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『素晴らしき休日』(1938年・コロムビア・ジョージ・キューカー)

スクリューボール・コメディ研究からその源流、派生したものを考えつつ、先週の土曜日、ジョージー・キューカーの傑作『素晴らしき休日』(1938年・コロムビア)を久しぶりに観た。

こうしたコメディのエポック作品を連日楽しめるのは、コズミック出版のDVD BOXのおかげ。「一度は観たい!名作映画コレクション 夢のひととき」(10枚組)に収録されている。

MGM専属だったジョージ・キューカーがコロムビアに貸し出されて、ケイリー・グラントとキャサリーン・ヘップバーン主演で撮った『素晴らしき休日』は、非の打ち所がないほど面白い。原作はは1928年のフィリック・バリーの戯曲”Holiday"を、ドナルド・オッデン・スチュワートとシドニー・ブッシュマンが脚色。1930年にユナイトで、アン・ハーディング、メアリー・アスター、ロバート・エイムス主演で映画化されている。今回が二度目の映画化。

1930年版で、主人公・ジョニー・ケイス(ロバート・エイムス)の親友の大学教授・ニック・ポッターを演じたエドワード・E・ホートンが今回も同じ役を演じている。エドワード・E・ホートンといえば、1930年代、フレッド・アステアとジンジャー・ロジャースの映画で、アステアの親友役を演じていた俳優。コミカルでとぼけた味わいの紳士役が多かった。

ジョナサン・”ジョニー”・ケイス(ケイリー・グラント)は、幼い時に父親が事業で失敗、苦労していた母も早逝して、10歳の時から自分の力で人生を切り開いてきた。仕事も有能で勤め先の評判も良い。ただ30歳を機に「働く意味」「生きる意味」を考えたいと、自由を謳歌すべく、全ての仕事をやめて、好きなことをやりたいという「野心」を抱いている。

ハリウッド・コメディではお馴染み「風変わりな人物」だが、その言ってること、やることには一理あり、観客に撮っては「正しい人物」である。ケイリー・グラントらしいパワフルで、楽しいキャラクター。何かにつけてバク転をするのがストレスの解消法。

そんなジョニーが、ウインタースポーツを楽しみに行ったレイクプラシッドで「運命の出会い」をする。お相手は、ジュリア・シートン(ドリス・ノーラン)。二人は結婚の約束をしてニューヨークに帰ってくる。ジュリアの出自を知らないジョニーは、彼女を貧しい勤め人かと思って、その自宅を訪ねたら、なんとアメリカでも有数の銀行家・エドワード・シートン(ヘンリー・コルカー)のの次女だった。

「金満主義」のシートンは、強権的な父親で、息子や娘たちが成人した後でも、一家を支配している。その父親へのコンプレックスが強い長女・リンダ(キャサリン・ヘップバーン)は、自由を謳歌しているジョニーが、妹・ジュリアと結婚すれば、我が家に「新風」が巻き起こると期待をする。末弟・ネッド・ジュニア(ルー・エアーズ)は父親の英才教育に嫌気がさして、酒浸りの日々。

金持ちだけど「奇妙な一家」のシートン家に、ジョニーは果たして受け入れられるか? ガチガチの父親に結婚の許諾してもらえるのか?が前半のドラマ。

貧しい出ということ以外、ジョニーには欠点がないので、ジュリアがそこまで愛しているのならと、シートンは結婚を認め、大晦日のパーティで大々的に発表することにする。しかし、リンダは、愛する妹のために、気の置けない仲間だけを集めて、亡くなった母親が作った「遊戯室」でプライベートパーティを企画していた。それが踏み躙られて意気消沈するリンダ。この「遊戯室」こそが、幼い頃から、姉弟たちにとって母親の思い出がいっぱい詰まった「父親からのシェルター」だったのである。

「ジュリアとジョニーの結婚物語」だったドラマがここから大転換。ジョニーをシートン家に相応しい「娘婿」に仕立てようとする父親と、それに従うことが自分たちの幸福だとするジュリア。ジョニーはどうにもそれが受けられない。最初は妥協しようとするが…

ここからの展開が、この映画の真骨頂。「本当の幸せとは?」が大きなテーマとなり、それまで、シートン家でははぐれもの、反抗の塊、奇矯な行動が目についていたリンダが、ジョニーの生き方に共感し、彼を愛し始めていく。そのリンダを応援するのが、ジョニーの親友の奇妙な大学教授・ニック・ポッター(エドワード・E・ホートン)とスーザン(ジーン・ディクソン)夫妻。二人は、ジョニーに輪をかけた自由な人物で、大晦日のパーティでも居心地が悪く、遊戯室でリンダと意気投合して楽しくおもちゃで遊ぶのがおかしい。

というわけで後半の「あれよあれよ」の展開は、ご覧いただくのが一番。キャサリン・ヘップバーンがとにかく魅力的。ケイリー・グラントの”我が道をゆく”主義も、権威主義をぶっ飛ばす痛快さがある。この二人は『男装』(1935年・RKO・ジョージ・キューカー)、『赤ちゃん教育』(1938年・RKO・ハワード・ホークス)、『フィラデルフィア物語』(1939年・MGM・ジョージ・キューカー)とコメディの傑作の数々でコンビを組んでいる。


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佐藤利明(娯楽映画研究家・オトナの歌謡曲プロデューサー)の娯楽映画研究所
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