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NY駐在員報告  「情報技術と教育(その2)」 1995年12月

インターネットの普及率

 先月号では、米国における教育分野でのインターネットの利用について具体的な事例を挙げながら説明してきたが、学校でのインターネットの利用率はまだそれほど高いものではない。学校としては接続されているが、教室までインターネットが届いているところはまだ少数である。

 コロラド州デンバーにある調査会社、Quality Education Data (QED) 社の調査によれば、インターネットに接続されている教室はわずか3%である。また、QED社の学校区別の調査によれば、53%の学校区はその区内の少なくとも1校はインターネットに接続されていると答えているが、27%はインターネットに接続された学校はなく、7%は不明、13%は回答無しという結果になっている。ちなみにQED社が94年春に調査したオンラインサービス利用に関するサンプル調査によれば、インターネットを利用している学校が24%、プロディジーが6%、アメリカ・オンラインが5%、アップル・リンクが2%、コンピュサーブが1%となっており、商用BBSよりはインターネットを利用している学校が多い。

 95年6月に商務省のNTIA (National Telecommunications and Information Administration) が発表したレポート「Connecting The Nations: Classrooms, Libraries, and Health Care Organizations in the Information Age」にも同様の統計が記載されている。この報告書に採用されている統計は、94年に行われたDepartment of EducationのNational Center for Educationの統計で、公立の学校(幼稚園から高校まで)の35%はインターネットに接続されているが、クラスルームへの普及率は僅か3%となっている。

 なお、学校への普及率調査については、南カリフォルニア大学のCenter for Telecommunications Managementが95年にAmerican Electronics Associationと協力して行ったサンプル調査がおそらく最新で、学校の図書館、教室あるいはオフィスのいずれかがインターネットに接続されている割合は40%となっている。

連邦政府の呼びかけ

 先月号にも書いたように、95年9月21日にクリントン大統領はサンフランシスコで「2000年までに米国内のすべてのクラスルームをインターネットに接続しようではないか」と産業界と地方政府に対して呼びかけた。日本のマスコミの一部は、これを連邦政府の新しい計画の発表だと報道したようであるが、これは別に新しくもなければ、連邦政府の「計画」でもない。かなり前から、情報スーパーハイウェイ構想の中心人物であるゴア副大統領は、産業界に対して2000年までにすべてのクラスルームをネットワークに接続しようではないかと呼びかけている。それは少なくとも95年春より前のことだ。というのは95年4月に上院の教育関係の予算割り当てに関する小委員会で、このゴア副大統領の目標について、教育省のマドレーヌ・M・クーニン次官は「この目標を達成できるかどうかは、州政府、地方政府と民間セクターの努力に任されているが、連邦政府がこれを援助すればさらに大きな推進力になるだろう」と述べているからである。

 サンフランシスコでのクリントン大統領の演説は、このゴア副大統領の目標を繰返し述べたものに過ぎない。ともあれ、その時のクリントン大統領の演説の一部を紹介しよう。

 私が今日、ここサンフランシスコに来たのは、我が国のすべてのクラスルームを情報スーパーハイウェイに接続するという、挑戦的でやりがいのある課題について話すためです。これが可能であることを示すために、我々全員はここに集まり、その未来にむかって偉大な一歩を踏み出したことを発表します。

 この学校年度が終了するまで(訳注:96年6月まで)にカリフォルニア州のすべての学校、12000校がインターネットに接続され、広大な知識の世界にアクセスすることが可能になります。また、同じ時期までに、この州の端から端までの幼稚園、小学校、中学、高校の20%のクラスルームが接続されることになります。もし、こうした試みががカリフォルニア州で可能なら、米国の他の州でも可能なはずです。

 そこで鍵になるのが、ここに参集された皆さんが作られた協力体制のようなものをどう構築するかです。カリファルニア州の学校をネットワークに接続する仕事は、サン・マイクロシステムズ社、アップル社、ゼロックス社のパロアルト研究センター、オラクル社、3コム社、シリコングラフィック社などの民間企業の広範な連携によって進められているものです。

 政府はこれらの企業の協力体制をつくり、目標を設定しました。しかし、実行したのは民間企業のみなさんです。クラスルームをネットワークに接続することが、21世紀にむけての一つのモデルになるように、今日ここで我々が行っているやり方、つまり政府が金額の書いていない小切手として役割を果たすのではなく、触媒として機能するというプロジェクトの進め方もまた、21世紀にむけての一つのモデルになるでしょう。

 それゆえ今日、私は、全米の産業界と地方政府に対して、2000年までに米国内のすべてのクラスルームをネットワークに接続するために資金と労力投じていただきたいと呼びかけているのです。

 全米の数千万の親達が、Mortal Kombat、Primal Rage、Killer Instinct、Super Streetfighterといったテレビゲームで遊ぶ子供たちを見ています。しかし、米国における本当に重要なコンピュータゲームは学習なのです。今世紀末までに、この国のすべての子供たちが好きなようにそれを使えるようにしようではありませんか。

 先月私は、喫煙の習慣を子供たちが身につけないようにするための広範な政策を発表しました。もちろん、タバコが子供たちにとって有害だからです。今日、私は有益な習慣を推奨したい、それは生涯に渡って学習を続けて行くという習慣です。私はアメリカの子供たちをコンピュータを通して学習につなぎ止めたいと願っています。

 我が国は単純な価値体系の上になりたっています。それは「我々は次の世代により良い生活と可能性を残す義務を持っている」ということです。教育こそがそれを実現する道であります。情報通信革命の真っ只中にあり、新しい世紀が明けようとしている今日、教育の未来はコンピュータに依存していると言ってよいでしょう。すべての生徒に機会を与えることによって、すべての生徒がアメリカン・ドリームを実現しうる社会への長い道のりを我々は歩むことができるのです。

 事実がなりよりの証拠です。コンピュータを使えば子供たちはより早くより確かに学べます。数日後に公表される10年間のレポート「Apple Classroom for Tomorrow」によれば、コンピュータを使って勉強した子供たちの標準テストの得点は、10〜15%よくなったそうです。また、基本的な(読み書き等の)技能の習得に要する時間は、コンピュータを利用していない子供にくらべて30%も少なくてすみ、授業の欠席率も8%以上から5%以下に下がったということです。

 サンフランシスコでのクリントン大統領の演説はまだまだ続くが、ここで中断することにして、この後日談に話を移そう。

AT&T社の決断?

 95年10月31日、クリントン大統領の演説から1カ月と10日後、AT&T社は学校を情報スーパーハイウェイに接続するために1.5億ドルを投じると発表した。2000年までに全米の約11万の公立、私立の小学校とハイスクールをインターネットを含む情報スーパーハイウェイに接続するために、5年間で1.5億ドルを投じると約束したのである。この計画は「AT&T Learning Network」と呼ばれ、96年の春からスタートする。AT&T社が提供するのは、永遠に無料のインターネットへのアクセスではない。さすがのAT&T社もそこまで太っ腹でないし、そんなことをしたら1.5億ドルでは済むわけがない。AT&T社が提供するのは、インターネットにダイアルアップで接続するための初期費用とブラウザ(ソフトウェア)、それと100時間分のインターネット利用料である。この100時間を超えた利用は有料となるが、AT&T社は一般向けの料金より安いレートでアクセスを提供すると約束している。この事業は、AT&T社が8月15日に発表した「AT&T WorldNet」というインターネットへのアクセスサービスを使って行われる。このAT&T WorldNetは96年から本格的に開始されることになっているが、今回の学校を情報スーパーハイウェイに接続する計画は、それがすぐには利益につながらないにしても、顧客獲得のためのキャンペーンだと考えられなくもない。

 インターネットへの接続の他、AT&T社は二つのサービスを無料で提供すると約束している。一つは、間もなく開始されるボイス・メッセージング・サービスで、これは3カ月間無料で提供される。このサービスを利用すれば、学校は教師や生徒、あるいは生徒の父兄に音声のメッセージを一斉に送ることができるようになる。たとえば、大雪のために臨時に休校するという連絡を全生徒に電話連絡することも簡単にできるし、先生が一週間前に出した宿題についてクラスの生徒にだけ電話で明日が提出期限であると連絡することも可能になる(生徒にとっては迷惑な話だが)。

 もう一つは、キャンパス内のワイヤレスサービスで、全米で100校を選んで、2年間無料で提供される。このサービスには教育者用のセルラーホンとビル内のワイヤレス・システムが含まれている。AT&T社は、教師がセルラーホンを用いれば、教室を離れることなく他の職員や生徒の父兄と話をすることができ、ある研究によれば、これによって1年間に2週間分の時間を節約でき、それを授業の準備や教育に充てることができると説明している。

 AT&T社によれば、同社は教育の改善のために過去10年間に5億ドル以上を費やしてきている。そうした事実から考えると5年間で1.5億ドルという額は巨額ではないのかもしれない。

Connected Learning Community

 教育の分野にもっと情報技術を導入し、教育の質の向上を図ろうというクリントン・ゴア政権の呼掛けに応えた企業の一つにマイクロソフト社がある。同社の会長でありCEOであるビル・ゲイツは、11月28日にワシントンDCのジョージタウン大学でスピーチを行い"Connected Learning Community"というコンセプトを明かにした。このスピーチの中でビル・ゲイツは「情報技術の利用で最も重要なのは教育の改善である。情報技術を利用すれば学習や教育を大幅に改善できる余地がある」と述べ、生徒がパソコンをつかって世界中の情報にアクセスし、生徒と教師、生徒の親が互いにネットワークでつながっている教育環境を"Connected Learning Community"と名付けたのである。

 ビル・ゲイツはこのConnected Learning Communityを3つのパートにわけて分析する。まず第1が学校内のネットワーク、第2が学校と家庭のネットワーク、第3が学校と学校外の世界とのネットワークである。第1のネットワークは生徒が互いに協力して自分で学習できる環境を創り出す。教師はそこではコーチであり、触媒の役割を果たすことになる。第2のネットワークは教師と生徒の親とのコミュニケーションをより容易にかつ頻繁なものにする。これによって親は子供教育により関与する機会が増える。専門家によれば、親が教育に関与する機会が多い方が、教育効果は高くなるそうだ。学校外の世界とのネットワークは(すでにこのレポートで報告したとおりだが)、世界中の情報にアクセスすることを可能にするだけでなく、生徒が各分野の専門家から直接学ぶことも、教師が互いにさまざまな経験を共有することも可能にする。

 こうした環境を構築するためにマイクロソフト社は、幅広いソフトウェアを開発していくと共に、Windows NTサーバーの拡張である"Microsoft Parent-Teacher Connection Server"を96年の春から学校には無料で提供すると約束している。このサーバーソフトは電子メール、電子掲示板、インターネットへの接続、WWW サーバーの機能を備えており、教師と生徒の親のコミュニケーションに役立つと説明している。この計画にコンパック・コンピュータ社、ベル・アトランティック社、パシフィック・ベル社も協力しており、ハードウェア、ソフトウェア、ネットワークへの接続がパッケージでサービスされることになっている。

 なお、マイクロソフト社は比較的最近、先月に報告したGSN (Global SchoolNet Foundation) の進めるプロジェクトであるGSH (Global Schoolhouse) のスポンサーになっており、こちらへのサポートの強化も約束している。

 ビル・ゲイツは「このConnected Learning Communityは非常に大きな可能性をもったエキサイティングなビジョンであるが、これを実現するにはみんながそれぞれの役目を果たし、協力していくことが必要だ」とジョージタウン大学に集まった700人の教育関係者に呼びかけた。いつものように、この「非常に大きな可能性をもったエキサイティングなビジョン」は、すでにインターネット上で行われている様々なプロジェクトと比較して、そう目新しいものではないと思うのだが、大金持ちのビル・ゲイツとマイクロソフト社が仲間に加わると宣言したことは、情報技術の導入に前向きな教育関係者には歓迎されているようである。

情報機器の普及率

 このレポートのタイトルを「情報技術と教育」としながら、ほとんどインターネット関係の話題ばかりを取り上げてきたので、多少はパソコン等情報機器の普及状況をみてみよう。

 SPA (Software Publishers Association)が95年10月に発表したレポート"Education Market Report"によれば、K-12におけるパソコンの普及率は98%、モデムが42%、CD-ROMドライブが48%、LANが33%、CATVが76%、衛星放送受信用アンテナが18%となっている(このデータの出所はQED社である)。

 このSPAの報告書によれば、93-94学校年度において情報関係機器の購入に充てられた予算は約10億ドルであり、教育用ソフトウェアの購入に使われたお金は6億6500万ドルであった。また、95年6月現在で学校(K-12)に設置されているパソコンの総台数は548万台と推計され、この結果、コンピュータの台数と生徒数の比は、1対9程度になってきている。しかし、次項で説明するように、そのうちの50%以上のパソコンはかなり古いタイプで、インターネットにアクセスするような用途には使えそうにない。なお、パソコンの設置台数の予測も掲載されており、96年6月には614万台、97年6月には688万台、98年6月には777万台、99年6月には880万台となっている(出典:Peter Li Education Group, 1995: Wujcik & Associates, 1995)。

 家庭へのパソコンの普及率にはいくつか統計があるが、もっとも権威のある連邦政府のセンサス局の調査によれば、84年時点で8.2%、89年で15%、93年10月で22.8%である。

 SPA自身も調査を行っており、95年2月に発表された報告書では33%となっている。ちなみに家庭のパソコンの77%がIBM機あるいはIBMコンパチブル機であり、12%がMacintosh、3%がApple IIとなっている。また、IBM機あるいはIBMコンパチブル機のOSは、約8割がWindowsを利用しており、1年前(5割強)とくらべると1年間でWindowsがかなり家庭に普及したことがわかる。パソコンを保有している家庭のモデム所有率は94年は49%であったが、95年は67%であり、CD-ROMドライブも94年の26%から95年は41%に大幅に上昇している。

 なお、95年4月に発表されたMicrosoft/InteliQuestの"1995 National Computing Survey"の数字はSPAの調査より少し低く、家庭のパソコン保有率は31%となっている。

Apple II

 Apple IIというパソコンはご存じだろうか? 77年1月に設立されたアップル・コンピュータ社が77年に世に送り出したパソコンの(当時の)ベストセラーマシンである。商業的に成功した最初のパソコンと言ってよい。当時としては珍しくフロッピーディスクを外部記憶装置として利用できたが、最大搭載可能メモリは(確か)48Kバイト程度で、一行にアルファベットが40文字しか表示できなかったし、扱える文字は大文字だけだった。おまけにフル装備したApple IIの価格は3000ドル程度で、個人で購入するにはちょっと高かった。しかし、79年に世界初のスプレッドシート「ビジカルク」がApple IIのアプリケーションソフトとして発表されると、Apple IIの売上げは急速に伸び、当時のパソコンのベストセラーになったのである。84年にMacintoshが発売されるまでは(実際には発売されてからもしばらくの間は)アップル社の収益の大黒柱であったパソコンである。

 QED社の調査によれば、学校が保有しているパソコンを機種別にみると、最も多いのはMacintoshでもなければ、IBM PCでもない。なんとそのApple IIなのである。もちろん、年々Apple IIの占めるシェアは低下しているのだが、94-95年度に行われた調査でもまだ全体の38%を占めている。ちなみに同じくアップル社の Macintoshが20%、WindowsでないIBM PCが12%、Windowsを搭載したIBM PCが10%、WindowsでないIBM PCコンパチブルが6%、Windowsを搭載したIBM PCコンパチブルが6%となっている。

 Market Data Retrieval(MDR)社の調査結果はやや異なるが、Apple IIがかなり残っているというのは事実らしい。公立学校(K-12)の保有するパソコンは94-95学校年度で489万台中、Apple IIは147万台でシェア30%(93-94年度は156万台で38%)、Macintoshが131万台で27%(同88万台、21%)、IBM PCおよびそのコンパチブルが198万台で41%(同146万台、36%)、その他が12万台で2%(同19万台、5%)である。

 ちなみにメーカー別のシェアをみると、教育市場では圧倒的に優位を誇っていたアップル社のシェアが低下傾向にあり、CCA Consulting社の調査では94-95学校年度に50%を切ったことになっている(前出のMDR社の調査ではまだ57%のシェアがあることになる)。

普及率の格差

 教育分野に限らず、インターネットを利用するメリットの一つは、地理的な制約から解放されることにある。多くの人が指摘しているように、十分な太さをもったコンピュータネットワークに接続されれば、地理的に不利な学校も(経済的な学校も)、さまざまな学習資源へのアクセスが可能になって、公立学校のシステムはより公平になる可能性がある。例えば、そう遠くない将来、全米の、いや世界中の子供達がインターネットを使って、恐竜の化石の展示で有名なアメリカ自然史博物館にアクセスして恐竜研究の最先端に触れられるようになるだろう。しかし、現状では、地理的あるいは経済的な条件に起因する格差は存在している。インターネットに限らず、新しい技術を教育に適用する際は、教育が平等に改善されるように配慮すべきであるが、普及の過程において格差が生まれるのはある程度止む終えないことなのかもしれない。しかしできれば、こうした格差は最小限になるよう努力すべきだろう。

 たとえば、前出の商務省のNTIAが発表したレポート「Connecting The Nations」によれば、公立学校へのインターネットの普及率は、Cityでは40%であるが、Townでは29%となっている。また、米国西部では42%であるが、南東部では29%である

 さらに問題なのは、米国特有の人種分布に伴う格差である。公立学校におけるコンピュータ利用の推計によれば、マイノリティの子供や黒人の子供は学校でコンピュータを使える機会が白人の子供より少ないのである。たとえば、白人の子供は学校で60%近くがコンピュータを使えるのに、黒人の子供は40%以下だと推計されている。ヒスパニック(スペイン語を話すラテンアメリカ系の市民)の子供たちが多い学校では、平均して16.4人に1台のコンピュータが設置されているが、ヒスパニックの子供たちが少ない学校(12.4人に1台の割合)と比べると、コンピュータが少ないことが分かる。さらに、収入の少ない家庭の子供はコンピュータに接する機会が少ないというデータもある。高所得者が多い地区の学校では子供11.7人に1台のコンピュータがあるのに、低所得者が多い地区の学校は13.9人に1台の割合になっている(これらの数字は少し古いQED社の調査によるものだが、この傾向に大きな変化はないと思われる)。

 こうした格差はいずれ解消されていくとは思われるが、その時期は、できるだけ早期であることがのぞまれる。インターネットは一部の選ばれた人々のものであってはならない。インターネットは、教育における格差をつくるものではなく、格差をなくすものであってほしいと願っている。

最後に

 米国は日本より教育の情報化において進んでいることは確かである。しかし、米国に来る以前に思っていたほどに米国の情報化が進んでいるわけでもないことも分かった。学校にパソコンは普及しているが、まだ旧式のパソコンがかなり多いし、インターネットへの接続は増えてきているが、クラスルームへの普及はまだまだである。

 QED社によれば、米国では1年間に米国のGDPの約5%に相当する2750億ドルが幼稚園からハイスクールまでの教育に投じられている。ワシントンDCにあるSPA (Software Publishers Association)によれば、このうち約1%に該当する24億ドルが教育用の情報機器やソフトウェアなどに使われているにすぎない。この金額が日本と比べて多いのか少ないのかは分からないが、全体の予算から考えれば、もっと多くてよいのではないかという気がする。Microsoft/InteliQuestの"1995 National Computing Survey"によれば、84%の回答者が学校がコンピュータ設置のために予算を使うことはお金の無駄遣いではないと回答しているし、58%はコンピュータの使い方は学校で教えるべきだと考えている。また86%の親はコンピュータこそが子供に買い与えることのできる最も有益な技術製品であると考えている。そのコンピュータをインターネットに接続することによって、その有益性は2倍にも3倍にもなる。

 先月に紹介した様々な利用例によって、インターネットが教育のツールとしていろいろな使われ方をしていることが分かっていただけたと思う。米国では、インターネットは情報を収集する道具として、あるいはインタラクティブな教育環境をつくりだす道具として利用されている。おそらくさらにその利用は拡大し、高度化していくだろう。

 教室をインターネットに接続すれば、教師や生徒が世界中から一方的に情報を得るだけでなく、自分の持つ知識をインターネットを通じて提供し、他の教師や生徒と知識や場合によっては経験を共有することも可能になる。インターネットは、世界中の情報と知識へのアクセスを可能にすると同時に、インタラクティブな教育環境を作り出すことによって、教育の質を高めるツールになると考えられている。

 また、インターネットを使えば、世界中の子供たち、学生が時差や地理的な場所に関係無く、極めて安いコストでコミュニケーションできる。それも文字だけの電子メールだけではなく、お互いの声を聞き、顔を見ることもできる。そうしたコミュニケーションの結果、互いの文化や、地理的、社会的、政治的な事情を学ぶことができ、世界というものがよく理解できるようになるだろう。こうした環境で教育された子供たちは、文字どおりコスモポリタンになるに違いない。

 J.F.ケネディ大統領は63年6月、アメリカン大学で次のように語っている。

……ただちに相違を克服することはできないとしても、すくなくとも、多様性を認めて、世界に平和をもたらすことはできる。つまるところ、人類が共有する基本的な絆は、私たちすべてが地球という小さな惑星で暮らしているという事実である。私たちはみな、同じ空気を呼吸している。私たちはみな、子供たちの将来の幸福を願っている。そして私たちはみな、かぎりある生命を与えられた存在にすぎないのだ

訳文は「JFK」Jim Garrison著、岩瀬孝雄訳、ハヤカワ文庫による

 クリントン大統領やゴア副大統領は「全米のクラスルームをインターネットに接続しよう」と呼びかけているが、もしJ.F. ケネディが生きていれば「世界中のクラスルームを」と演説したに違いない。世界中のクラスルームが接続されれば、インターネットはケネディ大統領の言う「基本的な絆」を子供たちに教え、「多様性を認めて、世界に平和をもたらす」重要な礎になるに違いないから。

(おわり)

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