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大企業で外国籍社員は活躍できるのか

1年ほど前から、日本の伝統的企業の日本本社で働く外国籍社員を支援するようになりました。その中で見えてきた「現状」、そして僕が抱いている「危機感」についてまとめてみました。


ダイバーシティ経営における日本企業の課題

多くの日本企業が取り組んでいる*DE&Iの推進。人的資本情報の開示義務もあり、「女性の管理職比率」や「女性の採用比率」など、女性活躍に関するKPIが中期経営計画にも盛り込まれ、各社で取り組みが強化されています。「女性の活躍」が日本企業の喫緊の課題であり、更に一層の取り組みが必要なことは間違いありません。厚生労働省が実施している「*令和4年度雇用均等基本調査」によると、女性の管理職比率は約13%で、日本政府が目標に掲げている30%には程遠い状況です。

もちろん、女性活躍は大変重要な課題ですが、同時に推進すべきは「外国籍社員の活躍」だと考えています。なぜなら、生まれも育ちも、言語も文化も価値観も異なる外国人とのインタラクションや協働は、イノベーションを促進しやすくするためです。日本での過去の成功体験や従来のやり方を踏襲・改善するだけでは、不確実性が高く正解の見えない*VUCA時代を勝ち抜くことはできません。外国籍社員などの異なる経験や知見を活かしながら、イノベーションを加速させることが非常に重要だと思います。

また、ここ15年の日本企業の大型クロスボーダーM&Aの増加や海外事業の強化の結果、海外売上高比率や外国人従業員比率が50%を超える大企業が増えてきました。しかしながら、外国人が日本本社の役員に名を連ねることは非常に稀です。事業がグローバル化しているのに、日本人だけで意思決定を行うのは、どう考えても違和感があります。

そういった意味でも、外国籍社員の要職への登用や、管理職や意思決定者層への採用を推し進める必要があると思います。

「外国人の活躍」に関するKPIを掲げる日本企業が増加中

実際に、企業変革のリーディングカンパニーである日立製作所は*人財戦略の中で、「2030年までに役員層における日本人以外の比率を30%にする」という明確な数値目標を掲げています。

他にも、以下のように外国籍社員に関する数値目標を開示する企業が増えてきました。

  • *富士フイルム「基幹ポストに占める外国人社員の比率 2030年度目標 35%」

  • *NEC「リーダーシップ層の多様性確保 2025年度末 役員に占める女性または外国人の割合 20%」

  • *荏原製作所「Global Key Positionにおける非日本人社員比率 2030年度目標 50%以上」

  • *味の素「リーダーシップ層の多様性(ジェンダー・国籍・所属籍等)比率 2030年度目標30%」

  • *三菱マテリアル「外国人管理職 2025年度末目標 約2.5倍(2020年度末人数比)」
    …等々。

この流れはますます加速すると思いますし、公に開示していなくとも、各企業でその取り組みは(スモールスケールで)進んでいます。

  • 日本本社の部長や事業部長クラスの外国人を外部からヘッドハンティングする

  • 現地法人の優秀なナショナルスタッフを日本本社に逆出向させる

  • 海外にいながらも、レポートラインを日本本社にする(日本出張が増える)
    …等々。

日本本社でも、日本人と外国人が共に働く機会が増えているのです。

では、実際に日本本社で日本人と外国人はうまく協働できているのでしょうか。僕が知る限りでは、なかなかうまくいっていないのが現状です。

ここからは、今、日本本社で起こっていること、そしてその結果どのような未来が訪れるのかを考察してみます。

短期的視点: コミュニケーション問題

外国人と日本人が働く際に、はじめにぶつかる壁がコミュニケーションです。日本本社に外国籍社員が入ることで日本人社員も「英語」の使用を余儀なくされます。日本語を話せる外国人のみを登用・採用し、これまで通り日本語で経営する、という手法もあるかもしれませんが、グローバル経営を掲げる企業にとっては逆行しているように思えますし、それではグローバルマーケットから優秀な人材を集めることはできません。日本本社の中で、英語をビジネスレベルで使いこなせる従業員の数は限られているので、役員や部長クラスの外国籍社員には通訳をつけたりします。しかし、会議中は何とかなるものの、全てが会議中に決断・意思決定されるわけではなく、会議以外でのコミュニケーション(根回しや雑談、飲み会やランチ時など)が意外と重要だったりします。コミュニケーション方法(ハイコンテクスト vs ローコンテクスト)、働き方やカンパニーカルチャーの違いなども相まって、なかなか相互理解が進みません。異なる意見や視点が重宝されるべきなのに、それがうまく活かされていないのです。

中期的視点: 外国籍社員の孤立

最近では転職が当たり前になり、日本の伝統的企業の日本本社でも中途社員の割合が増えています。しかし、まだまだマジョリティは新卒から1つの企業に勤めている生え抜き社員ではないでしょうか。そして、定期的な人事異動や強固な同期の結びつきなどもあり、社内の至るところに生え抜き社員のネットワークが形成されています。個人的には、この非公式のネットワークは日本企業の強みの一つだとも思っていますが、外部から入ってくる人にとっては目に見えない障壁となって立ちはだかります。日本人でも転職先企業で活躍するには、このネットワークに入り込む、もしくは邪魔されないように上手く立ち回る必要があります。言語の壁があり、そもそもその重要性を認識していない可能性がある外国籍社員にとってはさらに厄介です。時間が経つにつれて孤立してしまうことがあります。

そんな外国籍社員が日本本社で働き続けるためには、彼ら・彼女らの上司のフォローアップが必要不可欠です。日本企業特有のカルチャーや働き方を説明したり、外国籍社員が抱える違和感の内省を促進したり、本社での人間関係構築やコミュニケーションの取り方について助言したりするなど、上司がしっかりとサポートすることがとても重要です。しかし、たとえその関係性がうまくいっていたとしても、人事異動や組織変更によりその上司は3〜5年周期で変わってしまいます。そのタイミングで外国籍社員のモチベーションが低下し、最悪の場合、離職してしまうケースも見聞きします。

長期的視点: 会社のレピュテーションリスク

日本本社で外国籍社員が活躍できないということは、海外拠点を含めたその企業に属する他の外国籍社員のモチベーションを大幅に下げる(*ガラスの天井を感じさせる)ことに繋がります。

また、外国人材を活かせない日本企業に、転職市場から優秀な外国人材が集まるとは思えません。「日本企業では日本人以外は活躍できない」という悪評がグローバル規模で広がってしまうかもしれません。

一方、日本本社側の立場に立つと、外国籍社員を登用・採用することで、採用コスト、オンボーディングにかかる費用、通訳を雇う費用など、様々なコストが発生します。お金以外にも、外国籍社員が入る会議だけ資料を英語にしたり、外国籍社員の(良い意味でも悪い意味でも)予測できない言動のアフターフォローにエネルギーやリソースを割く必要が出てくるかもしれません。

その結果、「外国籍社員を日本本社で登用・採用するのは大変だ。コストもかかるし、とても非効率だ。やはり、日本本社は日本人だけで運営する方が良い」という結論に達してしまう恐れがあります。これが僕が抱いている懸念事項です。試験的な取り組みの中で外国籍社員の活用に失敗してしまうと、その揺り戻しが起こる可能性があり、その圧力は強力で、場合によっては、もう二度と日本本社のグローバル化に舵を切ることができなくなるのではないかと危惧しています。

最後に

上記のような事態を避けるためには、外国籍社員の活躍推進において「登用・採用して終わり」ではなく、そのアフターケアをしっかりと設計する必要があると考えています。

弊社では、日本企業で外国人材が活躍できるように支援を行っています。グローバル人事部やDE&Iを担当している方、外国人をマネジメントしている管理職の方、グローバル化や企業変革を推進する経営幹部の方々、ぜひ情報や意見交換(LinkedIn, Twitter)をさせていただければ幸いです。

引き続き、日本の世界でのプレゼンスを高めることに貢献できるよう、精進してまいります。よろしくお願いいたします。

*DE&I・・・Diversity(多様性)・Equity(公平性)・Inclusion(包括性)
*令和4年度雇用均等基本調査
*VUCA・・・Volatility(変動性)・Uncertainty(不確実性)・Complexity(複雑性)・Ambiguity(曖昧性)
*日立製作所の人財戦略
*富士フイルム
*NEC
*荏原製作所
*味の素
*三菱マテリアル
*ガラスの天井・・・資質や実績があっても、マイノリティを一定の職位以上には昇進させようとしない組織内の障壁

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