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均衡財政主義という天動説

ガリレオ以前の時代、キリスト教の宗教教義に従って、地が動くのではなく天が動いているという、天動説が当たり前であった。

しかし、旧約聖書にも新約聖書にも、どこにも天が動いているとは書かれていない。

天動説は、大きな宗教的権力を持つ者が己の権力を維持強化させるために、人々に受け入れさせていたものである。

しかし、イタリアの自然哲学者、天文学者、数学者であるガリレオは、地動説を唱えた。

彼は宗教裁判にかけられ、有罪となって終身刑を言い渡された。

現実にそぐわない思想(イデオロギー)に基づいて、現実を解釈し、また、現実に対応しようとすることが天動説の意義である。

しかし、天動説で現実に対応しようとすると、様々な問題が出てきて失敗することになる。

一会計年度における経常的支出と経常的収入とがつりあいのとれているような財政状態を、均衡財政という。

均衡財政とは、ある年度の租税・印紙収、各種納付金、手数料などの経常的収入と、その年度の財政支出とを、等しくするように財政運営を行う、ないしは、そうした財政状態のことを言うのである。

ただし、均衡財政とは予算における制約であり,決算における実際の経常収入と歳出との均衡を意味するものではない。

従って,税収が予算の見積りを超えれば決算では剰余金が発生するし、税収が不足すれば赤字国債を発行せざるを得なくなる。

均衡財政主義とは、財政運営にあたって均衡財政を原則とし,赤字財政を長期間継続すべきではないとする主張である。

均衡財政主義は赤字財政に対する概念であり、均衡財政主義では、年度内の資金繰りのために短期証券を発行することは認めるが,歳入の手段として長期債を発行すること(赤字国債)を認めない。

均衡財政主義は,財源調達を公債に依存すると財政支出が膨張しがちであるのに対し,均衡財政を原則とすれば,それに歯止めがかけられ,財政節度が維持できるとする考えに基づくものである。

確かに,歴史的にみると,公債発行による放漫財政の反省として,均衡予算が主張されてきたことが多い。

財政法第四条にあるように、日本では均衡財政主義を取っている。

第四条 国の歳出は、公債又は借入金以外の歳入を以て、その財源としなければならない。但し、公共事業費、出資金及び貸付金の財源については、国会の議決を経た金額の範囲内で、公債を発行し又は借入金をなすことができる。

② 前項但書の規定により公債を発行し又は借入金をなす場合においては、その償還の計画を国会に提出しなければならない。

③ 第一項に規定する公共事業費の範囲については、毎会計年度、国会の議決を経なければならない。

日本の均衡財政主義では、例外として第四条第一項にあるように、公共事業費についてのみ公債発行することを認めている。

建前上は公共事業費のみ公債発行を認めているが、現実には、毎年赤字国債の借り換えを行い、さらに、最近では年10兆円程度、赤字国債が増加している。

赤字国債の借り換えと増加は、日本における均衡財政主義の破綻を示している。

理論的にも、経済変動に敏感に反応する所得税や法人税などの税構造をもつ現代の財政では,均衡財政の堅持は不可能である。

例えば,好況期が継続して税の自然増収が長期間続けば,均衡財政主義下では、通常は余剰金として黒字を蓄積するより、支出を伴う新規施策の導入が図られるであろう。

また、現代財政の歳出面では、社会保障費のような義務的経費が多いから,いったん新規施策が導入されると,税収が減少しても支出は削減できないことになる。

このように,好況期に均衡財政を採ると,後年度には赤字財政をもたらすことになる。

現実的にも理論的にも、均衡財政主義というイデオロギーは現実から乖離し、すでに破綻している。

第2次大戦下で、日本は公債によって戦費を調達した。

戦後、焼け野原となった日本では、生産設備は爆撃で焼かれて生産力はほぼゼロとなり、また、食料や原材料は極端に不足した。

公債は通貨を増大させる効果を持つ。

モノ不足と溢れる通貨によって、ハイパーインフレが発生した。

インフレ対応のために、占領軍GHQは財政金融引締めを行い、同時に、均衡財政への転換が図られた。

戦後のインフレ経済下では、均衡財政は一定の成果を収めた。

しかし、現在の日本はデフレ経済である。

日本にとっては、すでに均衡財政主義は天動説となっている。

しかし、残念ながら、財務省は均衡財政主義という天動説をいまだ盛んに喧伝している。

さらに、財務大臣を始め、財務省に取り込まれた、国会議員、また、マスコミ、さらには学者なども、国債残高の危機を煽り、盛んに世論を緊縮財政に転換させようと画策している。

財政法第四条はともかくとして、財務省が均衡財政主義に固執する理由は、ユーチューブなどで色々取りざたされている。

もし、それらの財務省に対する解釈が図星であるならば、何をかいわんやである。

財務省の高級官僚は、日本のベスト・アンド・ブライテストのはずである。

心ある財務省の高級官僚の有志には、日本のため、国民のために、ぜひ一ガンバリしてもらいたいものである。

https://www3.nhk.or.jp/news/html/20240521/k10014455921000.html

https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUA3006B0Q4A330C2000000/


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