標準の分類と社会的役割
標準(Standard)は、人間社会を支える基盤の一つである。
法律(Law)は、公権力の行使により強制的に適合しなければならないが、標準への適合は通常は任意のものだ。
標準に対応する英単語”Standard"は、規格と訳されることもあるが、以下、標準と規格を同じ概念のものとして取り扱う。
標準に適合することのメリット又は適合しないことによるデメリットが明白な場合、合理的な思考を有する企業等組織、個人は、標準への適合を目指す。
これにより、法律による規制でなくても、標準は、企業等組織、個人が従うべき規範となる。
ここで、標準を、その役割に応じて、3つに分類する。
⑴ものを測るための計量標準
度量衡などに使われる物差しであり、広義には化学試験等に利用される標準物質を含む。
⑵互換性を確保するための技術標準
モノとモノを繋いだりするインターフェース(例: ねじ、プラグ等の物理的な仕様)や電気通信のプロトコルなどに関する標準である。データを処理する機器とデータを記録する媒体とを繋ぐ標準は、電子機器等の普及において、欠かさざるを得ないものととなった。今は、電気自動車への充電設備の標準化がホットなイシューである。
⑶製品、サービス、プロセス等の品質を維持・向上させるための技術標準
製品、サービス、プロセス等の利用者が安全かつ快適に利用できるように、必要不可欠な品質を保証するための標準であり、以下の2つに大別できる。
①製品、サービス、プロセス等の品質として要求される事項を定めた規格
②上記要求された事項への適合を評価するための規格
上記以外に、用語の定義や基本的な概念を表すための標準があるが、話を簡単にするために捨象する。
さて、通常、日本の標準化への取組みが遅れていると言われるのは、上記の⑵及び⑶の技術標準(かつては工業標準と言った)である。
技術標準には、企業等組織の内で定める企業内標準、業界団体等が定める業界標準、国単位で定める国家標準、ISO/IEC/ITU-T等が定める国際標準がある。マイクロソフト社が開発したWindowsなど市場を席巻した製品をデファクトというが、ここでは対象にしない。
日本の国家標準は、産業標準化法に基づく日本産業規格(JIS)とされており、鉄鋼、化学、繊維、建材、電気・電子等製造業の分野ではきちんと整備されており、特に第二次世界大戦後の高度成長期での工業製品等の品質向上において、画期的な成果を挙げた。
しかし、インターネットの普及によるIT革命の勃興の中で、デジタル分野での標準化で大きく遅れを取った。
その理由には、国の標準化に対する理解不足と産業界のビジネス戦略に立脚した標準化活動の不在がある。
次回以降、それらの理由を分析していくが、今回は、⑵と⑶の決定的な違いだけを示したい。
それは、⑶製品、サービス、プロセス等の品質等を維持するための標準が、適合性評価の仕組みとセットになっていることである。すなわち、⑶の国際標準を日本企業の実力に合わせたものにできたとしても、それを客観的に示すための試験所や認証機関が国内になければ、グローバルな市場に示すことが困難となる。
他方、⑵ 互換性を確保するための標準については、適合性評価はそれ程には重要ではない。自社の製品、サービス等が他社のものと繋がらなければ、市場で売れなくなるので、企業は必死で当該標準に適合せざるを得ない。第三者機関による御墨付きの価値は大きくはない。それよりも、自社の特許等を当該互換性のための標準に盛り込ませるための知的財産戦略が重要となる。
残念ながら、日本の産業界のトップや経済産業省など経済官庁の職員(担当部局を除く)、国立研究所の研究者他は、上記⑴〜⑶の違いと適合性評価の関係をあまり理解していないと思われる。