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労働力不足が招く日本のインフレ時代

ホテルや飲食などの労働集約的なサービス産業を中心に、労働力不足が深刻化している。
他の産業でも、収益力に劣る中小企業でも賃上げが行われているが、政府の賃上げ要請に従っている訳ではなく、労働力不足によるやむおえない賃上げである。
現在、中小・零細企業の倒産や廃業が増加しているが、仕事不足によるものではなく、労働力不足によるものである。
 
日本では、設備は過剰だがそれを動かす労働力が不足し、供給能力が低下し始めている。
需要と供給のバランス状態を示す指標が需給ギャップである。
日銀の統計によれば、直近の需給ギャップはマイナス0.5程度である。
しかし、需給ギャップを、資本(設備)と労働力の2つの要素に分けて、それぞれの需要と供給のギャップを見ると、「資本投入ギャップ」は約0.8%のマイナスなのに対して、人手不足を反映して後者の「労働投入ギャップ」は約0.3%のプラスとなっている。
この意味は、全体として需給ギャップはマイナスであり供給能力はやや余っているが、設備能力は余っているものの、人手は不足しているということを示している。
 
現在は、労働力を設備で代替しにくい分野(サービスなど)で人手不足が深刻化し、賃上げによる物価高という流れが生まれているのである。
 
ミクロ経済学の市場理論によれば、製品の需要曲線と供給曲線の交点で均衡価格と数量が決まる。
論点を明確にするために、すべての製品に対する、国民全体の需要曲線と、国家全体の供給曲線を仮定して議論を進めよう。
需要曲線と供給曲線の交点で価格(物価)と取引量(購入量=生産量)が決まる。
(物価)×(購入量=生産量)=GDP(国民総生産)となる。
 
輸入エネルギー・原材料の高騰や国内の人手不足は、供給能力の低下となり供給曲線を上方にシフトさせる。
需要曲線が一定ならば、供給曲線の上方シフトは物価を高騰させ取引量を減少させる。
例えば、1970年代に発生したオイルショックのように、急激なエネルギー価格の高騰の場合には、短期的には、政府は補助金や価格補填によって、供給曲線の急激で大幅なシフトを緩やかにして、国民生活や産業へのショックの緩和を目指す。
 
人口増加は国民の購買力を増加させることになり、需要曲線を上方にシフトさせる。
供給曲線が一定ならば、需要曲線の上方シフトは物価を上昇させ取引量を増加させる。
反対に、日本が直面してきた、給与が上がらす可処分所得が減少しているようなデフレ経済では、需要曲線が下方にシフトする。
このような場合には、政府支出の増大や減税によって、物価を上場させ取引量を増加させることにより、需要曲線を上方にシフトさせ景気の回復を図る。
 
総務省統計局のデータによれば、24年12月次における完全失業率は2.4%である。
完全失業率3%程度が完全雇用の状態と言われているので、統計上からもすでに人手不足の状況にあることがわかる。
2025年2月6日の日経朝刊によれば、喜ばしいことに、就職氷河期時代の男性正規社員率は、バブル期並みに達したとのことである。
 
人手不足は供給曲線を上方シフトさせることになり、需要曲線が現在のままであれば、物価を上昇させ取引量を減少させてしまう。
すなわち、GDPを低下させることになる。
現在の供給曲線を維持させる手段の一つは、イノベーションによって労働生産性を上げ、少ない労働者で今よりもはるかに高い生産量を上げる状況をつくることである。
日本では、高度成長時代やオイルショックを、イノベーションによる生産性向上で乗り切ってきた。
小集団活動やトヨタのカンバン方式は、当時開発された日本の誇るイノベーションの成果である。
労働力不足でありながら経済を成長させるためには、国家、地方自治体、産業、企業、個人、すべてのレベルで、イノベーションを生起させる必要がある。
 
労働不足の状態で、現在の供給曲線を維持させるための他の手段は、移民拡大政策である。
戦後ドイツでは、高度経済成長時代に労働力不足を東欧からの移民で賄った。
移民は安い労働力を提供し、かつ、新たな有効需要の拡大につながり、ドイツ経済に恩恵を与えた。
しかし、現在のドイツの混迷する移民問題の原点はここから生まれた。
日本がイノベーションを起こし、自力で労働力不足を解決したのと、ドイツは対照的な安易な手段を選択した。
 
直面する人不足時代に、日本は自力イノベーションを起こそうとするのか、または、安易な移民拡大をとるのか、日本国民は重大な判断を迫られている。


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