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NY駐在員報告  「エレクトロニック・コマース(その3)」 1996年8月

 先月に引き続きエレクトロニック・コマースについて報告する。

連邦政府とEDI

 情報スーパーハイウェイ構想を推進するクリントン政権は、EDIを連邦政府にとって重要なアプリケーションと位置づけ、各種の政策イニシアティブを通じて積極的な導入を進めている。連邦政府機関は、大小合わせて数百にのぼり、政府納入業者数も30万社を超えると言われている。これらがEDI化されれば、規模も最大級になると同時に、その効果も巨大なものになると想像される。

 最初の動きは93年10月26日にクリントン大統領が出した行政命令である。これによれば、97年1月1日までにすべての連邦政府機関はEDIを導入しなければならない。ちょっと誤解を生む可能性があるので、もう少しきちんと説明しておこう。これは、すべての調達をEDI化するというものでもなければ、EDIを利用しないと政府調達に参加できなくなるという話ではない。この期日までに一部の調達でも、EDI化されればよいのである。

 連邦政府内には、この行政命令を受けてOMB (Office of Management & Budget) のOffice of Federal Procurement Policy を中心にPAT (Process Action Team) が設けられた。現在、このPATで策定されたEDI導入プランをベースに、各政府機関のEDI化が進められている。95年11月段階で、何らかの形でEDIを利用している機関の数は、279(うち国防省関係が214機関)となっている。
 さらに95年に可決された「1995年連邦調達合理化法(Federal Acquisition Streamlining Act of 1995)」は、2004年までに連邦政府機関の調達の95%をEDI化するように定めている。

 こうした連邦政府のEDI推進計画は、単に政府調達プロセスのEDI化だけを進めるものではなく、政府調達に関する情報の入手、入札窓口の一本化を進めると同時に、中小企業及びマイノリティや女性が経営する企業に対して政府調達受注の機会を増大することを目標にしている。

 情報スーパーハイウェイ構築に向けて、ホワイトハウスがいち早くWebサーバを立ち上げたように、エレクロトニック・コマースの推進においても連邦政府は自らの商取引の電子化を率先して進めているのである。

EDIの課題

 先月取り上げたX12標準とEDIFACTの大問題を別にしても、米国のEDIが抱えている課題はいくつかある。ここでは5つの課題を取り上げる。

 まずEDIの普及の問題である。米国には中小企業も含め、約600万社の企業がありながら、EDIシステムを利用している企業はわずか5〜10万社しかない(連邦政府の資料では約5万社であり、雑誌・新聞では8〜10万社となっている)。600万社の約4分の3は従業員が10人未満の零細な企業であることを考慮しても、EDIの普及率はまだ低いと言わざるを得ない。ただこの問題は、パソコンベースのEDIシステムのコストが5000ドル程度になっていることや、VAN料金の値下げ、インターネットの普及(これについては後述する)によって徐々に解決されていくだろう。

 第2の問題は、先月のレポートでも書いたが、EDIの利用形態の問題である。電子化された情報をネットワークを通じて交換し、そのままコンピュータで処理してこそ、EDIの真価が発揮される。しかし、EDIを利用している企業のうち、computer to computerで利用している企業(つまり、社内アプリケーションソフトとEDIソフトをマッピングツールと呼ばれるソフトで接続している企業)は決して多くない。少しデータが古いが、95年1月のEDI NEWSに掲載されたEDIグループ社の調査によれば、パソコンベースのEDI利用企業ではわずか29%、ミニコンやワークステーションを利用しているユーザで43%、汎用機ユーザで68%である。この他の企業は、EDIで受け取ったデータを一度紙にプリントして処理していることになる。つまりEDIを利用しているとは言うものの、その利用はFAXと変わらないものになっている。これでは本当にEDIシステムを利用しているとは言えない。

 第3の課題はバッチ処理からリアルタイム処理への移行である。現在のほとんどのEDIシステムはバッチ処理である。つまりEDIメッセージを蓄積しておいて、ある時間になるとまとめて送信する方式である。VANの料金が夜間は安いことから、多くの企業は1日1回、夜にまとめて送信する方式を採用しているという。ジャスト・イン・タイム方式を採用しているメーカーですら、1日、3〜4回の通信を行えば十分だとされてきた。しかし、最近のEDIアプリケーションの中には、もっとリアルタイム性を要求されるものが増えている。もちろん、現在でもリアルタイム処理を行っているEDIシステムは存在する。典型的なEDIシステムではないが、旅行代理店と航空会社、レンタカー会社などを結ぶオンラインシステムは、即時処理を行っている。新しいアプリケーションの例としては、病院と保険会社を結ぶEDIシステムが挙げられる。緊急の治療を要する患者の保険加入情報を得るために、半日を要するようでは役に立たない。X12委員会でもリアルタイムEDIのための標準の検討が始まっている。

 第4の課題はメインフレームから分散型コンピューティングへの移行である。すべての情報を大型汎用機で処理していた時代のEDIシステムと、クライアント・サーバー時代のEDIシステムは自ずと異なったものになる。コンピュータシステムが社内に分散化したことによって、個々のコンピュータや部門が使用している様々なアプリケーションのデータを必要に応じてEDIフォーマットに変換し送り出し、受け取ったEDIデータは必要な部門やそのコンピュータに分配しなければならない。また、こうした整合性のとれたシステムの構築と同時に、適正な監査と管理のための体制を整えることも重要な課題になっている。

 第5の課題は、オープンなEDIの実現である。現在のほとんどすべてのEDIシステムは、頻繁に取引を行う企業間で利用されている。取引実績のない企業同士が1回限りのビジネスのために、EDIを利用することは、おそらく皆無だろう。オープンEDIを実現するためには、取引ルールやプロセスの標準と、これを実現できる物理的ネットワークが必要になる。では、この問題をもう少し詳しく見てみよう。

EDIの法的側面

 電子的に取引情報を交換するEDIでは、従来の紙をベースにした取引を前提にした法体系ではカバーしきれない問題が発生する。たとえば、商取引の基本ルールは、「当事者双方がお互いに対して一定の義務を果たすことに同意する」という同意の原則(principle of consent)である。物品の購入の場合には、売買契約の書類に双方がサインして、一方が当該物品の納入を、もう一方が代金の支払いを約束するのである。しかし、EDIシステムでは交換される電子情報にこれまで通りの方法でサインをすることは不可能である。そこでEDIの場合には、TPA(Trading Partner Agreement)と呼ばれる契約を結び、EDIシステムによって商取引を行うことに同意していることを法的に確認するのである。 このTPAには、EDIシステムの運用に関する具体的な取り決めが含まれている。つまり、双方の責任範囲や監査・管理基準などである。たとえば、どの種類のメッセージが交換された時に取引が成立したと見なすのか。事前出荷通知は代金支払い請求の意味を持つのかどうか。通信トラブルがあって損害が発生した場合の責任の所在は誰にあるのか。あるいは当事者の一方が、後になって特定のメッセージを受け取った覚えがないと主張した場合(これを「メッセージの受け取り否認問題」という)、通信記録によって真偽を確かめる必要があるが、このための通信記録を保存する監査システムをどのように整備するかなどである。

 TPAをゼロから作成するには、非常に多くの労力と時間を必要とする。それは、EDI取引に関して定めるべき約束事の多くが、既存の法律ではまったく触れられていないものであるため、詳細に定義するとともに、双方の理解を完全に一致させておかなければいけないからである。こうしたTPAの作成負担を軽減するために、産業界や法曹界で標準的なTPAを作成したり、TPAの標準化の試みが進んでいる。例えば、American Bar Association(アメリカ法曹協会)では脚注付きのモデルTPAを希望者に提供している。ユタ州、カリフォルニア州、フロリダ州などの一部州議会でもこうした動きがあるし、UNCITRAL(国連国際通商法委員会)でも、モデルEDI通商法がつくられている。

 こうした活動の終着点は、特別なTPAを結ぶこともなく、誰もがEDI取引を始めることができる法的環境をつくることにあるように思える。もちろん、これにはまだ相応の時間が必要とされるだろうが、ビジネスのプロセスを標準化し、その法的意味や責任分担を明確にすれば、事前にTPAを結ぶ必要がなくなる。TPAの標準化は、オープンEDI実現の一つの条件なのである。

文法と意味

 これまで話を避けてきたのだが、EDIの標準化は、シンタックスの標準化と標準メッセージの開発に区分できる。つまり、文法の標準化とメッセージの中身の標準化である。

 商取引のために取り交わされる情報には様々なものがある。たとえば、Request for quote(見積もり要求)、Purchase order(注文)、Invoice(送り状)などは容易に想像できるが、この他に、製品カタログ、カタログの更新情報、生産計画、在庫情報問い合わせ、その回答、出荷状況の問い合わせ、納品確認など種々の情報が交換される。これらをメッセージと呼ぶ。

 一つのメッセージの中には、いくつもの情報が含まれている。たとえば、見積もり要求には、要求側の会社名や連絡先、製品名、製品コード、数量、納入期限などのデータが含まれているだろう。これらのデータエレメントの並べ方のルールが「シンタックスルール」と呼ばれるものである。ちなみに、ANS X12標準もEDIFACTも見た目はよく似ていて、これらのデータエレメントとデータエレメントは決められた英記号で区切られており、ところどころにセグメントの区切りを示すHeader、Trailerと呼ばれる文字列が並んでいる。プリンタでそのまま打ち出しても、なんとなく内容が分かるような形式で、テレックス文化をそのまま引き継いでいることがよく分かる(この観点からすれば、日本で開発されたCIIシンタックスルールは、よりコンピュータの処理に適した形をしている)。

 さて、EDIの文法が標準化されても、それだけでは商取引を電子化することはできない。それぞれのメッセージの構成エレメントを決めなければならない。データエレメントには必須のものと、必要がない場合には省略できるものとがある。また、そのデータエレメントの意味についても明確にしておく必要がある。これらの作業をメッセージ開発と呼んでいる。

 ちょうど、我々が使っている言語に似ているかも知れない。文法があって、単語に意味があって、文法にしたがって単語を並べてメッセージをつくれば、人から人に情報を伝えることができる。異なる点は、EDIメッセージはコンピュータが処理するため、文法には曖昧な点はないし、あらかじめ決められたメッセージ以外は認められないので、自然言語のような無限の多様性はないことである。
 とすれば、コンピュータを使って、あるEDI標準のメッセージを対応する別のEDI標準のメッセージに自動的に変換することは、そう難しくないのではないかと推測される。事実、異なるEDI標準間でのメッセージの機械翻訳は、自然言語の機械翻訳に比べれば、格段に容易である。
 ここにEDI標準の抱える問題を解く鍵があると考えている専門家は少なくない。つまり、利用されているEDI標準が数百もあれば、相互にメッセージを機械翻訳するのは大変なことであるが、片手で数えられるくらいなら、実現は難しくない。

 先月のレポートで報告したように、米国の産業界では、ANSI X12標準とEDIFACTが平行して利用される状況が、かなり長期間続くと見られている。しかし、コンピュータによって瞬時にEDIメッセージが一方の標準からもう一方に変換できるのであれば、無理に統一を目指さなくてもよいのではないかという意見もでてくるだろう。

BSRプロジェクト

 前項で述べたように、ANSI X12標準とEDIFACTのシンタックスルールは、極めてよく似ている。ところが、いざ一方のメッセージを翻訳しようとすると、データエレメントの意味やメッセージの位置付けが異なっているために、翻訳が不可能であることが分かってきた。つまり、異なるEDI標準間の問題(ANSI X12からEDIFACTへの移行問題でもある)は、シンタックスルールにあるのではなく、商取引の流れの中における各メッセージ及びそれを構成するデータエレメントの意味の相違にあることが判明したのである。

 このギャップを埋めようという努力の一つが、BSR (Basic Semantic Repository) プロジェクトである。BSRプロジェクトは、ISOとUN/ECEが共同で始めたプロジェクトで、93年から事前検討が始まり、95年1月にBSR Management committeeが正式に発足している。目的は、異なるEDI標準間のデータエレメント、メッセージの相互関係を明確にし、標準間の相互参照、移行をサポートすることである。BSRは、EDI環境における各データエレメントの概念を明確にしたBSU (Basic Semantic Units) と呼ばれるものと、それぞれを既存のEDI標準のデータエレメントとリンクさせるBridgeからなる。既存のEDI標準として、当面はANSI X12とEDIFACTが取り上げられている。現在、Purchase order、Invoice、Dispatch adviceなどのいくつかのメッセージが取り上げられて、作業が進んでいる。96年中に7つ程度のメッセージについて、ANSI X12標準とEDIFACTについてBSUとBridgeが完成する予定である。多国語化も検討されているが、英語、仏語、独語が対象であり、現状では日本語は含まれていない。なお、このBSRは完成した段階で国際標準にすることが予定されている。

 こうした取り組みによって、EDIのシンタックスルールの違いは大きな問題ではなくなっていくだろう。とすると、残るのは商取引プロセスとメッセージの標準化である。これは商慣習の問題でもある。商慣習は業界によって、地域や国によって異なっている。おそらく、BSRの先にあるのは、こうした部分の標準化に違いない。

インターネットとEDI

 TPAが標準化され、EDI取引のビジネスプロセス、メッセージが標準化されれば、取引実績のない企業間での1回限りのビジネスもEDIで処理できる制度的な環境が整う。残るのはそれを実現できるネットワークがあればよい。そこで注目されているのが、インターネットである。

 もちろん従来のVAN事業者を利用する手段がないわけではない。EDIを利用している企業の多くは、既にVAN事業者を利用しているのだから、VAN事業者同士が接続されていれば、異なるVAN事業者を利用している企業間でEDIメッセージを交換することは可能である。実際に、VAN事業者間を接続している例もある。しかし、現状では、複数のVANにまたがる通信の質が良くないことと、各VAN事業者がVAN間通信についての責任を明確にしていないことから、利用者からメッセージが届かない、時間がかかるといった苦情が相次いでいるという。

 インターネットにも同じような問題はある。インターネットでも送られたメッセージが正確に相手に届くという保証はないし、インターネットにはVAN事業者のように、極めて高い信頼性を保証する機関が存在しない。日常の電子メールをやり取りしている程度では、問題になるような事故にあう可能性は小さいが、商取引ではそのわずかな可能性が多大な損害をもたらす可能性がある。
 こうした信頼性の問題は、メッセージ交換を冗長にして、情報が正しく届いたかどうかを確認することによってかなりの程度解決できる。

 多くの専門家が指摘するインターネットの問題の一つに、セキュリティ問題がある。インターネットはネットワークのネットワークであるため、盗聴、メッセージの改竄などの恐れがある。しかし、この点は暗号技術の利用によって解決できる。つまり、適切な方法でメッセージを暗号化し、電子署名を付ければ、第三者にメッセージを読まれることもないし、改竄の心配も、なりすましの問題もなくなる。多くのインターネットEDI関係のソフトメーカーは、セキュリティ問題については解決済みであると述べている。

 3番目の問題は、VAN事業者が提供していた各種サービスを内製化する必要があることである。VANサービスを利用すると、監査のための通信記録保存や通信状況のロギング、過去のメッセージの保管などのサービスを受けられる。インターネットを利用する場合には、こうした機能を自らのシステムに組み込まなければならない。ただ、後述するように、インターネットをEDIの媒体として利用する場合、トレーディング・パートナーと直接メッセージをインターネット経由で交換するのではなく、間に第三者を介在させるという方法もある。この場合、この第三者が、監査のための通信記録保存や通信状況のロギングなどのサービスを提供することになり、この問題はなくなる。

 一方、インターネットにはVANサービスと比較して優れた点がいくつもある。まず、コストが極めて安い。多くのISP (Internet Service Provider) は、回線の太さ(回線が許容する最大の通信速度)に応じた一律料金制を採用している。56kbpsのフレームリレー回線で月400〜600ドル程度、T- 1回線(1.54Mbps)で月1000〜3000ドル程度である。一方、VAN事業者の場合は一般に料金体系を公表しておらず、また料金体系が、月極め最低料金、通信件数に応じた料金、送信データ量に応じた料金、時間帯別料金などの組合せであるため比較が難しいが、例えばTI(テキサス・インスツルメント)社の場合、1日に約600件を処理し、40以上のVAN事業者を利用しているが、合計で年間数十万ドルを支払っていると言われている。TI社がネットワークをVAN事業者からインターネットに切り替えることができれば(実際にはトレード・パートナーとの関係があるので簡単に実現できる話ではないが)、現在支払っている数十万ドルのほとんどを節約できることになる。

 第2の利点は、回線の速度である。多くのVAN事業者は最高56kbpsまでサポートしていることになっているが、一般的な回線速度は9.6kbpsである。これに対して、インターネットの場合は、中小のISPですらT-1回線(1.54Mbps)を、大手ならT-3回線(45Mbps)をサポートしている。

 第3の利点は、どのVAN事業者よりインターネットの利用企業が多いことである。Network Wizards社の調査によれば、96年7月現在で、インターネットに直接接続されているコンピュータ数は1288万台に達している(96年1月が947.2万台なので、この半年で約36%増加したことになる。年率に換算すると84.6%となり、従来に比べて若干成長率は落ちている)。VANと異なり、インターネットの場合は、どのISPを選んでも異なるISPを利用している企業との通信が可能である。

 第4の利点は、EDIサービスを提供しているVAN事業者の多くは、EDIサービスしか利用できないが(Network MCIは電子メールサービスも利用可能)、インターネットは電子メールはもちろん、情報検索や情報提供にも利用できることである。

インターネットEDIとWebEDI

 では、実際にインターネットはEDIの媒体となりうるのであろうか。少なくとも大手のEDI関係ソフトメーカーの答えはYESである。Premenos社は94年末にインターネット上でのEDIの実験を開始すると発表し、ルータのトップメーカーであるCisco Systems社、Avex Electronics社、ナショナル・セミコンダクター社の協力を得て、95年から実験を開始した。しかし、当時のマスコミの報道を見る限り、この時点では多くのVAN業者はほとんど興味を示していないばかりか、インターネットをライバルだとも考えていない。コメントを求められた専門家も、インターネット上でのEDIは可能性があるが、現在のEDIにとって代わるものではなく、アドホックな商取引に利用されるのではないかと述べている。シリコンバレーのコマースネット公社も早くからインターネットEDIに取り組んでいる。このEDI Task Forceには、大手のコンピュータメーカー、インターネット関係企業、EDI関係企業が参加しているのだが、不思議なことにマスコミにはあまり登場しない。

 ところが、それから1年間で状況は大きく変化した。95年から96年にかけて、業界大手のGEIS (General Electric Information System)社など、いくつかのVAN業者がEDIサービスのメニューの中にインターネットを追加すると発表したのである。これは、単に通信経路としてインターネットを利用し、EDIメッセージ用のメールボックスは従来同様にVAN事業者が管理する形態であるが、本格的なインターネットEDI時代の始まりだと受けとめられたのである。

 さらにGEIS社は96年4月、インターネットEDI実現のためにネットスケープ社と共同でActra Business Systems社を立ち上げた。暗号技術を用いることによって、安全にインターネット上でEDI取引ができるアプリケーションソフトの開発が目的である。

 96年6月5日には、DEC社がインターネットEDI用のソフトウェアを発表した。これは電子メールを利用したもので、EDIメッセージを電子メールの中に入れて送れるようにMIME (Multipurpose Internet Mail Extensions) を修正したRFC1767に準拠した製品である。

 そして次に登場したのがWebを利用したインターネットEDIである。96年6月13日にはGEIS社は「GE TradeWeb」というインターネットEDIサービスを開始すると発表した。このGE TradeWebは名前のとおりWebサーバーを利用してEDIメッセージを交換するサービスである。GEIS社は、Fortune 2000クラスのEDI利用企業とその取引先が商取引をするのに適しており、これまでEDIシステムを使ってこなかった190万社の中小企業がターゲットであると説明している。このシステムはセキュリティ確保のためにSSL (Secure Socket Layer) を採用している。実はこの1週間前、EDI関係ソフトメーカーであり、大手のVAN事業者であるHarbinger社もWebを介してEDIを可能にするサービスを97年の第1四半期から開始すると発表している。GEIS社の発表は1週間遅かったが、サービスの開始は96年7月31日から始まっている。

 一方、95年からインターネットEDIの実験を行っていたPremenos社は96年7月22日、インターネットを利用してEDIを行うためのソフトウェア「Templar 2.0」を発表した。95年に発表されたTemplarの最初のバージョンは、EDIメッセージを電子メールとして扱うソフトウェアであった。つまりデータの転送にSMTP (Simple Mail Transfer Protocol) を用いていた。ところが、EDIのメッセージはかなり長くなることがあり、SMTPは適していないことが分かり、このバージョン2.0はHTTP (HyperText Transfer Protocol) を利用している。クライアント側のソフトが449ドル、サーバー側はトレードパートナーが20以内の場合は6990ドル、20以上の場合は19,990ドルである。ソフトが動いているところを見たことがないが、これもまたWebを利用したインターネットEDIに違いない。

 そうそう、忘れてはいけない。ソフト業界の巨人、マイクロソフト社も遅ればせながら、96年6月28日、インターネット上でEDIを可能とするソフトウェアツールを提供するWWShipNetという名のサイトを、Net Logistics社と共同で立ち上げたと発表している。

インターネットEDIの未来

 さて、インターネットEDIは普及するのだろうか。今や、インターネットEDIは成功すると考える専門家は多い。しかし、それが従来のVAN業者がサービスしてきたEDIサービスを置き換えるものになるのか、既存のEDIを補完する存在になるのか意見は分かれている。

 少なくともWebEDIは、インターネットのブラウザさえあれば利用できるので、従来のEDIシステムの利用をためらってきた中小企業にとっては、コスト的に導入が容易だといえる。しかし、Webから入力されたデータをコンピュータでそのまま処理できるサーバー側のユーザのメリットは大きいが、クライアント側のEDI導入メリットはさほど大きくないだろう。クライアント側もコンピュータから直接データを送るような仕組みが必要になるのではないだろうか(もう開発されているかもしれない)。

 他にもいくつか気になる点は残されている。一つはメッセージが確実に届くという保証を誰もできないことである。もっとも、VAN事業者にしても100%の確実性があるわけではないし、運用で信頼性の問題を解決する方法はあるだろう。TPA上でもこの点は考慮しておく必要があるだろう。

 第2点は、インターネットを利用すれば、通信回線コストは安くなるが、EDIシステムを運用するコストに占める通信回線コストの割合は10〜15%にすぎないと言われており、歌い文句ほどにはコスト削減効果はないのではないかという指摘である。

 第3点は、インターネットEDIの標準に関する問題である。現在は各社が独自にソフトを開発しているが、これがインターオペラビリティを阻害する恐れがある。ちなみに、インターネットEDIの標準化については、インターネットの標準を議論しているIETF (Internet Engineering Task Force) で取り上げられている。既に、電子メールを利用する場合は、どのようにANSI X12標準やEDIFACTのメッセージを電子メールの封筒に入れるのかが、RFC1767によって決められている。現在は、さらにセキュリティが高く、本人認証やメッセージの受け取り否認問題も考慮した標準が、EDIを担当するワーキンググループ "Electronic Data Interchange-Internet Integration (ediint)" において議論されている。

 こうした問題はあるものの、インターネットEDIは間違いなく普及していくに違いない。専門家の中には、EDIこそが情報システム本流にとってインターネットのキラーアプリケーションになるのだという声もある。また、Electronic Commerce Strategies社の社長Jack Shawは、5年以内にほとんどのEDIメッセージはインターネットを経由するようになるだろうと予言している。

 Business Research Group社の最近の調査によれば、調査対象の301社中9%の企業が、何らかの形でインターネットを利用してEDI取引を行っているという(この数字はあまりに大きくて、鵜呑みにはできない)。別の調査会社、Forrester Research社の調査によれば、EDIのヘビーユーザ30社のうち20社は、真剣にインターネットEDIの利用を検討している。

 具体的な例を挙げれば、Premenos社のサポートによってインターネットEDIのテストを行ってきたAvex社は、2年以内にトレードパートナー約80社との取引をインターネットEDIで処理する計画を進めている。これによって、年間15,000ドルが節約できるという。

 こうしたソフト業界、VAN事業者の動きや調査会社の報告などを見ていると、インターネットEDIの普及は思ったより急テンポで進むのかもしれない。

残された小切手

 96年7月5日付けのニューヨークタイムズ紙によれば、米国では1年間に約180億の請求書が発行されているが、このほとんどが印刷され、封筒に詰められて郵送されている。請求書を受け取った側は、小切手を書き、封筒に詰めて送り返すのが普通である。その小切手は、まとめて銀行に持ち込まれて口座に入金され、処理済みの小切手は銀行の残高照会と一緒に毎月1回、小切手の振り出し人に送り返される。普通の家庭の電気代や電話代、ケーブルTVの利用料の支払いやクレジットカードの月1回の支払いもこの手順である。

 FRB (Federal Reserve Board) の調べによれば、個人や法人の支払いの95%以上は小切手を利用しているという。小切手そのものの決済処理はかなりの部分まで自動化されている。しかし、小切手を作成し、封筒に詰めて送る手間や、開封して小切手を取り出し銀行持っていく手間まで自動化されているわけではない。これもEDI化されれば、手順をかなり簡素化できる。

 このレポートではFinancial EDIについて触れなかったが、こうした現実を考えると、米国のEDIは日本より進んでいるのかどうか怪しくなる。ある面では進み、ある面では遅れているのかもしれない。


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