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2023/2024 チャンピオンズリーグ ベスト16 PSG vs レアル・ソシエダ

今年もグループステージは2位通過となってしまったPSG。ベスト16での対戦相手はレアル・ソシエダ。チャンピオンズリーグ出場2回目のチームとの史上初めての対戦。ついにエンリケ体制の真価が問われる一戦だ。

スタメンは以下。

PSG 4-3-3
ドンナルンマ
ハキミ、マルキーニョス、ダニーロ、ベラルド
ザイル・エメリ、ファビアン、ヴィティーニャ
デンベレ、エムバペ、バルコラ

レアル・ソシエダ 4-2-3-1
レミーロ
トラオレ、スベルディア、ル・ノルマン、ガラン
スビメンディ、メリーノ
久保、メンデス、バレネチェア
シルバ

ハイプレス合戦の前半とその設計図

PSGボールでキックオフ。
早速印象的だったのは、PSGはキックオフではほぼ毎回、右CBから左サイドへロングボールを放り込むのだが、この日はDFラインでパスを繋いだ。まるでソシエダのプレス設計を探るかのように。

それもそのはず。ソシエダはハイプレスを売りにするチームだ。実際、下図のように、PSGのSBをフリーにする形で、猛烈なプレスをかけてきた。

左サイドにボールがある時
右サイドにボールがある時

それだけではない。例えばボールが右サイドから左サイドに動いた時には、メンデスがベラルドにプレスをかけ、周りもスライドして対応する。

右サイドから左サイドにボールが動いた時

つまりソシエダの狙いは、最終ラインでは数的優位を保ちながら、前線では同サイド圧縮により同数でハメること。こうされるとPSGは、両SBが一瞬のゆとりを持ってボールを受けられるものの、次の一手がない。ロングボールを蹴ってヘディングできない前線が失うか、WGへの縦パスを迎撃されて奪われるか、しかなかった。この強度のプレス相手にビルドアップすることは容易ではないが、現在のPSGの限界を見た。

ただし、時折良い形も見られた。
まずは下図。ハキミが中に絞って相手WGを引き付け、デンベレへのパスコースを空ける。デンベレは足元で受ければ、人間離れしたドリブルを繰り出せる。

デンベレへのパスコースを空ける

次に下図の形。上図同様、ハキミが中に絞って相手WGを引き付け、そのスペースにザイル・エメリが開く。スビメンディはアンカー的な選手なので、中央を空けてサイドまで付いていきたくない。メリーノにザイル・エメリとファビアンどちらをマークするかの選択を迫ることができた。

相手のマークをずらす

ただ、どちらも狙った形ではなかったのだろう。再現性はなかった。事実、今のPSGのビルドアップは、両SBが開くのが基本形だ。

一方で、PSGもハイプレスを仕掛けた。設計は下図の通りだ。
デンベレがCBにまで出ていく。その分、ハキミが縦に、マルキーニョスが右にスライドし、オールコートマンツーマンでハメにいく。これだけの距離スライドすることは大変であり、後ろや中央を空ける恐怖もあるだろう。このハキミとマルキーニョスの走力と勇気にもっと注目してあげたい。

PSGのハイプレス

このプレスに対し、ソシエダは全くリスクを冒さない。GKはひたすらロングボールを蹴った。サイドに蹴ったり、空けた中央に蹴ったり、ただ前やタッチラインに蹴るだけのPSGよりは意図を感じさせたが、PSGのDF陣が頑張り回収し続けた。

従って前半は、ハイプレス合戦となり、高強度の落ち着かない展開だった。とはいえ、より決定機を多く作ったのはソシエダだった。試合後エンリケは、厳しい前半だったと感じたこと、ハーフタイムに檄を飛ばしたことを明かしている。

勝因は後半のヴィティーニャ配置換え?だけじゃない!

そして後半。
ハーフタイムでの交代はなかったが、ピッチの並びに変更はあった。ヴィティーニャがファビアンの代わりにアンカーに入ったのだ。

そして試合が動く。58分にCKからエムバペ、70分に個人突破からバルコラが得点を奪った。最終スコア、2-0。

ヴィティーニャがアンカーに入ったことは、確かに流れを変えた。俊敏で足元がうまく、プレス耐性が高い。気が利いて、CBやSBに対してパスコースを作ってあげられる。
ただ、キーマンは彼だけではなかったように思う。ファビアンもその一人だ。ヴィティーニャや周りがボールを受けやすいよう、ハーフスペースで前に出たり、ワイドに開いたり、スペースメイクに貢献していた。そして何より、ポジトラ時のパスがうまい。奪った瞬間に味方を見つける。味方が奪ったボールをサイドに預ける。これらのセンスが群を抜いている。
極端に言うと、両者は好対照な選手だ。ヴィティーニャは小柄、俊敏、足元抜群。ファビアンは長身、ゆったり、オフザボール抜群。交代無しのポジションチェンジだけで流れを変えられたことは、PSGの強みと言える。

なお、何故最初からこの配置にしなかったのか、という疑問を持つかもしれない。それはおそらく、異なる役割を期待したからだろう。例えばヴィティーニャには、より前で創造性を発揮し違いを作ること。ファビアンには、バイタルを埋めた上で、相手のチャンネルランにも付いていくこと。これはこれで、両者の長所を生かした役割だ。ファビアンは前半のPSGで最も走行距離の長い選手であり、渋い働きを見せていた。

また、後半の展開が変わった理由は、2人のポジションチェンジだけでもなかった。ソシエダが前半にかなりの力を注ぎ、後半には強度が落ちたこと。良いタイミングで得点できたこと。チームとしてリスクを許容したこと(ダニーロやドンナルンマがハキミに中距離のパスを出すようになった)。これらが重なった結果だろう。

何故ベラルドが先発だったのか?

ベラルドが左SBで先発したことに驚いた人は多いだろう。何故エルナンデスではないのかと。エンリケは戦術的な理由だったと説明していたが、少しだけ考察してみたい。
まず理由の一つとして確実に挙げられるのは、エルナンデスがイエローカード持ちだったことだ。早々にもう一枚もらい、セカンドレグで出場停止になることを避けたかったのだろう。
次に、特性の違いだろうか。エルナンデスの方がSBタイプで走力があり、良く言えば攻撃参加できるが、裏にスペースを空けてしまうリスクがある(蛇足だが、たまにCBで起用された時、普段のSBのノリでどんどん上がっていく姿は正直怖い)。この試合でも、2-0で勝っているのに果敢にオーバーラップを仕掛け、後ろに空けたスペースを久保にカウンターで使われた。エンリケはこれを嫌ったのだろうか。ベラルドの方がCBタイプであり、悪く言えば攻撃性能はゼロだ。久保には3回程チンチンにされたが、でもそれと同じ回数は綺麗にボールを奪ってもいた。きっと久保対策の守備専門要員として起用したのだろう。ギャンブル好きなエンリケの大博打だった。

セカンドレグに向けて

ホームで2-0の勝利。枠内シュートもゼロに抑えた。結果だけ見れば言うことない。

ただ、後味の悪さが残る。その理由は何だろうか。
まず、ラッキーな形でしか得点を奪えなかった。普段は全くと言っていいほどチャンスにならないCKと、バルコラの運が良かった単独突破。再現性には乏しい。
ゲームを支配したとも言い難い。デンベレのドリブルは脅威を与え続けたが、ビルドアップで苦労したため、ハキミやザイル・エメリとのコンビネーションは見せられず、お決まりのドリブルアットとバックドアも2回しか出せなかった。中盤のデュエルも、特に前半は、互角かそれ以下だった。エースのエムバペも、二度の決定機を決め切れなかった。

セカンドレグは2点ビハインドとなった相手のホーム。よりリスクをかけてパスを繋ぎ、強度高く積極的にプレーしてくるだろう。早々に失点すれば、かなりまずい。

では「どう戦うべきか」、そんなことを素人が極東の地で叫んだところで無意味なので差し控えたいが、「どう戦うだろうか」と少しだけ予想してみたい。
エンリケはきっと博打を打つだろう。アウェーのニューカッスル戦で4-2-4の布陣で爆死したり、ソシエダの久保相手に獲得したばかりの若手ベラルドを起用するような監督だ。ファーストレグと同じような戦術やメンバーを用意し、「根性でいってこい!」とは送り出さないだろう。
期待したウガルテがネガトラで猛烈に寄せ透明人間のように入れ替わられて失点したり、スペインを良く知るからとイエローカード持ちのハミキに代えて先発させたソレールがミスしたり、そんな事態にならないことを心から祈る。

でも、2-0。準々決勝進出に大きく近づいた。サプライズを楽しみに、楽観的にいこう。

Allez Paris!!

以上。


2024/02/14
UEFA Champions League
Paris Saint-Germain 2-0 Real Sociedad





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