アルペンスキーに人生を懸ける男 斉藤博物語 第10章~ 終章 オリンピック選手誕生.他
第10章
家族も“かもい岳”とともに
1. 斉藤ファミリーの横顔
斉藤博は、妹が二人の3人の兄妹である。斉藤家でスキーを本格的に行ったのは博一人であった。
一方、後に博の妻となる中嶋久子は、兄と、姉の一恵、そして末娘の久子で、こちらも3人の兄妹。
二つ違いの姉一恵もスキー選手として滝川西高校でスキー選手として活躍し、その後東洋木材の子会社であるトーモクにノンプロ選手として入社。
妹の久子とともに宮様国際スキー大会で、姉妹で優勝したりして活躍した。だが、数年後に腰を痛め、選手を引退した。
結婚した博と久子は、3人の子供をもうけた。
長女の友子、次女の由美、三女ひとみ の三姉妹である。
歌志内市に住んだ当初は市の職員住宅に住み、約5年にわたり市職員として働いた。私(筆者茶木)が初めて歌志内を訪れたとき、奥さんが子供をおんぶして、駅まで迎えに来てくれたのが印象深い。
斉藤は、その後歌志内市の職員を辞めて、かもい岳レーシング合宿所を立ち上げた。それはちょうど子供達が物心が付き始めたころだった。
すると当然、周りのどこを見てもスキー、スキーだから、子供達はどっぷりとスキー環境の真っただ中にいることになり、気が付いたら3人ともスキーを履いていた。
親としては、特別に「スキーをやれ」と強要したことはなかったが、心のどこかに「スキーを」という気持ちはあったのだろう。
長女の友子は、斉藤がまだ市の職員としてレーシングチームを率いているとき、そのチームの一員となり、スキーをしていた。
もちろんお姉ちゃんの後を追うように、次女由美も、三女ひとみも、スキーを履いて追いかけていた。
だが、長女の友子は小学6年の時、言った。「私にはスキーの才能がない。だからスキー選手はやらない」
斉藤は内心がっかりした。友子は長身であり、この恵まれた身体なら良い選手になれるかもしれないと、どこかで期待していたからだろう。
しかし、子供がそう言う以上、強要もできない。
斉藤は、一抹の淋しさを抱えながらも、「そうか。だったらしょうがない」と答えた。
友子は、その言葉通りスキートレーニングをやめ、勉強に励んだ。
学校の先生になる目標を立て、砂川南高校から北海道教育大学岩見沢校に入り、小学校教諭の資格をとり、教育の世界へと進んだ。
2. 次女由美の活躍
一方、次女の由美は、途中の怪我にもめげずスキーを続けた。
ヨーロッパのスキーの実態を知っている斉藤は、できればそこに入れたいと思っていたから、娘の由美にその話をした。
由美も「行きたい」と答えた。
それで、地元歌志内高校に入るやいなや、スキー王国オーストリーのザルツブルグ州にある州立のシュラードミングのスキー高校に留学した。
ここは全寮制であり、有名なスキー商業専門高等学校であることから、入りたくてもなかなか入れない。
同国の他の州にしてもほぼ同様に困難で、例えばチロル州立のスキー高校に入ったのは、長野県野沢温泉出身の片桐幹雄と、あと一人いるかいないかという状況である。
片桐幹雄は若いころここで腕を磨き、のちに76年のインスブルックオリンピック、続く80年のレークプラシッドオリンピックに出場している。
シュラードミングはワールドカップなども開催され、競技スキーでは有名なところだ。
オーストリーのスキー場は、とにかく広くて、長くて、規模が大きい。
私もオーストリーや、スイス、イタリアなどのスキー場に行ったが、とにかく日本とは比較にならないほど、スケールがでかい。
1週間滞在しても、すべてのコースを滑ることが出来るかどうか、いやその前にヘトヘトになって、くたばってしまうくらい大きい。
スキー環境としては申し分ない。次女由美は、とにかくその学校へ入った。
留学滞在すること1年半余り。帰国した後の由美の成績は、シュラードミングでの訓練の成果を証明するかのように、素晴らしいものとなった。
国体・大回転(GS)優勝
インターハイ・大回転(GS) 2年連続優勝
学生選手権・回転(SL) 2年連続優勝
他 優勝、入賞多数
※GSとは大回転競技、SLは回転競技の略号
そんな実力を持つ由美は、専修大学の佐々木監督に乞われ、特待生で専修大に進学していった。
由美はそんな期待にえるかのように、2000年(平成12年)と2001年(平成13年)に、前記のとおり全日本学生スキー選手権大会 回転で2年連続優勝するなどした。
親孝行のもう一つは、宮様国際スキー大会でも優勝し、父・博、母・久子とともに、札幌ウィンターミュージアムの歴代優勝者の記念プレートに、その名を刻んだのである。
そして三女で妹のひとみも、姉の由美より4年早く同大会で優勝しており、斉藤一家4人の名前がプレートに燦然と輝くのである。
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