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『大列車強盗』(1973年・ワーナー・バート・ケネディ)

6月16日(木)の娯楽映画研究所シアターは、ジョン・ウェインの快作西部劇”The Train Robbers”『大列車強盗』(1973年2月7日米公開・ワーナー・バート・ケネディ)をスクリーン投影。ジョン・ウェインにとっては晩年の作品なのだが、盟友・バート・ケネディの脚本、演出がスッキリと見事で、ウィリアム・H・クローシアのキャメラが捕らえた西部の風景がフォトジェニックで美しい。撮影はメキシコのソンブレテ、シェラデオルガノス国立公園を中心に行われ、中盤には『明日に向って撃て』(1969年・FOX・ジョージ・ロイ・ヒル)のクライマックスの銃撃戦の広場も登場する。

南北戦争で生き残ったジョン・ウェインと、その部下のベン・ジョンソン、ロッド・テイラーの三人は、これまでもチームを組んで仕事をしてきた。いがみ合いながらも、お互いを信頼して、危機を切り抜けてきた。儲け話も、大損も、苦労もともにしてきた三人の友情が、往年のジョン・ウェイン映画の世界とリンクしている。それがいい。

そんなジョン・ウェインに、美しき未亡人・アン=マーグレットが依頼を持ち込む。夫が列車強盗で盗んだ金塊を、とある場所に隠してある。夫はすでに亡くなり、幼い息子に「強盗の息子」という負い目を感じさせたくないので、その50万ドルを見つけて、鉄道会社に返したい。ついては懸賞金の5万ドル全額渡すことを条件に、一緒に金塊を探して欲しい、というもの。

1960年代、ハリウッドの新たなセックス・シンボルとして大人気だったアン=マーグレットをヒロインに迎えて、親子ほど歳が離れているジョン・ウェインとのロマンスも匂わせる。アン=マーグレットは、1961年にRCAレコードからアルバム”And Here She Is”が大ヒット。チェット・アトキンスのギター、エルヴィス・プレスリーのバックシンガー”The Jordanaires”とアニタ・カー・シンガーズをバックに迎えて”エルヴィスの女の子版”として大々的に売り出された。

映画でもフランク・キャプラ監督の『ポケット一杯の幸福』(1961年)、ブロードウェイ・ミュージカルの映画化『バイ・バイ・バーディー』(1963年)でブレイク。『ラスベガス万才』(1964年)でエルヴィス・プレスリーと共演してトップスターとなる。そのアン=マーグレットが、美しき未亡人として登場。ジョン=ウェイン、ベン・ジョンソンたちと荒野でアドベンチャーを繰り広げる。というのが本作の「新しい」ところ。

ポスター・ヴィジュアル

用心深いヒロイン、リリー・ロウ(アン=マーグレット)は、仕事を頼んだレーン(ジョン・ウェイン)にも、金塊の隠し場所を言わない。彼女の案内で男たちが危険な旅をするのだ。集められたのは、レーンの相棒、グレイディ(ロッド・テイラー)とジェシー(ベン・ジョンソン)、一癖ありそうなカルホーン(クリストファー・ジョージ)、ベン・ヤング(ボビー・ヴィントン)、サム・ターナー(ジェリー・ガトリン)の五人の男たち。

しかも、金塊の行方を狙っている悪党たちが、一行を追ってくる。総勢二十人。他勢に無勢だが、レーンは余裕しゃくしゃく。経験と知恵で切り抜けられると考えている。これぞジョン・ウェイン。見事なのは、追手たちの姿をロングショットで捉えて、彼らの顔もドラマも描かれず、不気味な存在としていること。もう一人の追手が、鉄道会社から金塊回収を命ぜられている”ピンカートン探偵社”の男(リカルド・モンタルバン)。ダンディなスタイルで、こちらも余裕がある。ラスト、その正体が明かされるシーンで初めてセリフがあるが、終始無言で、余裕の笑みを浮かべて、レーン一行と追手たちの闘いを見守っている。

というわけでセリフは、あくまでもジョン・ウェイン、アン=マーグレットを含めた一行、7名たちの会話だけ。なので、それが作品をシンプルにしてくれて、危機また危機のアクションが楽しめる。つまりヴィジュアル重視の構成になっていること。しかもジョン・ウェイン、ベン・ジョンソン、ロッド・テイラーたちの会話で、この三人の「腐れ縁」が微笑ましく語られる。適度なユーモアと、どんなピンチでも乗り越える自信たっぷりのジョン・ウェイン。1973年という時代を忘れてしまうほど、クラシックでスタンダードな味わいがいい。

また、ドミニク・フロンティアによる音楽が王道の西部劇サウンドでいい。アルフレッド・ニューマンとライオネル・ニューマンの薫陶を受けたドミニクのサントラは正統派、完全に”ニューマン節”である。テレビ「逃亡者」「インベーダー」「ラットパトロール」のテーマを手掛けてきた才人。バート・ケネディの音楽演出もわかりやすく、ヒーローたちのモチーフと、追手の悪党たちのモチーフを、細かいモンタージュでも劇伴としてつけて、特にセリフも一切ない悪党たちのキャラクターを印象付けてくれる。

プロフェッショナル集団が、貞淑な人妻の案内で砂漠に隠された「金塊」を探しにいく。それを追いかけるならずもの集団、そして探偵社の男。シンプルな構成の中にサスペンスとユーモア、ヒューマニズムが見事に按配されて、西部劇への時代へのレクイエムすら感じさせてくれる。

もちろんアン=マーグレットのためのシーンも用意されている。ジョン・ウェインが彼女に「女性のラインがはっきりわかるよう」シャツを濡らして縮ませて着るようにアドバイスする。遠目でみても「女だとわかることが大事」なのである。金塊のありかを知っている彼女は、敵も襲わないだろう。という読みである。で、ここでアン=マーグレットがピッチリしたウェスタンシャツを着ることに。1960年代の彼女は、ボディラインがはっきりしたセーター姿で一世を風靡していた。それを踏まえての縮んだシャツである。

金塊を無事みつけて、駅のある街まで戻ってきた一行を待ち構えている、ならず者たちのトラップ。次々と建物に火をつけてホテルや酒場が炎上。ジョン・ウェインたちはダイナマイトで反撃する。このアクションの空間作りがなかなか見事。最後は列車も巻き込んでの夜のスペクタクルとなる。このメリハリもいい。

そして、最後の一分でアッと驚くどんでん返しが待っている。そのあと口も含めて「ああ、面白い映画を観たなぁ」という充足が待っている。西部劇としてだけでなく、アクション・コメディとしても秀逸。そういえば、ポール・ニューマンとロバート・レッドフォードの傑作『スティング』(1973年・ユニバーサル・ジョージ・ロイ・ヒル)は、この年の映画だった。

1977年だったか、中学生の頃、渋谷の全線座で、この『大列車強盗』を観て「これは面白い!」と驚いた。その後、1979年4月に「日曜洋画劇場」(テレビ朝日)で放映されることになり、級友たちに「これは面白い」と薦めたことをよく憶えている。


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