『哀愁の夜』(1966年・日活・西河克己)
1963(昭和38)年のデビュー以来、三年連続、NHK「紅白歌合戦」に出場した舟木一夫。1966(昭和41)年2月、新曲「哀愁の夜」(作詞:古野哲哉、作曲:戸塚三博)の発売と同時期に公開されたのが本作である。これまで、詰襟服の学生や、貧しくとも明るく生きるブルーカラーの勤労青年を演じてきた舟木一夫だが、心機一転、弁護士志望のエリート青年に扮し大きな話題となった。
脚本は千葉茂樹と山内亮一の共作。監督は吉永小百合主演作など数多く手がけてきた日活青春映画の雄、西河克己。これが舟木一夫とは初コンビ作となるが、この後『友を送る歌』(1966年)、『絶唱』(同)、『北国の旅情』(1967年)、『夕笛』(同年)、『残雪』(1968年)と舟木一夫映画を連作していくことになる。
ヒロインは舟木とは名コンビの和泉雅子。ファーストシーン、夜の街角でストレス発散のために車を飛ばしてきたヒロイン、卯月美沙緒(和泉雅子)と、弁護士の卵・木塚正彦(舟木一夫)のアクシデント的な出会いから、これまでの青春ものとはタッチが異なる。美沙緒は、アニメーションスタジオQプロダクションの取締役。
当時、TBSテレビで放映され、人気絶頂だった藤子不二雄の「オバケのQ太郎」の原作者という設定である。アーティストはベレー帽をかぶっているイメージが強かった時代のためか、美沙緒の頭にはベレー帽がちょこんと乗っているのが微笑ましい。プロダクションQのシーンでは、アニメ制作現場が、いささかデフォルメされて紹介されているが、番組スポンサーだった菓子メーカー不二家の社員が「高視聴率に感謝して」、自社商品を差し入れするシーンは、タイアップ場面とはいえ、60年代のコマーシャル文化やテレビ文化にとっても貴重な記録となっている。
当時、日活が発行したプレスシートの解説に「青年弁護士が、殺人犯人の汚名をきせられた友人を助けるため、事件を追求して行くうちにある会社の汚職事件が明るみに出て来る。その会社社長令嬢との恋愛に悩みながら事件を解決していくという豪華大作」とあるように、青春歌謡映画でありながら、ミステリーとして物語が展開する。
正彦の幼なじみで、殺人犯として逮捕されてしまう吉田一也に藤竜也。その恋人でバー、リオンに勤めている浅沼町子に山本陽子。山本は1963年、第7期日活ニューフェイスとして入社、同期に『花咲く乙女たち』(65年)の西尾三枝子がいる。夜の銀座や暗黒街の描写など、日活の風俗アクションのテイストが盛り込まれて、大人のムードが漂っている。美沙緒の父親で、汚職事件の黒幕・卯月英治に神田隆。事件捜査に乗り出す正彦をサポートしてくれる田宮刑事に武藤章生、その同僚の高田刑事に木島一郎らが出演している。
事件の真相を探るべく、正彦は町子と一緒に、彼女の故郷である三宅島へと向かう。その後を追う美沙緒は、嫉妬するでもなく、事件に首を突っ込むコメディ映画のヒロインのような行動をとる。シリアスな汚職事件をめぐるミステリーが展開されながら、風光明美な三宅島の風物や、美沙緒のカラッとした明るい性格が全面に出てきて、それが作品のトーンを明るいものにしている。
舟木一夫の歌う主題歌「哀愁の夜」は、タイトルバックのほかアニメーションスタジオでリフレインされる。また、美沙緒が取材に行った動物園で正彦が歌い、やがてミュージカル映画のような人工的なセットに背景がかわっていくなかで歌う「銀座すずらん通り」(作詞:丘灯至夫、作曲:船村徹)、三宅島の海岸で美沙緒に向かって歌う「さくら貝の歌」(作詞:土屋花情、作曲:八洲秀章)が登場する。ラストは舟木一夫映画のセオリー通りの展開となる。エンディングで再び「哀愁の夜」が流れる。
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