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太陽にほえろ! 1973・第46話「黒幕は誰だ」

この原稿は、事件の核心、物語の展開について詳述しております。ネタバレ部分もありますのでご注意ください。

「太陽にほえろ!」第46話「黒幕は誰だ」(1973.6.1 脚本・鎌田敏夫 監督・山本迪夫)

 藤竜也さんと奈美悦子さんがゲスト、久々のボスが主役回。しかも鎌田敏夫さんの脚本は『みな殺しの拳銃』(1967年)など、日活ニューアクションを思わせる傑作。

 トップシーンは、ゴリさんの運転する車で、ボスと長さんがスラム街の殺人現場へ向かう。麻薬ルートの摘発をしているわけでもないのに、麻薬中毒者が街へと出てきているのだ。「禁断症状を起こしたペイ患の発作的な犯行ですね」と殿下。食事中にいきなり部屋に入ってきて、なんの恨みもない人々を滅多刺しにしたという。ボスは七曲署の会議室へ。部長(幸田宗丸)がボスに苦言を呈する。麻薬追放運動をしている坂口(井沢一郎)がオブザーバーとして参加。「この際、徹底的に膿を出して欲しい」。あの街は麻薬患者のスラムと言われてきたが、その実態はわからない。

 そのことが、返って幸いしているのではないかと坂口。しかし治安という点では、麻薬患者による犯行が行われているのは問題だと警察幹部。禁断症状の患者を収容する施設にも限度がある。では麻薬を手に入れることを認めるのか。議論が白熱する。ボスは麻薬取り締まりを巻かれる。

 スラム街。チンピラが中毒患者にマッチに入れたヤクを売るところを、浮浪者に化けたゴリさんと殿下が目撃。男たちを追う。路地に追い詰めたところで銃声。応戦するゴリさんたち。「止まれ!」発砲する。そこへ黒塗りの車が、チンピラたちをピックアップ。ボスとマカロニ、三浦(藤竜也)のマンションへ。

 部屋には先ほど、ゴリさんに撃たれた三浦の弟・マサオが怪我をして匿われている。マサオの足を触るボス。「何すんだよ。これは交通事故にあったんだ」「おう、交通事故ね。こいつはお前の足から出てきたんだ」と弾を見せるボス。

 「よせよ、歩けねえんだ」「警察病院で歩けるようにしてやるよ」とボス。そこへ三浦「待ってくれ、藤堂さん。話があるんだ」。ペイが大量に押収された話も、仲間内で揉め事が会ったことも聞いてない「それなのに、なぜペイが手に入らなくなったと思う?」と三浦。米と同じで、ペイは今まで通り、日本に入ってきているが、買い占めている奴がいる、と三浦。

 藤竜也さんと裕次郎さんの2ショット。1970年の正月映画『嵐の勇者たち』(1969年・舛田利雄)以来だね。麻薬患者にとってはペイは空気と同じ、買い占めたペイを2倍、3倍、10倍に売って儲けようとしている奴らがいる。「戸川組だろ?」とボス。三浦は、その後ろに黒幕がいると断言する。

 一方、マカロニは三浦の部屋で、三浦の愛人・風間洋子(奈美悦子)とマサオを見張っている。マサオ「兄貴の恋人だよ。あんたらに言わせれば情婦だ」。鎌田脚本は、こういう”格差”が生む言葉を巧みに使って、警察と対立する図式を描くのがうまい。

 屋上で三浦は「買い占めた黒幕を引き摺り出すには、それしか方法がないと思う」とあることをボスに提案する。「考えたな三浦。その黒幕を分捕まえても、俺が途中で倒れても、得をするのはお前だ。最もお前も命をかけるだろうが」。ボスは「待て、断っとくがな、組むのは俺一人だ」念を押す。いやあ、フィルムノワールだね。

 ボスはマカロニを連れて三浦のマンションを出る。三浦の弟にはアリバイがある。「俺が大丈夫だと言ってるんだ」証拠不十分で三浦の弟を検挙しなかったことに不満を訴えるゴリさんと殿下。しかしボスは「俺はタレコミって奴を信用しないんでね」

 夜の街。三浦のクラブにやってくるボスと殿下。園まりさんの「逢いたくて逢いたくて」(作詞・岩谷時子 作曲・宮川泰)を歌う風間洋子。しかもオリジナルカラオケ。なかなか雰囲気がある。

「いい娘でも探すんだな」と殿下に言い残してボスは先に帰る。風間洋子とマンションに来るボス。「シャワーでも浴びろよ」「そんなつもりじゃありません」。おお大人の世界! 風呂上がりの洋子、ガウンを着ている。ボスは「なかなかよく似合うぜ。せいぜい色っぽいところを見せてやっちゃくれないか」と窓際に立たせる。三浦とボスは何を仕組んでいるのか? 殿下は洋子を抱き寄せるボスを目撃する。ボスのダーティな面を見てショックの殿下。

 七曲署では、ボスのご乱行をみんなが信じられない。そこへタレコミ。三浦の経営する喜多見のスクラップ工場で麻薬の精製が行われているという。山さん、長さん、ゴリさんが向かう。挙動不審のボス。何を隠しているのか? スクラップ工場を調べる山さんたち。しかしガセネタかとおもいきや、事務所の隠し地下室で麻薬を精製していた形跡が・・・

 ボスのマンションに電話がかかってくる。「藤堂さんだな、三浦に手入れがあると知らせたのはお前だな?」「サツにタレ込んだのはあんただな?」「ずいぶん、色っぽいところを見せてもらったが、三浦と組むぐらいなら、あたしと組もうじゃないか」黒幕が引っかかったようだ。「いずれ三浦は死ぬ」「殺すということか?」「死ぬということだ」。

 三浦のクラブで、洋子が「あなたは死ぬわ」「人間、いつかは死ぬんだ」「どうして麻薬を売るの?命をかけてまで」「金じゃない。意地だよ」。裏道を歩いてきた三浦にとって、その道の向こうに立ちはだかる奴がいれば「イヤでもぶつかるより他はない」「勝てる相手じゃないわ」「負けたら死ぬだけだな」「私はどうなるの?」「俺が死んだって歌は歌えるだろ?」。ハードボイルドの世界!

 事務所で、三浦が、何者かの銃弾に襲われ、負傷してしまう。翌日、三浦がボスに、戸川組が今までの3倍の値段でペイを売り始めたと伝える。「今、戸川組をあんたに挙げてもらえば、間違いなく黒幕が動き出す」と三浦。新宿ゴールデン街、再び戸川組がペイを捌き始める。ボスの指示でゴリさんたちが一斉捜査。今回はボスが中心で、戸川組事務所で大暴れ。

 逮捕された戸川組幹部(荒木保夫)は「なぜ三浦を挙げない」とボスに食ってかかる。「ここの署は三浦と組んでるんだな」「そんなことをどっから聞いた」とボス。「もっぱらの噂だよ」。

 会議室で、幹部から「君は、三浦が麻薬を密売するのを黙認しているそうじゃないか」「麻薬の摘発はうちの仕事じゃありません」「噂によると君は三浦と組んでるそうじゃないか?」「君は、私たち民間人が、これまで麻薬絶滅に努力してきたことを全て無にする気なのか?」「噂を事実と決めてかからないでください」。ボスは追い詰められるが、何か目算があるようだ。

 夜、ボスのマンションを訪れるマカロニと殿下。壁の絵に感心したマカロニ「すごいですね。ピカソですね」「マチスだよ」(笑)。ボスを三浦の関係を尋ねる殿下。「銀行強盗をやった三浦を捕まえたのも俺。次に恐喝で捕まえたのも俺。つまり、三浦を捕まえたのは全部俺だ」とボス。「今度はなぜ捕まえないんですか」と殿下。

 三浦を捕まえるどころか、情報を横流していることに義憤を感じている殿下。マカロニは盗聴器を取り付ける。三浦の女は「自分の好み」だから付き合っちゃ悪いのか?と開き直るボス。ゴリさんの車でボスの部屋の様子を探るマカロニたち。盗聴器に向かい「♪青い夜霧に〜」と「夜霧のブルース」を歌うボス。「誰の歌、歌ってやがんだ」とマカロニ(笑)

 ボスの部屋に風間洋子がやってくる。「三浦を捕まえてください。捕まえる理由があるんです。あなた本気で三浦と組んでるんじゃないんでしょう?」「俺はだんだん本気になってきたんだ。三浦と組んでこの世界でのし上がるのも悪くない。俺もうまくいっても、どこかの署長止まりだ」「本気なんですか?藤堂さん」「本気だよ。もし、三浦が死んだら、俺が後を引き継ぐ。良かったらあんたもね」。その時、洋子のバッグから時計の音が・・・時限爆弾が炸裂する。マカロニたちが駆けつける。「大丈夫だ。いやに早かったじゃないか!」。

 翌日、殿下は風間洋子のボディガードを命ぜられる。どうしてボスは三浦たちばかりを守ろうとするのか? 殿下もゴリさんも疑問を抱いている。ボスは三浦に、弟を守ってやるから、居場所を教えろという。「奴らは必ず見つけ出す。弟を死なせてもいいのか?」「何もかも、教えるわけには行かないよ。あんた、どっちみち刑事だ。俺たちのことは俺たちでやるよ」「奴らをあんまり甘く見るなよ」とボス。隠れ家へ向かう三浦。日活ニューアクションのざらついた雰囲気。しかし三浦の弟は惨殺されている。

 三浦のクラブで、風間洋子が「夢は夜ひらく」を歌っている。深夜、洋子を送る殿下。そこへ男(菊地英一)たちが襲いかかり、洋子が拉致される。負傷する殿下。

 三浦がマンションに帰ると、駐車場に赤い包みが置いてある。中には拳銃。そこに電話「三浦さんかね?」「そうだ」「とうとうあんたにも何もなくなったな」。洋子が人質に取られている。男は続ける「あんたと女が生き残る方法が一つだけある」。届けられた拳銃でボスを殺せというのだ。「それ以外にお前に道はない。私の目の前で藤堂を殺してもらおう」。これは日活ニューアクションのパターン。

 翌日、三浦からボスに電話。黒幕が「俺たちに会うと言ってきた」と嘘をつく三浦。「来てくれるか?」「わかった」。

 ボスは三浦の指定の場所へ向かう。ゴリさんが「一緒に行きます」「ゴリ、お前、俺を疑っているのか?」。盗聴器を渡し「これをマカロニに返しておいてくれ。俺は今から三浦と会う。ヤクを買い占めた奴ともな。それが俺のはじめっからの狙いだ」「どうして俺たちに言ってくれなかったんですか?」「泥をかぶるのは俺だけでたくさんだ。ゴリ、俺を信じられたら、後ろからついてくる奴を巻いてくれ」。

 ボスは、先日から、本庁の刑事者に尾行されていることを知っていたのだ。「わかりました」とゴリさん。男と男がわかりあう瞬間。いいねぇ。アコースティック・ギターのBGMがいいね。荒涼たる道、三浦がクルマを止める。「藤堂さん。俺はあんたと本当に一度、組んで仕事がしたかったよ」「俺はデカだ」「残念だな。あんたみたいな人がデカをしているなんてな」「お前みたいなのが裏道ばっかり歩いているなんて、俺も残念だよ」。

 三浦がボスに銃口を向ける。「残念だよ。藤堂さん」「三浦」「済まない。俺にはこれしか生きる道はないんだよ」発砲!倒れるボス。さらに五発、発砲する三浦。そこへ黒塗りのクルマが近づいて、ようこが降りる。「あなた!」しかし彼女は撃たれてしまう。

 そのタイミングでボスが立ち上がり、敵に発砲する。近づくクルマのタイヤを狙うボス。「やめたまえ、藤堂くん!」その声はなんと麻薬撲滅運動の坂口会長(伊沢一郎)だった!「おとなしく銃を捨てるんだ。捨てないと女が死ぬ」。ようこを抱いている三浦。「藤堂さん、頼むよ。今だったら、洋子が助かるんだ」「二人を助けたかったら拳銃を捨てたまえ」。やむなく銃を捨てるボス。「女を助けてやってくれ」。

 しかし坂口と配下(菊地英一)は洋子を殺そうとする。ボスは二人に立ち向かうが、三浦も洋子も撃たれてしまう。坂口は死ぬ。ボスは三浦に「なぜ俺を殺さなかった」「俺はな人に命令されるのがあまり好きなほうじゃねえんだよ」ポケットから割れたサングラスをかける三浦。藤竜也さんカッコいいね!「眩しいな。何にもなくなっちまったな。俺には・・・」「手錠を持っているか?藤堂さん。かけてくれ。どうせ最後は俺をとっ捕まえようと思っていたんだろ」「あんまり喋るんじゃない」「今、喋らなければ、喋れなくなるじゃねえかよ」。

 三浦に手錠をかけるボス。「俺はいつもあんたに捕まったな。タバコくれねえのか?いつもくれたぜ。あんた、手錠をかけてからな」タバコを三浦の口に咥えさせ火を付ける。しかし三浦は絶命している。その横にはようこの遺体が・・・ 

 なんと、菊地英一さんが生きていてボスに銃口を向けるが、間一髪、ボスが二発撃ち込む。ジェームズ・ボンドと戦い、裕次郎さんと戦う、帰ってきたウルトラマン! ボス回での最高傑作!

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