NY駐在員報告 「HPCC計画(その3)」 1994年9月
今月も引続きHPCC (High Performance Computing and Communications)計画の状況について報告する。先月の続きになるが、いくつかの主要なプログラムの進捗をみた上で、全体を振り返ってみた い。
グランド・チャレンジ・アプリケーション・グループ(NSF)
HPCC計画の中には「グランド・チャレンジ」と呼ばれる課題がいくつか例示としてあげられている。これらはHPCC 計画のもとで開発されるシステムによって解決される(あるいはより効率的に解を得る)ことが期待されている高性能計算が必要な課題である。
例えば、大気、海洋を含む地球規模の気象シミュレーションであるとか、特定の機能性蛋白質、酵素等のコンピュータによ る設計である。
この「グランド・チャレンジ・アプリケーション・グループ」と呼ばれるプログラムでは、こうした課題に挑戦する領域を 超えた研究者、科学者の研究活動をサポートしている。
これは、例を示した方が分かりやすいだろう(専門家でないので内容はよく分からないが、なんとなく分かった気にはな る)。
(1) ブラックホール連星の合体と重力放射(テキサス大学)
(2) 地震による構造盆地の地殻変動のシミュレーション(カーネギーメロン大学)
(3) 材料設計のための原子レベルでのシミュレーション(カリフォルニア工科大学)
(4) 有生分子のモデリングと構造決定(イリノイ大学)
(5) 銀河群の形成とその巨視的な構造(プリンストン大学)
このプログラムのための予算は、94年度(見込)で775万ドル、95年度要求額は1075万ドルである。
ソフトウェア・システムとアルゴリズム(NSF)
このプログラムは並列計算機のためのアルゴリズムとソフトウェアの研究を対象としている。並列言語、最適化コンパイ ラ、並列オペレーティングシステム、性能評価および性能予測、並列アルゴリズムとデータ構造といったものが含まれる。特徴は極めて基礎的な研究に重点が置 かれていることにある。例えば、計算の理論、コンピュータシステムやオペレーティングシステムに対する理論的な研究、ソフトウェア工学のような分野である が、こうした研究がこのHPCC計画に含まれている理由は、この分野の基礎的な研究の成果、たとえば、新しいアルゴリズムの発見が、飛躍的な進歩をもたら すからである。
また、このプログラムには計算科学の分野の研究者のためのpost-doctoral fellowshipも含まれている。
このプログラムのための予算は、94年度(見込)で2346万ドル、95年度要求額は2535万ドルである。
マン・マシン・インターフェースと情報アクセス(NSF)
このプログラムは次の4つの分野の研究を含んでいる。
(1) 科学的データベース:次世代の情報システムに向けたより使いやすいデータベースの研究
(2) 言語技術:会話の理解、音声の入力方法、翻訳支援システム等の研究
(3) 仮想環境/共同作業技術:遠隔地にいてもコンピュータネットワークを通じて同じリソースを共有して共同作業が可能となるようなツール、技術の研究
(4) 知識ベースシステム:知識集約的な分野における意思決定、問題解決のためのエキスパートシステムの研究
このプログラムのための予算は、94年度(見込)で1040万ドル、95年度要求額は1100万ドルである。
教育と訓練(NSF)
このプログラムにはHPCC分野を対象した既存の教育・訓練プログラムとHPCC計画に併せて開始した新規のプログラ ムが含まれている。例えば、ARPAとの協力で行われている、MOS型の半導体(超LSI)を対象とした「MOSIS」と呼ばれるプログラムは、HPCC 計画以前から実施されているが、現在はHPCC計画のこのプログラム内に組み込まれている。ついでながら、このMOSISは、大学や研究所に標準化された 超LSIの設計ツールを提供し、学生や研究者が作成した設計をカスタムLSIの製造能力をもつ企業等に取り次ぐブローカー組織を作ることによって、47の 州の175の大学の約5000人の学生に実際に超LSIの設計と試作の機会を与えている。
この他このプログラムでは、博士過程を終了した研究者に計算科学やコンピュータシミュレーション技術を教育するプログ ラム、学部の学生に対してHPCC分野の教育・訓練を行うプログラム、ハイスクールの学生にスーパーコンピュータを使用する機会を与える「スーパークエス ト」と呼ばれるプログラムなどが含まれている。
このプログラムのための予算は、94年度(見込)で2004万ドル、95年度要求額は2024万ドルである。
最新のシステムの評価(DOE)
このプログラムは、大型のスーパーコンピュータ(並列型を含む)のテスト・評価を行うためにコンピュータを調達する資 金を補助するために設けられた。このプログラムの予算は、調達すべきスーパーコンピュータの選定費用、その調達費用、インターネットに接続する費用に充て られている。予算的限界から、可能であれば、この予算だけでコンピュータを調達するのではなく、他の予算とあわせて調達をするように指導している。
このプログラムで導入されたコンピュータとしては、カリフォルニア工科大学に納められた iPSC/860、ロスアラモス国立研究所のCM5、オークリッジ国立研究所のKSR-1とインテル社のParagonがある。なお、このParagon は当初512プロセッサーのタイプであるが、94年中には1024プロセッサーに、95年には2000プロセッサーに増強される予定である。
このプログラムのための予算は、94年度(見込)で980万ドル、95年度要求額は990万ドルと比較的小規模である。
ESnet(DOE)
ESnet (Energy Science Network ) は、NRENおよびインターネットの一部をなすネットワークであり、エネルギー研究を行う研究所等を結ぶ広域ネットワークである。現在、バックボーン回線 を45MbpsのT3回線にする作業中で、このアップグレードは95年度に終了し(当初は93年度中に終了する予定だった)、一部の回線(おそらく3ない し4カ所の研究所を結ぶ回線)は95年度中に更に高速な155Mbpsの回線へのアップグレードを開始する予定になっている(これも当初は94年度に開始 する予定だった)。
この予算にはネットワークを運営するために必要なすべての予算が含まれている。すなわち、回線を電話会社からリースす る費用、ネットワークを構成するために必要なルータ等のハードウェアの購入費用、メンテナンス費用、ネットワークを利用するために必要なツールを作成する ための人件費などである。
また、ESnet は海外とのリンクも保有しており、95年度にはドイツへの回線を1.5Mbpsに、イタリアへの回線も1.5Mbpsに、ロシアへの回線を128Kbps にアップグレードする予定にしている。
このESnet のための予算は、94年度(見込)で1460万ドル、95年度要求額は1480万ドルである。
スーパーコンピュータ・アクセス(DOE)
このプログラムは、NERSC(National Energy Research Supercomputer Center)における設備と人にかかる費用を賄うもので、このセンターは、約700のプロジェクトの4000人のユーザに解放されている(ユーザの内訳 は、約35%が大学関係者、60%が国立研究所、5%が民間企業である)。
現在、センターには4台のクレイ社のスーパーコンピュータが設置されている。16プロセッサーで256Mwordのメ モリをもったC-90、8プロセッサーで128MwordのメモリをもったCRAY-2、4プロセッサーで128MwordのメモリをもったCRAY- 2、シングル・プロセッサーのCray X-MPである。
研究の分野は極めて広範で(エネルギーと関係があればほとんど何でもよいように見える)、材料科学、化学、地球物理 学、バイオサイエンス、高エネルギー物理学、核物理学、応用数学、計算科学などの研究が行われている。
このNERSCのための予算は、94年度(見込)で3480万ドル、95年度要求額は3560万ドルである。
HPC リサーチセンター(DOE)
この予算は、オークリッジ国立研究所とロスアラモス国立研究所にある二つのHPCRCs (High Performance Computing Research Centers)の運営のために充てられている。
現在、オークリッジ国立研究所にはnCUBE 2 Model640とKSR1-64、Paragon XP/S5 (66ノードで5ギガflops)が設置されている。nCUBE 2 Model640は主に「アドベンチャー・イン・スーパーコンピューティング」(「アドベンチャー・イン・スーパーコンピューティング」はDOEが予算を もっている「教育、訓練とカリキュラム」というHPCC計画の中のプログラムで、ハイスクールの生徒及び教師にスーパーコンピュータを利用する機会を与え ようというもの)に利用されており、KSR1-64はメモリ共有型アルゴリズムの研究に使用されている。
一方、ロスアラモス国立研究所には1024のノードと32ギガバイトのメモリ、128ギガバイトのスケーラブル・ディ スク・アレイ、4つのHIPPIチャネルをもつシンキング・マシーン社の CM-5 が設置されている。このマシーンの理論性能値は、128ギガflopsであり、いくつかのプログラムで実行性能50ギガflopsを記録している。
95年度には、オークリッジ国立研究所に150ギガflopsクラスのコンピュータを導入するとともに、ロスアラモス 国立研究所のCM-5のメモリを32ギガバイトから128ギガバイトに拡張する計画になっている。
このHPCRSs のための予算は、94年度(見込)で1230万ドル、95年度要求額は1290万ドルである。
応用数理研究(DOE)
このプログラムの対象は、応用数理学、計算機科学、計算科学の研究である。DOEは所管の10の研究所と30以上の大 学のこうした研究をサポートしている。研究テーマは次のようなものを含んでいる。
・数値解析と科学技術計算
・計算物理(モデリングと分析)
・動的システム理論およびカオス理論
・幾何学計算、記号計算
・最適化理論、数学的プログラミング
また、このプログラムには研究そのものだけでなく、この分野のセミナーやワークショップの開催、学会の活動のサポート やpost-doctoral fellowshipも含まれている。
DOEが何故にこうした研究をサポートするのか、という疑問は米国内(あるいは連邦政府内や議会内)にもあるようで、 93年度には外部の専門家からなる委員会が設けられ、研究内容の審査が行われている。その結果(もちろん)、極めて優れた研究が行われており、研究内容は DOEのミッションにも合致しているというお墨付きを得ている。
このプログラムのための予算は、94年度(見込)で1570万ドル、95年度要求額は1600万ドルである。
テストベッド(NASA)
このプログラムの目的は(NASAの予算にもかかわらず)、高性能計算機の実用化研究を促進することにある。具体的に は、高性能計算機のプロトタイプ(商業生産前のモデル)や商業生産された初期のモデルを調達し、実際に利用し性能を評価すること、テストベッドとユーザと を接続するためのネットワークを整備すること、様々な高性能計算機をテストするための並列計算機用のベンチマークプログラムを開発することなどが含まれて いる。
94年度には計算航空科学の研究チームのために、100ギガflopsまでアップグレード可能なスケーラブルコン ピュータ(当面は10〜50ギガflopsクラス)を設置し、ネットワークを利用してソフトウェア・ベンダーや航空宇宙産業界との共同研究を強化して行く ことになっている。
このプログラムのための予算は、94年度(見込)で2260万ドル、95年度要求額は2640万ドルである。
グランド・チャレンジ・サポート(NASA)
このプログラムは「グランド・チャレンジ」に必要とされる様々なモデリング手法、シミュレーション手法を開発、改良、 評価するためのものである。「グランド・チャレンジ」には、航空宇宙関係の課題が多く含まれている。例えば航空機、高速旅客機(HSCT)や亜音速旅客機 (ASCT)、高性能航空機(HPA)などの設計の問題は、米国にとって極めて重要な課題である。
地球科学や宇宙科学の問題もこのプログラムの範疇である。海洋を含む地球の気象モデルの開発とシミュレーション、太陽 の活動のシミュレーション、銀河の巨視的構造の分析など様々な課題がある。
こうした研究は航空宇宙産業界との協力のもとに行われており、その中心は前述したテストベッドである。
このプログラムのための予算は、94年度(見込)で5380万ドル、95年度要求額は5530万ドルである。
電子取引(NIST)
このプログラムはIITA(情報基盤技術と応用)に分類されているもので、94年度からスタートしている。この研究の 対象は次世代EDI(Electronic Data Interchange)に必要となるすべての技術である。現在でも受発注をはじめとして商業取引・貿易に必要な情報交換はコンピュータとネットワークを 使って行われているが、そのほとんどは文字(テキスト)データである。これを文字以外(つまり、設計図面やカタログに載っている写真のようなデータ)に拡 張し、すべての商業取引を電子化することが次なる課題である(これは技術的にはそう困難なことではない)。つまり、次世代EDIの開発はEDIのマルチメ ディア化と言ってもよいのかもしれない。
NISTは他の連邦政府機関や産業界と協力して、電子取引に必要となるツールの研究開発、電子署名のプロトタイプづく り、セキュリティ向上のための研究を実施している。95年度にはオンライン・カタログや電子出版等の実証実験が予定されていると共に、STEP (Standard for the Exchange of Product Model Data) 、IGES (Initial Graphics Exchange Specification)、CGM (Computer Graphic Metafile)、PHIGS (Programmers Hierarchical Interactive Graphics System)の利用戦略を書いたレポート案が公表される予定になっている。
このプログラムのための予算は、94年度(見込)で95万ドル、95年度要求額は275万ドルである。
製造業への応用(NIST)
このプログラムは94年度からスタートしたもので、予算額は、HPCC計画におけるNISTの予算の約半分を占めてい る。重点は、情報への柔軟で迅速なアクセスを可能とするシステム統合技術に置かれている。狙いは、コンピュータを総合的に利用している製造業において、情 報交換のフォーマット等を標準化することによって、設計、生産計画、生産などの活動をさらに効率化することである。研究はいくつかの標準団体および産業界 と協力して行われており、成果はワークショップや刊行物、電子媒体(ネットワークを通じてアクセス可能なデータベース)を通じて、米国の産業界に提供され る。また、NISTは商業化前段階のプロトタイプシステムを産業界と協力して開発することも考えている。このプロトタイプを設置する場所は、テストベッド と呼ばれているが、ここでは、高性能生産システムの研究開発や製造業向けのコンピュータシステム(ハードウェア、ソフトウェア、ネットワーク)のテストも 実施される。対象となるのは、機械工業、電子工業、化学工業におけるアプリケーション、機械製品、電子製品の電子取引、アパレルの生産などであり、CAD への材料特性データの取込み、製造段階の電子データ交換と従来のEDI(流通段階の電子データ交換)との統合化のようなテーマも含まれている。
このプログラムのための予算は、94年度(見込)で900万ドル、95年度要求額は2520万ドルである。
まとめ
最初にも書いたように、HPCC計画はその名前からは想像できないような様々なテーマを含んでおり、世間(特に日本) の関心とは反比例するように予算額を増やし、着実に成果を挙げつつある。95年度の実行計画のエグゼクティブ・サマリーには、5つの要素毎にその成果の一端が報告されている。
たとえば、HPCSの分野においては、HPCC計画によって(部分的に)サポートされてきた企業が100ギガops クラスのモジュールやシステムを完成させてきたことが、誇らしげに述べられている。NRENの分野においては、インターネットの接続拠点の驚異的な拡大と それに合わせた通信回線のアップグレードを行ってきたことが、ASTAの分野では様々なソフトウェア・ツールが開発されてネットワークを通じてユーザの利 用に供されていることや93年のハリケーン「エミリー」の挙動を48時間前に正確に予測できたことが報告されている。
また、このエグゼクティブ・サマリーは、94年度から追加されたIITA(情報基盤技術と応用)の重要性に1ページ以 上のスペースを割いている。インターネット上で実現された分散型ファイルシステムのプロトタイプ、100万以上のユーザがいるMosaicの開発、電子図 書館プロジェクトや遠隔医療プロジェクトの開始、電子取引への応用などが例として並べられている。
しかし、こうした事実を伝えることはそう重要ではないかもしれない。日本でも(主として民間セクターで)高性能コン ピュータの研究は意欲的に続けられているし、ネットワークの重要性も理解され始めて工業技術院、科学技術庁、文部省が研究・教育用のネットワークの整備を 行っているし、民間ではいくつかの企業が商用インターネットサービスを開始した。また、日本版NIIへ向けての取組みも始まっている。
それでも最後にいくつか言いたいことがある。それは、こうしてHPCC計画をレビューしてみて気付いたことがあるから だ。
まず第1に連邦政府の各機関が協力してこのHPCC計画を進めていることである。HPCC計画に関与している連邦政府 機関は10省庁である。このうち9つの省庁が研究予算をもっている。各省庁が作成した研究計画のほとんどには他省庁との協力関係が記述されている。どこが パートナーであり、どこがユーザなのかがきちんと整理されている。予算獲得の際に足の引っ張りあいが本当に無いのかどうかは知る由もないが、少なくとも表 面上は見事な連携ができている。これはOSTP(大統領府科学技術政策局)あるいはOSTPが事務局をしているFCCSET(連邦科学工業技術調整委員 会)の調整能力が優れていることによるのかもしれないし、あるいは、この計画が議会主導でできたことによるのかもしれない。その理由はともあれ、プロジェ クトの主導権争いをするのではなく、関係省庁が協力してプロジェクトを進めている点は(当たり前のことだが)学ぶべきである。
気がついた第2の点は、研究分野が広範であると同時に、かなり基礎的な研究や研究基盤整備に資金が配分されていること である。HPCC計画という名前から想像されるのは、超高速計算が可能な最先端のスーパーコンピュータの開発だが、実際は応用数理学、計算機科学、計算科 学などの分野の研究にも各省庁から研究資金が流れている。アルゴリズムの研究、カオス理論の研究、研究に不可欠なネットワークのメンテナンス費用、幼稚園 からハイスクールを対象にした情報教育のためのカリキュラムづくり、様々なレベルへの奨学金など、このレポートでは書き切れなかったが、関係する政府機関 はほとんどがこうした分野を対象としたプログラムを持っている。また、関係者の間ではかなり以前から指摘されているが、米国では計算××科学(例えば、計 算物理学、計算流体力学、計算航空科学など)の研究にかなり力を入れている。現在でも計算機によるシミュレーション用の様々なアプリケーションソフトや ツールのほとんどは米国製である。完成したアプリケーションやツールが手に入ればよいと考えずに、自らもっと研究を行うべきではないだろうか。
そして、最後に(これが一番大切だと思っているのだが)、HPCC計画に含まれている研究テーマのほとんどすべてが素 直なテーマであるということである。言ってみれば「当たり前」の研究テーマばかりなのである。これは「陳腐な」という意味とも「ありきたりの」という意味 とも多少異なる。研究者が素直に考えて必要だと思う研究テーマ、あるいは研究したいという意欲の湧く研究テーマと言った方がよいかもしれない。
HPCC計画は、コンピュータに関係した研究で必要だと思われるテーマをほとんどカバーしているのではないだろうか。 日本の感覚からすれば、「当たり前」の研究に膨大な予算を割り当てることは極めて難しい。おそらくどこの組織でも同じではないかと思うのだが、「当たり 前」の研究テーマを提案して予算を獲得するのは困難だろう。おそらく最初はストレートなタマを投げても予算がついたのかもしれないが、次のプロジェクトは 同じようなタマでは打ち返されてしまい、通用しなくなる。それでカーブを投げることになる。しかし、その次はもうカーブは通用しない。また新しい変化球を 生み出さなければいけなくなる。どんどんエスカレートして終には「消える魔球」を投げますと宣言することになる(まるで二十数年前の野球マンガのよう だ)。大リーグボール1号が通用しなくなると、次は大リーグボール2号、そして次は大リーグボール3号。こうしたことは予算獲得のための説明だけかも知れ ないが、あまり望ましいとは思えない。「当たり前」の研究に十分な予算が割り当てられるような環境にしていくことが必要ではないだろうか。
さて、92年度に正式にスタートしたHPCC計画は、研究期間を5年間と想定しているので、96年度が最終年度にな る。しかし、94年度からNIIの技術的基盤を構築する研究開発プログラムであるという位置付けになり、IITA(情報基盤技術と応用)が新規に追加され たことを考えると、計画は延長される可能性が大きいように思える。もちろん単純な延長ではなく、5年間の評価をした上で、新たに目標が設定されることにな るだろうし、計画の名称も新しいものになるかも知れない。その時はおそらくさらにNIIを意識した名前になり、ネットワークとアプリケーションに重点を置 いた形になるのではないだろうか。ただ、その時でも数学の分野に入るような基礎研究や研究基盤整備の予算は残るだろうし、多くの「当たり前」のテーマも継続されるに違いない。
(終わり)
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