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代名詞の威力凄し Jeep他

■イントロダクション


・10代の子供の頃、悪路走破性の高い4輪駆動車をジープ(Jeep)と呼ぶのだと思っていた。
・新聞等でセスナに乗って・・・という報道を見る度に、小型機のことをセスナと言うのだと思っていた。
・アメリカに行った時、ある事務所で「ホチキス貸して」と言ったら、金髪女性はキョトンとしていて通じなかった。

ジープもセスナも全て商標であるが、その世界を代表する代名詞となっている。日本ではその代名詞を使った方が通じる。それほどこれらの代名詞の威力は凄い。今回はそんな代名詞にまつわるエピソードを記したい。

1 ジープ(Jeep)


昔、日本の道は悪かった。未舗装路の凸凹道は当たり前だった。ぬかるみに嵌(はま)り立ち往生している乗用車はあちこちでみられた。そんな車の横を、四輪駆動で車高も高い進駐軍のジープや、ライセンス生産した三菱ジープは、何の苦も無く走り抜けていった。


Jeep



当時日本の乗用車の主流は、フロントエンジンの後輪駆動で、車高も低いので、悪路を走るには最悪の組み合わせで、すぐに腹(車の下部)を擦り、デフが破損したりした。
時代が少し新しくなると、東北電力から宮城スバルに電力施設の維持管理の為「ジープより快適で通年使用可能な車」としてパンタイプの四輪駆動車4WD車が特別注文された。
4WDの走破性の高さに着目してのことだった。

その後、徐々に日本でも4WD車が浸透し始め、乗用車タイプの車にも、パジェロやランクルなどのSUVにも4WD車のラインナップが花盛りとなった。

雪道などで4WDを運転された人は分かると思うが、4WD車は雪道・悪路・泥濘地での走破性は、2駆(2WD)とは比較にならないくらい高い。だから私は40年以上4WD車に乗り続けている。

道が悪かった時代には4WDが無いに等しく、道が良くなった現代において4WD車が都会の真ん中でもたくさんはしっているのは皮肉なものだなと感じる。その原点がジープである。


SUV型の4WD車をジープと思い込んでいる人は多くいらっしゃるが、それに纏わる話を2つ紹介したい。

Jeep エピソード1:アフリカでの話

一つは、旅行添乗員としてアフリカの砂漠に行ったU女史の話だ。
オプションツアーとして砂漠を観たいというリクエストに応え、彼女は現地の手配会社に「ジープを手配して欲しい。必ずジープで」と念を押した。
彼女はパジェロでもランドクルーザー(通称ランクル)でも4WDのSUVなら何でもよいのだが、それらの総称をジープと言うのだと思っていた。

現地の手配会社の若い男性は、ジープブランドの車に乗りたいのだと理解した。手配会社から夜電話が入り「いろいろ手を尽くしたがジープは無い。ランクルではダメか」と言われた。
彼女は「ジープでなきゃ走れない。だからジープ」と繰り返した。

そんなやり取りを繰り返していたが、最後にその男は言った。「ランクルは日本の車だぜ。当地では絶対的信頼のある車だ。なぜランクルじゃダメなんだ」。そこでようやくU女史は、ジープがSUV4WD車のいちブランドであると気がついた。

Jeep エピソード2: えっ、本当?

もう一つの話だが、今や世界では4WDのSUVの代名詞ともなっているトヨタのランドクルーザーだが、ランクルに名前をつける時、トヨタ・ジープとした。
後年これが商標に抵触するとわかり、名前をランドクルーザーに変えた。世界のトヨタでさえ、このような事だったのだから、如何にジープと言う代名詞の持つ浸透力が強いかと実感させられる。

2 小型機セスナ


セスナと言えば小型機、小型機と言えばセスナと連想する人は多い。今まで小型機の代名詞がセスナだったのである。私は或るとき、飛行機の免許をとろうと思い、関係者に話をしていたら、その人の口からパイパーチェロキーの名前が出た。その時初めて、「あっ、セスナは小型機の一つのメーカーなんだ」と気が付いた。

考えてみれば当たり前で、車なら、トヨタ、日産、ホンダ、マツダ、三菱等、国産だけでも13ある。小型飛行機の世界も同様で、米国のセスナ社、パイパー社、ビーチクラフト社、グラマン社等に加え、国産では富士重工のエアロ・スバルもある。

私はここに記した会社のうち、ビーチクラフト社以外の飛行機には乗ったことがある。当たり前だがそれぞれの設計思想がある。ではなぜ日本でセスナが小型機の代名詞にまでなったのか。

推測するに、次のようなことからだと思う。
セスナ機の152型、172型等は、高翼(胴体の上部に翼がついているタイプ)型だ。すると上空から下がよく見える。日本の報道関係は、この高翼型を利用することが多かったから、報道関係者の中で「セスナ=小型機」の構図が出来たのではないかと思う。


高翼のセスナ(胴体の上部に翼がついているタイプ)
セスナ社の飛行機には、低翼(胴体の下部に翼がついているタイプ)の飛行機もある。
富士重工の低翼エアロスバル。
富士重工の前身は中島飛行機で、戦中は隼やゼロ戦を製造していた。
それが現在の(株)SUBARU社へと繋がる


いずれにしても、ジープもセスナもアメリカのものだから、豊かな国アメリカの文化が、大きく影響し、そのブランドが代名詞となったのであろう。

3 ホチキス


ホチキスはてっきり英語だと思っていたから、アメリカにいったとき、ある事務所でカウンター越しに居る女性に「そのホチキス、ちょっと貸してくれないかな」と英語で言った。すると件(くだん)の女性はキョトンとしている。
そのとき「あっ、ホチキスは英語じゃないんだ」と気が付いた。でもそれに代わる本当の英単語は知らなかったから、指さしジェッスチャーで伝えたいことを酌んでもらった。米語ではスティープㇽ(staple)という。




日本でホチキスと言えばほぼ100%通じるが、スティープㇽと言っても分かる人は少ないだろう。以前ホチキスは商標だったが、今や普通名詞としての認識なので、国家試験の案内文にも使われている。

4 代名詞の威力凄し


このように見てみると、商標がその世界の代名詞となっているのは、いくつもある。
荷物配達の一般名詞は「宅配便」だが、「宅急便」はヤマト運輸の商標である。映画関係者の話によると、スタジオジブリが映画のタイトルに「魔女の宅急便」と付けたが、後でそのことが分かり交渉。結果ヤマト運輸がスポンサーになり、快諾を得た。万歩計は山佐時計計器の商標であり、エレクトーンはヤマハ、ウオッシュレットはTOTOの商標である。
いずれにしても、一つの商標がその世界を代表し、人々の心に深く、長く、日常生活に入っているのは、凄いことだと改めて痛感した。

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