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娯楽映画研究所ダイアリー 2021 6月7日(月)〜13日(日)

6月7日(月)『子供の眼』(1956年・松竹)・『黄金』(1947年・ワーナー)・『東京よいとこ』(1957年・東京映画)

 川頭義郎監督『子供の眼』(1956年・松竹)を四半世紀ぶりに。佐田稲子原作、松山善三脚色。高峰三枝子さん、高峰秀子さんのダブル高峰主演作。サラリーマン・芥川比呂志さんが妻に先立たれ、妹・高峰秀子さんが息子・設楽幸嗣くんの面倒を見てきた。芥川さんは、歯科医の高峰三枝子さんと再婚。これでデコちゃんの肩の荷が降りるかと思ったら、そうはうまくいかない。三枝子さんの父・笠智衆さんが中風になり、診察が出来ないので、三枝子さんが通う毎日。となると息子の面倒は、デコちゃんが見ないと… しかも芥川さんは名古屋への栄転が決まって…

 それぞれの事情があって、なかなかうまくいかない。三枝子さんの母・滝花久子さんは、娘を家に縛っておきたいし、デコちゃんはお見合い相手の大木実さんと一緒になりたいのに…

  こういう時に、シワ寄せが来るのはいつも子供。設楽幸嗣さんがとても良く、義母に気遣い、叔母に甘え、父親を尊敬している。迷い仔犬を飼って可愛がるが、義母が犬嫌いで… この仔犬をめぐるエピソードの顛末に泣かされた^_^

 悪人は出てこないけど、誰もが少しだけ、自分のエゴを出している。それは家族への信頼という名前の甘えなんだけど。かなりストレスを抱えているだろうに、設楽幸嗣くんは、グッと堪えて、みんなの幸せを考えている。

 クライマックス、高峰秀子さんと高峰三枝子さんの芝居場は、素晴らしく、流石であります。

 世田谷区の梅ヶ丘が舞台で、まだ、原っぱが広くて、こどもたちが伸び伸び遊んでいる。

 高峰秀子さんの親友・丹阿弥谷津子さんが美しく、彼女が勤めている銀座松坂屋の屋上遊園地から、国会議事堂や昭和28年に設置された不二越ビルの森永地球儀が晴れがましく映る。

 ああ、まだこの頃は、名古屋城は再建されてなかったのかと、芥川さんからのハガキに教えて貰う。

 客席には、友人のスポーツ紙記者も来ていた。昨日、満席で改めて来たそうだ。明日までの上映だけど、この「蔵出し!松竹レアもの祭」がきっかけで、川頭義郎監督の「心優しき映画」を再発見されんことを!

  今宵の娯楽映画研究所シアターは、「ミスター・ノーボディ」→「ワイルドバンチ」→「夕陽のギャングたち」ときて、ジョン・ヒューストン監督『黄金』(1947年・ワーナー)
1925年、メキシコ革命後、異郷の地で食い詰めたハンフリー・ボガートとティム・ホルトが、楽天家の金掘り達人・ウォルター・ヒューストンと山に籠り、砂金を掘り当てる。ひと山当てようとしたがうまくいかないブルース・ベネットが加わるが、山賊たちの襲撃を受けたり災難が続く。ここらが潮時と山を降りる決意をするが、欲に目が眩んだボギーが暴走。仲間割れと相成る。

 善人と悪人の物語というより、善人が欲に眩むとエライことになる、を体現したような寓話的映画。ラストのウォルター・ヒューストンの大笑いに、色んな意味で救われる。生命あっての物種と。
冒頭で、ボギーにコインを三度も恵んでくれる白いスーツのアメリカ人紳士を、ノンクレジットで、ジョン・ヒューストンが演じている。

 続きましては、東宝怪獣ファン必見! 関沢新一原案、池上金男脚本、西村元男監督『東京よいとこ』(1957年・東京映画)。昭和32年にラドンとアンギラスが登場!
日劇ミュージックホールで売り出した、インテリ漫才の南道郎さんとE・H・エリックさんのコンビで売り出そうと企画されたコメディ第一弾!

 ハワイから来た野球選手・ウィリアム・ラドン(エリック)を、人気プロ野球チーム「東京アンギラス」に入団させようと、インチキプロモーター・南道郎さんがあの手この手。ところがラドンが、お尋ね者の殺し屋・フリスコ・キッドと瓜二つで、与太者のボス・三井弘次さん達ギャングに匿われてしまう。

 日劇ミュージックホールの空飛小助さん、植木等さんの親友・パン猪狩さん、ヌードダンサーの伊吹まり代さん、有島一郎さんが出演。

 さらに「東京アンギラス」の監督に「なんと申しましょうか」の小西徳郎さん、球審の二出川延明さんが特別出演。さらには、敵チームのキャッチャーに森繁久彌さんがノンクレジット出演。
赤坂の弁慶橋、隅田川の言問橋に、浅草松屋、川島雄三監督「明日は月給日」の舞台の東急線緑ヶ丘駅ロケが嬉しい!

 そして、我らが天津敏さんが、警視庁の刑事役! ね!特撮度が高いでしょう? 主題歌「東京よいとこ」「うわの空」は、花村菊江さんが芸者姿で披露! 笑えないけど面白い、アチャラカ喜劇!

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6月8日(火)『大江山酒呑童子』(1960年・大映)・『四谷怪談 お岩の亡霊』(1969年・大映)・『恐怖の報酬』(1953年・フランス)・『東京のテキサス人』(1957年・東京映画)

 イマジカで「大映妖怪特撮映画祭」試写、田中徳三監督『大江山酒呑童子』(1960年・大映)。源頼光(市川雷蔵)、渡辺綱(勝新太郎)、坂田金時(本郷功次郎)たちが、大江山に籠る酒呑童子を退治する物語を、カラーのオールスターキャストで描いた大作時代劇。

 アバンタイトルの四天王紹介シーンは、「平安アベンジャーズ」的で、赤を基調にした中岡源権さんの照明がスタイリッシュで、かっこいい。茨城童子には左幸子さん、鬼のメイク、佇まい、アクションが見事で、冒頭、一条戻橋での渡辺綱とのバトル。斬られた腕を取り返しに、綱の叔母に扮して屋敷に入り込むシーンなど、本作の妖怪パートを背負って、見せ場がたくさん。

 大映特撮的には、鬼童丸(千葉敏郎)の化身の猛牛が空から舞い降りたり、土蜘蛛陣内(沢村宗之助)の化身の巨大蜘蛛などが楽しい。

 なんといっても、タイトルロールの酒呑童子を長谷川一夫さんが演じているので、妖怪変化でも悪鬼でもなく、妻・山本富士子さんに横恋慕した関白(小沢栄太郎)に追放された、橘備前介がその正体。なので、クライマックスは長谷川一夫先生VSカツライス! つまり殺陣はない。中村玉緒さんが「けんかはやめて〜」と間に入るし(笑)眼力と所作、佇まいとセリフだけで、解決してしまう、驚きのクライマックス! でも納得してしまうスター映画の真髄。

 しかし、「今昔物語」「宇治拾遺物語」でお馴染みの盗賊・袴垂保輔を憎々しげに演じる田崎潤さんの欲望にまみれた感じが、映画の躍動感となって、観ていて楽しい。ちなみに東宝映画『袴だれ保輔』(1951年・滝沢英輔)では池部良さんが演じている。

『妖怪大戦争ガーディアンズ』の寺田心くんが、渡辺綱の子孫という設定なので、遥かなる前段としても楽しめる。安倍晴明(荒木忍)、平井保昌(根上淳)も活躍するので「帝都物語」のエピソードゼロでもあるし。

 続いてイマジカで「大映妖怪特撮映画祭」試写、森一生監督『四谷怪談 お岩の亡霊』(1969年・大映)。鶴屋南北の歌舞伎を原作に、直井欽哉さんが脚色。中川信夫監督の名作『東海道四谷怪談』(1959年・新東宝)の天知茂さんとは別な意味で、佐藤慶さんの伊右衛門のニヒリズム。

「出世と金のために手だてを選ばぬ我欲が男の悪なら、死霊となって俺に取り憑くお岩が妄執は女の業だ。悪と業の戦いなら、己一人の力で生き抜いてみせるわ」とうそぶく伊右衛門(佐藤慶)。お岩(稲野和子)の亡霊が出ても、仏の加護などいらぬと開き直る。「首が飛んでも動いてみせるわ!」と動じず、絶命の瞬間「まだ、死なんぞ」と笑みを浮かべる。このニヒリズム。 70年安保を控えた政治の季節の不安定感を内包して佳作となった。

お岩を演じた稲野和子さんにこの作品について、インタビューで伺ったことがある。

—大映京都で森一生監督の『四谷怪談 お岩の亡霊』(1969年)のお岩さんも良かったです。
稲野 お岩さんはね、私、やりたかったんです。そしたら大映から偶然お話が来て、二つ返事で「やる、やる」って(笑)。佐藤慶さんが伊右衛門で、男と女の情念が描かれて切ない作品でした。でも、森一生監督は“定時が3時”で、本当に3時になると撮影が終わってしまうんです。あとは飲むんです(笑)

—大映京都の伝説ですね。
稲野 「はーい、3時、定時でーす!」って(笑)たまに「今日は残業よ〜!」って言っても5時なんです(笑)ちょうど私、製作発表の記者会見の晩に、飲み過ぎちゃって、二日酔いだったんです。「頭痛いわぁ〜」って言ったら、森監督が「いーよ、いーよ。ここに寝てりゃいい。戸板返しだから寝てりゃいいんだ」って(笑)だから、あのシーン、二日酔なの(笑)

 今宵の娯楽映画研究所シアターは、アンリ=ジョルジュ・クルーゾー監督『恐怖の報酬』(1953年・フランス)。南米ベネズエラで、食い詰めたフランス人・マリオ(イブ・モンタン)、イタリア系のルイージ(フォルコ・ルリ)、遊び人のジョー(シャルル・バネル)、ナチスの収容所にいたビンバ(ペーター・バン・アイク)。この四人が、500キロ先の油田事故現場へ、処理用のニトログリセリンを2台のトラックで運ぶ。2000ドルの報酬欲しさに、危機また危機、悪路、アクシデント、次々と難関を突破していく。

 何度観ても、肝を冷やす。人物描写が、なかなかで、極限状況でそれぞれの本性が浮き彫りにされていく。

 マリオとルイージ。「スーパーマリオ」のネーミングの由来はここから。ただし、マリオみたいなオッサンがルイージで、すらっとしたモンタンがマリオ。

 1978年のウィリアム・フリードキンのリメイクも傑作だが、オリジナルは初代ゴジラみたいに、大傑作! ジョーの性格の悪さは、何度観ても辟易するが、その最期が切なくて。

 続きましては、関沢新一脚本、小田基義監督『東京のテキサス人』(1957年・東京映画)。南道郎さんと、E・H・エリックさんの日劇ミュージックホールのインテリ漫才コンビ映画第2作。タイトルは「巴里のアメリカ人」のもじりで、宇野誠一郎さんの音楽は、冒頭のアメリカのインディアン集落では「アニーよ銃をとれ」のイタダキ^_^

 テキサス育ちの日系人・デーン(エリック)は、インディアンの酋長・柳亭痴楽師匠の命で日本へ。空飛小助さん、泉和助さん、パン猪狩さん、木下華声さん、ユセフトルコさんが次々登場! 日劇ミュージックホールの芸人さんばかり!

 で、今回、エリックさんは、インチキプロモーターの南道郎さんに、ボクサーに仕立てらるが、高利貸し・宮田洋容さんの子分のボクサーと一騎討ち。でも、酋長から授けられた秘薬を飲むと忽ち強くなる。今では、コンプライアンス上いろいろアレだが、昔はみんな笑っておしまい。

笑えないけど、面白い、昭和32年3月公開のアチャラカ喜劇! なんといっても、アパートの大家・小言幸兵衛さんに三遊亭金馬師匠!

6月9日(水)『赤い手のグッピー』(1943年・フランス)・『デン助の ワンタン親父とシューマイ娘』(1957年・東京映画)

 今宵の娯楽映画研究所シアターは、ジャック・ベッケル監督『赤い手のグッピー』(1943年・フランス)
フランスの片田舎、先祖伝来の宝を守るために、血縁結婚を重ねて、結束しているグッピー一家。

 パリから帰ってきた息子・ムッシュー(ジョルジュ・ローラン)を出迎えたのは、変わり者のグッピー(フェルナン・ルドウ)だった。106歳の長老エンペラー(モーリス・シャッツ)が発作で倒れ、一万フランが奪われ、家長メスー(アルトゥール・ドゥベール)の妻チザン(ジェルメーヌ・ケルジャン)が何者かに殺されてしまう。

 誰が犯人か? 様々な人物(みんな親戚)が入り乱れ、それぞれの複雑な想いが錯綜する。ミステリーではあるのだけど、牧歌的でのんびりしていて、ユーモラスなムード。でも人間関係には深い闇がある。
ジャック・ベッケルの巧みな演出で、先の読めない面白さと、鮮やかなオチが楽しかった。

 ディズニー+「ロキ」第一話「大いなる目的」。「エンドゲーム」のクライマックスから物語が始まり、まさか、そうくるか?のネタで展開していく。スタートレックではお馴染み手を「アベンジャーズ」に持ってきて、稀代の悪ガキ、ロキの本質に迫ってくる。オーエン・ウィルソンとロキで冒険するのか?

 続きましては、新井一脚本、板谷紀之監督『デン助の ワンタン親父とシューマイ娘』(1957年・東京映画)。松竹演芸場からの「デン助劇場」世代には懐かしい。浅草の、舞台の評判が映画へのTHE MOVIE! テレビ中継がスタートするのは、映画の8ヶ月後!

 隅田川近くの下町。ワンタン屋のデン助(大宮敏充)が娘のように育てている不幸な娘・翼ひろみちゃん。ある日、ワンタン屋はじめ町内の長屋を立ち退かせて、巨大トルコ風呂建設計画(翌年施行の売防法を見越して)が立ち上がる。その業者の社長・森川信さんが、デン助さんの戦友で、ひろみちゃんの実の親とわかって…

 デン助劇場でお馴染みの、ベタベタな人情喜劇が展開。タイトルロールのシューマイ娘は、ワンタン屋の手伝い・家田佳子さんが、組合に頼まれて、横浜駅で崎陽軒のシウマイを販売するから。東京ワンタン本舗と崎陽軒のダブルタイアップ!

 第二の美空ひばりさんを目指して、コロムビアがチカラを入れていた少女歌手・翼ひろみちゃん、歌がうますぎ! ラスト、歌手デビューしたひろみちゃんが、デン助おじちゃんのためにリサイタルで歌うは、劇伴も担当の米山正夫先生作曲「ワンタン親父とシューマイ娘」!
やっぱり、笑えないけど面白い、東京喜劇!

6月10日(木)『リオグランデの砦』(1950年・リパブリック)・『デン助のやりくり親父』(1959年・東京映画)

 今宵の娯楽映画研究所シアターは、ジョン・フォード監督『リオグランデの砦』(1950年・リパブリック)。フォードが宿願の「静かなる男」を撮るために、リパブリックの社長・ハーバート・J・イェーツの命で娯楽西部劇を撮ることに。そこで「アパッチ砦」(1948年・RKO)の続篇的企画として、最初は「リオ・ブラボー」の仮題でジェームズ・ケビン・マクギネスがシナリオを執筆。製作費は「アパッチ砦」の半額しか出なかったが、アイデアとノウハウで、見事な娯楽大作に!

 リオグランデに近い砦。カービー・ヨーク中佐(ウェイン)が、15年前に分かれた息子・ジェフ(クロード・ジャーマン・ジュニア)が騎兵として入隊。学校を退学になり志願してきたのだ。息子とどう接していいかわからない親父の戸惑い。こういう感じ、ジョン・ウェイン映画の味。そこへ、息子を連れ戻しに別れた妻・キャサリン(モーリン・オハラ)がやってきて… 前半は家族のリユニオンのホームドラマ。

 隊には、お尋ね者のタフガイ、タイリー(ベン・ジョンソン)がいて、保安官が逮捕にくる。彼を逃す、ヨーク中佐の腹心クインキャノン軍曹(ヴィクター・マクラグレン)が、いつもながらだが、最高に良い!

 前半、ベン・ジョンソンとハリー・ケリー・ジュニアが、それぞれ二頭の馬にまたがるローマ式立ち乗りを披露するが、これがノースタント! すごいのなんの。これも予算の関係でスタントマン代を節約のためだとか。
で、後半は、アパッチの奇襲に遭い、避難中に子供たちが拉致されてしまう。その救出作戦が、圧倒的なヴィジュアルで展開。ベン・ジョンソンがハン・ソロよろしく、戻ってきたり、ヨークの息子が立派に成長し大活躍したり。見せ場の連続。スペクタクルとユーモア、そして詩情。連隊のコーラスグループに、サンズ・オブ・パイオニア! 歌もタップリ。娯楽映画としての要件をすべて満たしている。特別これだけ傑作というわけでなく、これがアベレージというレベルの高さ!

 この面白さ!この味わい! いま、観たらみんなビックリすると思う。ディズニーの「スターウォーズ」789が、もう少し、この映画みたいだったらなぁ、と思うほど!

Netflix「ゴジラSP」第12話。とてつもない大風呂敷を拡げて、あと1話でどういう結末を迎えるのか? まったく予測不能。面白すぎて、来週の最終回前に1話から観直す! ジェットジャガーとミニミニモスラ!目が離せません!

 続きましては、新井一脚本、板谷紀之監督『デン助のやりくり親父』(1959年・東京映画)。映画版デン助劇場第2作。タイトルは、浅草松屋からのぞむ吾妻橋。向こうは駒形橋。

 デン助さんの商売は、南千住近くの荒川区汐入(白鬚橋も近い)の長屋で、屋根屋を営む江戸っ子。例によって、大勢の養女を養ってきた。適齢期の養女・すみ子(小西瑠美)は浅草松屋の屋上で働いている。隣に越してきた居酒屋の女将(清川玉枝)とデン助は犬猿の仲。その息子・山田彰さんも浅草松屋に就職が決まる。

 浅草風景もふんだんで、観ているだけで楽しい。しかしこの頃の娯楽映画、浅草松屋屋上率の高いこと! もちろん、お化け煙突も! お話は他愛なく、ギャグというほどのものはないが、東京版新喜劇ともいうべき、デン助の人情喜劇。

6月11日(金)『涙』(1956年・松竹)・『新東京音頭 びっくり五人男』(1949年・新東宝)・『左近捕物帖 鮮血の手型』(1950年・松竹)・「あきれた娘たち」(1949年・新東宝)

 ラピュタ阿佐ヶ谷「蔵出し!松竹レアもの祭」で、川頭義郎監督『涙』(1956年)を16ミリ上映ですが、スクリーンで堪能。何度観ても涙腺直撃。石濱朗さんの若尾文子さんへのストレートな愛情。若尾さんの叔父夫婦への遠慮。叔父さん・東野英治郎さんの優しさ。見方を変えれば、佐田啓二さんの兄は寅さん。

 若尾文子さんはさくら。とらやのおばちゃんが、岸輝子さんだったら? さくらがこんな肩身の狭い思いをしていたのでは? と考えたり。それにつけても夫となる田村高廣さんの人柄の良さ。誰もが幸福になるラスト。タイトル「涙」の意味が解るラストに、また泣かされました^_^

 ちなみに、若尾さんの新婚世帯の下宿のおばさんは、タコ社長夫人・水木涼子さん。15年後に、若尾さんが「男はつらいよ 純情篇」で再び、松竹大船撮影所で水木涼子さんと共演したとき「涙」の思い出話をしたのかな?なんて考えたり。

 今宵の娯楽映画研究所シアターは、斎藤寅次郎監督『新東京音頭 びっくり五人男』(1949年・新東宝)。「明朗五人男」(1940年)に始まり「東京五人男」(1945年)「聟入豪華船」(1947年)「音楽五人男」(1947年)と連綿と続いてきた「五人男」ものに、「のど自慢狂時代」で銀幕デビューをした天才少女・美空ひばりちゃんをフィーチャー!

 横山エンタツさんと木戸新太郎さんの苦学生、その下宿の親父でおでん屋・花菱アチャコさん、サラリーマンの恐妻家・古川ロッパさん、青空楽団のリーダー・川田義雄改め川田晴久さんの五人男。

 大陸から引き揚げて来た薄幸の少女・ひばりちゃんが、異国の丘から暁に祈って帰国した父・田中春男さんに逢えるまでの、寅次郎お得意のウエットな人情劇とドライなギャグが混雑するコメディ。

 78分の作品が、『ラッキー百万円娘』として改題再上映版56分になったものを、娯楽映画研究所として、カットされた場面を入れて再編集。現状での最長60分に復元(個人として)。ひばりちゃんの「東京ブギウギ」「港シャンソン」などを入れ直した特別篇をスクリーン上映してみました。

 続きましては、原研吉監督『左近捕物帖  鮮血の手型』(1950年・松竹)。『東京キッド』の大ヒットを受けての、美空ひばりさん初の時代劇。色んな意味で盛りだくさん。江戸で評判の姉妹芸人、姉・おけい(花柳小菊)とみどり(ひばり)が、謎の覆面武士たちに襲われる。それを助けた浪人・塙左近(市川小太夫)は、実は長崎のキリシタン宗徒「アントニオ左近」で、仲間たちは細川刑部(小堀誠)が隠し持っている天草四郎のクルスを奪取せんとしていた。その細川屋敷で、次々と家臣が殺され、現場には鮮血の手型が残されていた。

 ミステリー仕立てで始まり、ひばりちゃんが実は細川家の幼君・緑丸で、刑部たちがその命を狙っていた。では、家臣を殺したのは?

 そこに、左近に惚れている隠密・お吟(村田知栄子)が絡んで、最後は、左近が崇拝する正義の士・日傘十兵衛(阪東妻三郎)が全部見せ場を、持っていってしまう!

 悠然たるテンポで、段取りの物語が粛々と進んでゆく。91分の尺が128分に感じられるのは、松竹京都クオリティ。

 でも、ひばりちゃんが実は、お世継ぎで、しかも男の子(その逆もあり)だという、のちのひばり時代劇のパターンが、すでに確立している。ひばりちゃんが歌うのは「ちゃっかり小唄」と「誰か忘れん」。まだチャンバラ禁止令の時代なので、クライマックスの阪妻さん、花柳小菊さんを守りながら、敵陣を歩いて突破するだけ。スターの存在感だけで、カタルシスが生まれる。恐るべし!

 続きましては、斎藤寅次郎監督『あきれた娘たち』(1949年・新東宝)。阿木翁助原案、八住利雄脚本。柳家金語楼さんの子沢山喜劇。「この子捨てざれば」と「お父さんはお人好し」を繋ぐ、多産家族の悲喜交々の喜劇。とにかく豪華キャスト、清川虹子さん、千石規子さん、掘越節子さん、江戸川蘭子さん、月丘千秋さん、久我美子さん、木戸新太郎さんなどなど、戦前戦後のスターが演じる息子や娘、嫁が入り混じっての大騒動。物語はあってないようなもの。エピソードとギャグの連続で、まるでコント集!

 でも、久我美子さんが辞書欲しさに、万引きして転落したり、次女・江戸川蘭子さんが集団水着見合いをした相手が隣家の天敵・アチャコさんの息子・堀雄二さんだったり。

 で、美空ひばりさんは七女で、小学校で菊池章子さんの「星の流れに」を歌って、怒った先生が家庭訪問。短縮再上映「金語楼の子宝騒動」ではカットされてしまった、ひばりさんの歌唱シーンが、近年発見された『ひばりのアンコール娘』(1951年)に収録されていたので、娯楽映画研究所で復元(笑)

2分近く長いバージョンを作成したものをスクリーン鑑賞。これで短縮版で、学校の先生が唐突に家庭訪問した理由がわかります。

 ひばりちゃん、子沢山で貧しいからと、日暮里の叔母さん・飯田蝶子さんに貰われて行くのだけど、そのシーンの過剰なまでの「可愛そうっぽい」ウエットさ、こそ、昭和24年のひばりちゃんのイメージ。最後、浦辺粂子さんのお母さんが、唐突に危篤になり、駆けつけたひばりちゃんが悲しい歌を枕元で歌うシーンは、何度観ても驚き。浦辺粂子さん、そのまま息を引き取ってしまう。

 ギャグの連続の果ての悲劇。これを破綻ととるか、斎藤寅次郎監督だからと受容するかは、観客に委ねられる。ってほど、大袈裟なことではないが、78分の全長版が見たくなる、不思議なパワーのアチャラカ喜劇!(最後だけ悲劇になるけど)。

6月12日(土)『悲しき口笛』(1949年・松竹)・『鞍馬天狗 角兵衛獅子』(1951年・松竹)・『青空天使』(1950年・太泉)

 今宵の娯楽映画研究所シアターは、家城巳代治監督『悲しき口笛』(1949年・松竹)。この年、斎藤寅次郎監督によって映画界にデビューした時は、持ち歌がなかった美空ひばりさんの文字通りの大飛躍作。

 主題歌はデビュー2曲目だが、完全に主役。戦災孤児で横浜の磯子区を根城にしている浮浪児・ミツコ(ひばり)は、戦争で生き別れた兄が作曲した「悲しき口笛」を口ずさみながら、青空生活をしている。

 そんなミツコが可哀想と、売れないバイオリン弾き・菅井一郎さんの娘・津島恵子さんが、バラック住まいの我が家で引き取る。

 ここまでは、この時代らいしハートウォーミングなドラマなのだが、中盤から、ジャンルを越境してとんでもない展開となる。酔客に誘われて、メチルアルコールをしこたま飲んだ菅井一郎さんが失明。その治療費に事欠いた津島恵子さんは、大金を渡され、徳大寺伸さんの密輸団の手先にされ、行方不明に。

 菅井一郎さん、火の不始末でバラックが全焼して、ひばりちゃんとドカンでホームレスに。

 ギャング団から津島恵子さんを逃してくれたのは、復員兵で一味の青年・原保美さん。その親友・神田隆さんの働くダムまで逃げてきた津島恵子さんと原保美さん。そこへ、バラック全焼の衝撃の事実が知らされる。

 とまあ、どんどん大変な状況になってくる。最後は、ひばりちゃんの歌声が認められて、何もかも解決。さらに、原保美さんが、ひばりちゃんの兄であることが判明して大ハッピーエンド。

 焼け跡のヒューマンドラマで始まり、ギャング犯罪ものになり、ミュージカルで大団円。なんでもありだけど、昭和24年の横浜ロケと、ひばりちゃんの圧倒的な歌声が、説得力となっている。

 クライマックス、マレーネ・デートリッヒの「モロッコ」と同じ、男装の麗人姿のひばりちゃんが歌う「悲しき口笛」のために1時間15分のなんでもありドラマが展開。シックな「夜のタンゴ」、主題歌のカップリングのご機嫌なブギウギ「ブギにうかれて」(レコードは池真理子さん)と歌唱シーンもたっぷり。

12歳の天才少女の凄さを知るだけでも、この映画の存在価値がある。

 大曽根辰夫監督『鞍馬天狗 角兵衛獅子』(1951年・松竹)。大佛次郎原作、ご存知、アラカンこと嵐寛寿郎さんの十八番中のナンバーワン、鞍馬天狗の大活躍。角兵衛獅子から鞍馬天狗の養子となる杉作に美空ひばりちゃん! 新撰組隊長・近藤勇に月形龍之介さん! 土方歳三には永田光男さん。角兵衛獅子の親方で、壬生の侍のスパイの岡っ引き長七に加藤嘉さん。鞍馬天狗を夫の仇と狙う磯のお喜代に、特別出演・山田五十鈴さん。

オーソドックスな、新撰組VS鞍馬天狗の物語に、人気絶頂・美空ひばりちゃんと、彼女を発掘した川田晴久さんの「ひばり映画」が融合して、歌あり、サスペンスあり、腹芸ありのヒーロー映画が展開。

意外や意外、壬生の侍たちに、鞍馬天狗暗殺司令を下す板谷伊賀守に、新宿ムーランルージュの人気者有島一郎さん。アチャラカ前夜の堂々たる悪役ぶり! もちろん月形龍之介さんに、大阪城のワル・井上播磨守に進藤英太郎さん。のちの東映時代劇のルーツ的キャスト。

主題歌「角兵衛獅子の唄」はもちろん、山田五十鈴さんの憂いを秘めた芝居場に流れる「京の春雨」を聴いていると、デビュー2年の天才少女歌手が、いかに特別だったかがわかる。

 続きましては、長らく幻だったが2002年に16ミリから復元された、太泉映画製作、斎藤寅次郎監督『青空天使』(1950年)。公開は1950年5月20日、美空ひばりさん渡米直前。敗戦後のどさくさで母・入江たか子さんと生き別れたひばりちゃん。東北の牧場から上京、外食券食堂のオヤジ・アチャコさんに引き取られるも、家庭の事情で、その兄・エンタツさん、金満家の伴淳三郎さん宅と、点々とする。

 ところが、川田晴久さんが歌の才能を引き出して歌手デビュー。となると金の卵とばかりにエンタツさんが無理矢理マネージャーとなり酷使。ひばりちゃん、失語症になってしまう。果たして、夢にまで見た母との再会は?

 敗戦四年の人々の欲が、寅次郎流にカリカチュアされているが、いつものアチャラカ喜劇。

 「青空天使」「ひばりが唄えば」が繰り返し歌われる。「びっくり五人男」から一年、寅次郎ギャグの変わらぬしょうもなさに、美空ひばりちゃんの歌手としての成長が際立つ。

6月13日(日)『アパッチ砦』(1948年・RKO)・『ますらを派出夫会』(1956年・東京映画)

 今宵の娯楽映画研究所シアターは、ジョン・フォード監督「騎兵隊三部作」の第一弾、『アパッチ砦」(1948年・RKO)。南北戦争で大きなミスを冒したサーズディ将軍(ヘンリー・フォンダ)は中佐に降格させられ、辺境のアパッチ砦に、娘・フィラデルフィア(シャーリー・テンプル)を伴いやってくる。左遷させられた焦りと、プライドの高さにより、現状を把握している古参のヨーク大尉(ジョン・ウェイン)、コリングウッド大尉(ジョージ・オブライエン)たちを、ことごとく無視。

 オローク軍曹(ワード・ボンド)の息子で士官学校出のエリート、マイケル・オローク中尉(ジョン・イエガー)と娘が惹かれ合うので、ますます面白くない。

 無能な上官の無謀な作戦で、隊が全滅していく悲劇は、カスター中佐率いる第七騎兵隊の全滅をモデルにしている。ヘンリー・フォンダのやることなすことが、裏目に出て、ジョン・ウェインの言うことを聞いていれば良かったのに…とは、小学生の時にテレビで観たときと、全く同じ感想。

 クライマックス、アパッチ族の酋長との取り決めを、一方的に反故にしたために、優秀な部隊が全滅していく展開は、観ていて辛い。しかし、その失敗を目の当たりにしながら、サーズディ中佐の名誉を守る、ヨーク大尉はさすがジョン・ウェイン! 生き残った者たちのハッピーエンドの後口が良く、娯楽映画はこうでなくっちゃ!

で、ヨーク大尉の物語は「リオグランデの砦」へと続くのでありました!

 続きましては、秋好馨原作漫画の映画化、笠原良三脚本、小田基義監督『ますらを派出夫会』(1956年・東宝)。エノケンさん・ロッパさん・金語楼さんの「喜劇人協会」会長トリオに、トニー谷さん、千葉信雄さん、柳沢慎一さんたち「派出夫」が織りなす珍騒動をスケッチで綴る。お話があるようで、ほとんどなく、派出夫を次々チェンジする亀山家の主人・寅造(金語楼)が、詐欺師・三木のり平さんの「ウラニウム産業」に手を出して破産、派出夫になるまでの小一時間。昭和31年の喜劇人カタログとして、楽しい! ワンシーンだけだが、日劇ミュージックホールの伝説のギャグマン・泉和助さんが登場する!

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佐藤利明(娯楽映画研究家・オトナの歌謡曲プロデューサー)の娯楽映画研究所
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