米国のイントラネット事情 (1996年4月 Doors)
米国の大企業ではイントラネットの利用は珍しいものではなくなっている。O'Reilly & Associates社の調査(96年1月実施)によれば、北米の大企業の37%が社内用のWebサイトを保有している。また、データクエスト社のRich Spenceは、96年末までにフォーチュン誌の主要1000社すべてがイントラネットを利用することになるだろうと述べている。この予想はかなり大胆だが、そう遠くない将来には、それに近い状況になるだろう。
ネットスケープ社は、出荷されたWebサーバー用のソフトのうち70%は社内用に用いられていると推計しており、同社のBen Horowitzは、現在、世界中に24万台あるWebサーバーの3分の2は社内用に利用されており、2000年には社内用サーバーの数は、インターネット用のサーバーの10倍になるだろうと述べている。また、Zone Research社は、95年のWebサーバー市場は、インターネット用が6億2200万ドルで、イントラネット用の4億7600万ドルよりやや大きいが、98年にはこれが逆転し、イントラネット用が78億ドルとインターネット用(19億ドル)の4倍以上になると予測している。
いくつか実例をみてみよう。フェデラル・エクスプレス社は社内用に約60のWebサーバーを利用している。この多くは、社員が社員のために構築したものである。世界中にいる約3万人の従業員は、メンフィスにある本社のWebサーバーにアクセス可能になっている。もちろん、本社のネットワークは部外者のアクセスから社内情報を守るため、ファイアウォールによって守られている。
ロッキード・マーチン社は17万人の社員を結ぶイントラネットを構築する計画を進めているが、すでに約180のWebサーバーを設置し、社員用に延べ42,500ページの情報を提供している。
VISAインターナショナル社は2500人の社員がネットスケープ・ナビゲーターを利用して"VISA Info"と呼ばれるイントラネットを活用している。このシステムにはVISA社が提携する19,000の金融機関の情報が登録されており、96年夏には提携金融機関からのアクセスも受け付ける予定になっている。このシステムによって、金融機関とVISA社の間でやり取りされている疑わしいクレジットカード利用の照会などが電子化され、書類を大幅に減らすことが目標である。
薬品メーカーのEli Lilly社では、26,000人の社員のうち16,000人がイントラネットを利用しており、既存のデータベースもWebサーバーを介して検索できるようにする計画が進んでいる。
MCI社では12,000人の情報技術者がWebサーバーを用いて、ソフトウェアのコードを共有し、イントラネットを共同作業のツールとして利用している。
コンサルティング会社であるBooz-Allen社のアナリストたちは、社内で作成したレポートをWebサーバーに蓄積して共有している。これは、新規のレポートを作成する際にも、過去のレポートは非常に有用だからだ。
この他、リーバイス社、フォード社、シリコン・グラフィック社、AT&T社、Lotus Notesのユーザであるメリルリンチ社、ロータス社を買収したIBM社でもイントラネットの利用が進んでいる。
米国でイントラネットが注目を浴びている背景には、リエンジニアリングの波が押し寄せているという事情がある。つまり、企業経営・組織の合理化のためには、指揮命令系統のピラミッドを解体し、組織の多層構造をカットし、より多くの権限と責任を有する管理者が、より少数の上下関係の中で、迅速に経営判断を下せるようにしなければならない。そのためには、組織の知識・情報を共有し、チーム内のコミュニケーションを円滑にする必要がある。組織内の情報化・電子化の徹底によって、これまでの縦割り組織に存在していた情報の壁を崩し、情報の共有化によって個人の判断能力を高め、チームワークを強化することによって、柔軟で機動的な組織を創ることができると考えられているのである。つまり、情報の共有とコミニケーションの円滑化は、米国で進展しつつある経営革命の鍵を握る重要なパーツであり、その道具がイントラネットなのである。
(おわり)