不動産指定流通機構:あらためてレインズの問題を考える
不動産の実務に関わる人達だけでなく、国家資格の「宅建士」の勉強をしたことがある方なら、「レインズ(REINS)」というのは知っていることでしょう。
「宅地取引業法に基づいて国土交通大臣が指定する不動産流通機構のことね」と。それです。宅建士なら皆、頭に刷り込まれているとも言えます。
宅建士として、各種の法律を遵守するコンプライアンスは重要なことです。レインズを利用(物件情報を登録)するのは、面倒なことだけどもやらないといけない「法律的な手続き」の一環として、皆が認識していることと思います。
しかし、普段レインズのシステムやその意義を意識して利用している人たちはどれだけいるでしょうか。
私が不動産の実務に関わり始めた大昔、不動産業界の団体の集まりなどでレインズについて話題にしても、そもそも不動産会社の社長さんや業界団体の役員さん達はパソコンを使えない年代(今では80代~とか)の方々で、インターネットを使う人の存在は稀でした。
大抵は社員さんや事務員さんにやらせてお終いです。
ほとんどの方が、「宅地取引業法に基づいて国土交通大臣が指定する不動産流通機構」という建前以上のことは知りません。
宅建業者間で利用するものなので、不動産会社に勤めていないと、レインズのことなどそもそも聞いたこともないのが普通でしょう。
そもそもレインズ(REINS)とは何か
レインズ(Real Estate Information Network System)だの「不動産流通標準情報システム」だの「不動産流通機構」だの大袈裟なことをいっても、一言で言うと、物件情報を登録する単なるデータベースに過ぎません。それ以上でもそれ以下でもありません。
不動産業者がレインズのサイトにログインして売り物件や貸し物件の物件情報を登録し、他の不動産業者もレインズで検索したりして、皆で情報を共有する、というための単なる不動産物件情報のデータベース。
「F型」と「IP型」とか言って、2種類の物件登録方法がありました。「F型」は要するにFAXです。マークシートか何かで記入してFAXで送信して・・・(F型なんて使った事ないからしらんです)。2008年頃だったかに無くなったはずです。
「IP型」は、単なるインターネットそれもウェブ版のこと。普通「IP型」なんて聞いたら、まともな技術者から「いやTCP/IPだろ」と突っ込みが入りそうな気がしますが・・・。
レインズの目的
不動産物件の情報というのは、1社が情報を囲い込んでいては情報が広まらず、エンドユーザーであるお客さんに届きません。なので、昔から、同業者間の情報共有という協力関係は重要なものとして存在しています。
これは、物品販売やサービスを提供するだけの他の業界にはなかなか無い、互恵関係の概念と言えるでしょう。(それゆえか、不動産屋は日頃からやたら他業者との関係で「信義則」を強調します)
実際、物件情報は不動産会社からお客さんへという流れだけではなく、業者同士で横に情報を流し合い、「これこれこういう物件で入居者募集中です。お客さんご紹介ください」と物件情報を流したり(業者間流通)、逆に「こういう条件の物件ありますか」「この物件まだ空きありますか」(いわゆる「空き確認」、「物件確認」とか「物確」とかいわれるものですね)といった、業者同士での物件情報のやり取りや確認が日々行われています。
しかし、一部の業者による物件情報の「囲い込み」(顧客の囲い込みによる「両手取引」が最終目的)というのも存在し、そういう行為は、結果として売り手・買い手、両方のお客さん(消費者)の不利益となります。
なので、効率的で適正な物件情報の流通を図り、そういった「囲い込み」をする悪い業者を縛る必要性があります。不動産業では、通称「業法」といって、宅地建物取引業に関わる法律が整備されており、その中で情報流通を促進するための、幾つかの規定が存在します。
それが、指定流通機構制度(レインズ)とそこへの登録義務です。
具体的に言えば、宅建業法の第五十条の二の五(指定等)「宅地及び建物の取引の適正の確保及び流通の円滑化を目的」とし、第五十条の三(指定流通機構の業務)で規定されているように、「専任媒介契約その他の宅地建物取引業に係る契約の目的物である宅地又は建物の登録」と「宅地又は建物についての情報を、宅地建物取引業者に対し、定期的に又は依頼に応じて提供すること」がレインズの業務と規定されています。
因みに、米国では、リアルターの職業倫理としての「倫理綱領」をもとにして、業界団体の自主的な義務規定として定めて業者間の情報共有を行っています。
日本では単なる法律的な義務という位置づけですが、米国では「お互いの協力関係」と「消費者利益」を掲げて職業倫理として規定して自主的に義務化しているのが、とても興味深いことであります。
追記:>「NAR(全米リアルター協会)とその倫理規定(Code of Ethics)」で詳しく規定も含めて解説しました。
レインズの特殊性
レインズの特殊性は、「宅地取引業法に基づいて国土交通大臣が指定する流通機構(レインズ)に特定の一部物件情報を登録することが定められている」という一点に尽きます。
実際、業者間の物件情報の流通は民間のサービスでも多数あり、アットホーム、スーモ、ホームズなども、有料オプションで似たような「会員間の情報流通」というのをやっています。
基本的な違いは、国土交通大臣が指定する(所が運営する)データベースかどうか、という点です。いわば、自由な競争を阻害する悪い独占が法律によって規定されているという「官製の独占」状態です。
これ、他の国にあったりするのでしょうか。自分は世界中の状況を調べたりしてませんし、するつもりもないですが、少なくとも、米国にはそんな法律ありません。
というか、アメリカだったらありない話しです。
米国では民間の不動産業者の有志によって草の根的に始まって、業界団体にサポートされている、MLSというシステムがありますが、日本のように「お上」が決めた法律を根拠に運営している訳ではありません。
追記:「米国の不動産業におけるMLS(multiple listing service)とは何か」で詳しく解説しました。
レインズの実際
このレインズ、法律で定められて(大臣から指定されて)いる、という理由で存在していて、その利用を法律で義務付けられているため、市場の原理が働きません。つまり、どれだけ酷くてもユーザーが離れていく、ということが起こりえないので、積極的に改善しようという動機も生まれません。
サイトのユーザビリティは最悪で、法律で決まっているから使わなくてはいけない限られたケースで使うだけで、本来なら絶対に使いたくないような使い勝手のサイトとなっています。
まるで1990年代にあったような、「ホームページ」のイメージそのまま、という感じでしょうか。日本全国の宅建業者は、この化石のようなサイトをず~と毎日使い続けなくてはいけない、という苦行のような事を強いられてきました。
あり得ません。
何しろ、ずっとWindowsのインターネットエクスプローラー(IE)でしか使えず、ChromeやFirefoxを使っているとログインすらできず、「非推奨」とか表示される代物です。
(参照「Internet Explorer(IE)がヤバい本当の理由」)
あり得ません。
IEのセキュリティ上の問題が多発していて、以前よりマイクロソフトからもIEはレガシーなサイト向けの互換性維持の為だけ、として新しいedgeへの乗り換えを推奨してきて、一般ではChromeやFirefoxを使うの普通であるにも関わらず、です。
あり得ません。
ついに、2021年にもなって、とうとうマイクロソフトがIEを完全に削除するとなってはじめて、やっとレインズでもChromeやFirefoxなども利用できるよう改修リニューアルされました。
少なくとも、とっくの昔に非推奨とすべきブラウザを、逆にレインズが公式に推奨(というよりもIEでしか使えない)してきたという、不動産業界全体としてのITリテラシーに関して、悪夢のような悪影響を与えて来たことは否めないでしょう。
当然、MacやLinuxの利用者の事など、まったく考慮に入れていません。
レインズはそのサイト上で堂々と、「我々はウェブ標準を無視します」と宣言していたのです。開設以来、ずっと!!
W3Cの標準に準拠したHTMLも書けない無能さを晒してきた、とも言えますね(積年のうらみw)。
あり得ません。
また、物件情報の募集図面と言ったファイルのアップロードは、PDF形式では登録出来ず、Tiff形式かJpegといった画像形式でしか登録できないという異常な仕様でありました。
せっかく紙の図面からPDFで電子化してデジタル的に管理していても、レインズには、それをわざわざ画像としてスキャンしたりスクショとったりして登録しなければならなかったのです。2021年にもなって!
あり得ません。
なので、レインズから募集図面を取得して印刷すると、画像ファイルなので、文字も滲んでしまって読めたものではない、という異常で悲劇的な状況が日々全国の不動産会社で起きていたわけです。(あぁ悲劇)
あり得ません。
中の人に言わせると、「レインズ上で図面の帯情報(元付け会社情報)を差し替えているからPDFでは無理、画像形式じゃないと無理」、という理由(直に聞いた)だそうですが、別にレインズ上で帯情報を差し替える機能を持たせる必要性はゼロであって、PDFの利点を上回るとはまったく考えられません。
まっとうに考える頭を持った人間が居たとは思えません。自分を含め、10数年以上に渡って言われ続けてきたことなのに無視した挙句、IEが無くなるとなって初めてやっと今年のリニューアルで出来るようになったとか。
あり得ません。
しかも、APIも提供されていなくてデータ連携が出来ないので、一々手動でログインして一々手入力して物件情報を登録・更新するほかに手段が用意されていないため、無駄で非効率です。当然ながらリアルタイムとは程遠く、入力項目も多いですし、入力間違いも増えます。(月々何万エンも払ってコンバーター業者を通して一括入稿とかアホでしょ)
あり得ません。
賃貸では登録の義務も無いですし、このような現状のため、賃貸ではほぼ誰もまともに使っていない印象で、業者からもレインズ経由での賃貸の問い合わせはまずこないです。宅建業法では、売買物件でかつ取引態様が専任・専属専任の場合にのみレインズへの登録を義務付けていますが、一般媒介等では登録義務は無く、米国のNARの自主規定と比べれば抜け道だらけのザル。
なので、登録物件数も少なければデータの内容も質も酷いという状況。
問題を挙げたらキリがありません。
つまり、物件情報の流通を推進する、という本来の意義をとことん損なっているのがレインズそのもの、と言っても過言ではないでしょう。いや、この状況はもはや、レインズの存在そのものが逆に日本の不動産業界のIT発展を阻害する要因とも言えます。
運営は誰がやっているのか
レインズの運営主体、と言っても、これがまた複雑でやっかいな話しになります。
この構図自体が「伏魔殿」というか。
まず、レインズを運営する流通機構は、全国に4法人(東日本、中部圏、 近畿圏、西日本)分かれて存在しています。東京は、公益財団法人東日本不動産流通機構(通称:東日本レインズ)のエリアです。
(現在、統合が図られているようですが、そもそも何でわざわざ複数のシステムに分けるとかいう非効率的な事をやってきたのかって話しもあります)
基本は各流通機構に運営主体があるのですが(役員が全員兼任の非常勤というまるでペーパーカンパニー)、1つのレインズとして仕様を決めたり指導・システム認定審査だの仕切っている大元の元締めは、国交省の天下り団体で2015年まで「公益財団法人不動産流通近代化センター」という名前からして前近代的な官僚的組織の「公益財団法人不動産流通推進センター」であります。
またお前らか、という感じであります。
例の大失敗した不動産ジャパンの運営元と同じ不動産流通推進センターです。(不動産ジャパンの件の詳細は「国交省が主導した『不動産ジャパン』が大失敗をした理由」をご覧ください)
厳密には、これら各指定流通機構、不動産流通関係団体、国土交通省等から構成される「レインズ運営委員会」などで決めたりしている建前でありますが・・・実質は国交省が手先機関である天下り団体の不動産流通推進センターを通じて指示監督認定しているというわけです。
各流通機構は「国土交通大臣が指定する」という制度上、絶対的に立場が弱く、国交省の言うことを聞かざるを得ない立場にあるわけで、「レインズ運営委員会」にしたって、国交省が絡んでいるわけで似たようなものであって、各機構に主体性は無いようなものです。
なので、不動産流通推進センターは、「レインズの仕様を決めて開発して認可しているのは我々だ」、と彼ら自身が言うわけですね。
実際、不動産流通推進センターの事業計画書にも、
とあります。つまり、逆に言えば不動産流通推進センターにはそれができる「権限」がある、ということ。
この不動産流通推進センターのトップは名前貸しみたいな兼任のお飾りで、役員達も同様にみな外部からの非常勤。実質権力は常任の副とか常務理事が握っているわけですが、大抵それが国交省の天下りの元官僚。というか天下り官僚専用ポストです。
何を言っても、ひとこと目には「業法で決められている(だから何か文句があるのか)」と言ったりする面白い人達です。逆に言うと、業法で決められていること以外のことは、何もしない人達です。
「業界の発展の為に」、とか「皆が便利になるように」、とか、眼中にもありません。天下りの元官僚に何を期待するのか、と(若い頃の自分に言ってやりたかった・・・知ってたけど)。
これ、国交省は、口では建前上「あくまで民間がやること」とか言いながら、法規制をたてに、実際には国交省の天下り元官僚がやっている、という誰も指揮や責任をとらない構造、なのであります。
で、不動産業界団体としては「近代化センター(流通推進センター)があるから」と思考停止していて、近代化センター(流通推進センター)としては「なんでめんどくさいことを、国交省からも言われていないことをしなきゃいかんのだ)」と何もしない(利権を維持するのには一生懸命)、と。
日本の不動産業界のIT化・デジタル化が停滞するわけです。
そもそも、「公益財団法人不動産流通推進センター」は、「1980年、建設省(現国土交通省)は、宅建業法を改正し(中略)、業界近代化のための指導機関として(財)不動産近代化センターを発足させ」たもの、と。
「国交省の委託をうけてレインズの仕様を作り」「国交省により発足された、業界の近代化を指導する機関」ってw
笑っちゃいますね。ITも不動産業も分からん天下り官僚に近代化を指導される不動産業界も哀れなもんです。
さらには近年になって、「職業倫理とはコンプライアンス」とかいうデタラメを喧伝しはじめたりして落ちる所まで落ちている組織であります。
追記:この件、別途「『不動産流通推進センター』という天下り団体の問題点まとめ」で、改めてまとめました。
どこが作っているのか
そもそも、こんなクソなシステムを作っているのはどこなのか・・・ 例によって例のごとく、絡んでいるのはNTTデータなどのITゼネコンであります。
はい。クソなシステムにならない要因がありません。
「国交省が主導した『不動産ジャパン』が大失敗をした理由」で、米国のリアルタードットコムでの開発体制を紹介しましたが、天と地、ほどの違いがあります。
ITのことが何にも分からない官僚や天下りの元官僚たちは、ITゼネコンに丸投げしてしまいます。これは不動産屋の社長で構成される業界団体の役員・理事でもまったく同じです。この件は「DXは脱『ITゼネコン』から始めよう」でエピソードを交えてまとめましたので、まだでしたら、是非お目を通し下さい。
自前で開発者を抱えて内製したほうがずっと良いものが出来ますし、ITゼネコンという中間搾取構造を省いてコストも削減できることは間違いないでしょう。
レインズの実態
という事で、レインズは成り立ちからしても、ぶっちゃけ、国交省と天下り官僚とITゼネコンの産物、と言ってもよいでしょう。うがった見方をすれば国の規制に基づく官民癒着という国交省の利権構造。
個人や一企業で云々しても、太刀打ちできない代物です。
数年前、イタンジ株式会社の創業者・代表だった伊藤さんて方が、レインズとデータ連携できないと不便だと、直接電話したところ、「レインズのシステムは古くてどうしようもなくて、むしろ機能を減らしたいぐらいだ」みたいなことを言われたらしく、「どうやら、そもそも『データ連携』とかどういうことなのかイメージができていないようだった」みたいなことを言っていたようなんです。
それを聞いて自分は「わかるわ~(笑)」と。これ、なんというか、「言葉は通じても、意味が通じてない会話」なんですよ。
「データ連携できるようにしたほうが良いのでは」、という問いに対して、普通なら「データ連携できた方が良いですね」か「データ連携すべきではありません」のどちらかの応答を期待します。でも、「システムが古くて~」という応答は、実質、問いに答えてないのです。
(てか、「あなた達がITゼネコンに丸投げしたからレガシーなシステムにベンダーロックインされているだけでしょうが」、と。天下り元官僚を全員クビにすれば、それだけで改修費用は余裕で捻出できましょう)
本来、「データ連携」の意義を理解していて、答えが「データ連携できた方が良い」場合は、「システムが古い」云々は二の次で、「じゃぁシステムを改修するにはどうしたら良いか考えましょう」「仕様はどうしましょうか」になるわけです。逆に「データ連携すべきではありません」なら、当然「なぜなら~」が続くわけです。それに対して反論や議論もありえるでしょう。
でも「システムが古い」という応答は「いや、そんなこと訊いていないし、で?」としか言いようがないわけです。つまり、その人は、問いから「逃げてる」んです。
まるで役人の答弁みたいな・・・そのものですな。
自分はそれこそ大昔の2002年から、不動産業界の人達に色々と不動産情報のデータ流通のための標準化の必要性を説いたり提案したりしていたのですが、当時の業界の上の人達はまさに「パソコンに疎い方々」でありまして、色々資料を作ったり、懇切丁寧に説明したり、中には理解して支持してくださる方もいて、伝手を頼ったりして、一時いい所の業界団体トップまで行ったのですが、「標準化なら流通近代化センター(現、流通推進センター)だろう」、と言われてそこまで行き着いても、結局はイタンジの伊藤さんが体験したような、「噛み合わない会話」に終始してしまうのですよね。
相手は分かってて逃げているのか、まるで理解していないのか・・・。
まぁ、そんなこんなで、自分も学びまして・・・。くどいようだけども基本から懇切丁寧に説明し、その背景となる根拠を解説し、一般的でない専門系の言葉は定義した上で使い、誤解されがちなの概念は事前にまわり道して解説し・・・「噛み合わない会話対策」みたいな。
それをまとめたのが、「不動産情報デジタル標準化の覚書」なんですけどね。だからこれ、冗長でシツコクて、文章がやたら長いんですよ。事前に想定されうる限りの予防線を張りまくってるから(笑)。
今の自分に言えるのは、レインズの運営元(元締め)みたいな国交省の天下り団体なんて、そもそも相手にするな、という事です。
相手にする必要性すらないです。本来は、国交省がのさばってくるような案件ではありません。物件情報の流通を促進するための話しであって、業法の趣旨そのままだからです。反対する役人や官僚や天下りが居たら、単に自分達の利権を維持したいが為の保身にすぎません。
不動産業界の中で、さっさとコンセンサスを作って、物事を前に進めて、変な組織に対しては、「業界としてこう仕様を決めたんで、それに合わせてやっといて」と言ってやるだけで良いのです。じゃないと、彼らはのらりくらりと話しをはぐらかすだけで、何もやりません。
そうじゃないと、いつまでたっても進歩(近代化)しません。
それに、昔と違って皆を説得するのは今なら楽です。何しろ、世の中でDXだの、脱FAXだの、ペーパーレスだの言われるようになって、なんでもデジタル化だ、の時代ですから。APIや標準化の必要性や意義はとても簡単に理解してもらえる、はず・・・。
いずれにしても、レインズとそれにまつわるもろもろは、いまや日本の不動産流通のIT化・デジタル化を阻んでいる癌、と言っても過言ではありません。
レインズ改革の必要性
現在のレインズの硬直化した運用体制、開発体制では、主体的な機能改善や改良は望めません。MLSのように民間のものではなく、業法のもとに国交省(天下り団体)の実質監督下にあるような状態では、市場の健全なる競争によるレインズの発展は望めないのです。
というか、もはや時代にそぐわないものになっています。
追記:>関連で「国交省、『民間企業がレインズより便利なものを作ればいい」 < イヤそういう話しではないでしょ』 」を書きました。
そもそもレインズなんていらんでしょw、と言いたい所ですが、日本には米国におけるMLSのような歴史が存在していません。MLSのような歴史が存在しない日本で、いきなりレインズを無くしたらさすがに支障があります。
民間企業のサービスを利用すると言っても、いち民間企業による独占はまた別の悪(Evil)を産みます。皆がバラバラなサービスを使っても、フラグメンテーションを起こして、やはり支障をきたします。MLSは何十年も時間をかけて各MLS同士の連携を図る為に地道な努力を積み重ねてきました。
追記:>「米国の不動産業におけるMLS(multiple listing service)とは何か」で解説しました。
さらには、今まで法的手続きの一つとして義務でやってきたことに過ぎない為、本来の物件情報の共有の意義が忘れ去られています。だからあの手この手を使ってレインズに登録しないようにしたり、抜け道を探してアレやコレやする人達が多く出てくるのです。いわゆる「両手狙い」で「囲い込み」という話しが出てくるわけです。「囲い込み」が出来てしまう業法の規定もアレですが、それも「報酬の規定」がアレだから、という業法自体の問題もありますが、話しが逸れました。
日本では、本来の情報共有の意義が、単なる「義務」に矮小化されてしまっているのです。
客観的に考えれば、レインズを一度ぶっ壊して、一から流通システムを作り直す、という大改革するしかないと思っています。
当然、業法の大改正が必要になります。
まずは運営体制を国交省の「紐付き」の状態から独立させる必要があります。日本の不動産業界が自主的に出来るようにするために、完全なる民営化。「国土交通大臣が指定する」なんて条文(首輪)がついてるから官僚的な条文教の元役人を天下りで・・・みたいな話しになってくるのですよ。
「指定」ではなく「認可」にして、新しい民間企業が「流通機構」に参入できるように規制改革しても良いでしょう。やりたい企業は山ほどあると思いますよ。健全なる競争も生まれて、サービスは劇的に改善されるでしょう。
米国のMLSのように「自由化」してもいい。
2015年まで「不動産流通近代化センター」という名前からして前近代的な官僚的組織の「公益財団法人不動産流通推進センター」なんて、無用な長物。レインズのシステムで「標準システム」の仕様を決めているのは自分らだ、とか偉そうにしていても、2021年にもなって「不動産情報デジタル標準化」も出来ない組織に存在価値はありません。
本来の情報共有の意義を思い起こす為には、不動産業者が、その効果を実感できなければなりません。反響や成約に結び付くための様々な仕掛けが必要です。そのためには、システムの開発体制の抜本的な改革も必要でしょう。ITゼネコンに丸投げするようなことでは無く。
また、データをちゃんと活用しなければなりません。「国交省が主導した『不動産ジャパン』が大失敗をした理由」でも紹介したような、リアルター・ドットコム(realtor.com)がMLSのデータを利用して一般向け物件検索サイト用に使う、といった事です。当然、守秘義務や個人情報に関わるようなデータは全部省いた、広告情報に限ってです。
ただ、いきなりこれをやると、既存のアットホームやスーモやホームズ、といった一般向けの検索サイトが潰れかねない大変なことになるので、彼らにもちゃんとデータを使わせてあげられるようにしないとなりません(各不動産会社は個別にデータを流す可否を選択できるようにすれば良し)。
それでも彼らにとってみれば「おおごと」ではありますが、自由化して彼らがMLSのように「流通機構」を運営できるようにさせれば良い話し。
不動産業界にとっては、自由化されて自由に運営主体を選べるようになれば、米国のMLSのように、自分達の不動産物件情報を自らのコントロールの下におけるし、それによって様々なデータの利活用が出来るようになる。半官半民のような中途半端な位置づけのレインズでデータを死なせておくよりか、主体的に業界がデータの所有権を行使できるようになって良くなるんじゃないです?業界が決定権をもって決められるようになります。
今よりも不動産業界にとっても良くなるし、より柔軟性をもってデータを外部にもオープンにできるでしょうよ。(自由化したってデータをオープンにしなければいけないなんて義務は発生しない、むしろ裁量と自由度が増す)
これすると、金融ビッグバンならぬ「不動産ビックバン」が起きます。
ただ、これは「抵抗勢力」の大きさを考えると、まぁ難しいだろうなぁ、とは思いますよ。利権を守りたい国交省の官僚と天下り団体、それに癒着したITゼネコン、あとは「先行者利益」を守りたい既存の物件検索サイトの人達・・・。まぁ大変です。ステークホルダーというか利害関係者多すぎ。(参考:「レインズの情報を一般公開できない理由とは」)
不動産業者としては、いわゆる「自社もの」を多くもっている所は広告チャネルが増えるだけなので歓迎するでしょうが、「先物の客付け」メインでやっているところは反対するでしょうね。
なので、自分は(皆を説得して標準化を提言していたので)いままで一度たりとも、レインズのデータを開放するように言った事はありません。皆を敵に回す(蜂の巣をつつく)ようなものですから。
それに現状のレインズを単に開放すれば良いとも思いません。現状のレインズのデータが酷すぎるので、使い物にすらならないし、本来、法律を根拠に「業者間流通」の為として強制登録としてきたものを、今になって突然、誰にでも開放する、というのは無理が有りすぎです。やるなら、すべての会員の同意を取らなければならない、というのが筋でしょう。反対が噴出しても当然、というところでしょう。私も筋が通っていないのでどちらかというと反対です。
追記:>「巷の「レインズの『オープン化』論」の論点を整理してみる」で詳しく解説しました。
その前にまず「物件情報は誰のものか」というところから大議論が必要でしょう。そして、レインズも一端チャラにして、流通制度を新たなものを設計し直すべきです。
もしこれが実現出来たら心から「すげぇ」と思いますよ。
しかし、それが出来ないうちは、日本の「不動産テック」なんて、米国と比較したらオコチャマのお遊びにすぎません。
追記:>関連で「日本と米国、『不動産テック企業』の決定的な違いとは」
まぁ、日本の不動産業界や行政などの動きを見ていると、黒船がやってきてボコボコにやられるかして、50年後とかに出来てたら良い方、ぐらいの話しでしょうかね。
新しくできるデジタル庁も、この辺を切り込むのは難しいと思います。国交省の天下り団体の利権も絡んでいるし、あくまでも建前上は「民間のやること」ですから。建前上は。