ピンクパーカー
読んだあなたの毎日に、少しの勇気と少しの甘さと少しの酸っぱさを加味するマガジン:嘉向徹の青春玉砕ディスコグラフィ『CHE.R.RY』
カムキトオル。
1990.11.24生まれ。
射手座のO型。
超能力は...もちろんない。
*******
晴れ渡る空。白い雲。夏。
夏休み。
売店のショーケースにはお菓子がずらりと並んでいる。
ここ『海の家ちどり』は僕の二つ目の家だ。8月になると、家族全員でこっちへやってきて、泊まり込みでお仕事をする。夏休みの間、一つ目の家には帰らない。
小学五年。リアル成長痛で足の節々がコキコキと痛む朝。整体の先生に教わった体操を一通りこなすと(やらないと痛すぎて辛い)、僕は今日も売店に立った。土日になると海水浴客で大混みする海の家も、平日はのんびりだ。
ひとりの女の子がやって来た。ピンクの、少しおっき目のパーカーを着てる。注文を受けるつもりで「いらっしゃいませ〜」と声をかける。彼女が口を開く。
「んにゃんにゃんにゃんにゃ」
一瞬、何を言っているか聞き取れなくて、少し背の高いその子の顔を見上げると、その子は僕の目を見て、口を大きく開けてしゃべ、しゃべろうとしてる?
彼女は耳の聞こえない子なんだと、3秒後に気づいた。そして、傷つけてしまったかもしれない2秒を恥じた。彼女はめげずに口を開く。
「ラーメンひとつと焼きそばひとつ、ください」
二度目はするりと、ぐさりと、聞き取れた。
ラーメンと焼きそば、合計1200円。
ラーメンと焼きそば、合計1200円。
彼女の背中を見つめながら、思った。
そっか、誰かの分も一緒に頼んであげたんだ...
そのあと、だんだんその子のことが気になって、いてもいられなくなり、僕は二階へと駆け上がった。窓から顔をにゅっと出してベランダを見てみると、あの子はラーメンを食べていた。焼きそばじゃないところが、嬉しい。僕も好きなんだ、そのラーメン。
僕の人生、初の恋である。
*******
読んでくれてありがとうございました。改めまして、嘉向徹と申します。いやー、乙でございました。
あのー実は、両親が海の家の他にやってたのが障がいのある方の小規模作業所で、よく学校帰りに寄って、プリンを食べたりしてたんですよね。そこに来る人たちがつくった手作りの。そこには顔をバンバン叩いてる人や、タウンページみたいな分厚い本を超スピードで読んでる?人とかがいて、最初は不自然に感じたけれど、まぁ慣れてくれば全然普通、って感じで、プリンうまっ、みたいな。そういう経験が、あの3秒間ぐわあああっと駆け巡りましたね。で、ごめん!みたいな気持ちになったと。聴こうと思えば聴き取れるものを、ん?って顔しちゃってごめんなさいと思いました。
その子のことを思い出したくて、よく真似してました。あの声とあの喋り方で「ラーメンと焼きそばください」っていうモノマネ。人前でとかじゃないですよ。ひとりの時に、その子を感じたくてやってたんでしょうね。今みたいにスマホとかないから、自分で再現するという、、。