真面目なフーテンの寅さん 写真家・公文健太郎
北海道暮らしの私にとって、公文健太郎さんと言えば、毎年、北海道東川町で開催される写真甲子園の審査員。高校生たちに、作品の良いところや具体的な改善方法などを丁寧にお話されている姿が、頭に思い浮かびます。
公文さんは、ネパールでの撮影をきっかけに写真家となり、海外を始まりとして、旅から旅へ。ここ10年ぐらいは、日本の様々な地域で撮影をされています。
日本各地、農業の現場で撮影された写真集『耕す人』には、北海道の写真も入っています。それは、「北海道の農業」と言われて、一般的に思い浮かべそうな風景とは、異なります。私が一番印象に残ったのは、雪で農業ができない時期に、テレビを見ているのでしょうか、居間で寝っ転がっているご夫婦の写真です。とても自然で、家族でもないのに、どうしたらこのような写真が撮れるのかと思いました。
――初期の写真集『大地の花』や『だいすきなもの』を拝見すると、人物の写真が印象的です。公文さんは、ネパールで撮影を始められていますが、人を撮りたくて、写真を始められたのかな、と感じました。
初めて行った海外、ネパールで、同世代の女の子たちと仲良くなることで、土地に受け入れられていきました。
古いしきたりがある中でも、好奇心や意志を持って生きる彼女たちが、美しかった。
気がついたら、自然に人を撮るようになっていました。
――日本を撮るようになってからの写真集でも、人物がとても魅力的です。人と親しくなる秘訣はありますか。
写真を良い感じに撮られて嫌な気持になる人はいない、と信じています。
仲良くなるコツは、遠慮をしないこと。
私は食べ物が好きなので、例えば、小豆を作っている方に出会ったときには、「おばちゃんの作る餡子なら、美味しいでしょうね」に加えて、「食べたいなあ」まで言うのが礼儀だと思っています。
――写真集『耕す人』で、畑仕事の後に風呂に入っている男の人の写真があります。遠慮しないと言っても、なかなか、最初から風呂場を撮らせてくれる人はいないと思いますが。
そんなことはないですよ。
撮っているときは、お父さんも「風呂まで撮るんかい」と言っているが、それは、拒否ではない。
――えっ、そうなのですか?
「おまえ、おかしな奴だなあ」「そういうものを撮るんだね、君は」と、かわいがってくれたりする。
また、人の顔と野菜を撮るために、1日、畑に寝そべっているから、地元の人と同じように泥だらけ。同じ目線だから、そのままの流れで暮らしを撮らせてもらえているのかな、と思います。
――それで、居間で寝っ転がって、テレビを見ているような写真も撮ることができるのでしょうか。
通りすがりで切り取るというよりは、家に入って、一緒にご飯を食べて、居ること自体を忘れられた頃に、撮っています。
――農作業の合間でしょうか、チャックが空いているお父さんがご家族と大笑いされている写真もあります。とても良い写真ですが、チャックが空いているのは、少し恥ずかしい。撮らせてもらえても、写真集に載せるというときに、「その写真は、ちょっと」と言われることはありませんか。
近くに行ったら、ハーゲンダッツを差し入れしているので、たぶん、大丈夫。(笑)
農家の人たちにも、暮らしの中に笑いがあるし、働いて収穫したものをどうだ、って見せるだけが暮らしじゃないと思います。
――写真集『耕す人』では、北は北海道から南は沖縄まで、様々な季節、様々な作物の農家を紹介されています。
農家さんの手と、野菜のアップなど、それだけで農家さん凄い!となるような写真ではなく、自分が見たままを写しとろうと心掛けています。
これからも、僕自身がいろいろなものを見たいし、読者に見せていきたいです。
兵庫県出身の公文さん。
公文さんに関西弁で「食べたいなぁ~」と言われたら、農家の方は、いろいろ食べてもらいたくなるでしょう。
遠慮なく家に上がり込み、短時間でも居候みたいな状態になるからこそ、とても自然な写真を撮ることができる。
寅さんのように、旅から旅へ、を思い起こしました。
(「PHaT PHOTO」主催、写真評論家・タカザワケンジさんが講師の「写真好きのための文章講座」で、受講生全員で公文健太郎さんにインタビューを行い、それを元に書きました。)