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音楽家と歴史・社会 -4: エンニオ・モリコーネの生涯

主にクラシック音楽に係る歴史、社会等について、書いています。今回は、3年前に逝去したイタリアの作曲家、指揮者、エンニオ・モリコーネ(1928-2020)についてです。

エンニオ・モリコーネのドキュメンタリー映画「モリコーネ 映画が恋した音楽家」(ジュゼッペ・トルナトーレ監督)が、2023年1月13日、日本で公開された。

私が、1990年7月にボストンで独りで観た映画のうち、ストーリーをちゃんと理解できたのは、英語字幕付きのイタリア映画「ニュー・シネマ・パラダイス」だけだった。その甘美なメロディーは、世界を魅了したのだが、そんな名作とは知らずに観ていたのが懐かしい。

モリコーネは、ローマのサンタ・チェチーリア音楽院でゴッフレド・ペトラッシに作曲技法を学んだ。父親はトランペット奏者で、厳しく教えられた。少年時代から家計を助けるため、自らクラブなどでトランペットを吹きつつも、しっかりと音楽理論を勉強した。

師であるペトラッシはストラビンスキーに心酔しており、その影響を受けたモリコーネは、実験音楽に傾倒した。楽器の本来の使用法とは違う奏法を試すなど、ジョン・ケージのような先進的な現代音楽に取り組む。

これは、一昨日、佐藤友治氏に教えてもらった通りだ。

しかし、生活のため、映画音楽等の編曲の仕事を大量に引き受けてしまう。最初は、本名を使わず偽名だった。ペトラッシ門下の仲間達から、商業音楽は芸術として認められていなかったからだ。

そんな時、小学校の同級生で、マカロニ・ウエスタンの新鋭監督のセルジオ・レオーネと再会。黒沢明監督、三船敏郎主演の「用心棒」を見せられ、そのリメイク作品「荒野の用心棒」の音楽を担当する。「夕日のガンマン」では、コヨーテの鳴き声を挿入し、話題を呼ぶ。

1969年のジャン・ギャバン、アラン・ドロンが共演した「シシリアン」では、バッハ(BACH)のシ♭ラドシ♮を主題とした対位法を導入。

1970年代には、ホラー映画での斬新な音楽にも挑戦し、1984年には、「ワンス・アポン・ア・タイム・イン・アメリカ」の「デボラのテーマ」等で、クラシック音楽界からも認められる。私は「アマポーラ」(モリコーネは作曲ではなく演奏)も好きだ。

1986年の「ミッション」の音楽も民族楽器を導入するなどで高く評価され、ゴールデングローブ賞作曲賞を獲得。1988年には、アカデミー賞作曲賞が期待されたが、坂本龍一他による「ラストエンペラー」にオスカーを奪われてしまう。

映画音楽から訣別しようとしたモリコーネに、若手監督のジュゼッペ・トルナトーレが作曲を依頼したのが「ニュー・シネマ・パラダイス」だ。その素晴らしさは、冒頭に書いた通り。私も時々ピアノを弾いている。

私が最も好きな作品は「海の上のピアニスト」の「愛を奏でて」と「マジックワルツ」。

トルナトーレが映画監督として大成したのは、間違いなく、モリコーネと組むことができたからだろう。トルナトーレは、自ら出演して、「モリコーネは若手の自分を対等に扱ってくれた。」と証言。

最後に、ネタバレとなるが、クエンティン・タランティーノ監督は、「モリコーネは、映画音楽ではなく、モーツァルト、ベートーヴェン、シューベルトに並ぶ」とスピーチで得意そうに語る。それを聴いたモリコーネは、「それは200年後に決まることだ。」と呟いた。

クラシック音楽家を取り上げる、このシリーズにぴったりではないか♬



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