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太陽にほえろ! 1973・第35話「愛するものの叫び」

この原稿は、事件の核心、物語の展開について詳述しております。ネタバレ部分もありますのでご注意ください。

第35話「愛するものの叫び」(1973. 3.16 脚本・鎌田敏夫 監督・土屋統吾郎)

 今回は「マカロニの恋・マカロニの孤独・マカロニの叫び」(予告より)ということでマカロニが恋する物語。お相手の小泉一十三さんは、これがきっかけでショーケンと結婚したファッションモデル。

 さらに松田優作さんがテスト出演している回でもある。脚本の鎌田敏夫さんと土屋監督は「飛び出せ!青春」のコンビでもある。ある日の午後、七曲署の前で焼き芋屋から500円分を買うマカロニ。そこで美しき深道弓子(小泉一十三)とぶつかる。「ごめんなさい」この瞬間、マカロニ恋に落ちる(笑)

 署の前を行ったり来たりする弓子。一係の窓からマカロニが観ていると怪しい男が連れ去ろうとしている。慌てて駆けつけマカロニが蹴散らす。弓子に「何かあったんですか」と警察にきたわけを聞くマカロニ。「いいんです」と立ち去る弓子。

 小泉一十三さん、モデルなので、芝居はあまり上手くないが、エキゾチックな美しさがある。弓子のアパートまで尾行するマカロニ。しばらくして弓子の悲鳴。「どうしたんですか?」「いきなり、誰かが!」帰宅すると部屋に誰かがいて首を締められたという。部屋にはロープが落ちていた。ボスと長さんに、弓子の被害を説明するマカロニ。傍には弓子がいる。

 マカロニが事情聴取にいちいち答えるのがおかしい。弓子は半年前に中野から転居してきたこと。印刷会社のタイピストであることが、弓子とマカロニの口から語られる。マカロニ、なんでも知ってるんだね。ボスに諌められるマカロニ。

 弓子が以前住んでいた中野のアパートの家主(加藤土代子)と隣人、野田佐代子(友田順子)に聞き込みをするゴリさん。ボスの命令で弓子のボディーガードとなるマカロニ。その後をつける謎の女。山手線の車体が懐かしい。満員電車のマカロニと弓子。嬉しそうにお役目をはたすマカロニ。

 昼休み、弓子は訪ねてきた客と屋上へ。マカロニが駆けつけると弓子が女と揉みあって、女は転落死。「あの人が、人の居ないところで話したい」と。女はかつての隣人・野田佐代子(友田順子)だった。佐代子は「男を返せ」と弓子を問い詰めていたという。佐代子のの男を弓子が取ったというのだ。

 「私が殺した」と半狂乱の弓子。ボスはマカロニに24時間「彼女を見張れ」と、向かいのアパートを借りる。「張り込み」である。インターフォンで弓子の部屋と直通で、夕食は弓子に呼ばれて差し向かい。「私、あのことどうなるんですか? 私もうどうなっても良いんです。刑務所でもどこでも」と沈む弓子を励ますマカロニ。弓子の境遇を聞いて両親が小さい時に亡くなったことを話す。弓子のアパートを出るマカロニを見つめるメガネの男。マカロニ、上機嫌でそのまま寝てしまう。深夜、インターフォンが鳴るが無言。弓子の部屋に駆けつけるマカロニは、何者かに殴打されて気を失う。

 目覚めると部屋には、弓子と男が倒れている。二人は病院に運ばれたが、男は死ぬ。男が持ってきた鮭缶に毒が入っていた。男は死んだ佐代子の部屋に通うちに弓子に恋慕したストーカー木村信之。無理心中を図ったものだと思われたが、山さんが鑑識に調べさせた結果、信之と弓子の胃の中の鮭の消化の程度が違うことが判明。弓子は信之より1時間遅れて鮭を食べていたのだ。「もう一度やり直しだ。深道弓子を徹底的に洗ってくれ」ボスは山さんたちに命ずる。

 弓子には小児麻痺で施設に入っている弟がいた。死んだ木村の部屋のカレンダーには大安に赤丸が、長さんが調べると死んだ佐代子との披露宴を申し込んでいたのだ。次々と弓子の嘘が明らかになる。「元気になるまで力になってやれ」とボスはマカロニ、弓子の世話をするように命ずる。ご機嫌で弓子に食事を作るマカロニ「よこはまたそがれ」「男の子女の子」を歌う(笑)

 一方、山さんは情報屋(二見忠男)から、佐代子は南東貿易の経理をしていて、杜撰な経理実態をエサに会社を恐喝してたことを聞き出す。ゴリさんは弓子の弟が20歳になると施設を出なければならなず、彼女が引き取るか、もっと金のかかる別な施設に入れなければならないことを聞き込んでくる。

 殿下は、弓子が印刷会社の前に勤めていた会社で恋人がいたが、弟のことを言い出せずに自分から身を引いた過去を調べてきた。彼女をめぐる謎は深まる。恋人はロンドンへ。一方、マカロニは弓子とジムニーで浜辺のデート。バックにデイブ平尾(ディーブ表記)さんの「僕たちの夜明け」(作詞作曲:フォーメン)が流れる。

 ちなみにこの曲のカップリングが井上堯之バンドの「一人」(作詞・岸部修三 作曲・井上堯之)。まるでPVのような編集で、マカロニと弓子の楽しい日々が描かれる。今回は完全にショーケンをフィーチャーしたファンサービス回でもある。やがてボスはマカロニに推測に過ぎないがと話す。

 「一人の貧しい娘がいた。両親はすでにいない。おまけに小児麻痺の弟がいるんだ。その弟は20歳になったら、今の施設から出なくちゃならない。引き取って一生面倒をみるか、それとも金のかかる施設に入れるしかないんだ。ところがその娘が住んでいたアパートの隣に2000万円横領した女がいた。娘はひょっとしたことから、そのことを知ったんだな。」

「ボス」

「まあ、聞けよ。娘が幸せになるためには弟を設備のいい施設に移さなきゃならない。それには莫大な金がいる。ところがだ。その金が隣にあったんだ。しかも盗んでも警察沙汰にならん金がな。」

「まさか」

「娘が盗んだ。そしてアパートを出た。女は男と一緒になって娘を探した。そして見つけたんだ。娘は手に入れた金を自分のものにするためには、男も女も殺すより他に手はなかった。」

「嘘だ。そんなこと」

「娘は考えた。ただ殺したんじゃすぐ捕まってしまう。そこでだ。刑事をアリバイにしようと考えた。刑事の見ている前で人を殺せば、自分が殺されそうになったふりをして人を殺せば、見つからないだろう。その刑事がマカロニ、お前だ」。

 カットを割っているとはいえ、裕次郎さん、この長台詞、全て頭に入っているのがすごい。今までで1番の芝居場だ。信じられないマカロニ。

 弓子の弟・ノリオの施設「東京北部身体障害者センター」で職員(松田優作)がマカロニに、ノリオが弓子により、別な施設に移ることが決まったと話す。20歳で出所しなければならない規則がある。「その規則のために犯罪は起きたんですよ」。マカロニとジーパンの共演!である。

「え?」

「その子の姉は人を殺したんだ。それでもあんた方は規則が大事なのか!」

 涙を目にうかべ「規則なんですよ」とその辛さを語る職員。松田優作さんの芝居場がちゃんと用意されている。ほんのワンシーンなんですが、自分ではどうすることができない「規則」に縛られていることへの怒りと悲しみを全身で表現している。

 一方、弓子は恋人の待つロンドンへ向かおうとしている。羽田へのモノレールに乗り込んだ弓子。それを見張る殿下とゴリさん。弟と自分の幸せのために、弓子にはこの方法しかなかった。あまりにも切ない。マカロニの悲しそうな顔。弓子に向かって走るマカロニの手には手錠が光る。逃げる弓子のカバンから、マカロニがあげたサングラスが落ちる。ああ、切ないね、悲しいね。

 弓子を捕まえるまでの長い長い追いかけシーン。柵に手錠をかけられた弓子が繰り返し「チキショー」と叫ぶ。その声がその場を立ち去ったマカロニの背中を刺す。頭上には彼女が乗るはずだった飛行機が飛ぶ。この瞬間、「太陽にほえろ!」は単なる刑事ドラマではなく、優れた青春映画となった。

 で行方不明のマカロニは? 玉木橋の酔っ払い保護センターで「チキショー」を連発。たまりかねた収容所職員(向井正)から電話がかかってくる。保護センターにマカロニの着替えを持っていくボス。

 トラ箱で疲れ果てて眠るマカロニに、ボスは「もう気が済んだか?怒りたい時はもっと怒るんだ。暴れたい時には、思い切って暴れていいんだぞ」と声をかける。

 これも「青春の痛み」に満ちた傑作! 子供のころ、よくわわからないけど、すごいものを観たと興奮したのを思い出す。鎌田敏夫さんは、この後、「太陽にほえろ!」でも、「俺たちの勲章」でも、この「青春の痛み」を描き続けていくことになる。








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佐藤利明(娯楽映画研究家・オトナの歌謡曲プロデューサー)の娯楽映画研究所
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