不動産屋は情報を「オープン」にして「情報の非対称性」を解消し「透明化」するのが本来の仕事
しばしば不動産業について、「情報の非対称性」や「透明性」などが問題として指摘されますが、皆が誤解していることがあるように思います。
一番の誤解は、「情報の非対称性」を「一般消費者 vs 不動産屋」のものと捉えている点です。
もともと不動産業とは、「消費者(借主・買手)」と「提供側(貸主・売手)」との間の「情報の非対称性」が存在しているからこそ、それをフラットにするために両者の間に入る専門的な「業」として存在しているのです。
「売主・貸主」と「買手・借主」では、売主・貸主が圧倒的に有利な立場ですから。特に戦後直後からの住宅難の時代など、色々と問題が顕在化したようです。
(実体験として、中には本当に酷いオーナーとか居る訳ですが、間に入って苦情を一身に受けるのは不動産屋であります。そういうオーナーに法的根拠を持って説明して矯正するのも不動産屋の務め)
不動産は生活の基本でありまして、同じものは存在せず、高額なものですから、そのような売主・貸主と買手・借主の間の「情報の非対称性」を悪用する奴が出てこないように、その非対称性を解消すべく、消費者保護のために宅地建物取引業法があって、宅建士という国家資格があって、業としての営業は免許、という形で規制産業化したのです。
これを、皆さん、忘れてません?
実際、不動産屋は、手間を掛けて物件について詳しく調べて、お金を払ってまでして一生懸命に物件広告を出して消費者へ情報が広まるようにして結果的に「非対称性」の解消に努めるわけです。不動産屋は、懇切丁寧に説明して、契約時に「重要事項説明書」にサインまでもらって、後々トラブルにならないように「非対称性」の解消に努めている訳です。
ただ、不動産屋は、業務の中で、個人に関するそうとう機微(センシティブ)な情報を扱います。なので、不動産屋には守秘義務が課されており、なんでもかんでもオープンにすれば良いという訳ではありません。
レインズなどに登録するのはその極々一部の情報ですが、同じ理由で非公開なわけです。
不動産屋は口が固くなければ務まらないのです。
確かに、両者の間に入る専門的な「業」の立場を悪用して、「情報の非対称性を利益の源泉とする」ようなケースは存在します。たまに「非公開物件情報あります」とか宣伝している不動産業者です。
情報を脱法的に「囲い込み」して、お客さんも囲い込もうとしているわけですが、これは他の誰のためにもならず、まぁ単に悪徳と言ってもよいのではないでしょうか。嘘の可能性も高いですし、堂々とやっている所は殆どないとは思いますが、街頭のチラシとかではたまに見かけますね。
これ、主に大々的にやっているのは大手の不動産会社です。(街の不動産屋とか、小さければ小さいほど、横との協力関係が重要になってくる)
これは、一般の人だけではなく、単にノルマやお金儲けのためだけに「売る」ことしか考えずに不動産業に入ったような人達も「不動産屋の本来の役目」を忘れてしまっているからかも知れません。
*この「両手」狙いの「囲い込み」ですが・・日本ではそもそも報酬規定が非現実的でメチャクチャだから、とか、レインズへの登録共有義務が売買の専任のだけ、といった業法上の問題点も存在するから、という色々な事情もあるんですが・・・(単に「両手」を禁止にすれば良いという話しではない、というのは詳しく書きました)
*健全な不動産物件の取引を維持することにおいて重要な前提は、個人情報も含めて全部一般消費者に公開するか否かというよりか、悪質な囲い込みをすること無く、すべての不動産業者に情報が公平に共有されているかどうか、という事であります。(だから米国のMLSでは厳格な登録共有義務規定を設けているわけです)
大多数の不動産屋としては、「そういう悪いのと一緒にしないで欲しい」、というところではないでしょうか(と思いたい)。
もともと、そういうのをしないのが本物というか本来のプロフェッショナルな不動産屋の役目なのであります。
そこを全面に出して倫理規定をアピールしているのが米国のNAR「全米リアルター協会」なわけです。参照>「 NAR(全米リアルター協会)とその倫理規定(Code of Ethics) 」
残念ながら、日本ではこういう事を高々と主張している不動産屋も不動産業界団体も、一切見ることがないのが日本の不動産業界の悪い点とも言えるでしょう。(奥ゆかしいというか、黙って無茶な批判を受け入れているだけというか)
一般的にも、「専門知識のある人とない人」などの立場の非対称性を悪用したりする人も中には居るかもしれませんが、そんなのどの業種(特に医者とかね)にも言える事であります。
特に、不動産業界の「不透明性」として大抵やり玉に挙げられる「レインズの閉鎖性」ですが、これが誤解やデマも多く、本来の問題点である「官製の独占制度」ではなく、「データを全部公開して利用させろ」という斜め上の話しがいつもフォーカスされます。
(直近では「例のスクレイピングしてる不動産物件検索が復活・・・で、結局「悪の黒い不動産屋」、という話に・・・Orz 」)
ぶっちゃけ、レインズ以外の他の民間サイトの方が、情報の質も量も良いですよ。
不動産業は「既得権」ではなく、様々な「規制を受ける」方の立場なんです。(レインズ自体も法律で「指定」、登録も「強制義務」)
「官製の独占制度」を規制改革をしよう、という話しならまだ分かりますが、無知を前提として「既得権」云々して不動産屋を悪者にするだけでは、「素人の暴論」扱いされるだけで、一切何も変わりません。
皆で議論することは非常に大事だし、議論したいのですが、議論するのであれば、まずは正しい知識と前提をもって議論しましょうよ、ということです。