【日誌】何もない日に、なんとなく、車中泊。
行くあてもなく車を走らせ、なんでもないような駐車場の隅で眠った。
今お手伝いしている『株式会社エル・シャン』では、新しい事業を考案中だ。主に考えているのは社長であるムラキテルミさんだけれど、端っこだけ自分も参加させてもらった。
そこで、通っても通らなくてもどちらにせよ事業は始めるけれどという前置きで、補助金申請をすることになり、絶賛おべんきょう中の俺。
いかにも固そうな字面の書類を読みふけっていると、ムラキさんがポンと机に何かを置いた。
「徹くん、これ、忘れないように。」
そうそうムラキさんは大事なことをこうやって教えてくれる。口数も多くなく、それでいて的確で、こっちは聞き耳をたてずにはいられない。今もこうして僕の堅物な脳内がバチバチと不良をきたしているのだからこそ、ムラキさんは声をかけてくれたのだ。
机に置かれたのは『チョロQ』だった。
これを忘れないで、とだけ言ってムラキさんは上階に上がった。口数は本当に少なかった。
俺は完全に理解した!
これが新規事業のカナメである、と!
そういえば事業の話をしていた際、1時間くらいいろいろ展開して話は膨らんでいったけれど、よくよく思い出せば、ムラキさんからの最初の切り出しは「ねぇ、ワーゲンバスよくない?」だったな、と!あの時の自分にはちょっと難易度が高すぎて、思わずにっこりスルーしてしまった原始の言葉を、あの熱き初期衝動を、自分の、いや私たちの童心を、、、
「忘れないで」
私は心の中で盛大に思った。
「YES!」
かむきとおる
please say yes!日誌より
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嘉向徹28歳、11月24日生まれのサジタリウス。推薦で受かった大学を入学前に自主退学。以来、数々の職業的なものを転々とし、目下人生勉強中。好きな言葉「朝に道を聞かば、夕べに死すとも可なり」。心身ともに至って健康。愛車のハンドル握り今日もゆく。