不動産業界の諸悪の根源〜「不動産流通推進センター」という天下り団体の問題点まとめ
日本の「不動産流通市場の整備・近代化を指導する」という公式業務を持つ「公益財団法人不動産流通推進センター」は、国交省の天下り団体であり、日本の不動産業界の発展を逆に阻害する要因となってきたもろもろの元凶である、というのは折りに触れて書いてきました。
「国交省が主導した『不動産ジャパン』が大失敗をした理由」や「不動産指定流通機構:あらためてレインズの問題を考える」や「不動産業界がIT・デジタル化で遅れている本当の理由」、「日本の不動産業における職業倫理とはコンプライアンスに過ぎないのか」などですね。色々追記したり書き直したりもしているのがあるので是非、改めて目を通して頂ければと思います。
今回は、「公益財団法人不動産流通推進センター」という団体の問題点に焦点を絞って、詳しくまとめてみたいと思います。
なぜかというと、「バズワード化する『不動産ID』〜日経新聞の記事についての感想」を書いていて、日経新聞も基本的な事実誤認と誤解を前提に、間違いだらけでまるで分かっていないなぁ、と思ったからです。どうせ報道で追求するなら、なぜ諸悪の根源とも言える、不動産流通推進センターの存在から切り込まないのか、と。
「伏魔殿」というなら、まさにレインズと不動産流通推進センターにまつわるもろもろの構造のことであります。
不動産流通推進センターとは
2015年4月まで「不動産流通近代化センター」という名前でした。
国交省が作った「業界近代化のための指導機関」とか、おもいっきり昭和っぽくて、しかも「指導機関」とかどこの非民主国家の話しか、という・・・。
時代錯誤もいいとこ。
逆に行政の方が化石だから早く近代化しろよ、というのが現代の話しであります。(だからデジタル庁がわざわざ必要になった)
本当に天下り団体なのか
不動産流通推進センターが天下り団体なのか、というのは以下のように軽〜く触れていたに過ぎませんでした。
これを確認するのは現代においては簡単です。
まずは、不動産流通推進センターのサイトから公開情報である役員名簿「役員等名簿(PDF)」を確認してみましょう。理事長は兼任の全宅連会長ですね、お飾りです。副理事長(代表理事)と常務理事(業務執行理事)が常勤で実質トップです。このお二人の名前を覚えておきましょう。
この副理事長か常務理事どちらかの名前と「国土交通省」のキーワードで検索すれば、国交省の人事異動の記事がずらずらと出てきます。つまり元国交省官僚。
面白いのが「天下りログ」なんてサイトも出てきて、そこで天下り人事異動を記録に残しているというw。不動産流通推進センターの副理事長さんの天下りも記録されていますね。職務内容に「不動産流通市場の整備・近代化及び不動産業の健全な発達に関する支援」などという記述まで。さらには、この副理事長さん、東京都の宅建協会の役員名簿(PDF)をみれば、そこでの監事としても名前を連ねています。
さらに、この「天下りログ」のサイトで、天下り先を「公益財団法人不動産流通推進センター」のキーワードで検索してみますと、2015年から2020年までで4人も国交省から天下っていることが分かります。副理事長と常務理事だけでなく総務部長も天下りポスト、と。
最近は色々と便利になったものです。
私が20年近く前に不動産流通推進センター(当時は近代化センター)で個人的に出会ったのも、別の方でしたが、やはり天下りの元官僚達でした。一緒にいた誰かから「あれ、天下り」と耳打ちされて、「あぁ道理で・・・」と思ったのを良く覚えています。
代々続く、天下り専用ポストなんでしょう。
という事で、不動産流通推進センターが国交省の天下り団体であるという事は事実であります。
レインズにまつわる諸問題
レインズに由来する問題をあげたらキリがありませんね。
レインズの件は「不動産指定流通機構:あらためてレインズの問題を考える」で書いたので、そちらをご覧ください(手抜き)。
因みに、どこかで「不動産流通推進センターはレインズに関してたぶんそんな権限は無い」、というようなコメントをチラ読みしたのですが、不動産流通推進センターの令和三年度事業計画書にも、
とあります。つまり、「権限」がなければこんなことは出来ません。
その不動産流通推進センターは国交省の天下り団体なわけで、国交省の手先機関のようなもので、そこがレインズの仕様を決めて、指導・審査していて、そもそも大臣から「指定」を受ける各機構としては絶対的に頭が上がらないわけで、各機構に主体性は無いようなものです。
不動産ジャパンの運営の失敗
不動産流通推進センターが運営している不動産ジャパンについては「国交省が主導した『不動産ジャパン』が大失敗をした理由」で書いたので、そちらをご覧ください(手抜き)。
米国の事例も紹介して比較していますが、日本では国が民間の業界団体を過保護に縛った上に(天下り団体を通じて)手出し口出しをしてきたことが、不動産業界の自主性を損ねてきた、主体性を奪ってきたということであります。
資格商法・資格ビジネス・利権資格
昨今は、様々な民間資格が乱立していて、どれも受験料や研修費・教材費・更新費・会員費を取るのが目的だったりします。受験料だけで相当に儲かるらしいですから。
不動産流通推進センターも、「不動産コンサルティングマスター」までならまだよいとしても、近年は「宅建マイスター」やら「不動産流通実務検定」やら「宅建アソシエイト」とかいうよく分からんものや色々とやり過ぎ感があります。(自分はもう業界を離れてしばらく経ちますし)興味もないのでこれ以上詳しく調べる気も起きませんが。
追記:「利権資格」という表現を知りました。
デタラメなコンプライアンスの問題
トドメはこれですね。正直、これには軽くカチンと来ました。
「日本の不動産業における職業倫理とはコンプライアンスに過ぎないのか」で詳しく書いた件であります。
不動産流通推進センターによる「不動産業におけるコンプライアンス確立に関する取組み」というあらたな事業。
もうね、これはまだなら是非読んで欲しいです。
誰も指揮や責任をとらない不透明な構造
不動産業界にも色々と問題もありますし、トンチンカンなことを続けています。しかし、その大元の由来というか原因は、「不動産流通市場の整備・近代化を指導する」という立場の「不動産流通推進センター」という国交省の天下り団体の存在にあり、諸問題の解決や進展が無い根本原因となっている、ということなのです。
これが、私が20年に渡って日本と米国の不動産業とITを長く見てきて調べまくって色々な人と話したり自分で動いてきた結果として学んだ結論です。
本来は、民間の業界団体などが主体的に行うべきことなのに、だてに天下り団体の不動産流通推進センターなどというものがあるが故に、誰が主導してやるべきなのかはっきりしない、結果、誰も何もしない、という状況が続いているわけです。
「中古住宅取引情報のストック(蓄積)」や「不動産関連情報の集約」の必要性なんて、もう10数年前から散々言われてきたことで、国交省でも議論されてきた(「不動産に係る情報ストックシステム基本構想」>「不動産総合データベース」)ことなのに、何ひとつ実現していません。
私が2002年から提言している「不動産情報の標準化」も進展せず、国交省で主催された2008年の「不動産ID・EDI研究会」で(色々ずれているけども)「標準的データコードに統一とEDI」の議論がされて提言されたのにも関わらず、以降まったく動きがありませんでした。
そういう意味では今回の「不動産ID」の仕様策定は(遅すぎるし本来やるべきことの前の前のごく一部だけ、とは言え)、とうとう本丸の国交省が動いた、という点では特異な話しで、注目には値します。まぁ、ただ単に2020年の政府答申(PDF)で「不動産IDとしての不動産登記簿のIDの活用」するよう「国土交通省が主体的に各種取組を進め」るべし、と直にお叱りを受けたからなのかもしれませんがね。
しかし、本来は国(国交省)が出てくる話しでは無い(米国の例を持ち出すまでもなく民間がやるべきこと)という問題と、「不動産流通推進センターの存在自体が業界の足を引っ張っている」という構造的な問題はそのまま残されています。
自由主義経済での政府の役割というのは、民間の自由な経済活動と創意工夫と健全な競争をサポートし、時に行き過ぎがあれば規制をするのが役割であります。昭和時代の「護送船団方式」みたいな時代じゃあるまいし、国があれやこれやお節介をやいて指示したり、コントロールすべきではないのです。
じゃないと、いつまで経っても日本では「お上が決めること」、で誰も何もしない、何も考えない、がまかり通ることになります。
日経新聞も、安易に問題の原因を不動産屋のせいにして片付けて終わりにするのではなく、こういった背景について論じて欲しい(論じるべき)と思うのです。