【英国法】著作権法における「オリジナリティ」 ーEU法のルールの導入とBrexit後のお話ー
こんにちは。
お読みいただきありがとうございます。
今回は、英国の著作権法について書きたいと思います。
はじめに断っておくと、今回のエントリーは、Lionel Bently教授らの『Interllectual Property Law (6th edn)』の第4章「Criteria for protection」をめちゃくちゃ参考にしています。
英国の知的財産法の教科書では最も定評のあるもので、特許法、著作権法、商標法などをカバーした、1560頁に及ぶ大著です。
ちょっとずつ読み進めているのですが、その第4章がとても興味深かったので、ぼくなりの記事を書いています。
ということで、今回は、著作権法における「オリジナリティ」の考え方について、英国法の伝統的な立場と、EU法の立場を比較したいと思います。
なお、法律事務所のニューズレターとは異なり、分かりやすさを重視して、正確性を犠牲にしているところがありますので、ご了承ください。
作品の「オリジナリティ」とは何か?
ある作品が英国法に基づく著作権の保護を受けるためには、次の要件を満たす必要があります。
つまり、オリジナリティとは、ある種の作品が、著作権の保護の対象となるために必要な要件です。
日本の著作権法との比較
日本では、ある作品が「著作物」として著作権の保護を受けるためには、次の要件を満たす必要があります。
このように見ると、①=d.、②=c.、③=B、④=Cという対応関係にあり、⑤「オリジナリティ」は、a.+b.の「思想又は感情」の「創作」に対応する概念なのではないかなと思います。
「オリジナリティ」要件の制定法上の根拠
英国の著作権法の大部分は、Copyright, Designs and Patents Act 1988(CDPA 1988)によりカバーされており、「オリジナリティ」要件は、s. 1(1)に記載があります。
なお、「オリジナリティ」を要求されない作品群、すなわち、映画、録音物、放送、出版物の組版(又はタイポグラフィ)は、過去の同種の著作物から複製されたものでない限り、著作権が存続するとされています(*1)。
だから、作品の「オリジナリティ」とは何なのか?
「オリジナリティ」とは、作品が著作権の保護を受けるために必要なものです、と言われても、ほとんどの人が釈然としないはずです。
じゃあ、どういう作品であれば「オリジナリティ」があると言えるのでしょうか?
学問的にも、そして、英国の著作権法の実務に携わる者にとっても、この問いに答えることが重要なはずです。
英国における伝統的な考え方
上記のBently教授らの書籍では、英国の判例法は、「オリジナリティ」の有無の境界線を明確に定めていないとしつつ、それでも、二つの特徴づけがなされる傾向にあると指摘しています。
一つ目は、作品が著作者に由来し、複製されていない場合、「オリジナル」であるといえること。
そして、二つ目に、より重要な特徴として、著作者が作品を制作する際に必要な労力(labour)、技能(skill)、見識( judgement)を行使した場合に、その作品は「オリジナリティ」があるといえることです。
これに対して、EU法では、オリジナリティを異なる視点から定義します。
EU法における考え方
EU裁判所(CJEU)は、作品が著作権の保護を得るためには、その作品が著作者自身の知的創造物(author’s own intellectual creation)であるという意味でオリジナルでなければならないとしています(*2)。
このルールは、英国の伝統的な考え方に比べて少し分かりにくい気がするので、補足します。著作者自身の知的創造物であるためには、作品が著作者の自由で創造的な選択の結果として、著作者の個性を反映していれば必要かつ十分であるとも言われます(*3)。
そのため、あるアイデアを表現する方法が規則や技術的な制約によって制約される場合には、自由で創造的な選択がされていると解されにくく、著作者の個性が反映されない結果、著作者自身の知的創造物であると認められにくくなります。
両者の比較
まとめると、次のようになります。
第一に、英国は、作品の制作の過程に着目する一方で、EU法は、作品の知的創造性という結果に主眼が置かれているように思われます。
第二に、英国のアプローチは、「オリジナリティ」の要件を設けることで、制作に投じた資本の回収形態として著作権の保護が機能する意味で、功利主義的ないし実利主義的です。他方でEU法では、「オリジナリティ」の要件は、作品に表現された著作者の個性=人格を保護すべきという前提を反映しているに過ぎないという結論を導きやすく、自然権思想が色濃く反映されています。
両者で結論が違う可能性がある場合は?
単なる日常的な労働により生じた作品
英国の伝統的な考え方に従えば、相当量の労力を投入していれば、たとえ技能や見識の行使がわずかであっても、作品に「オリジナリティ」が認められる余地があります。他方で、EU法の新ルールでは、このような作品が知的創造物に当たるとは認められにくいと思われます。
単に技能を行使した作品
英国の伝統的な考え方に従い、早口で話す議員の演説を文書化する技能の習得にはかなりの訓練を必要とするものであるとして、当該文書に著作権を認めた英国の判例があります(*5)。他方で、EU法では、著作者の高度な技能それ自体は、著作者の知的創造を導くものではないと解されるのではないかと思います。
些細な労力、技能、見識の行使しかされていない作品
英国の伝統的な考え方では、一般的にこのような作品の「オリジナリティ」は否定されてきました。しかし、EU法の解釈では、著作者自身の知的創造物であれば足りる以上、これまで「オリジナリティ」が認められていなかった類の作品に、「オリジナリティ」が認められるかもしれません。
EU法の新ルールの英国への導入とその後のBrexit
イギリスは、つい最近まではEU加盟国でした。そのため、EU法の考え方は、既にイギリスの著作権法に組み込まれています。
具体的には、2002年12月22日以降に制作された全ての作品は、EU法の考え方に従って、「オリジナリティ」が解釈されます。つまり、著作権の保護を受けるためには、その作品が著作者自身の知的創造物であると認められなければなりません(*4)。
Brexitしたけど、どうなるの?
こうしてEU法のルールは、法令としては、EU法である「The Copyright and Rights in Databases Regulations」により英国に組み入れられましたが、Brexit後も、英国の国内法に転換されたうえで有効なルールであり続けています。
このようなBrexit後の英国におけるEU法は、Retained EU Law(Assimilated Law)と呼ばれており、Brexit後の英国の法制度を理解するのに必須です。以前、こちらで書きましたので、よければご覧ください。
もっとも、イギリスはもはやEU加盟国ではなく、EUの新ルールを採用し続けなければならない理由はありません。
現時点では「オリジナリティ」の考え方について、足並みを揃えているとはいえ、今後もそれが続くのかは不透明です。
ここまで読んで頂きありがとうございました。
このエントリーがどなたかの参考になれば、幸いです。
【注釈】
*1 CDPA 1988, ss 5(2), 6(6), 7(6), 8(2)
*2 Infopaq Int v Danske Dagblades Forening, Case C-5/08 [2009] ECR I–6569.
*3 Cofemel—Sociedade de Vestuário SA v G-Star Raw CV, Case C‑683/17, EU:C:2019:721
*4 The Copyright and Rights in Databases Regulations 1997 (SI 1997/3032)
*5 Walter v. Lane [1900] AC 539
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