発進。小田急線が並走している道路、シンコが助手席から「常東銀行新宿支店」を何気なく見る。車の時刻は3時17分。シンコ、クルマを停めさせる。ジーパン「なんだよ?急に」「変だと思わない?あの銀行、まだシャッターが降りてないわ。とっくに3時を過ぎているのに。それに、変にひっそりしてて」。ジーパンうなづいて、シンコとともにクルマを降りて銀行へ向かおうとしたその時!
非常ベルが鳴り、変装用のマスクをした男が、銀行の裏口から駐車してあったクルマに乗りこむ。ジーパン「シンコ、(ボスに)連絡しろ」と発進した犯人のクルマに飛びかかろうとするが、車はスピードを上げる。次の瞬間、路地から出てきた黄色いスカートの少女が、逃走車に跳ねられる!「あ!」シンコが少女に駆け寄り、抱き起こす。ジーパン、車を発進させ追跡へ。「ジーパン!」シンコの声もクルマの音にかき消されてしまう。少女は頭から大量の出血。少女を抱きしめるシンコ。
逃走車は都心から離れた郊外へ、ジーパンも懸命に追跡する。セキトラ・カーアクション・チームによる迫力あるカーチェイス。逃走車から共犯・修が身を乗り出して、ジーパンに向かって拳銃を発砲!ジグザグ運転で避けるジーパン。カーブのところで対向車のトラックを避けようとした逃走車は電信柱に激突。そのタイミングでジーパンが、クルマを停める。マスク姿の主犯が降りてきてジーパンに向かって三発撃って、走って逃走。助手席の共犯・修はすでに射殺されていた。
路地の飲み屋街を逃走するマスクの犯人。夏の強い日差しの中、ジーパンの白い上下が眩しい。拳銃を構えたジーパン、店の陰から犯人を狙う。西部劇的なシチュエーション。飛び出たが、犯人の姿はない。路地には犯行に使ったマスクが落ちていた。ジーパンは、逃走車に戻り、共犯の死体を確認。そこに、白いゴリさんの覆面車が、猛スピードで到着。逃走車とジーパン車の間に、すっと入ってくるドライビングテクニック!
「ジーパン!」「ゴリさん、ホシはこのあたりで・・・」。ゴリさん、いきなりジーパンの胸ぐらを掴んで「お前、子供に気づかなかったのか?」「子供?」。
救急指定病院・中央病院。ジーパンが駆けつける。二階の廊下の奥で、シンコが項垂れている。ジーパンが駆け寄り「シンコ、俺は・・・」言いかけたところで、シンコが頬を打つ。「何すんだよ」「あの子は死んだわ、出血多量よ」「救急車は?」「呼んだわ、でもね、その救急車が来る何分かの間に、あの子の血がどれだけ流れたか、わかる?」「・・・」「あの時、あたしたちの車ですぐに運んであげたら、あの子は助かったのかもしれないのよ!」。ジーパン、シンコの顔を見て、何か言いかけるが、無言のまま。
俯いて病院を出てくるジーパン。後悔の念、斬鬼の念、取り返しのつかないことをしてしまった・・・。夏の日差しが眩しい。
捜査第一係。ゴリさんが戻ってくる。山さん「どうだった?」「ダメですね、全く手がかりなしです。目撃者がないわけないんですがね」とゴリさん。長さん「あのあたりの連中は、まともに協力するはずはないからな」「裏から当たってみるわ」と山さん。ゴリさんは長さんに「死んだホシの身元は?」「まだだ、しかし、この顔、この体つきからすると、やくざや肉体労働者じゃない、学生かヒッピーって感じだな」。殿下、写真を受け取り「当たってみます」と出かける。犯行に使用された拳銃は、S&W35口径のリボルバー、クルマは盗難車。手がかりはそれだけ。「今、クルマについている指紋の照合待ちをしている」と長さん。ゴリさんは拳銃を当たることに。
ゴリさん、部屋を出ようとして立ち止まり「あ、そうだ。ところでボスは?」。
夜、ガード下の赤提灯。電車の騒音、歌のない歌謡曲が流れている。ボスがやってくる。案の定、ジーパンがひとり酒を飲んでいる。「大分、いってるようだな」「ボス、俺は人殺しですよ、ホシを追うことばっかりしか考えないで、そのためになんの罪もない女の子を、見殺しにしてしまったんですよ、あん時の俺は人間じゃなかった。獲物を追うことばっかりしか、俺の頭にはなかったんです」。ジーパンの後悔の念。ボス「言いたいことはそれだけか?泣き言はそれで終わりか?と聞いてるんだ」「泣き言?」ジーパン、ボスの顔みる。「ボス、ボスには俺の気持ちが」その瞬間、ボスはジーパンの髪の毛を掴んで引き摺り出す。
ボスのマンション。風呂場、ボスがジーパンの頭に水道の蛇口の水を浴びせる。「何するんですか!」「やかましい!ジーパン、お前の仕事はなんだ?いってみろ!お前の仕事はなんだ?いいか、お前デカだ、デカが泣き言言って務まると思ってんのか!」。ジーパン、何かに気づいたように目を見開く。
リビングでボス、「なあ、ジーパン、お前の気持ちはよおくわかる、俺にも似たような経験が何度かあった。だからと言って、そこでいくら泣いても、もう遅いんだ」。俯いていたジーパンが顔を上げてボスの目を見て「しかし、ボス」「忘れろとは言わん、忘れようったって、忘れることじゃない。だがな、ジーパン、今はそんなことを考えている時じゃないんだ、お前が今夜、飲んだくれている間に、お前の先輩や仲間たちは何をしていると思う? 血眼になって、それこそ猟犬のように、逃げたホシを追ってるんだぞ」。キャメラはゆっくりジーパンにズーム。ジーパンの目が光る。「猟犬になれ!ジーパン、今、振り向いている時じゃない!」。ジーパン、少し考えて、じっと目を見て「ボス」。
夜の街。ジーパンのテーマとともに、ジーパンが歩く。行き交うクルマのヘッドライトに、ジーパンの白の上下が映える。
新宿駅西口地下広場。ロングショットで、山さんが情報屋から聞き込みをしている姿。
夜の繁華街。ネオンの中、殿下が雀荘へ聞き込みへ。
夜の路地。逃走するヤクザを追いかけ、殴るゴリさん。「おい、どこだ?え?どこだ!」厳しく詮議をするゴリさん。
深夜、捜査第一係。電話で報告を受ける長さん「あ、ご苦労さん」メモをとっている。
パチンコ屋の前、ジーパンがチンピラに聞き込みをしている。
真夜中の刑事たちが懸命に自分の使命を果たしている。そして夜明け、新宿西口公園を歩くジーパン。鳥の声。池で顔を洗うジーパン。
捜査第一係。捜査会議が行われている。長さん「盗難車から採取した指紋の中に、三つほど身元のわからないのがありますが、その中にホシのものが含まれているかどうかは、今のところ、なんとも断定できませんですね」。ボス、ゴリさんに「拳銃は?」「申し訳ありません。まだちょっと・・・もう少し時間をください」「ようし、長さん、クルマが盗難にあった前後のこと、もう一度調べなおしてくれ、場所、手口から何か掴めるかもしれん」「はい」。ゴリさんは引き続き拳銃のルートを調べることに。「殿下を応援に回す」「ボス、それじゃ死んだもう一人の犯人の身元は?」と殿下。「そいつはジーパンとシンコの仕事だ」。
「ボス!」とジーパン。シンコ「一緒に組むんですか?」「そうだ」ボスの言葉にみんな笑って出ていく。「あ、久美、山さん呼び出してくれ」。うまいなぁと思うのは、この場に「あれ?山さんいないぞ」と思わせておいて、ちゃんと捜査中であることを、久美との会話で伝えてくれる。ボス、無線機の前にたち、ジーパンとシンコに「ほら、何突っ立ってるんだ、早く行け!」と促す。二人は不承不承、出動する。
新宿駅西口。ジーパンとシンコは、それぞれ路上でアクセサリーを売っているヒッピーに聞き込み。
山さん、競艇場で情報屋(小高まさる)に聞き込み。「加治田?」「ええ、パクられたのは関西の方ですから、旦那、知らないでしょう?普段は一匹狼を気取っている野郎なんだが、人手が欲しい時は、一回こっきりで、身も知らねえ若い連中を引き込むって噂ですから、まあ奴はもともと、この界隈の生まれですからね、路地の抜け道ぐらい知っていてもおかしくないでしょう」「今、どこにいる」と山さん。「さぁ、そこまではどうも・・・旦那、ところで今度のレース、なんだと思いますか?」。山さん、新聞を渡して、手をあげて立ち去る。情報屋が新聞を開くと千円札が5枚。
新宿南口あたり。ジーパン「駅前の公園?ほんとかいおじさん?」。パチンコ屋のサンドイッチマン(花巻五郎)の話を聞いている。シンコ「行ってみましょうよ」。おじさん「行っても無駄ですよ」「無駄?」「ええ、あそこにたむろしている連中は他人様のことなんか、気にしちゃいないですよ。よしんば知ってたとしてもね、刑事さんに協力なんて、とてもとても」。
捜査第一係、長さんが戻ってくる。「電送写真届きました。これが加治田登です」。加治田登(今井健二)の写真を見るボス。山さん「しかし覆面を取った顔を誰も見ていないとなると、これ、決め手にはなりにくいですな」「無駄でも一応、銀行の連中に見せてみよう」とボス。そこへシンコが一人で帰ってくる。山さん「ジーパンは?」。シンコ、バッグからジーパンの拳銃と手錠を出す。「これはどういうことだ?」とボス。
新宿西口公園。ヒッピーたちがタムロしている。その中で横になっているジーパン。
山さんの声「なるほどそういうことか」「うん、この役はジーパンにぴったりだ。これで死んだホシの身元が割れて、加治田の線と結び付いたら、いうことないんだが」と長さん。
ジーパン、隣のヒッピー(福崎和宏)が立ち上がったので声をかける。福崎和宏さんは、子役時代から「コメットさん」「戦え!マイティジャック」(1968年)でお馴染み。特に裕次郎さんも出演した『戦争と人間 第一部運命の序曲』(1970年・山本薩夫)では、第二部から地井武男さんが演じるテロリスト、大塩雷太の少年時代を好演。1970年代、岡本喜八監督作品の常連で『姿三四郎』(1977年)『ダイナマイトどんどん』『ブルークリスマス』(1978年)『近頃なぜかチャールストン』(1978年)に出演している。「太陽にほえろ!」には計6話出演している。
第31話「お母さんと呼んで」(1973年) - 誘拐犯 役
第56話「その灯を消すな!」(1973年) - 土谷実 役
第110話「走れ! 猟犬」(1974年) - 柴田刑事と仲良くなるヒッピー 役
第204話「厭な奴」(1976年)
第551話「すご腕ボギー」(1983年) - ジン 役
第699話「優しさごっこ」(1986年) - 園芸店店員
捜査第一係。ボス「シンコ、こいつをジーパンに渡して、一応、確かめさせろ」と加治田の写真のコピーを渡す。「はい」「お前がジーパンとの連絡係をするんだ。いいか、ジーパンは逃げたホシの素顔を知らん、だがホシの方はジーパンの顔を見ている筈だ。しかもジーパンは丸腰だが、ホシは拳銃を持っている。ま、今更止めても、止まる奴じゃあるまい」とボス。
山さん「シンコ、こいつは言い訳にしかならんが、ジーパンは女の子が跳ねられたのに気づいていなかったんだ、もちろん状況を正確に掴まなかったのは奴のミスだ、それだけに、あいつは一人で苦しんでいる」。シンコ、ボスの顔を見て「あたし・・・」「早く行け!いいな、ジーパンを後ろからしっかり支えてやるのが、お前の役目だ」とボス。「はい」うなづくシンコ。
新宿西口公園。ジーパンがタバコをの火を探して、隣の髭面のヒッピーに声をかけるが、無視される。そこに「タバコないか?」とヒッピー(福崎和宏)がジーパンのタバコを奪い、仲間に回す。ハモンドオルガンのテーマがコミカルなシーンを際立たせる。
シンコ、ジーパンを探していると、「この野郎!ふざけやがって」。遠くでヒッピー(福崎和宏)がチューリップハットのヒッピーたちに殴られている。ジーパン、無関心を装っている。ジーパンの影に隠れるヒッピー。「おい邪魔すんのか?」とチュリップハットの二人が、今度はジーパンを殴る蹴る。
シンコ、見ていられなくなり、近づく。人だかりができているが、見物人たちも「見てみぬふり」。シンコ、無抵抗のジーパンを心配そうに見つめている。「警官だ!」慌てて逃げ出すチューリップハット。パトロールの警官「どうしたんだ?喧嘩してたんじゃないか?」「どうもしないよ」とジーパン、顎を抑えている。立ち去る警官に、ジーパン「バカ」。申し訳なさそうにヒッピー(福崎和宏)「痛かった?」。ジーパン、はっ倒して「痛いよ」。
高層ビル建設現場の資材置き場。鉄管の中にシンコとジーパン。「そうか、ボスは認めてくれたんだな」「今更止めて、止まるような奴じゃないって」。笑うジーパン。シンコ「ごめんなさい、昨日のこと」「お前が謝るようなことじゃないよ、間違ってたのは俺の方だからな」「ううん、私が悪かったのよ」「俺が間違ってたんだ」「あたしよ、あたし、あなたが」。
資材置き場を歩く二人。ジーパン「昨夜な、ボスに言われたよ、今は振り向く時じゃないって、な」「振り向く時?」「俺はこの手で必ずホシを挙げてやる!それ以外に死んだ女の子にしてやることないじゃないか?そうだろ、シンコ」。シンコ、大きくうなづく。ジーパン、加治田登の写真を見ている。「もしかしたら、あなたが取り逃した犯人かもしれないわ。どう?」「よくわからんな、顔だけは一応覚えた」写真をシンコに渡すジーパン。「持ってなくていいの?じゃ、明日また連絡に来るわ」「ボスの命令か?」「そう」「来るのはいいけどよ、あんまり目立たないように注意しろよ」「あたし、そんなに目立つ?」「美人だからな」「ふふ、ばかね」。嬉しそうに去っていくシンコ。「すぐその気になるんだから、アイツ、ばかだな」とジーパンの捨て台詞。
二人の心が通い合う名場面である。こうして二人の気持ちは寄り添っていく。
人混みの中、緊張気味のシンコ、ジーパンとすれ違い、紙を渡す。広げると、死亡した銀行強盗の共犯者の手配書だった。
新宿西口公園。蝉時雨の中、ジーパンがいつもの芝生に。ヒッピー(福崎和宏)の目の前に、例の手配書をクシャクシャっと丸めて、ぽいっと落として、横に寝転ぶ。「あーあ、さっぱりした」「何これ?」「便所のところで拾ったんだよ。銀行強盗やり損なってくたばっちまったんだってよ」「へえ」と手配書を広げるヒッピー。「まだ誰だかわからないんだって。警察もドジなもんだよ」。
「あれ?」「どうした?」「この顔、修だよ」。ジーパン、無関心を装って「知ってんのか?そいつ」「ああ、しょっちゅうここ来てたよ」「この男は去る八月・・・仲間がいたんだな」「誘われたんでしょう?ここの連中は、自分から何かをやろうなんてのはいないんだから。最もこいつはさ、修はちょっと変わってて、銭儲けて一旗あげたいなんて言ってたからね」「銭は俺だって欲しいよ」とジーパン。「そりゃ誰だって欲しいけどさ、何もヤバイ橋渡ってまでやりたくない」「ばかだよ。もうすぐ秋だよ」。ヒッピー、ジーパンの顔をみる。「俺はよ、これから寒くなっても、帰る寝ぐらがないんだよ、だからよ、まとまった銭が入るなら、少しはヤバイ橋渡っても、俺はやるぜ」とジーパン。ゴロンと横になり、空を見上げたジーパン。「なんかいいことないかよ、おい!」。
雨が降っている。ジーパン、殿下とシンコの待つ覆面車に飛び込む。びしょ濡れのジーパンにハンカチを渡すシンコ。「死んだ修の身元、わかりましたか?」とジーパン。殿下「家出人の捜索願が出ていた。ただ例の加治田との繋がりは全くない」「修があの公園で誘われたっていうのは、確実なんですけどね、それが加治田だったかどうか、はっきりしません」「そうか、ところでジーパン、そろそろ引き揚げたらどうだ?」「え?」「誘いをかけたのが加治田かどうかは別にして、銀行強盗に失敗した以上、二度と公園には現れんだろう?」「いや、俺は反対だと思うんすけどね、あそこの連中は、他人のことは全く無関心なくせに、変な連帯意識みたいなもんを持ってるんですよ、つまり、彼らの秘密が外部に漏れることはほとんどない、それがホシの付け目でもあったんです。ホシは前に一度失敗してます。つまり、狙った金を手に入れることができなかった」。殿下「ということは、もう一度」「やる可能性は十分です。とすれば必ずあそこへ、人を探しに来る、そう思いませんか?」とジーパン。
シンコは「でも来たとしても誰に目をつけるか、わからないでしょ?」「だから、シンコと島さんに、一芝居、打ってもらいたいんです」「お芝居?」とシンコ。
夏の昼過ぎの公園。シンコと殿下がベンチで囁いている。どう見ても恋人同士。そこへジーパン、相棒のヒッピーを連れて「おい、見せつけてくれるじゃねえかよ!え?」「なんですかあなたは?」と殿下の小芝居。シンコに「行こう」と声をかけて立ち上がる。ジーパン、その肩をつかんで「別に逃げることはないだろうが!」「何するんですか?」「お巡りさんを呼びましょう」とシンコも小芝居。ヒッピー、ジーパンを止めようとする。「いいんだよ、お前は!」とジーパン。「面白えなおい、呼んでもらおうじゃねえか!」と殿下の胸ぐらを掴む。「俺が何したってんだてめえ!」「何するんですか!」そこへ「ゴリさん?」ジーパン驚く。
「島くん!大丈夫か?」ゴリさんの芝居下手くそ(笑)「僕の友達に何をしようってんだ!」。ジーパン「(小声で)話が違うじゃないかおい」。殿下「(小声で)俺はただ殴られるのはイヤだからな」。ゴリさん「(小声で)いくぞ、ジーパン。あー!」と思いきりジーパンを殴る。ヒッピー、慌てて逃げる。ジーパン「やりやがったな」ゴリさん怪鳥音を挙げて「ウォー!」と挑みかかってくるが、ジーパンの鉄拳をくらって、転倒、派手に一回転する。さらにジーパン、ゴリさんに猛烈なパンチ。ゴリさんも本気になって殴り返す。パンチ、パンチ、パンチの応酬。二人ともだんだん本気になってくるのがおかしい。
ヒッピー、野次馬と一緒になって喧嘩を見物。その中で、ヤクザ風の男・木原(石山政五郎・のちに石山雄大)がじっとジーパンを見ている。格闘するジーパンとゴリさん。そこへ「お巡りだ!」の声。警官が駆けつけてくる。ゴリさんとジーパン、慌てて逃げる。
共犯・木原を演じた石山政五郎さんは、のちに石山雄大と改名して石原プロモーションに所属、「大都会」「西部警察」シリーズに出演。「あぶない刑事」シリーズでは、鑑識課・安田一郎役でお馴染みとなる。「太陽にほえろ!」では計6話出演している。
第21話「バスに乗ってたグーな人」(1972年) - 小野
第110話「走れ! 猟犬」(1974年) - 木原(梶田の共犯)
第251話「辞表」(1977年) - 大島和雄
第288話「射殺」(1978年) - 安田和也
第409話「英雄」(1980年) - 岸本正夫刑事
第443話「あなたは一億円欲しくありませんか」(1981年) - 原口
第490話「われらがボス」(1982年) - 七曲署保安課刑事
捜査第一係。ゴリさん顔が傷だらけ「久美ちゃん優しくしてよ」。久美が湿布薬を貼る。「痛てて!」と悲鳴をあげるゴリさん。「あの野郎、本気になって殴りやがって。久美ちゃんこっちも」と右の顎を出す。殿下「そういうゴリさんも相当なもんでしたよ」「でも迫力があったでしょうね」と久美。シンコはひとり心配そうな顔。「何笑ってんだよ殿下、カツ丼いっぱいじゃ安すぎるぞ!」「はい」。浮かない顔のシンコ。「おいせめて大盛りにしてくれよな」。シンコ、部屋を出ていく。久美、シンコが気になる。
公園。蝉時雨の中、ジーパンが芝生に横になっている。そこへ木原がやってきて「お前、金が欲しいんだってな?」「・・・」「どうなんだい?」「なんか上手い話でもあるのか、え?」「ついてきな」。ジーパン、起き上がり、うだうだとした態度で、木原についていく。ジーパン、当たりを見渡し、シンコを発見。気づかせるために、気弱そうなサラリーマンにぶつかって「痛えなこのやろう。どこ見て歩いてるんだ!」と怒鳴る。シンコ、その声に振り向く。シンコ、木原とジーパンの尾行を開始する。
新宿駅西口地下改札付近。トランペットのテーマが流れる。木原とジーパンが雑踏の中を歩いている。二人を尾行するシンコ。1974年夏の新宿駅を歩く人々の顔、顔、顔。やがて二人は甲州街道の地下階段から外へ出てタクシーに乗車。シンコもタクシーで追跡する。
タクシーの車内。ジーパン「で、どこへ行くんだ?」「・・・」「随分常人深いんだな」。タクシーは大ガードを抜けて、繁華街の一角に停まる。二人が降りる。シンコのタクシーは少し先まで行く。音楽が終わる。
「BAR K」のある路地へと入っていく二人。シンコはそれを確認する。階段を降りて地下室へ。カウンターに座っている男の後ろ姿。ジーパンが追跡した銀行強盗犯のものである。ゆっくりと振り向く加治田。間違いない。今井健二さんの人相の悪さが、効果的である。木原「加治田さん、こいつが・・・」。
加治田、ジーパンに近づいて「よく来たな」と拳銃を構える。「このハジキに見覚えはねえか?」。ベースの音が鳴る。「加治田さん」と木原。獣鉄をおろし、引き金を引く加治田。弾は入っていない。ゆっくりと加治田に近づくジーパン。「おっと、今度は弾が入っているぞ、なるほど、流石にいい度胸だ」。加治田は拳銃でジーパンを殴る。倒れ込むジーパン。
シンコ、店の前で、応援を待っているが、ジーパンのことが気にかかり、いてもたってもいられない。店の前の張り紙「ホステス募集」を見て、「BAR K」の店内に入るシンコ。しかし店には誰もいない。しばらく店内を見渡していると、地下階段を上がってくる足音がする。トイレへ隠れるシンコ。木原と加治田が上がってくる。
「加治田さん、なんであいつを?」「おい、とんでもない助っ人を拾って来たな、奴はな、デカだ!」
トイレの中で一部始終を聞いているシンコ。
「まさか、あんなフーテンみてえな野郎が?」「フーテンみてえな野郎だからはっきり覚えていたんだ。人選びの名人もとちったもんだな、え?」「どうします?」「始末するしかねえだろう。と言ってもここじゃ、後の始末が面倒だ」。木原を引き寄せ、小声で話す。
トイレのシンコには聞こえない。
「わかったな」と加治田。「ええ」。トイレのドアノブを回す音。「誰か入っているのか?」。シンコ、しばらく考えて、トイレの水を流し、貯水タンクに警察手帳を隠す。加治田「ぶち抜くぞ!」。シンコ、拳銃を構えるが、咄嗟にスカートの中に隠して、トイレを出る。
「なんだおめえ?」「あたし、表の張り紙を見て」「張り紙?」「ホステス募集って書いてあったでしょ?」加治田、拳銃を手に、シンコのバッグを取り上げ、木原に「調べろ」と渡す。中をあらため「別に変わったものはねえようだぜ」。加治田、シンコをなめるように見て「ホステスか・・・」
地下室。ジーパン、気が付く。顔には痣、腹は相当なダメージを受けて満身創痍である。ドアが開いて、加治田と木原がシンコを連れてくる。ジーパンの顔を見るシンコ。ジーパンの表情。加治田「知ってるのか?」「知らないわ、どうしたのこの人?」「こいつはデカだ」「まさか?」「本当だ」ジーパンを蹴飛ばす。シンコの表情。さらに胸ぐらを掴んで張り手。飛ばされるジーパン。「この間な、おめえのおかげでしくじった、この礼はな、たっぷりさしてもらうぞ!」「なんの話だよ?」ボコボコにされてもシラを切るジーパン。逆上し、パンチを連発する加治田。
「見てろ!今にこの勇ましい刑事さんがヒイヒイ泣くぞ」。加治田サディスティックに、衰弱しているジーパンを執拗に殴る、パンチを喰らわす、蹴り飛ばす。「やめて!」シンコ絶叫する。「やめて、その人は刑事じゃないわ」。
「なんでおめえにわかるんだ?」
「刑事は私よ」
ジーパンの表情が変わる。トランペットのテーマが流れる。ロングショットで四人を捉える。「あたし、その男が怪しいと思って、つけてきたの、そうよ、あたしが刑事なのよ、嘘だと思うなら、七曲署へ電話して聞いてご覧なさい。内田伸子って女の刑事がいるかどうか?」
木原、笑って「そうかい、そうかい、女刑事さん」「わかったらその男を離しなさい」「そうはいかねえ」加治田、拳銃をジーパンに突きつける。「おめえが、そうムキになるところを見ると」「まだ信じないの?」「うるせえ」と、ジーパンを突き放し、シンコの方へ。「そいつはデカだ!おめえの仲間だよ!」。シンコのフライングで最悪の事態へ。
一方、シンコの通報を受けたゴリさんと殿下の覆面車が、渋滞に引っかかって身動きが取れない。トランペットのテーマが流れる。
地下室。囚われの身となったジーパンとシンコ。「おい、なんで自分から言っちゃったんだお前?え?黙ってれば、お前だけでも助かったってのによ、なんで自分からデカだって言ったんだよ」「あなたなら黙ってた?」ジーパン、シンコの顔を見る。「あなたが私の立場だったら、黙って見ていた?ね、教えて、あなたなら、黙って見ていた?」。ジーパン真顔で「シンコ、俺は・・・」。そこまで言うと、ドアを開ける音がして、加治田と木原が入ってくる。
「さあ、お二人さん、出かけるか?」加治田、ジーパンにまた蹴りを入れる。顔を背けるシンコ。
ようやく、ゴリさんと殿下の覆面車が到着。店の外を見て「シンコ、いませんね?」「ジーパンが連れ込まれたバーってのはあそこだな」「行きますか?」。BAR Kの店内に入るゴリさんと殿下。店内には誰もいない。トイレのドアを開ける殿下。ゴリさん、地下階段への隠し扉を見つけ、地下へ。
一足先に加治田たちは、ジーパンとシンコを小型トレーラーに乗せて出発していた。
地下室で、ゴリさんは血痕を見つける。殿下はシンコの靴を発見。二人が拉致されたことがわかる。
山中を走る小型トレーラー。山の中腹で、車が止まり、木原がボンネットを開けて何か細工をしている。「いいぜ」と木原の合図で、ぐったりしたジーパンを降ろす。シンコは手首を縛っているロープを解こうと懸命。そこへ加治田、シンコのロープを解いて、外へ引きずり降ろし、車の助手席へ。運転席にはジーパンが、ハンドルに手をガムテープでがんじがらめにされて気を失っている。
「乗れ!」無理やり助手席に押し込まれるシンコ。木原はゆっくりと車を押して自走させて崖下へ落とそうとする。ゆっくりと動き出すクルマ。それを見届ける加治田と木原。
「柴田くん!」シンコ、必死にジーパンを揺り動かす。「ジーパン!しっかりして!」。クルマは前進を続ける。ようやくジーパンが気付く。カーブだこのままだと落下する! ジーパン、目を見開いてハンドルを切る。右に、左に。しかしブレーキが効かない。「シンコ、飛び降りろ!降りるんだ!今なら大丈夫だ!」「いやよ、いや!」「シンコ!」。ジーパンの腕のガムテープを必死に剥がそうとするシンコ。追跡のテーマ。
ジグザグで走る小型トレーラー。一歩間違えば崖下に転落する。「シンコ頼むから降りてくれ!」「死ぬときは一緒よ!」「馬鹿野郎が!」。クルマはどんどんスピードを増す。手に汗握るカースタント。もうだめか、と言う時に、ジーパン、シンコを抱いて、運転席から路肩に飛び降りる。車はそのまま前進して激突!
それを見ていた加治田「この野郎!」拳銃を持って走り出す。
放り出されたジーパンとシンコ、草むらに倒れている。「シンコ、大丈夫か?」「腕が・・・」「待ってろ」起きあがろうとするが、かなりのダメージを受けている。そこへ加治田と木原が走ってくる。ロングショットなので、時代劇の飛脚みたいで、ちょっと間抜けな絵柄。
「シンコ、もうダメだな」「逃げて!柴田くん」「逃げられるわけないだろうが」スローバラードのテーマが流れる。「お前ひとり置いてよ、シンコ、さっきお前言ったじゃないか、死ぬときは一緒だってよ」シンコ、ジーパンを見つめ「純・・・」。初めて愛を確かめ合い、見つめ合う二人。ジーパン、シンコ、手をつなぐ。
そこへ加治田と木原、憎々しげな表情でやってくる。「この野郎、しぶてえ野郎だ」。拳銃を構えた瞬間、ジーパンがシンコの拳銃で加治田を撃つ! 飛ばされた銃を拾おうとする加治田。しかしジーパンが銃で吹き飛ばす。形勢逆転。ジーパン、ゆっくりと立ち上がり、銃口を向ける。
捜査第一係。「え?」と驚きの顔のゴリさん。「なんだなんだなんだ、どこに拳銃を隠してたんだって?おい」と傷だらけのジーパンを軽く叩いて揶揄う。「ゴリさん!」とシンコ。「恥ずかしいな!」とゴリさん。「何よもう」。山さん、殿下、長さんも声をあげて笑う。「いや、しかしお見事」と長さん。「差し詰め、内助の功って奴だな」と山さん。「ジーパン、お前、当分頭が上がらんだろ?」と殿下も揶揄う。
「冗談じゃないっすよ、シンコがいなかったらもっと簡単に話が進んだのに」「あ、何言ってんのよ、あたしがいなかったらね、あんたなんか今頃ねえ」「何がだい?」「なによ!」「なんでえ!」。そこへ久美が大きな花束を持って入ってくる。「ボス、買ってきました」「ご苦労さん」とボス、立ち上がり、花束をシンコに渡し「二人で行って来い」。ジーパン「じゃ、あの女の子の?」「そうだ、今日が初七日だ」「はい」。ジーパン、シンコの目を見て、シンコうなづく。「じゃ、行ってきますわ」と二人仲良く出ていく。