見出し画像

自民党の財政猿蟹(サルカニ)合戦

6月中に政府は、2024年度の「経済財政運営と改革の基本方針(骨太の方針)」を策定する。

骨太の方針(ほねぶとのほうしん)は、経済財政運営と改革の基本方針(Basic Policies for Economic and Fiscal Management and Reform)と呼ばれており、経済財政諮問会議にて決議する政策の基本骨格のことである。

財政政策に関しては、現在、自民党には対極的な二つの本部が併存しており、6月7日に岸田首相に対して、それぞれが真反対の提言を行った。

自民党内供では、財政をめぐって、今、猿蟹合戦が行われている。

本部のひとつは、自民党内の特定の政策課題に対処するための専門的な組織であり、実質的には財務省が主導している、基礎的財政収支(PB:プライマリーバランス)の黒字化を目指そうとする、「財政健全化推進本部」である。

他は、党の財政政策に関する戦略や方針を検討・策定するための中心的な組織であり、財務省に反対の立場をとり、PBの均衡にとらわれることなく必要に応じて機動的な財政支出をおこなうべしとする、「財政政策検討本部」である。

当然のことであるが、財政健全化推進本部の提言はPBバランスの「堅持」であり、財政政策検討本部の提言は「固執反対」である。

財政健全化推進本部の本部長は額賀福志郎であるが、座長(本部長代理)は古川禎久であり、副本部長は稲田朋美、事務局長は越智隆雄、小委員長は小渕優子など、主として古株の衆議院議員から構成されてる。

額賀福志郎は存在感が薄いせいか、本部としての顔は座長の古川禎久氏が務め、積極的な情報発信を行っている。

また、女性議員の重鎮が二人も入っているが、女性議員にとっては、「政府による信用創造」などという抽象的な概念を理解するより、家計簿で親しんでいるBP黒字化の方がとっつきやすいのかもしれない。

もっとも、「転びの朋美」と噂されたり、「ドリル優子」と呼ばれたりしているくらいだから、PB黒字化など絵空事とわかっていても、初の女性首相を目指して財務省を敵にしないようにしよとし、したたかに振舞っているのかもしれない。

これに対して、財政政策検討本部は、自由民主党の政策調査会の一部であり、経済財政運営と改革の基本方針に関する提言を行っている。

財政政策検討本部の本部長は西田昌司であり、幹事長は城内実、事務局長は中村裕之である。

政治資金スキャンダルの発生によって安倍派(清和政策研究会)が解散を決めた後、2024年2月28日における同本部の新役員体制では、萩生田光一、西村康稔、世耕弘成、安倍派の重鎮たちが顧問に名を連ねていた。

財政政策検討本部は、アベノミクスによる経済成長が基礎的財政収支(PB)を改善してきた事実を踏まえ、「成長なくして財政再建なし」「経済あっての財政」の考え方を基本として、名目GDP成長率を高める政策の重要性を提言してきている。

2024年6月7日に提出された、財政政策検討本部の提言では、「『経済財政運営と改革の基本方針2024』に向けた提言」として、次の6項目を挙げている。
1.2025年度のPB黒字化に固執することを断固反対する
2.建設国債の発行を躊躇すべきではない
3.国債発行は孫子の借金ではない。孫子への貯蓄である
4.民間部門の貯蓄超過が日本経済の最大の課題である
5.政府と民間企業のネットの資金需要を新たな財政指標にすべき
6.国債発行に量的制限はないが、実物資源の供給力には限界がある

【財政政策検討本部の提言】
https://shukannishida.jp/240604_teigen.pdf


2024年6月7日に提出された、財政健全化推進本部の提言では、「財政健全化推進本部報告-民間主導の経済成長につながる財政運営の実現に向けて」として、次の4項目を挙げている。
1.経済成長なくして財政の健全化なし
2.経済成長の主役である企業・個人の活力を引き出す政策対応
3.成果につながる賢い財政支出(ワイズ・スペンディング)
4.隙を見せない財政運営

【財政健全化推進本部の提言】

https://storage.jimin.jp/pdf/news/policy/205998_1.pdf


財政政策検討本部は、説明の文章には改善の余地はあるものの、後段でGDPのマクロ恒等式を示した、説得力のある提言である。

一方、財政健全化推進本部は、相変わらず何の理論的根拠も示さず「オオカミ少年」的に、インフレになったら大変だ、万が一日本国債の格付けがっ下がったら大変だ、何かの拍子に財政運営への信認が失われてマーケットが混乱した大変だと煽って、だから、「税収を増やし、かつ、財政支出を減らさなければならない」という、いつもの論調である。

取ってつけたように、「経済成長なくして財政の健全化なし」などと言っているが、肝心の経済成長は、「財政依存を減らして、民間の投資増と消費増で行え」と言っている。

「ワイス・スペンディング」も「隙を見せない財政運営」も、感情的な表現で「財務省は財政支出をしたくない」と言っているだけである。

デフレ経済下で民間投資が伸びず、消費税増税と実質賃金の低下で消費が縮んでいるので、そのために財政赤字が増加しているにもかかわらず、「財務省は財政支出をしたくない」のである。

このような状況で財政支出を減らせば、ますます経済は悪化する。

財務省官僚の書いたものであろうが、財政健全化推進本部の提言は、原因と結果を取り違え、また、こうあって欲しいという机上の空論を述べた、実質のない虚しいものである。

十分な時間があり、かつ、財政政策検討本部も望んでいたのだから、財政健全化推進本部は、堂々と、財政政策検討本部と議論すべきであった。

財政政策検討本部の会議は、日程と場所があらかじめ知らされ、誰でも参加できるオープンなものであった。

しかし、財政健全化推進本部の会議は、いつどこで誰が参加しているのか、まったく秘密の会議であったという。

加えて、財務省は、姑息にもマスコミに手を回し、国の借金が大変だとか、金利が上がると利払いが大変などとか、印象操作の記事を書かせている。

国債の大半は日銀が保有しており、日銀保有の国債に支払った金利は国庫に納入されるので、実質的な金利の支払いは国債残高のうち半分である。

残りの、支払い金利の半分については、ほぼ、銀行、生保、年金機構に支払われることになるのだが、財務省は、金利が上がるとその金利まで支払えないと言っているのだろうか?

240604_teigen.pdf (shukannishida.jp)

https://storage.jimin.jp/pdf/news/policy/205998_1.pdf

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?