溜池随想録 #8 「クラウド時代のITビジネス」 (2010年1月)
クラウドを提供するビジネス
SaaS/クラウドは、情報処理の世界に大きな変化をもたらす。パラダイムがすっかり変わるまでには数年の時間を要するだろうが、この世界に大きな変化が起きることは間違いない。
では、ITビジネスはどう変化するのだろう。
まず、クラウドを提供するビジネスが急成長するだろう。この分野には、IaaS(HaaS)やPaaS、SaaSのベンダーが含まれる。
すでに、多くのパッケージソフト・ベンダーがSaaSビジネスに取り組んでいる。また、この中にはEC2やS3を提供するAmazon.comや、Google AppEngineやGoogle Appsを提供するGoogleなども含まれる。
注意すべき点は、クラウドを提供するために、自ら巨大なデータセンターを所有・運営する必要はないという点である。実際、SaaSベンダーの多くは、他社が提供するインフラの上で自社のサービスを提供している。Googleは自社でデータセンターを運営しているが、他社が運営しているデータセンターを利用してクラウドを提供しているベンダーの方が多い。
たとえば、Heroku(「ハーオーク」と発音するらしい)は、Ruby on Railsを提供しているPaaSであるが、自分でデータセンターを持つのではなく、Amazon.comのEC2とS3を利用してサービスを提供している。
また、自分のパソコンに内蔵されたハードディスクと同じ感覚で利用できるオンライン・ストレージ・サービスのDropboxは、その機能を考えるとIaaSであるが、Herokuと同じようにAmazon.comのインフラを利用しており、自社でデータセンターを運営しているわけではない。
コンサルティング/販売支援/カスタマイズ
すでにクラウドを提供するベンダーの数は数え切れないほど存在する。特に日本ではその数はしばらく増加するに違いない。そうした中で、どのサービスを利用すべきなのか(あるいは、そもそもクラウドを利用すべきかどうか)迷っているIT利用企業は少なくない。そうした利用企業にどのようにクラウドを利用すべきなのかという適切なアドバイスを提供するビジネスが成立する。
つまり、クラウドを提供するベンダーと、それを利用する企業との間で仲介をするビジネスである。これは利用者側に立てばコンサルティングであり、ベンダー側に立てば販売支援/販売代理店ビジネスだということになる。
コンサルティングだけでなく、その実現をサポートするビジネスも成立する。システム・インテグレーションならぬクラウド・インテグレーションである。また、これらのサービスに付随して、SaaSの場合にはカスタマイズというビジネスに対する需要も大きいだろう。
クラウド上でのアプリケーション開発
クラウド時代になると、受託開発ソフトウェアの需要が大きく減少すると予測する専門家もいるが、おそらくそうはならない。開発のインフラがクラウド上に移行するという変化はあるが、受託ソフトウェア開発の需要はほとんど変わらないのではないだろうか。
IaaSやPaaSを利用する企業は、一般の利用企業と前述のHerokuやDropboxのようにその上で付加価値をつけたサービスを提供するベンダーに分けることができる。いずれケースも、IaaSやHaaSの上になんらかのアプリケーションソフトを構築することになる。
もちろん、社内の人員だけでソフトウェアを開発するケースもあるだろうが、外部に開発を委託するケースや、外部に開発支援を依頼するケースが多くなるだろう。特に、一般の利用企業の場合には、従来どおり業務アプリケーションの開発を外注するケースが多くなるだろうと予想される。
こうしたニーズに対応して、クラウド上でのアプリケーションソフト開発や開発支援を行うビジネスが成立する。
プライベート・クラウド構築
さらに、前回取り上げたプライベート・クラウド関連でも、何種類かのビジネスが生まれている。まず、その構築に係るコンサルティング、構築支援がビジネスになる。さらに、プライベート・クラウド構築に必要なハードウェア/ソフトウェアの提供がビジネスとして成立する。実際、大手ITベンダーはすでにプライベート・クラウド構築支援のビジネスを展開している。
ただし、長い目で見ると、情報処理の中心はパブリック・クラウドとバーチャル・プライベート・クラウドに移行していくため、プライベート・クラウド向けにハードウェア/ソフトウェアを提供するビジネスは徐々に縮小することが予想される。
次回からは、少しクラウドから離れて、ソフトウェアの開発プロセスについて考えてみたい。