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『ハリウッド玉手箱』(1944年12月15日米公開・ワーナー・デルマー・ディヴィス)

ハリウッドのシネ・ミュージカル史縦断研究。6月5日(日)の娯楽映画研究所シアターは、第二次大戦中の国策ミュージカル、ワーナーブラザースのスター勢揃いの『ハリウッド玉手箱』(1944年・ワーナー・デルマー・ディヴィス)を久しぶりに。アマプラで字幕版をスクリーン投影。

日本では昭和23(1948)年4月22日に公開され、ハリウッド・スターが次々と登場して繰り広げられるパフォーマンスに観客は驚き、ジャズ・ミュージシャンやステージの仕事をしているパフォーマーに大きな影響を与えた。邦画でもこうした「玉手箱」スタイルの音楽映画が次々と作られた。
旧作フィルムを再編集したアンソロジーも『懐しの歌合戦』(1950年・松竹)、『花形歌手 歌の明星』(1953年・大映)などが連作されている。

ポスターヴィジュアル

さて、ハリウッド・キャンティーンは、1942年10月3日から1945年11月22日の感謝祭までハリウッド近く、カリフォルニア州ロサンゼルスのカウェンガ・ブールバード1451に存在した兵隊専用クラブ。ベティ・ディヴィスとジョン・ガーフィルドが発起人となり、ハリウッド・スターやコーラスガールたちがボランティアで、休暇の兵士たちのための慰安サービスをした。

実際のハリウッドキャンティーン

このクラブ成立の経緯は、劇中、ジョン・ガーフィルドによって語られる。さらに1943年9月15日、100万人目の客がハリウッド・キャンティーンに来場。その兵士カール・ベル軍曹はベティ・グレイブルにキスされ、マレーネ・ディートリヒにエスコートされるという幸運を得た。そのエピソードをベースに、デルマー・ディヴィスがシナリオ化。ワーナーが鳴り物入りで製作した。

ニューギニア戦線のスリム・グリーン伍長(ロバート・ハットン)は、相棒のノーラン軍曹(デーン・クラーク)とともに負傷して一時帰国。三日間の休暇で憧れのハリウッドへ。スリムはリアルな女の子よりも、銀幕のジョーン・レスリーに恋焦がれている。

たまたま紹介されて、ワーナーブラザースのスターたちが運営する、兵士向けの慰問サービス「ハリウッドキャンティーン」に行くと、なんと、ベティ・ディヴィスの計らいでジョーン・レスリーと会うことが出来て、しかもジョン・ガーフィルドの好意で、ジョーンからキスの歓迎を受けて、天にも昇る気持ちに^_^

ご都合主義も、ここまで極まると天晴れ、である。憧れの女優がキスをしてくれて、しかも自分に好意を持ってくれて、両親や妹にまで歓迎してくれる。しまいにゃ結婚の約束まで! まるで中学生の妄想の具現化(笑)

ジョーン・レスリー、ロバート・ハットン

戦争で頑張れば、ハリウッド女優と仲良くなれるかも? みたいな「こっちの水は甘いぞ」は、「お国のために死ぬのが本望」の対極にあるが、いずれも戦意高揚のプロパガンダなのだけど。それにしてもハリウッド黄金時代好きには、たまらない。次々とスターが、それこそ湯水のように出てくるわ、出てくるわ。

ジョー・E・ブラウン
ジミー・ドーシー
ジェーン・ワイマン
バーバラ・スタンウィック
ジャック・カーソン
ベティ・デイヴィス
ゴールデン・ゲート・カルテット
エディ・カンター
S・Z・サカール
ロイ・ロジャース
アイダ・ルピノ
アンドリューズ・シスターズ
シドニー・グリーンストリート
ピーター・ローレ
ポール・ヘンリード
ドナルド・ウッズ
アレクシス・スミス
デニス・モーガン
ジョーン・クロフォード
ジョン・ガーフィールド
ヘルムート・ダンテイン
ザカリー・スコット
ジョーン・マクラッケン
ヨーゼフ・シゲティ
ジャック・ベニー
カーメン・キャバレロ

タイトルバックの主題歌"Hollywood Canteen"(歌:アンドリューズ・シスターズ)は、スイング・コーラスの傑作で、何度聴いてもゾクゾクする。アンドリューズ・シスターズの最高のパフォーマンスのひとつ。アンドリューズ・シスターズはジミー・ドーシー楽団をバックにコミカルな"Gettin' Corns For My Country"を唄う。ここでのCornsは、兵隊相手のダンスでできた「ウオノメ」のこと。三女パッティが、むくつけき兵隊の強引なダンスに辟易して唄い始めるのがおかしい。

この映画からヒットした"Don't Fence Me In"(作詞・作曲:コール・ポーター)は、ロイ・ロジャースが愛馬トリガーを引き連れて登場。サンズ・オブ・ザ・パイオニアーズをバックに、心地よいヴォーカルを聴かせてくれる。"Don't Fence Me In"は、中盤にアンドリューズ・シスターズによりリフレインされ、観客に印象付け、ラジオからも流れて大ヒットすることになる。

もう一曲、第17回アカデミー賞・アカデミー歌曲賞にノミネートされた”Sweet Dreams, Sweetheart”もスタンダードになった。ジョーン・レスリーが唄い、ラストにキティ・カーライルがリフレイン。主演カップルの愛のテーマとして効果的に使われている。

さて、トップのナンバーは、ジェーン・ワイマンとジャック・カーソンによるコミカルな"What Are You Doin' the Rest of Your Life"。演奏はもちろんジミー・ドーシー楽団。ジェーン・ワイマンはこの時、ロナルド・レーガンと結婚していてセリフの中でも「レーガンが待っているわ」とある。『バック・トゥ・ザ・フューチャー』(1985年)で1950年代にタイムスリップしたマーティ(マイケル・J・フォックス)が「レーガンが大統領」というと「じゃ、ファースト・レディはジェーン・ワイマンか?」という笑いがあったことを思い出した。ジャック・カーソンは40年代、ワーナーでミュージカル・スターとしてドリス・デイ映画などで唄って踊っていた。後年の『熱いトタン屋根の猫』(1958年)などのシリアスな役のイメージが強いが、コメディリリーフ役が多かった。

ハリウッド・スターたちが連合軍の兵隊さんのために、ハリウッドキャンティーンで、ボランティアで働いている。バーバラ・スタンウィックがカウンターに立っていて、ジョーン・クロフォードがダンスを踊ってくれるのだ!

大口ブラウンこと、ジョー・E・ブラウンはドーナツを丸呑みしてくれるのか?の期待に反して、ちびちびドーナツを齧ったり。入口では、S・Z・サカールがお出迎え。映画でおなじみのタプタプの頬を、兵隊たちにつまませるルーティーンがおかしい。

女の子に絡む、しつこい兵隊には、ピーター・ローレとシドニー・グリーンストリートが睨みを効かすし。厨房ではポール・ヘンリードが女の子の口説き方を指南してくれる。

前半のハイライトは、レジェンド、エディ・カンターが、兵隊たちのリクエストで、フレッシュな女の子ノラ・ルー・マーティンをパートナーに"We're Having a Baby'"の楽しいパフォーマンス!

後半、主人公たちがジャック・ワーナーのはからいで、ワーナースタジオのバックロット見学のシーンが嬉しい。ミュージカル映画を撮影しているスタジオでは、スリム伍長が、かつてバズビー・バークレイが演出したクレーンに載せられ、高所恐怖症なので大騒ぎ。そこで「リハーサル!」として繰り広げられるのが、ブロードウェイ「オクラホマ!」でブレイク、ハリウッドに招かれたジョアン・マクラッケンの"Ballet in Jive"。スペクタクルとしても良く出来ていて、ジョアンの超絶アクロバットダンスは圧巻。可愛いのだけど、眉間の三本シワが玉にキズ。

後半のハイライトは、ハンガリーのバイオニリスト、ヨーゼフ・シゲティが「蜜蜂」(フランツ・シューベルト)を演奏、そこへジャック・ベニーがバイオリンを手に登場。「自分のためにシューベルトが書いてくれた「蜜蜂」を先に演奏して」と不満顔。そのエラそうな態度は、皮肉屋ジャック・ベニーの真骨頂。「あなたはラジオのコメディアンでしょ?」とシゲティに突っ込まれても「ホントはバイオリニストだ」とあくまでも厚顔。では、デュエットしようと演奏するのは、エノケンや岸井明さんも得意とした「想い出」。もちろん、ジャック・ベニーはメタメタな演奏に。初見のとき、ああ、これがジャックのバイオリン芸か!と、感激した。言うなれば森繁久彌さんタイプの芸風。

終盤近く、カーメン・キャバレロが登場。自らのバンドを従えて、"Voodoo Moon"を華麗に演奏する。そのピアノテクニックに感服!

【ミュージカルナンバー】

♪ドント・フェンス・ミー・イン Don't Fence Me In(1934)

作曲・作詞:コール・ポーター 作詞:ロバート・H・フレッチャー
パフォーマンス:ロイ・ロジャース、愛馬トリガー
リプライズ:アンドリューズ・シスターズ
演奏(ダンス):ジミー・ドーシー楽団

♪おやすみ恋人よ Sweet Dreams, Sweetheart(Demain, Chérie)

作曲:M.K.ジェローム 英語歌詞:テッド・コーハー 仏語歌詞:アンドレ・ホーネス
タイトルバック演奏
パフォーマンス:ジョーン・レスリー(吹替・サリー・スウィートランド)、ジミー・ドーシー楽団
リプライズ:キティ・カーライル

♪ユー・キャン・オールウェイズ・テル・ア・ヤンク
You Can Always Tell a Yank(1944)

作曲:バートン・レーン 作詞:E.Y.ハーバーグ
パフォーマンス:デニス・モーガン、ジョー・E.ブラウン、ジミー・ドーシー楽団
リプライズ(百万人目の男のシーン)

♪赤ちゃんが産まれるぞ! We're Having a Baby(1941)

作曲:バーノン・デューク 作詞:ハロルド・アダムソン
パフォーマンス:エディ・キャンター、ノーラ・ルー・マーティン、ジミー・ドーシー楽団

♪ホワット・アー・ユー・ドゥイン・ザ・レスト・オブ・ユア・ライフ
What Are You Doin' the Rest of Your Life(1944)

作曲:バートン・レーン 作詞:テッド・コーハー
パフォーマンス:ジェーン・ワイマン、ジャック・カーソン、ジミー・ドーシー楽団

♪ザ・ジェネラル・ジャンプド・アット・ダウン
The General Jumped at Dawn(1942)

作曲・作詞:ラリー・ニール、ジミー・ムンディ
パフォーマンス:ザ・ゴールデン・ゲート・カルテット

♪ゲッティン・コーンズ・フォー・マイ・カントリー
Gettin' Corns for My Country(1944)

作曲・作詞:ジーン・バリー、リー・ウォース、ディック・チャールズ
パフォーマンス:アンドリューズ・シスターズ、ジミー・ドーシー楽団

♪ブードゥ・ムーン Voodoo Moon (Enlloró)(1944)

作曲:オブドゥリオ・モラレス 作詞:ジュリオ・ブランコ 英語作詞:マリオン・サンシャイン
パフォーマンス:カーメン・キャバレロと彼のオーケストラ
ダンス:ロザリオ&アントニオ・エル・バイラリン

♪タンブリン・タンブルウィーズ 

Tumblin' Tumbleweeds(1934)

作曲:ボブ・ノーラン
パフォーマンス:ソンズ・オブ・ザ・パイオニアーズ

♪ジャイブ・バレエ Ballet in Jive(1944)

作曲:レイ・ヘンドルフ
ダンス:ジョアン・マクラッケン、コーラス

♪蜜蜂 Die Biene (The Bee), Op.13 No.9(1856) 

作曲:フランツ・シューベルト
パフォーマンス:ヨーゼフ・シゲティ(バイオリン)、ハリー・カウフマン(ピアノ)

♪ハリウッド玉手箱 Hollywood Canteen(1944)

作曲:レイ・ヘインドーフ、M.K.ジェローム 作詞:テッド・コーハー
パフォーマンス:アンドリューズ・シスターズ(タイトルバック)

♪トレード・ウィンズ Trade Winds(1940)

作曲:クリフ・フレンド
演奏:タイトルバック

♪峠の我が家 Home on the Range(1904)

作曲:ダニエル・E.ケリー
演奏:アコーディオン(病院船のシーン)

♪ハリウッド万歳! Hooray for Hollywood(1937)

作曲:リチャード・A・フィッティング
演奏:ハリウッド観光モンタージュ場面

♪キング・ポーター・ストンプ King Porter Stomp(1923)

作曲:フェルディナンド”ジェリー・ロール”モートン
演奏:ジミー・ドーシー楽団

♪They're Either Too Young or Too Old(1943)

作曲:アーサー・シュワルツ
演奏:ジミー・ドーシー楽団

♪君を想いて The Very Thought of You(1934)

作曲:レイ・ノーブル
演奏:ジミー・ドーシー楽団

♪想い出 Souvenir(1906)

作曲:フランティシェク・ドルドラ
パフォーマンス:ヨーゼフ・シゲティ、ジャック・ベニー、ハリー・カウフマン(ピアノ)

♪夜も昼も Night and Day(1932)

作曲・作詞:コール・ポーター
ハリウッド・ランドのシーンで流れる


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佐藤利明(娯楽映画研究家・オトナの歌謡曲プロデューサー)の娯楽映画研究所
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