”The Women ”(1939年・MGM・ジョージ・キューカー)
スクリューボール・コメディ研究から派生してハリウッドのコメディ映画のあれこれを考えている。昨夜はジョージ・キューカーの代表作の一つにして、長らく日本未公開だったMGM女優饗宴の佳作”The Women ”(1939年・MGM)をスクリーン投影。DVDでは『女たち』と邦題が付けられている。確かアテネフランセの上映では『ザ・ウィメン』だった。
1936年にブロードウェイで初演されたクレア・ブース・ルースの戯曲を、アニタ・ルースとジェーン・マーフィンが脚色。この年、ジョージ・キューカーは8月公開の『オズの魔法使』(1939年・MGM・ヴィクター・フレミング)と12月公開の『風と共に去りぬ』(同)のいずれも監督として現場に入って演技指導、演出を行い、多忙を極めていた。その中で完成させたのがハリウッドの女性映画のクラシックスとなった”The Women ”だった。「女優の才能を引き出すことでは天下一」と言われたキューカーの演出が堪能できる佳作となっている。
なんといってもキャストがすごい。ノーマ・シアラー、ジョーン・クロフォード、ロザリンド・ラッセル、ポートレット・ゴダード、ジョーン・フォンテーン、メリー・ボーランド、ヴァージニア・ウェィドラー(子役)、ヴァージニア・グレイ、フィリス・ポーヴァ、ルシール・ワトソン、マジョリー・メイン。錚々たる女優陣である。
出演者は全て女優だけ。有閑マダムたちが、ビューティ・サロンで、誰と誰が付き合っているとか。どこの旦那が浮気しているとか、かしましく噂話をしてる。
メアリー(ノーマ・シアラー)は結婚10年、利発な娘・リトル・メアリー(ヴァージニア・ウェイドラー)に恵まれ、夫・ヘインズとは今でもラブラブの筈だった。しかしヘインズは、デパートの香水売り場の店員・クリスタル(ジョーン・クロフォードと逢瀬を重ねていた。その話を、従姉妹で噂好きのシルヴィア(ロザリンド・ラッセル)たちが、ビューティ・サロンのネイリストから聞いてヒソヒソ。
他人の浮気は「蜜の味」ということで、メアリーへの同情するふりをして、街の誰もが夫の浮気を知っているという事態に発展。そうしたなか、夫・ヘインズから「明日からのカナダ旅行は行けない」と言われてショックのメアリー。翌朝、ビューティ・サロンで、ネイリストからクリスタルと夫の浮気を聞かされて激怒。
しかしメアリーは、母・ミセス・ムーアヘッド(ルシール・ワトソン)から「時が解決するから、じっと我慢していて。絶対、女友達に相談はしないで」と釘を刺される。その禁を守っていたが、メアリーへの悪意を抱くシルヴィアから色々ご注進されてヒートアップ。
マダムたち御用達のデザイナーのファッションショーの当日。ついに、メアリーはクリスタルと会ってしまい、二人は衝突してしまう。ゴシップ好きにはたまらないネタとなり、この大喧嘩は新聞ダネになってしまう。引き下がれなくなったメアリーは離婚手続きのためにリノへ。ヘインズの財産目的のクリスタルは、彼を籠絡して妻の座に収まってしまう。
とにかくノーマ・シアラー、ジョーン・クロフォード、ロザリンド・ラッセルたち大女優の芝居合戦が、パワフルというか壮絶というか、ここまでやる?というぐらいの大袈裟な感じがおかしい。MGM女優の饗宴による「女性映画」なので、ユニークなのは男性が一人も登場しない。電話の向こうだったり、扉の向こうだったり、存在感はあるけど、画面には登場しない。それが徹底している。
ノーマ・シアラーとジョーン・クロフォードが直接対決をするファッションショーのシークエンス。モノクロ映画だが、ファッションショーの舞台だけ美しいテクニカラー方式で撮影。またハリウッドのゴシップ・ライターとして知られるヘッダ・ホッパーが、自身を思わせるゴシップ記者・ドリー役で出演。
中盤、リノでの「離婚手続き」のために、ルーシー(マジョリー・メイン)がオーナーのホテルで、男性に飽き飽きしたマダムたちが集結。4回の離婚歴のあるフローラ・ド・ラーヴ伯爵夫人(メアリー・ボーランド)、シルヴィアの夫を寝取ったミリアム・アーロンズ(ポーレット・ゴダード)、夫を愛しながら意地で離婚を決意したペギー・デイ(ジョーン・フォンテイン)たちのやりとりもみもの。
そして後半、メアリーが、有閑マダムたちのパーティへ出向いて、クリスタルへの復讐を果たすクライマックス。パーティの場面は一切なく、全てがパウダールームで展開する構成。それまでの登場人物が一堂に会しての、このパウダールーム・シークエンスは、ジョージ・キューカー監督の見事な演出で、どの女優もイキイキしていてハリウッド黄金時代の豊さを堪能できる。
僕は、この映画をMGMミュージカルとしてリメイクした”The Opposite Sex”(1956年・デヴィッド・ミラー)を先に観ているので、リメイクとつい見比べてしまう。こちらはジューン・アリスン=メアリー(役名はケイ)、ジョーン・コリンズ=クリスタル、ドロレス・グレイ=シルヴィア、アン・シェリダン、アン・ミラーといった当時の”旬”のベテラン女優の饗宴が楽しい。
また、2008年には”The WOMEN”『THE WOMEN 明日の私に着替えたら』(未公開・ダイアン・イングリッシュ)としてリメイク。プロデューサーは、ミック・ジャガーだった。こちらのキャストは、メグ・ライアン=メアリー、エヴァ・メンデス=クリスタル、アネット・ベニング=シルヴィア。ベッド・ミドラーやキャンディス、バーゲン、キャリー・フィッシャーと豪華キャスト。しかし、ハリウッドでは定番の女性コメディだが、日本では3本とも未公開だった。