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ネットバブルの崩壊から得られた教訓  第4回 「競争を勝ち抜く戦略」 (2004年)

 米国商務省センサス局が調査している小売業のオンライン売上を見ると、前年同期比で20%台後半の伸びが続いています。この電子商取引市場の拡大に大きく寄与しているのは、「ピュア・プレーヤー」と呼ばれるインターネット専業の小売店ではなく、「マルチチャンネル・プレーヤー」と呼ばれる既存の小売業者になっています。

 たとえば、世界最大の小売企業であるWal-Mart、百貨店のJC Penny、Sears、Macy's、カジュアル衣料専門店のGAP、オフィス用品のOffice Depotといった企業は、ネット販売にかなり力をいれています。また、カタログ販売業者であるL.L .BeanやLand's End、Victoria's Seacretも、着実にネット上での売上を伸ばしています。こうした企業の強みは、すでに十分なブランドを築き、消費者の信頼を得ているので、振興のドットコム企業のように、巨額の広告宣伝費を必要としないことです。

 ただピュア・プレーヤーはAmazon.comだけになってしまったわけではありません。あまり目立たないものの、数多くの中小規模のネット小売業者が、比較的収益性の高い商品を扱うことによって生き延びています。例えば、ペット用品を販売しているサイトを見ると、一般的なドッグフードなどの利益率の小さなペット用品を扱っていたPets.comは倒産してしまいましたし、そのライバルのPetpiaはペット用品チェーンのPETCO Animal Suppliesに買収されてしまい、ペット用品を扱っているピュア・プレーヤーは無くなってしまったように見えます。でも犬のための健康食品や医薬品を販売しているSitStay.comや高級ドッグフードや入手困難な治療薬などを扱っているWaggintails.comなどは、売上高はさほど多くないものの、生き残っています 1)。

 つまり、他では入手できない、あるいは他では入手が困難な商品やサービスを扱うことによって、他のネット小売と差別化すれば、利益の上がらない安売りをして破産するような事態を避けられるのです。生き残るための戦略の一つは、商品による差別化だと思います。

 では、差別化できない書籍などの商品を扱うAmazon.comは、なぜ勝ち組になれたのでしょう。前回では、絶え間ない創意工夫が重要だという話をしましたが、商品の価格は問題ではなかったのでしょうか。

 ここに面白いデータがあります。ECサイトの格付けを行っているGomez.comの2000年当時のオンライン書店部門のランキングです。総合得点でみると、Amazon.comが第1位なのですが、買い手からみた商品の安さを示す「「Overall Cost」という評価項目では、Amazon.comは第7位なのです。つまり、分かりやすく言えば、インターネット上にはAmazon.comよりコストパフォーマンスのよいオンライン書店が6つもあるということを意味しています。

 それでも、Amazon.comが、総合順位で1位にランキングされているのは、価格以外の評価項目(ウェブサイトの使いやすさ、顧客からみた信頼性、ウェブサイトにおける情報や機能の充実度、顧客サービス)の評価が高いからなのです。

 つまり、買い手は、たとえ同じ商品であっても一番安いサイトで買うわけではなく、そのサイトの信頼性や顧客サービス、デリバリーの確かさなどを総合評価してサイトを選んでいるではないでしょうか。

 ネット小売のサイトが乱立していたネットバブルの時代、多くの識者が、「ネット上の市場では買い手がより低価格で販売している店に簡単に移動してしまうために、商品のネット上の価格は収斂することになるだろう」という説を支持しました。しかし、実際はそうではなかったのです。何人もの研究者が、ネット上で販売されている書籍、音楽CD、ビタミン剤、パソコン、航空券などの価格を調べた結果、ネット上においても現実の市場と同じように(品目によっては現実の市場より大きく)価格がばらついていることを確認しています。

 ネット上でも価格のばらつきがある理由については、様々な説があります。「情報の探索コストはゼロになっていないため、情報の非対称性は完全に解消されていない」とか、「厳密な意味で同質財でないものを比較している」、「ネット小売のブランド効果」、「売り手によるプロモーション効果」などです。まだ定説はありませんし、まあ、企業経営者にとっては理由は重要ではないでしょう。

 重要なのは、ネット上の顧客は、一番価格が安いサイトで商品を購入するわけではないという事実です。価格は競争における一つの要素でしかないことを理解し、安売り競争に参加することなく、顧客の満足度を高める工夫を続けていくことが重要なのです。

 なんだ、そんなことは当たり前じゃないかと思われるかもしれません。しかし、インターネット上でビジネスをするのなら、トップがインターネットをよく理解する必要があります。インターネットは戦略でもなければ、ビジネスを成功させる魔法の杖ではありません。単なる道具です。しかし、戦国時代の戦術に大変革をもたらした鉄砲のような道具なのです。戦国武将はみんな、鉄砲が強力な武器であることを知っていました。しかし、鉄砲という道具の重要性を見抜き、それを大量に調達するために堺を攻略し、楽市楽座によって商工業を盛んにして財源をつくり、刀鍛冶を集めて鉄砲を作らせたのは織田信長だけでした。
 
 インターネットは戦国時代の鉄砲のような道具だと思います。インターネットで何ができるのか、それを企業として活かすためには何をすればよいのかを考えることが重要です。
 
【参考文献】
1) スザンナ・パットン:B2C eコマースに失敗しない方法教えます、CIO Magazine 2002年2月号、pp.80-87
 

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