『殺人幻想曲』(1948年・FOX・プレストン・スタージェス)
スクリューボール・コメディの鬼才、プレストン・スタージェス監督のフォックス時代の佳作『殺人幻想曲 Unfaithfully Yours』(1948年・FOX)をアマプラで。
世界的指揮者・アルフレッド・デ・カーター(レックス・ハリスン)が、溺愛している若妻・ダフネ(リンダ・ダーネル)が、自分の出張中に、秘書・アンソニー(カート・クルーガー)を浮気をしていたのではないかと猛烈な嫉妬を覚える。
というのも、出張中に、義妹・バーバラ(バーバラ・ローレンス)の夫・オーガスト(ルディ・バレー)に、妻の監視を頼んだところ、オーガストが探偵に依頼。その報告書に、浮気疑惑が記されていたために…
レックス・ハリスンが、思い込みが激しく、檄しやすい、エキセントリックなキャラクターを好演。オーガストが探偵に依頼をしたと聞いただけで激怒して、報告書も読まずに燃やしてしまったり。しかもそれがカーテンに引火して火事騒ぎになって。
この「極端なキャラ」こそプレストン・スタージェスの喜劇の面白さ。気になって仕方がないので、探偵(エドガー・ケネディ)を訪ねると、疑惑が確信に変わってしまう。
この映画が面白いのは、ここから。その晩のコンサートで取り憑かれたように指揮棒を振るデ・カーターの脳内では、妻とその愛人の殺人計画の妄想が果てしなく広がって…
ロッシーニ「セミラーデ序曲」
ワーグナー「タンホイザー序曲」
チャイコフスキー「フランチェスカ・ダ・リミニ」
を演奏しながら、妄想ドラマが展開するのがおかしい。このアイデアはスタージェスが、1930年代から温めていたもので、ロナルド・コールマンをイメージしていた。その後、1940年代になってジェームス・メイスン主演で企画が進められ、結局、レックス・ハリスンになった。
妻を演じたリンダ・ダーネルがとにかく美しく、嫉妬からの妄想が果てしなく拡がっていくのも納得できる。そこが大事なところ(笑)
僕らの世代では、ダドリー・ムーアとナスターシャ・キンスキー主演のリメイク『殺したいほど愛されて』(1984年・FOX)でこの物語を知って、オリジナルが観たくてたまらなかった。確かWOWOWが開局して程なくオンエアされて、ああ、これが伝説の!と思った次第。