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米国ネットビジネスの現状 (1999年11月、『生産と電気』平成11年11月号)

拡大するネットビジネス


 数多くのネットワークが相互に接続されたインターネットの利用者数を正確に計ることは不可能であるが、Computer Industry Almanac Inc.が1999年11月に発表した数字によれば、インターネット利用者人口は1999年末で2億5900万人と推計されている(このうち米国が約1億1000万人、日本は約1800万人)。

 こうした利用者の拡大とともに、かつては大学や研究機関のネットワークであったインターネットも、いまやビジネスのためのネットワークと言っても過言ではない程に企業による商用利用が盛んになっている。多くの企業がウェブページでマーケティングなどを行っているし、電子メールは仕事のためのコミュニケーション・ツールとして定着している。またインターネットを利用した電子商取引も、日本ではいま一つ普及していないが、米国では完全に日常化している。

 たとえば、コンピュータの直販で業績を伸ばし、米国最大のパソコンメーカーとなったデル・コンピュータは、インターネット上にサイバーショップを開いてパソコンを販売している。利用者が自分が必要とするコンピュータ部品の性能(たとえば、計算処理能力やメモリの容量、磁気ディスクの容量)に合わせて部品を選ぶと、たちどころに販売価格が計算される。注文のボタンを押せば、それが工場に伝達されて組み立てが始まる。そして出来上がったパソコンが配達されてくるという仕組みである。支払いはクレジットカードやマネー・オーダー(郵便為替)、銀行の小切手が利用できる。

 デル・コンピュータは、このインターネット上の店で1999年7月には一日平均3000万ドルを売り上げている。一台当たりの平均価格を1500ドルと仮定すれば、デル・コンピュータがインターネット経由で販売しているパソコンは、1日に2万台ということになる。また金額を単純に一年に換算すると(つまり365倍すると)およそ110億ドルにもなる。つまりデル・コンピュータはインターネットを使って1兆円以上のパソコンを販売しているのである。


4年間で2兆円企業が誕生する世界

 消費者向けの電子商取引の成功事例として紹介されることが一番多いのは、おそらくアマゾン・ドット・コムだろう。インターネット上にある地上最大の書店である。1995年7月にインターネット上で本を売り始めた時、すでに100万種類の書籍を取り扱っていた。現在は310万種類まで増えている。

 1995年下半期の売上高は、わずか50万ドル強に過ぎなかった。ところが、1996年に入って、ウォール・ストリート・ジャーナル紙、ワシントンポスト紙、ニューズウィーク誌等に「100万種類の書籍を扱う地球最大の書店」と紹介されると、アマゾン・ドット・コムの利用者は急増することになった。1996年の売上高は、1995年下半期の30倍以上の1570万ドルに急成長。さらに、1997年は1億4780万ドルに、1998年は6.1億ドルになり、既に1999年も1月から9月までに9.6億ドルの売上げを達成している。

 現在、アマゾン・ドット・コムは書籍だけではなく、音楽CDやビデオ、おもちゃ、家電製品も販売しており、医薬品や化粧品などをネット上で販売しているドラッグストア・ドット・コムやペット用品を販売するペッツ・ドット・コム、食料雑貨を扱うホーム・グローサー・ドット・コムにも投資している。

 ただ、決算は開業以来ずっと赤字が続いており、アマゾン・ドット・コムは成功事例ではないという声もある。しかし、1997年5月に公開された株式は、インターネット株式ブームが一段落した現在でも、売り出し価格の50倍以上の水準にあり、株式の時価総額はヒルトンホテルやトイザラスより大きい。少なくとも市場はアマゾン・ドット・コムを成功事例として評価していると見てよいだろう。

 わずか4年間でゼロから2兆円以上の価値のある企業が誕生する世界、それがインターネットなのである。


バケーションの予約もインターネットで

 サウスウエスト航空は、1995年3月に「ホームゲート」というウェブサイトを開設し、1996年6月に飛行機の予約とクレジットカードによる決済のサービスを開始した。米国の大手航空会社としては、インターネットを飛行機の予約に利用した最初の例である。

 それから3年たった現在、米国ではインターネットで飛行機の便を予約するのは特別なことではなくなっている。いや飛行機だけではなく、ホテル、レンタカーの予約はもちろん、フロリダ州オーランドのディズニー・ワールドで過ごす5日間とかパナマ運河10日間のクルージングといったパッケージ旅行の検索や予約が可能になっている。こうしたサイトは、トラベル・サービス・サイトと呼ばれている。

 たとえば、マイクロソフトが1996年10月に開設したエクスペディアは、収益状況を公表していないが、ウェブを開設して5ヶ月後の1997年2月には1週間の取扱高が100万ドルを超え、1997年9月には毎週200万ドルを記録、1998年9月時点で600万ドルを超え、1999年4月時点で1600万ドルに達している。

 米国の調査会社ジュピター・コミュニケーションズは、1999年のトラベル・サービスの市場規模は42億ドルになり、2003年には166億ドルまで成長すると予測している。


オンライン・オークション

 オークションは、美術品や骨董の世界では一般的な取引形態であるが、一般的に限られた一部のお金持ちの世界のものだというイメージがある。しかし、インターネット上のオークションにかけられている商品は数百円程度のものから数万円のものが多く、世界中どこのオンライン・オークションでも参加できるし、パジャマを着ていても誰にも分からない。

 例えば、1995年5月にオンライン・オークション形式で商品の販売を開始したオンセールは、コンピュータ関係機器以外に、家電製品、スポーツ用品、高級食料品、旅行パック等の商品を扱っており、開業から1999年6月までに計1200万回のオークションを実施している。

 通常インターネット上のオークションでは、それぞれの商品に最低入札価格が決められており、買い手が買値をインプットするとそれがウェブ上に反映されるという形で競りが行われる。そして、制限時間内に最高の価格をつけた買い手が落札することになる。

 オンセールはサイバーショップ自身が仕入れてきた商品をオークション形式で販売しているケースであるが、消費者間の取引を仲介しているオークションサイトもある。たとえば、米国で最も有名なEベイは、書籍やレコード、宝石類、コイン、切手、人形、おもちゃ、キャラクターグッズ、ブロマイドといった収集品から、自動車(もちろん多くは中古)や住宅まで様々な商品を取り扱っている仲介型のオークションサイトである。Eベイ自身は売り手から商品情報の掲載手数料と最終販売価格に応じた手数料を得ることによって収入を得ている。掲載手数料は、入札開始価格とページの掲載場所によって異なる。販売価格に応じた手数料は、最終販売価格の1.25%から5%に設定されており、売買が成立しない場合には徴収されない。

 フォレスターリサーチが1999年4月に発表したレポートによれば、1998年で14億ドル程度だと推計されている。しかし同社は5年後の2003年には13倍以上の190億ドルにまで成長すると予測している。


オンライン・バンキング

 米国の調査会社のインテコの発表によれば、オンライン・バンキングを利用している世帯数は、1997年9月時点で380万世帯であったが、1998年12月には700万世帯に達している。同社は、2001年中に1000万世帯を超えると予測しているが、増加ペースはこれより早くなっているように見える。

 米国では主要な銀行のほとんどが何らかの形でオンライン・バンキング・サービスを提供している。その中には残高照会と取引記録照会などの情報提供サービスのみというところもあるが、多くは銀行振込、ローンやクレジットカードの支払いなどの取引サービスを提供している。またそのほとんどがインターネット経由でサービスを提供している。調査会社のIDCによれば、1998年時点でウェブを利用してオンライン・バンキング・サービスを行っている銀行と信用組合の数は1150行にもなっている。現在全米には約18500の銀行と信用組合があるので、その約6パーセントということになる。

 例えば、1995年5月に顧客サービス用のウェブサイトを立ち上げたウェルズ・ファーゴ銀行は、1996年5月には本格的なオンライン・バンキング・サービスを開始し、現在は、残高照会、取引記録照会、口座取引情報の転送(家計管理ソフト用のファイルとして自宅のパソコンに転送できる)、自分の口座間振替、他口座への振込、ローンの支払い、クレジットカードの支払い、小切手帳送付申込み、住所変更、新規口座申込み、メールアドレスやパスワードの変更、トラベラーズチェックの申込み、外貨両替申込みをインターネットでサービスしている。


インターネット株取引

 日本でも最近話題になっているが、米国ではインターネットを利用した株取引が盛んである。1998年末時点でオンライン株取引の口座は730万口座と言われていたが、1999年3月末には850万口座まで増え、これらの口座で管理されている株式資産の合計も4200億ドルから5230億ドルに増加している。利用者は500万人から600万人に達していると推計されている。

 インターネットによる株取引の魅力の一つは取引手数料の安さにある。オンライン株取引の手数料は、取引する株数やウェブサイトによって異なるが、8〜30ドル程度である。証券会社の窓口での手数料は、平均して80ドルと言われているので、インターネット上の方が圧倒的に安い。さらにインターネット上の多くのサイバーショップと同様に24時間、365日いつでも利用できるところが多い。また、オンライン証券会社は、複数の企業情報提供会社と提携してウェブサイト経由で膨大な情報を提供しているため、従来の証券会社と変わらない程の情報が得られる。もちろんコンピュータの特性を生かした検索によって即時に必要な情報を引き出すことが可能で、取引をしようとしている時の株価や企業情報をほぼリアルタイムで入手できる。もちろん自分が出した注文の結果や売買の状況も確実に把握できる。ホームページ上に作られた資産管理や投資分析用のソフトウェアによって資産状況を確認したり、投資バランスの分析をすることもできる。それでいて手数料は、従来の証券会社の数分の一なのだからブームになるのもよく理解できる。

 日本でも1999年10月に取引手数料が完全に自由化されたのを契機に、オンライン株取引がブームになっており、10月末時点でオンライン取引口座数は30万口座を超えたとみられている。


 もっと様々な事例を紹介したいのだが、紙面が尽きてしまった。ネットビジネスの現状をもっと知りたい読者は、是非拙著「ECビジネス最前線」(1999年11月刊、(株)アスペクト)を読んでいただきたい。

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