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「本の福袋」番外編その2 『コーポレートベンチャリング新時代』 2013年12月

 2013年6月に閣議決定された「新たな成長戦略 ~『日本再興戦略-JAPAN is BACK-』~」には、「産業の新陳代謝を促すことで、開業率が廃業率を上回る状態にし、開業率・廃業率が米国・英国レベル(10%台)になることを目指す」と書かれている。日本の開業率、廃業率は、2004年~2009年の平均値で、ともに4.5%程度であることを考えると、この目標はかなり高い。
 政府は、この目標達成のために、インターネット上で不特定多数の投資家から資金を幅広く集める「クラウドファンディング」の導入策を検討するほか、ベンチャー企業が倒産しても経営者個人の財産が全額没収されないような銀行融資の指針策定や、起業から経営ノウハウまでをワンストップで支援する体制構築を進めるとしている。
 しかし、こうした取組みで開業率を10%にまで高めることは可能なのだろうか。
 
 日本の開業率の低さはずいぶん昔から指摘されており、これまでも様々な取組みがなされてきた。1997年の税制改正ではベンチャー企業に出資する投資家(エンジェル)の投資を促進するため、さまざまな面で税制上の優遇措置が受けられるエンジェル税制が設けられた。
 また、2001年5月には経済産業省から「大学発ベンチャー1000社計画」が発表され、多くの大学でビジネスプラン・コンテストやインキュベータが創設された。
 さらに2003年2月には、資本金が1円でも株式会社を設立できる「最低資本金規制特例制度」が始まり、2006年5月に施行された会社法によって資本金規制は完全撤廃された。
 しかし、残念なことに開業率が飛躍的に高まったという話は聞かない。日本の開業率が米国等に較べて低いのは、こうした制度だけの問題ではないからだろう。挑戦よりも安定を、ハイリスク・ハイリターンよりローリスク・ローリターンを好む国民性も影響しているに違いない。
 
 今回取り上げた『コーポレートベンチャリング新時代』を読むと、もう一つ米国と大きな違いがあることに気付く。それは大手ICT企業の姿勢と行動である。日本の大手ICT企業はベンチャー企業に対して冷たい。ほとんど投資もしなければ、戦略的提携もしないし、買収もしない。これに対して米国の大手ICT企業は、積極的にベンチャー企業に投資し、戦略的アライアンスを行い、イノベーションを取り込むためにM&Aを行っている。これが「コーポレートベンチャリング」である。
 ちなみに、本書に紹介されている米国ベンチャー企業のIPO(新規株式公開)と大企業によるベンチャー企業の買収(M&A)の推移をみると、IPOよりM&Aの方が10倍以上多いことが分かる。つまり、IPOするベンチャー企業より、大企業等に買収されるベンチャー企業の方が圧倒的に多いのである。米国では創業者やベンチャー・キャピタル(VC)にとってM&Aはイグジット(EXIT)の重要な選択肢となっていることが分かる。
 
 コーポレートベンチャリングの背景にあるのは「オープンイノベーション」である。自社がもつ技術やノウハウ、技術だけでなく、外部にある技術等を取り込んでイノベーションを起こそうというオープンイノベーションの考え方は、数年前から日本でも話題になっているが、その多くは他業種との共同研究や産学連携の枠の中の議論になっている。実は、オープンイノベーションで最も重要なのはベンチャー企業への投資、ベンチャー企業との戦略的アライアンス、ベンチャー企業を対象としたM&Aであることが忘れられている。
 コーポレートベンチャリングこそがオープンイノベーションの正道だと言ってよいだろう。まさに、大手企業が新たな成長を手に入れるための戦略の中心にあるべきものがコーポレートベンチャリングである。
 また同時に、コーポレートベンチャリングは、開業率を高める切り札にもなるのではないだろうか。
 
 この本は、大手企業の経営者や戦略立案に携わっている人、ベンチャー企業の経営者やVCなどの関係者に是非読んでいただきたい一冊である。
 
 【今回取り上げた本】
湯川 抗『コーポレートベンチャリング新時代 本格化するベンチャー時代と大手ICT企業の成長戦略』白桃書房、2013年11月、2800円

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