水上機への挑戦 その4 たったの2日で合格
2日目の朝は、起きると同時にテキストを開き、水上機操作の手順を確認してから、スクールの事務所に向かった。
といっても、歩いて1分、車なら30秒もかからない。
そして午前中のトレーニングが始まった。
飛行回数を重ねることに、だいぶ慣れてきた。
慣れては来たが、なんとか離着水できるのは隣にインストラクターが居るからできるのであって、一人でカナダやアラスカの湖に着水しろと言われたら、まだまだ自信がないレベルだ。
お昼に事務所でサンドイッチを頬張った。
飲み物は1ガロンのボトルで買ってきた100%ピュアなオレンジジュースだ。
それをスクールの冷蔵庫に入れされてもらっておいた。
そんなことを気軽に頼めるアメリカのフレンドリーが好きだ。
カルフォルニアのオレンジジュースは美味しい。しかも安い。
ある時、知人の庭に実ったオレンジを1個もぎ取って食べたことがある。
それは、“本物のオレンジは、こんなにも美味しいのか!”と、今でも記憶に残っているくらいだ。
だからアメリカ行った時、私は迷わず100%ピュアのオレンジジュースを買って飲んでいる。
さて、一息付いていたら、毎度のインストラクターの兄ではなく、弟の方から、「さあ、行こう」と声を掛けられた。
声をかけられたのはそれだけだったから、兄の都合が悪くなったので、弟が交代しての訓練飛行だと思った。
私は飛行機に乗り込み、水を蹴って飛びあがった。
上空に上がった私は、普通に飛んでいた。特別に新たな科目の訓練の指示もされない。
するとこれは、単純に習熟度を上げる為に飛んでいるのだと思った。
「では、着水して、ポンツーン(浮き桟橋)に着けて」との、指示が来た。「ハイハイ、了解」というノリで、いつものように着水して、水の抵抗でゆき足を止めて停止した。
そしてドアを開けて風の力を利用し、押し流されるようにして、水上機をポンツーンに横付けした。いつもの訓練と何も変わらない。
ポンツーンに降りた私に、彼は言った。
「よし、合格だ」
“はっ? 今のは試験だったか!”
その時、ようやく今のフライトが試験だったと分かった。
事前に試験だと言われていないから、緊張など全くない。
終わってみると、余りにもあっけなかった。
「今、合格の書類を書くから待っていてくれ」
そう言われて初めて、“これで水上機の免許も取ったんだ”と、ようやく実感が湧いてきた。
余談だが後年、飛行艇乗りを主人公にした映画「紅の豚」を見ているとき、はたと気が付いた。そうだ俺も水上飛行機のパイロットなんだと。
終わり。