
『シンペイ 歌こそすべて』(2025年1月10日・神山征二郎)
知友・新田博邦さんが企画・プロデュースした音楽映画『シンペイ 愛こそすべて』が2025年1月10日から、全国公開されます。作曲家・中山晋平の生涯を、誰もが知っている唱歌、流行歌とともに描いていく「ミュージカル・バイオグラフィ」です。ドラマと音楽の按配が見事で、ぼくの大好きなタイプの音楽映画となっています。
かつてハリウッドが得意としていた「音楽伝記映画」があります。作詞家・作曲家、シンガーやプレイヤーの半生、生涯をスタンダード・ナンバーで綴っていくスタイルで、そのルーツはトーキーの初期からヨーロッパで作られていた、シューベルトの伝記『未完成交響楽』(1933年・オーストリア)、フレデリック・ショパンの悲恋物語『別れの曲』(1934年・ドイツ)などです。
ハリウッドでは、ミュージカルのソングライターの伝記映画が、1930年代から50年代にかけて連作されました。ガーシュインの『アメリカ交響楽』(1945年・ワーナー)やコール・ポーターをケイリー・グランドが演じた『夜も昼も』(1946年・ワーナー)などなど。そうした「ミュージカル・バイオグラフィー」のなかで傑出していたのが、伝説のジャズ・ミュージシャンの半生を描いた『グレン・ミラー物語』(1954年・ユニバーサル)です。
日本でも戦前には、「軍艦マーチ」を作曲した瀬戸口藤吉を滝澤修が演じた『世紀の合唱 愛国行進曲』(1938年・東宝)が作られているが、日本映画では音楽家の生涯や、名曲誕生のビハインドを描く伝記映画は数えるほどしかありません。
そこで日本映画でも、本格的な「ミュージカル・バイオグラフィー」「ソング・ブック映画」を作ろうと、新田博邦さんが企画したのが『シンペイ 歌こそすべて』です。つまり『グレン・ミラー物語』や、近年の『エルヴィス』や『ボヘミアン・ラプソディ』のような本格的な音楽映画として「中山晋平の生涯」を描こうという試みです。
トップシーン。昭和4(1929)年、ビクターのレコーディング・スタジオで、作曲家・中山晋平(中村橋之助)と作詞家・西條八十(渡辺大)が、スタジオで歌う佐藤千夜子(真由子)を見守っています。サイレントからトーキー過渡期の日活映画主題歌「東京行進曲」レコーディング現場がスクリーンで再現されているのが、何より嬉しいです。
史実を散りばめつつ、名曲誕生にまつわるエピソードがドラマと共に展開されていきます。「カチューシャの唄」、「ゴンドラの唄」、「船頭小唄」、「しゃぼん玉」などが誕生し、流行していくプロセスが、大正、昭和の風俗史とともに綴られるのが、実に楽しいです。
神山征二郎監督による演出のリズム、テンポも音楽映画的で心地良く、名曲誕生の瞬間と、ワクワクする展開に、お馴染みの名曲。日本映画でありながら、ハリウッドの音楽伝記映画、ソングブック映画のようなテイストが楽しめる。しかも2時間ちょっとの尺に見事にまとまっているのも良いです。
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