不動産情報デジタル標準化の覚書
書き手
元々は英語をやりたかったのですが、途中でプログラミングにはまってしまい、英語漬けのまま色々と沢山ソフトウェアを書き散らした後、訳あって不動産会社に転職して7年ほど修行しつつ宅建も取ったが後に退職、という紆余曲折を経て、「英語とプログラミングと宅建士」、という奇妙な組み合わせの経験を持つに至った変人であります。
そのため他の人達とは異なり、不動産の実務と業界の表と裏を見ながら、より広い視点で日本の不動産業におけるITに関する現状と課題、そしてその解決策について、常日頃から考えてきました。
微力ながら業界にも提案してきましたが、個人の力では限界があるので、ここに整理してまとめて公開しておきたいと思います。
<電子書籍版>
本文、長期にわたる追記や更新によって少し読みづらくなってきた所もあります。そのため、あらたに書いた記事もすべて取り込み、新規に「不動産情報デジタル化の作法」と題してまとめ直しました。
上記のリンク先に全文も掲載していますが、EPUBで電子書籍化もしたので、iPhoneやiPadの「ブック」アプリなどにダウンロードして読むことも出来ます。
以下は、古いバージョンの原文となります。
はじめに
不動産業というと、紙とFAXというイメージで、デジタル化にもっとも遅れている業種、というイメージがあるかと思います。実際、そういう所も確かにあるのですが、現状を正確に把握してその課題を正しく理解している人間が皆無に近く、不正確で偏った情報ばかりが広まっている面もあります。
なぜなら、不動産業が分かる人はIT技術に疎く、IT系の人は不動産業の実務と業界に疎いからです。そうなると当然、誰も現状の課題を正しく言葉に(言語化)することもできず、結果として前に進む事が出来ていない気がします。
また、ずっと業界の内側にいると、「不動産業とはそういうものだ」と考えがちで、そもそも問題を解決できる課題だと気が付けない場合もあります。
さらに悪い事に、不動産業のことが分かっている(風の)IT系の方達は、大抵不動産ITサービスを提供している利害関係のある当事者であります(そもそもIT系の人と言ってもプログラムを書ける知識や経験のある人とも限らないです)。そういう人は、第一に自社サービスへの利益誘導を図る、という明確な目的と動機がありますので、自分達にとって都合の良いことしか言いません。
逆に言えば、自社ITサービスの宣伝や利益にならないと思ったことには(例えそれが業界や消費者含めた全体の利益になることであったとしても)あえて触れないというだけでなく、裏で激しく抵抗することもあるでしょう。
しかし、メディアなどに取り上げられるのは、そのような営利目的のIT企業などに属する利害関係のある人の話しばかりで、不動産業界ならびに社会全体を見据えた、「本当に必要なこと」の指摘がすっぽりと抜け落ちてしまっています。
結果として、メディアの報道や官公庁での動きなども非常に歪められたものとなり、不動産業および不動産物件の情報流通におけるIT化やデジタル技術標準化といった本当に重要なことが前に進まない現状があります。
自分はたまたま人生の奇妙な巡り合わせで、英語と宅建士とプログラミングというバックグラウンドを持つため、海外の状況、不動産業界の内側、IT技術、それぞれの視点を持って、なんの利害関係もなく客観的に見ることが出来ます。
おそらく、こんな人間は日本にもそんなに居ないのではないでしょうか。
未だにFAXと電話と手入力、といったものに依存せざるを得ない日本の不動産業界が少しでもデジタル化を図れるよう、本覚書の内容が一助となり、参考になれば幸いです。
更新履歴
2002年10月1日 原版 宅建協会への提案書
2015年6月 ブログ版 初稿
2021年7月 元ブログよりnoteへ移転
2022年4月2日 要約版の提言書(PDF)を作成しました。
2022年4月5日 最終更新
2022年4月16日 「不動産情報デジタル化の作法」として、電子書籍(EPUBとKindle)版を公開しました。
趣旨
本書の趣旨は、「不動産情報のデジタル技術標準化」により情報流通の促進を図り、不動産業務と取引の効率化及び利便性を高め、ひいては一般消費者の利益とする、という事であります。
「デジタル技術標準化」とは、「項目名や契約書式の標準化」のことではなく、「業務やシステムの標準化」でもありません。ましてや「レインズ」のことでもありません。不動産情報をデジタルのデータとして流通させる上で、異なるシステム間において、データを効率的に処理できるようにするための「共通言語」となる技術標準(テクニカル・スタンダード)の仕様を策定する、という事です。
これは、相互運用性(インターオペラビリティ)のための「技術標準化」であります。言い換えれば、不動産業界で広く通用するデジタル版のリンガフランカ(共通言語)とそれを使う際のプロトコル(手続き規定)を定めるということです。
不動産物件情報のデータ(以下、物件データ)は、不動産業者間で仲介を目的として相互に共有されるのみならず、物件広告を目的として種々の不動産ポータル・検索サイト等に発信されています。その際、現状では、各不動産業者が自社システムで管理している物件データは、相手先システムごとに一々手作業のタイピングで物件データを入力して登録するか、外部の業者を通して物件データの変換(コンバート)をするなどの非効率的な処理(と無駄な費用)が必要となっています。
会員が自社物件データをレインズへ登録および更新する際もまったく同様で、無駄な費用と労力を強制させられているということであります。また、従来から業者間で直接、募集図面(ファクトシート)という一種のチラシの形態で物件データが共有されることも多いですが、その物件データを管理するのにも受け取り側が一々手作業での無駄な入力が必要となります。
各主体が保有している物件データに互換性も相互運用性もないためです。
日本の不動産業界におけるこのような非効率極まりない状態がそのまま放置されているのは、情報のやり取りがデジタル化されつつある現代において、明らかな問題であり、今後のさらなる情報化・デジタル化の取り組みにおける障害となっております。
このような状態に陥っている原因は、日本の不動産業界においては、異なるシステム間の物件データ流通に必要となる技術標準(テクニカル・スタンダード)の規格・仕様が存在していないことにあるのです。
この問題は、皆が全て同じシステムを使えば解決する、というものではありません。単一のプロプライエタリなシステムの利用を皆に強制することによる市場の独占は結果として利用者の不利益となり、業界の発展の害となる事は異論のない事実であります。ゆえに独占を防ぎ、多様なシステムとサービスの発達と健全なる競争を促す事が重要なカギとなります。
結論として、不動産関連ITサービスや業務ソフトウェア開発における自由な競争と、サービス・ソフトウェアの多様性を維持・促進しながら、異なるシステム間でのデータ流通を促進・効率化するためには、不動産業界として物件データの技術標準化作業を進め、業界における標準規格(ドキュメント フォーマット、データ定義、および通信プロトコルの仕様一式)を策定する必要である、ということであります。
このような標準化の作業は、当事者である不動産業を代表する業界団体が旗を振って動き、中立的な標準化組織などにおいて行う必要があります。
いままで、これを関係する方々に説明していく上で、まずは基本的な背景事情の説明をし、具体的にどういうことを意味するのか様々な誤解を解いていく必要性があると感じました。
そうしたものを一つ一つ整理し、米国の事例を含めて解説したものが、本覚書であります。
長くなりますが、お付き合いくださればと思います。
不動産情報流通の現状
本来、不動産業は不動産物件情報を広く流通させることがその業務にとって欠かせない重要な要素であり、不動産に関わる個人や企業、特に業界全体のことを見据えて動くべき業界団体などにとって、情報流通促進にかかる技術は最も重要な関心事であるべきだと言えます。
不動産の情報流通においては、一般の消費者への「物件広告」という情報提供と、宅建業者同士で「業者間流通」で情報共有を行う、という二つの流通チャネルが存在します。この違いは技術を議論する上でもそれぞれを明確に区別して語るべきことでしょう。
現状についての共通認識としての背景をおさらいするために、まず、現在の不動産業界における広告としての物件情報の流れを整理しておきたいと思います。
● 物件広告として
貸主と媒介契約を結んだ元付け業者は、物件調査を行い、それを物件広告の情報(物件データ)として様々なルートで直接・間接的に流します。近年では、それを客付け業者がさらに流通(2次広告)させるケースも非常に多くなっています。
いずれの流通ルートでも、各社がそれぞれ独自データフォーマットや独自規格を使っているため、非効率な手入力(再入力)が発生したり、一々データ変換(コンバート・一括入稿代行)業者をかます必要があったり、などの前近代的で非効率極まりない方法でデータが流通しているのが現状です。
物件情報の流通チャネルの代表的なものを以下に列挙します。
1.不動産会社の自社サイト
今や個人でも無料で1分とかからずにブログやウェブサイトは作れる時代になりました。企業でも、月々400円もかからず独自ドメインのレンタルサーバーを利用できます。中小の不動産会社では、自社サイト上で各種CGIプログラム等のウェブアプリケーションやCMSを用いた物件検索システムを稼働させる、といった形態が多いように見受けられます。
自社サイトへの物件情報の登録方法は様々ですが、管理画面で手入力という方法を含め、自社のシステムと連携させた独自の方法が主流と思われます。
2.物件検索ポータルサイト
大多数のエンドユーザーが利用する、いわゆる不動産物件検索サイトです。どの不動産業者も、たいてい下記の大手3つの内、少なくとも1つは利用しているようです。そこからさらに色々なところ(一般のYahoo!と言ったポータルサイト等)にも情報が転載されるのがほとんどです。
前述したように、物件情報の登録方法は各ポータルサイトごとに独自の方法やわざわざ手入力させるという状態で、標準化が進んでいない為に様々な弊害が存在しています。
以下が代表的な不動産物件検索サイトの一覧とその特徴です。
・アットホーム
昔からある会社で、インターネット登場以前の時代から、営業マンが地元系不動産会社を個別に訪問して紙の募集図面(ファクトシート)、いわゆる「マイソク」を流通させる形態から発展し、今の物件情報検索サイトを運営。
上記の経緯から、やはり不動産会社から直に集める情報量は多く正確なことが多い一方、(良くも悪くも)昔ながらの紙図面の流通形態を引きずっているところもり、(良くも悪くも)業界団体と密着している面もあります。
・スーモ
リクルートの運営する物件検索サイトで、昔の物件情報誌「ISIZE(イサイズ)」の系統を持ちます。一時リクルートの再編でぐちゃぐちゃになり、スーモの名前で復活しました。
スーモの管理画面を見ると、入稿など、未だに雑誌媒体の形態を引きずっているのが痛々しい面もありますが、リクルート系の情報網で一応質は高いほうです。しかし、広告掲載価格も高いので掲載物件数は多いとは言えません。
・ホームズ
上記2社のような歴史はないものの、過去のしがらみもない、インターネット時代の新興物件検索サイト(でしたがもはや新興とも言えず)。
管理画面もなかなか使いやすく、問い合わせ課金制の掲載数無制限など、新しいことに挑戦するのが特徴です。ただ、掲載数無制限なので悪質な某フランチャイズ系不動産業者などが無承諾「おとり広告」を無制限に乗せまくって公正取引違反問題となったりしてました。
3.業界団体サイト
不動産業界団体が運営する物件検索サイトも複数存在しています。しかし、複数乱立しているだけで、一般には殆ど認知されているとは言えず、様々な面で痛々しい失敗をしています。
・ハトマークサイト
全宅連(公益社団法人全国宅地建物取引業協会連合会)という、全国の不動産業界団体が集まった団体の運営する一般向け検索サイト。
このサイト、一皮剥くと、実はアットホームが実質的に運営(そもそも、管理画面のドメインがアットホームのサブドメイン - hatomarksite.athome.jp )してまして・・・本来は競合する団体サイトと民間サイトの関係なのですが・・・まことに不健全な関係です。
・ハトマークネット
全宅連の下部団体である都宅建(公益社団法人東京都宅地建物取引業協会)と埼玉県・千葉県宅建協が共同で運営する一般向け検索サイトです(した)。
全宅連に加盟する不動産業者は安い年会費で掲載料無料で物件情報を登録出来ますが、集客力の無いサイトなのと、使いにくいのもあり、あまり使われてないのが実態というところ。アットホームに物件掲載すると、オプションで、このハトマークにも半自動的に転載されるのが特徴・・・
追記:>後述のハトさんへ移行したためいつのまにか消滅。
・不動産ジャパン
鳴り物入りで「不動産統合サイト」とぶち上げ、国交省の肝いりで「日本全国の4大不動産団体共同の物件検索サイト!」を立ち上げたはいいけれど、あらゆる面で鳴かず飛ばずの不動産ジャパン、という不動産物件検索サイト。いつの間にか、単なる「不動産豆知識情報サイト」という変わりようです。
独自に物件情報を集めているわけではなく、前述の全宅連ハトマークサイトや全日のサイトなどから上がってくる物件情報を掲載しているだけで、そもそもの情報の元が物件情報を集める能力が無いので、このサイトも物件数も少なく、質も低いものとなってしまっています・・・。
因みに余談ですが、一部で、レインズに登録した物件情報がここに掲載される、という話しが出回っているようですが、それは間違いです。
運営団体は、2015年まで「不動産流通近代化センター」という名前からして超前近代的な官僚的組織で・・・現「不動産流通推進センター」という、国交省の天下り団体であります。
追記:>「国交省が主導した『不動産ジャパン」が大失敗した理由」として、海外事例との比較の翻訳や資料を交えてまとめてみました。是非ご一読いただければ幸いです。
・ハトさん - ハトマーク東京不動産
都宅建会員で作る組合の、東京都不動産協同組合が運営する一般向けサイト兼会員向け業務支援システム。
余談ですが、2011年に出来て、始まる前からこりゃないよ的な予感が的中してしまいまして・・・。説明会のようなのにも何度か出席しましたがが、以前、業界団体が、NTTデータや日立なんとかとか、いわゆるITゼネコン(SIer)に丸投げして億単位のお金を無駄にして痛い目にあったという経験から、「今度はクラウドだ!」の掛け声の下、セールスフォースの顧客管理システムをカスタマイズして、物件管理システムとして運用するとかいう企業の提案にのってしまい、「顧客」を「物件」に脳内変換して物件情報を登録するとかいう異様なシステムを採用してしまったとか・・・。
案の定、使い勝手が悪すぎて会員も殆ど使っていないという・・・(それも使いにくいのをユーザー側のITリテラシーの問題に転嫁しているような・・・。広告はやたら大量に目にしたけれど、広告宣伝費に幾ら使ったんだろう)
追記:>結局、平成28年に契約解除したとか。100%予想していましたが、壮大なるお金と労力の無駄遣いであります。
追記:>「不動産業界団体による失敗IT事業の数々」を書きました。
● 業者間流通として
次は、一般の消費者への広告という形ではなく、業者同士の物件情報の共有手法(業者間流通)です。
不動産物件の情報というのは、1社が情報を囲い込んでいては情報が広まらず、エンドユーザーであるお客さんに届きません。なので、昔から、同業者間の情報共有という協力関係は重要なものとして存在しています。
これは、物品販売やサービスを提供するだけの業界にはなかなか無い互恵関係の概念と言えるでしょう。(それゆえか、不動産屋は日頃からやたら他業者との関係で「信義則」を強調します)
実際、物件情報は不動産会社からお客さんへという流れだけではなく、業者同士で横に情報を流し合い、「これこれこういう物件で入居者募集中です。お客さんご紹介ください」と物件情報を流したり(業者間流通)、逆に「こういう条件の物件ありますか」「この物件まだ空きありますか」(いわゆる「物件確認」とか「物確」とかいわれるものですね)といった、業者同士での物件情報のやり取りや確認が日々行われています。
しかし、一部の業者による物件情報の「囲い込み」(顧客の囲い込みが最終目的)というのも存在し、そういう行為は、結果としてお客さん(消費者)の不利益となります。
なので、そういった囲い込みをする悪い業者を縛り、適正な物件情報の流通を図る必要性があります。不動産業では、通称「業法」といって、宅地建物取引業に関わる法律が整備されており、その中で情報流通を促進するための、幾つかの規定が存在します。
1. 指定流通機構レインズ
レインズ(REINS)は、前述の業法で定められた、不動産業者専用の物件情報の登録・検索サイトとなります。
追記:>この項を元にして「不動産流通機構:あらためてレインズの問題を考える」として別途詳しく書きました。
不動産業者はレインズのウェブサイト上で物件情報を入力してデータベースに登録し、それを他の業者がアクセスして検索したりして情報を共有します。システムの構成としては、まったくもって単純で、小規模なものなら素人でも作れますし、後述するように民間版は多数存在しています。
なお、レインズに法律上登録することが義務付けられているのは、ごく一部の物件情報に限られており、具体的には、売買物件でかつ取引態様が専任・専属専任の場合です。また、賃貸物件の物件情報には登録義務はありません。なので、物件データの量も質も中途半端なものとなっています。
このレインズ、法律で定められて(大臣から指定されて)いる、という理由だけで存在しているため、市場の原理が働きません。欠陥を放置したままでも市場から排除されるようなことはないので、サイトのユーザビリティは最悪で、法律で決まっているから使わなくてはいけない限られたケースで使うだけで、本来なら絶対に使いたくないような使い勝手のサイトとなっています。
まるで1990年代にあったような、「ホームページ」のイメージそのまま、という感じでしょうか。日本全国の宅建業者は、この化石のようなサイトをず~と毎日使い続けなくてはいけない、という苦行のような事を強いられてきました。
あり得ません。
何しろ、ずっとWindowsのインターネットエクスプローラー(IE)でしか使えず、ChromeやFirefoxを使っているとログインすらできず、「非推奨」とか表示される代物です。
追記:>「Internet Explorer(IE)がヤバい本当の理由」を書きました。
あり得ません。
IEのセキュリティ上の問題が多発していて、以前よりマイクロソフトからもIEはレガシーなサイト向けの互換性維持の為だけ、として新しいedgeへの乗り換えを推奨してきて、一般ではChromeやFirefoxを使うの普通であるにも関わらず、です。
あり得ません。
ついに、2021年にもなって、とうとうマイクロソフトがIEを完全に削除するとなってはじめて、やっとレインズでもChromeやFirefoxなども利用できるよう改修リニューアルされました。
少なくとも、とっくの昔に非推奨とすべきブラウザを、逆にレインズが公式に推奨(というよりもIEでしか使えない)してきたという、不動産業界全体としてのITリテラシーに関して、悪夢のような悪影響を与えて来たことは否めないでしょう。
当然、MacやLinuxの利用者の事など、まったく考慮に入れていません。
レインズはそのサイト上で堂々と、「我々はウェブ標準を無視します」と宣言していたのです。開設以来、ずっと!!
W3Cの標準に準拠したHTMLも書けない無能さを晒してきた、とも言えますね(積年のうらみw)。
あり得ません。
また、物件情報の募集図面と言ったファイルのアップロードは、PDF形式では登録出来ず、Tiff形式かJpegといった画像形式でしか登録できないという異常な仕様でありました。
せっかく紙の図面からPDFで電子化してデジタル的に管理していても、レインズには、それをわざわざ画像としてスキャンしたりスクショとったりして登録しなければならなかったのです。2021年にもなって!
あり得ません。
なので、レインズから募集図面を取得して印刷すると、画像ファイルなので、文字も滲んでしまって読めたものではない、という異常で悲劇的な状況が日々全国の不動産会社で起きていたわけです。(あぁ悲劇)
あり得ません。
中の人に言わせると、「レインズ上で図面の帯情報(元付け会社情報)を差し替えているからPDFでは無理、画像形式じゃないと無理」、という理由(直に聞いた)だそうですが、別にレインズ上で帯情報を差し替える機能を持たせる必要性はゼロであって、PDFを利用出来るようにする利点を上回るとはまったく考えられません。
まっとうに考える頭を持った人間が居たとは思えません。自分を含め、10数年以上に渡って言われ続けてきたことなのに無視した挙句、IEが無くなるとなって初めてやっと今年のリニューアルで出来るようになったとか。
あり得ません。
しかも、APIも提供されていなくて、一々手動でログインして一々手入力して物件情報を登録・更新するほかに手段が用意されていないため、無駄で非効率です。当然ながらリアルタイムとは程遠く、入力項目も多いですし、入力間違いも増えます。
(月々何万エンも払ってコンバーター業者を通して一括入稿とか論外であります)
あり得ません。
賃貸では登録の義務も無いですし、このような現状のため、賃貸ではほぼ誰もまともに使っていない印象で、業者からもレインズ経由での賃貸の問い合わせはまずこないです。
宅建業法では、売買物件でかつ取引態様が専任・専属専任の場合にのみレインズへの登録を義務付けていますが、一般媒介等では登録義務は無く、米国のNARの倫理規定にもとづく登録規定と比べれば抜け道だらけのザル。
なので、登録物件数も少なければデータの内容も質も酷いという状況。
問題を挙げたらキリがありません。
つまり、物件情報の流通を推進する、という本来の意義をとことん損なっているのがレインズそのもの、と言っても過言ではないでしょう。いや、この状況はもはや、レインズの存在そのものが逆に日本の不動産業界のIT発展を阻害する要因とも言えます。
そもそも、なぜこんなことになってしまったのか。運営元はどこか、作ったのはどこなのか・・・
例によって例のごとく、絡んでいるのはNTTデータなどの「ITゼネコン」(SIer)であります。
で、運営元はと言えば、4つ分かれている指定流通機構という一応それぞれ運営主体はあるのですが、それらをレインズとしてまとめて管轄して仕切って仕様等を決めているのは、国交省の天下り団体である「不動産流通推進センター」であります。前述の不動産ジャパンの運営元と同じです。
実際、不動産流通推進センターの事業計画書にも、
とありますね。
またか、という感じであります。
道理でくそしすてむができるわけだ、というわけです。
追記:>関連で、「DXは脱『ITゼネコン』(SIer)から始めよう」でエピソードを交えてまとめましたので、まだでしたら、是非お目を通し下さい。
2. マイソク(ファクトシート)図面
業者間の物件情報流通と言われれば、昔の人はまずこれを思い浮かべるでしょう。紙の図面です。
株式会社マイソクやアットホーム株式会社のサービスで、募集図面(マイソク・ファクトシート)の紙束を抱えた営業マンが個別に加盟不動産会社を回って、業者間で物件の図面を頒布するという昔ながらの流通形態です。一番単価は高いけれど、業者としては楽と言えば楽な手法だったわけです。
因みに、未だに現役です。紙束の量は目に見えて少なくなってきましたが。
3. 電話とFAXとメール
電話で、「これこれこういう物件ありましたらFAXください」、「アットホームで見たこれこれの物件まだ空きありますか、図面FAXください」というこれまたそこそこ昔ながらの方法もあります。
現状、一番確実で早い方法ではあるのですが、とても非効率な方法でもあります。特に繁忙期はこればかりでとてもじゃないけれど不動産営業マンは堪らないです。繁忙期には専用の電話番を雇わなければならなかったり・・・。アナログな方法かと思うでしょう。しかし、現状、実務をやっている人間からすると、これが一番確実で早い方法なのです。
なぜなら、インターネット上で掲載されている情報は古いものだったり、2次広告だったり、情報の鮮度が悪い為にインターネット上に掲載されている情報は信頼できないからです。
インターネット上で掲載されている情報の鮮度が悪くて信頼できないのは、そもそもインターネットへ物件情報を公開する方法が非効率的だからです。
特に、前述したように、レインズが使い物にならないレベルではないぐらい酷いからです。
現場の不動産会社の為にも、これを改善するのが、まず当面の問題として圧倒的に優先度が高い、と言えます。
また、一方的なFAX送付やメールのダイレクトメール送信と言った迷惑メールみたいな手法も未だに多用されています。
4. 物件検索サイトの付加的サービス
物件検索サイトへの広告掲載のため登録した物件情報を、他の業者も見れるようにした業者間流通の形態です。
たとえばアットホームのATBBとか、スーモやホームズにも似たようなサービスがありますが、比較すると、元付からの情報量としては紙媒体の頒布を行うアットホームが一歩抜きん出ている印象がありました。
5. その他
新しい業者間流通のサービスも沢山出てきていますが、より多くの会社が参加しないと意味が無いので、相互に閉じた業者間流通ネットワークがいくつ増えてもあまり意味が無いどころか、逆にフラグメンテーションを起こして流通促進を妨げかねない懸念もあります(私企業の独占も問題になりますし)。
本来は、こういう時の為に、「標準化団体」(後述)というものを皆で作って相互連携を促進させるのです。
そもそも法律上、独占が許されているレインズがまったく使い物になっていないのが問題なのであります(独占がゆえに改善も見込めない)。
因みに、これは未来の話しですが、もし自分が先の将来に向けての新しい「業者間流通システム」を自由にデザインできるとしたら、(ハイブリッド型の)P2Pシステムの情報共有ネットワーク、なんてことを考えますが、自分はもう若くも無いし、お金にもならないのでやる人もいないでしょう。現時点ではどのみち現実的ではありません。50年後とか、もしかしたらどうなっているでしょうか。自分は目にする事はないであろう未来の話しです。もし実現したら、言い出しっぺは私だと、どこかに明記しておいてください。w
不動産情報流通の課題
物件情報の流通IT化における課題というのは実際、非常に多く存在しているのは確かです。それも、この業界に入って実際に業務に携わらないと分からないような、細かな障壁だったり、安易に見過ごしたり壊したりするわけには行かないそれ相応の理由というのも存在します。しかし、大抵はクリアできる課題であります。
一つ一つ、課題を列挙して解説していきます。
・乱立して異なる入稿仕様
近年は、多くの検索サイトが乱立してきており、不動産業者としては手間も費用もかかってばかり、というのが実際のところであります。
この非効率な構造に目を付けて、いわゆる「コンバート(データ変換、一括入稿)業者」が多数登場し、長きに渡って無駄な階層・中間搾取構造が出来てしまっています。
追記:>「日本の『不動産テック』が誇る最新技術とは?スクレイピングとCSV弄り?」で詳しく触れました。
*決してCSV(コンマ区切りデータ)ファイルを書き出して、FTP(ファイル転送)とか原始的な方法なんて有り得ないから考えるのもやめて欲しい・・・と思うのが当たりですが、実際の所、各物件検索サイトへのデータ入稿は、一々手入力か、または更新がある度に、丸ごとCSVファイルにダンプして丸ごとファイルでFTPで送っているだけなのが実態です(いや今の時代、普通にHTTPでXMLでしょう)。当然、丸ごとダンプしたデータをバッチ処理しなければならないので、データベースが更新されるのは一日一回とか良くて数回。とてもじゃないけれど、非効率極まりない方法です。
業界団体にいたっては、乱立しているからといって、自分達で物件検索サイトをやろうとして、さらに乱立させて、しかも過去の失敗にも学ばず、壮大なるお金の無駄遣いを続けています。
追記:>「不動産業界団体による失敗IT事業の数々 」を書きました。
物件広告は、出して終わりというものではないので、リアルタイムに更新しなければならず、どうしても不正確な情報になります。条件の変更、入居可能(入居中、空き予定、即)状況の変化、申込・成約取り下げ等々、様々なタイミングで更新する必要があります。繁忙期などは地獄です。
特に、賃貸においては、いわゆる「仲介会社」が物件検索サイトへ大量に2次広告(先物物件)を出して集客して、(元付けの)「管理会社」にお客さんを紹介(客付け)する、というのが近年非常に多くなっています。
その結果、情報の鮮度や正確性の低下、アナログな電話やFAXによる空室確認の手間の増加、など別の弊害が増大しているのです。
具体的に、複数の検索サイトに物件情報を公開・登録する方法として一般的なパターンを以下に4つ紹介します。
パターン1. 人力型(各サイトにログインして手入力)
基本のタイプですね。どこかの外部サービスに依存しない、という点では利点がありますが、非効率極まりないです。レインズも手入力のみの対応です。
パターン2. コンバート型(中間業者=コンバート業者=登録代行)
自社の業務ソフト(物件管理システム)から書きだしたCSVファイルを、中間業者がデータを変換(コンバート)して、各検索サイト向けにそれぞれCSVファイルを変換して、FTPで送信。CSVとFTPというと、1990年代の「ホームページ作成」とか、そういう時代を感じます。
不動産の世界では、これが今どきの技術らしいのですから、タイムスリップしたような眩暈を感じます。
追記:>「日本の『不動産テック』が誇る最新技術とは?スクレイピングとCSV弄り?」で詳しく触れました。
こんなもの、技術的にもデータベースの中身をCSVでFTP使ってブン投げているだけなので、処理も重たいので日に数度の更新がやっと、大変な非効率です。 また、中間業者が入りますので無駄な費用も掛かります。
パターン3. テンプレ型(検索サイト間借り)
一つの検索サイトに完全に全部依存してしまいますね。まったくおススメしません。
ただし、インターネットを使えない個人のおじちゃん・おばちゃんでやっている零細不動産業者などが利用するには楽です。その分、自由度も少なく色々と制約も多いですが。
パターン4. 乗っかり型(管理システム全委託)
力技の丸投げ依存の高コスト体質ですね。自社が使う業務ソフト(物件管理システム)が、各物件検索サイト向けにデータをそれぞれ加工して、コンバート型と同じFTPでCSVを投げている状態。一つの業務システムに完全依存する形で、それが内部でコンバート掛けている。自由度もないし、非効率極まりないですね。
これを管理システムを開発しているソフトウェアエンジニアの人達も、内心は「なんで個別のサイトごとに一々糞みたいな仕様に合わせて変換をかけなきゃいけないんだよ、アホじゃないの?」と思っているはずです。(当然、彼らはそれで飯を食っている訳で、決して表立って公言することは無いでしょう)
パターン的に細かいことを言うと、上記4パターンと、その派生型、混合型もあります。FAX入稿や、図面出稿のオプションで、みたいのもありますが、そのうち消滅していくと思われます・・
・流通における法規制
インターネットに公開した物件情報は、申込時点で募集を取り下げないと「おとり広告」となってしまいます。
具体的には、不動産物件の情報を公開して広告する場合、宅地建物取引業法という法律の他に、景表法という法律、およびそれに基づく不動産公正取引協議会の不動産の表示に関する公正競争規約、の遵守が必要です。
不動産業者としては、これらを遵守しながら物件広告を出稿し、物件検索サイト運営者も同様にそれらを遵守するよう努めている訳です。
これはつまり、広告の発信元である元付業者が、情報の流れを把握してコントロール出来なければなりません。つまり一次情報の発信元が情報を更新したならば、2次情報公開者も遅滞なく更新された情報を反映させなければならない義務が発生します。(不動産の公正競争規約)
勝手に出回ってしまっては発信元も責任を問われる可能性が出てきますし、消費者にも不利益となります。なので、そういった意味でも物件情報の2次利用は勝手におこなってはならないという前提があります。元々無断転載、無断2次広告はダメです。空室確認せずに放置もダメです。
(関連:「スクレイピングした物件データを利用した物件検索サービスは問題ないのか」を書きました)
しかし、これをまじめにやろうとしたら、毎日ひたすらFAXと電話で物件の空き確認をし続けなくてはなりません。現実的ではありません。なので、おとり広告まがいの、「成約済み物件広告」が多いのです。
これに関しては、テクノロージー的な課題でも障壁でもなく、逆にITを使って(正確性、リアルタイム性などなどは)解決できる問題であります。
今までこれが放置されてきた原因の一つは、日本と海外では不動産に関わる法規制が異なる上、慣習も全く異なる(日本では2DKとかが基準だが、欧米ではベッドルーム数が基本等々)為、それらが参入障壁となって、海外製の規格やサービスが一切入ってこれない為、超がつくほどのぬるま湯で化石のような状態のまま数十年たっても古い慣行が硬直したまま続けられている、という事です。
・ITリテラシー
世の中には、まだまだ、パソコンに慣れない人たちは多いようです。みながパソコンを日常的に使うわけではないのが日本の現状です。いわゆる、駅前の小さな不動産屋のおじちゃん、おばちゃんの店は、インターネットなど不要でやってきたし、これからも不要という人達もいます。
それはそれで構わないです。まったく問題ありません。
問題は、それを言い訳に業界全体としてのIT・デジタル化が放置されていて発展が無いことなのです。「初心者にも分かり易いように」この一言は「普通の人には使いにくいように」と言うのと同義語です。
パソコンを使えない宅建業者の社長がいるから、業界としてもIT化出来ませんとか、ジョークみたいない話しは、他でやってください。アルバイトを雇ってもらうか、入力代行業者さんを利用してもらえばよい話しであって、現状でもアットホームや協会さんの側で紙の図面から物件情報を入稿する手段は様々存在しています。
パソコン使えない人が居るから・・・という言い訳は耳がタコになるくらい聞きました。じゃぁ、階段が使えない人がいるから、階段を一切作らないのか?と。
・ハンコと電子契約
今注目の、ハンコの問題と電子契約について触れておきましょう。一言で言うと、別に電子契約ができるようになっても何も変わらない、です。
なぜか、というのは「不動産で電子契約ができるようになっても紙やFAXは無くならない」としてまとめましたので、ご興味おありでしたらご一読いただければと思います。
オンラインではセキュリティの懸念もあり、そもそも物件情報が紙の図面でFAXや一々手入力で流通しているようでは、契約書だけ電子化しても基本何も変わらないという事です。
・悪質不動産業者の存在
不届き物の悪質不動産業者の存在が物件情報の流通を妨げている側面もあります。
物件情報の無断掲載と無断転載の2次広告を行う不動産業者がいるのです。
たとえば、某フランチャイズ系不動産業者などはインターネット上で出回っている物件情報を全て丸コピし、自社データベースに取り込み、勝手にインターネット検索サイトに広告を掲載したりして大問題となりました。私自身、実際にやっている某フランチャイズ系不動産業者の店長に文句を言った事もあります。
情報発信元である元付け業者からの依頼も承諾もなく、勝手に募集を出しているので、いわゆる「おとり広告」以前に、もっと悪質です。
某フランチャイズ系不動産業者は物件検索サイトでその「おとり広告」をみたお客さんが釣れれば、大家貸主に直接話しを持っていくか、自社物件にすり替えて契約させるという信義に反する、ような悪質な行為を行っていたりします。
そのうえ、元付けに客付けする場合、入居者から除菌消臭施工代31,500、安心入居パック18,900、初期消火器6,090円といった、契約金に上乗せ請求し某フランチャイズ系不動産業者の自社利益とする悪質な行為までしています。
こういった悪質な業者が出てくるので、本当は宣伝したい、広く情報は出して流通させたい、共有させたい、という反面、信頼している同業者以外には詳細情報はなるべく出したくない、というアンビバレントな事が起きるのです。
こういった事情は、実際に不動産業界にいて、実務をやった事のある人間でないと分からないことでしょう。
後述する米国の事例で紹介しますが、米国では業界団体が自主的に定めた厳格な倫理規定と罰則のみならず、技術的規格とツール作りによって、物件情報流通の流れをすっきりと整理しているため、このような問題が起きにくい構造になっています。
・非効率性を利益とする利害関係者
一般に、企業の目的は営利の追求であり、究極的には顧客や市場を独占しようとする力学が働きます。特に不動産業界は元々、顧客の囲い込み=情報の囲い込み、となりやすい構造です。特に大手の不動産会社ですね。
なので業界全体として情報流通が効率化することに興味がない、というか非効率のままでいい、という人達(企業)も出てきます。
さらに、不動産業者だけでなく、物件検索サイトのような不動産IT(テック)企業からして顧客=不動産業者の囲い込みに必死です。物件情報がIT・デジタルで効率的に広く流通してしまっては困る、というのが物件検索サイト運営者側の立場となりえます。
現状、不動産物件情報の流通にはあらゆるところに非効率さがあるのですが、効率的になって中抜きされたら商売上がったり、になる人達が実際のところ沢山います。例えば前述したコンバート業者などがその一例です。
まるでこの業界は、皆してわざわざ自らを非効率な不便さに身を縛り付けているような所があります。
この、不動産業の関連プレーヤー(ステークホルダー)が「抵抗勢力」となって、お互い協力もしたがらない、という事が、情報流通のIT化をしていく上での、実は一番の障壁だったりします。
ただ、不動産業界は特殊な点があって、過度な情報囲い込みでは事業も業界としても成り立たず、他業者とも情報を共有しないとやっていけません。また、囲い込みによる、両手狙いといった、消費者への不利益となる弊害が増します。(なので前述のように法律で適切な流通の促進が定められているわけなのですが・・)
このような硬直状態を打破するために、業界団体こそが率先して動くべきなのです。
・不動産業界団体の体質
前述した、業界団体系の物件検索サイト、レインズはもとより、ハトマークサイト、ハトマークネット、 ハトさんの問題です。
個人レベルからの宅建業者の集まりである不動産業界団体が、一つのウェブサイトを運営するというだけでどういうシステムやサイトが出来上がるか、というのは簡単に想像がつきます。
色々な人が色々な事を言うだけ言って、結局碌なモノが出来上がりませんし、実際の運営はITゼネコンなどに丸投げか、事務局が事務的に行うだけになる、という・・・。
そもそも、業界団体の委員会などで一般向けのサービスを運営するなど、はなから止めるべきです。役員がITに疎いのを良い事に、結局ITゼネコンなどにいいように騙されて、丸投げし、作っておしまい、になるのが目に見えています。
追記:>「DXは脱『ITゼネコン』(SIer)から始めよう」でエピソードを交えてまとめましたので、まだでしたら、是非お目を通し下さい。
官僚的組織が民間のITベンチャーがやるような事に手を出してはいけません。レインズの悲惨な状況だけで十分おなか一杯です。
業界団体(特に、東京都不動産協同組合)も、(直に私も見てきましたが)一般向けの物件検索サイト「ハトさん(ハトマーク東京不動産)」の開発運営やら、不動産物件管理ソフトやら間取り図ソフト開発など、自由な民間の市場ですでに活発に行われているソフトウェアやサービスを、わざわざあえて業界団体が2番煎じのサービス開発に無駄金を投じるべきではないのです、そもそも。
しかも、特定のソフトウェアシステムを会員に使わせようとするのは完全に間違っています。利用者の選択の自由を奪い、多様性を奪うと市場の原理が働かず、そのソフトウェアの進歩(改善)が無くなり、むしろ高価格化します。
利用者の不利益に繋がるのです。ソフトウェアの世界に限らず、当たり前の基本的な話しです。
多様性が無くなると進化が途絶えます。競争がないと改善が無くなります。独占は悪を産みます。(ブラウザーなどの事例)具体例を挙げればキリがありませんし、この説明で十分でしょう。
つまり、業界団体が、委員会等で決めるだけで、実際には外注し、それを会員に使わせよう、というのは2重に間違っている、という事なのです。そんな事がこの10数年間、目の前で繰り広げられてきたのを目の当たりにして、なんとも言えない心境でありました。結果は案の定、です。
業界団体として行うべきなのは、業務ソフトウェア関連の市場競争を促進させるための、不動産物件情報流通のグランドデザインと標準規格の策定、つまり「(物理的なものではない)基盤整備」です。
こればかりは、普通の民間では出来ません、やりたがらないのです。民間は自社で市場独占を目指します。営利企業ですから。民間にまかせた独占の結果は利用者の不利益です。
基盤整備が出来ていない混沌とした環境ではルールもなく、エコシステムの発達もあり得ません。そこの環境を整備・ルール作りをするのが、本来の業界団体の仕事なのです。具体的なソフトウェアやサービスを作るべきでは決してありません。つまり、情報流通の標準規格を制定・策定すべきなのです。
民間はその標準規格に合わせて、市場の原理でより良いシステムを開発していくでしょう。そして不動産業者は、各々の事情に合わせたシステムを自由に選んで利用する事ができるようになります。
追記:>この件、「日本の不動産業界団体による、失敗IT事業の数々」で、別途くわしくまとめましたので、ぜひご参照ください。
・不動産流通推進センターという国交省の天下り団体の存在
これまでに度々登場してきた国交省の天下り団体である「不動産流通推進センター」ですが、これの存在こそが、日本の不動産業界の発展を逆に阻害する要因となってきた真の原因とも言えます。
追記:>「『不動産流通推進センター』という天下り団体の問題点まとめ」を書きました。
「不動産流通推進センター」は、2015年4月まで「不動産流通近代化センター」という名前でした。
国交省が作った「業界近代化のための指導機関」とか、おもいっきり昭和っぽくて、しかも「指導機関」とかどこの非民主国家の話しか、という・・・。
時代錯誤もいいとこであります。逆に行政の方が化石だから早く近代化しろよ、というのが現代の話しです。(だからデジタル庁がわざわざ必要になった)
日本では、特に米国などと比較しても、国が民間の業界団体を法律で過保護に縛った上に(天下り団体を通じて)手出し口出しをしてきたことが、不動産業界の自主性を損ねてきた、主体性を奪ってきたと言えます。
本来は民間の業界団体などが主体的に行うべきことなのに、だてに天下り団体の不動産流通推進センターなどというものがあるが故に、誰が主導してやるべきなのかはっきりしない、結果、誰も何もしない、という状況が続いているわけです。
その結果、日本の不動産業界では「お上が決めること」、で誰も何もしない、何も考えない、がまかり通ることになってしまったと言えます。
・その他の一般論
その他、日本の不動産業界において、ITやデジタル化が進まない背景事情というか、根本的な原因や理由については、重複する部分も一部ありますが、「不動産業界がITデジタル化で遅れている本当の理由」に詳細をまとめましたので、ご興味ある方はご一読いただければ幸いです。
不動産業における「デジタル化」とは
以上、挙げてきた現状と課題を解決していくには、まず、IT化は前提として「デジタル化」も行わなければなりません。
ただ、この最近よく聞く「デジタル化」という言葉は何を意味するのでしょうか。
IT化=情報技術の活用、これはもうかれこれ数十年ほど前から言われていることですね。一般的には「パソコンやインターネットなどを活用していくこと」、みたいなイメージ。
一方、本来というか従来の「デジタル化」とは、紙やアナログテープなどの情報を「電子化」というかデジタル情報に変換することを言っていました。というか基本はそれを指します。
言葉というのはある意味「生き物」ですし、意味も変化していきます。専門用語という訳でもありませんし、「デジタル化」の「公的」な定義も存在しません。大多数の皆がどういう風に使っているのか、という文脈から推察する他ありません。
様々な用例を鑑みると、この「デジタル化」とは、18 世紀にイギリスで起きた産業革命における「機械化」に相当する事を言っているように思われます。
「機械化」によってもたらされたのが「オートメーション」、つまりは自動的に色々と出来るようにすることです(結果として大量生産が可能になりました)。逆に言えば「オートメーション」の前提は「機械化」であったわけです。なので「機械化」すれば便利になる、というのは言外に含まれていると言えます。
昨今の「デジタル化」というのは、「機械化」で起きたように、世の中「デジタル化」されると色々と自動的に出来るようになって無駄な手間も省けて便利になる、という事を想定・前提にしてひっくるめて言っているのではないでしょうか。
「デジタル社会」を実現させるためには
「色々と手間が省けて自動的に出来るようになって便利になる」という「デジタル社会」を実現する為には、以下のステップが必要になります。
情報をデジタルのデータにする
データを利活用できるよう標準化する
(IDだけでなくデータ形式とプロトコルなどを含めた標準化)データをオンライン化またはAPI(後述)などで繋ぐ
それらのデータを利用してオートメーション
原義的な意味においての「デジタル化」、つまり「デジタル情報に変換すること」だけが主眼になっていると、「相互運用性(インターオペラビリティ)」が欠けています。
これはつまり、単に「情報をデジタルにしています」では、それぞれが独自固有のデータベース、印刷向けのPDF、表示用のHTML、表計算のエクセル、・・・等々、皆がてんでんばらばらのデータ形式で、互換性が無いので相互運用性も無く、相互にデータを利活用できない状況になってしまうのです。
日本の行政がやってきたのはこれの典型であります。(まぁデジタル庁も出来てなんとかすると言っていますがどうなることやらというところです)
不動産業で言えば、物件データは各社それぞれ不動産業務ソフト・システムなどで独自固有のデータベース形式でデジタルに管理されているわけです。レインズも独自固有のデータベースです。しかし、それぞれのデータ形式も定義づけにも互換性はありませんから、相互運用性も無いということです。
結果、せっかくのデジタルデータも利活用が進みませんし、不便なままとなります。
まず、相互運用性を確保するために、皆の「共通言語」となるデータの仕様を、使う皆で決めることが必要なのです。これを「標準化」と言います。
標準化して初めて、お互いにデータをやり取りする際の相互運用性が確保されるのです。でないと、いちいち相手先に合わせて使う「言語(データ形式と定義)」を確認してそれに合わせて「言語」を学習していちいち使い分けなければいけないという大変不便な状況になってしまうからです。
そうしてやっと、各々のシステムがAPIなどを実装して、異なるシステムと繋いでデータを引っ張ってきてデータを有効活用(オートメーション等)が出来るようになります。
当然のことながら、APIの仕様も、皆がてんでんばらばらの独自仕様を採用していたら同様の不便な状態ですから、相互運用性を目的として標準化する必要があります。
標準化とオープンスタンダード
「標準化(standardization)」ということばの意味は幅広く、様々な場面で使われています。日本では「業務の標準化」や「書式の標準化」などの場面で目にすることが多いことでしょう。
技術の世界、特にITなどの通信技術の分野では「標準化」というのは特別な意味を持ちます。なぜなら、FAXも含め、すべてが標準化された規格・仕様の上で成り立っているからです。
インターネットやその上で動くWorld Wide WebといったITの発展も、「標準化」という作業を関連業界を挙げて有志をはじめとした皆が協力して行い、「スタンダード(標準)」となる規格・仕様を策定し、皆が便利になる仕組みを皆で作り上げてきたからこそ、なのです。
標準化された技術の規格・仕様がなかければ、ブラウザーでページを閲覧することも、メールを送受信することも出来ません。
これは、中立的な「標準化団体」という独立した組織を作って、そこで関連する人・組織・企業が集まって広く透明なプロセスで民主的に仕様やルール・ガイドラインといったものを決めてきたからこそ可能なのです。
もし特定の企業や国が実権を握るような団体が主導して決めたものだとしたら、インターネットも世界で使われることは無かったでしょう。
このような方法で、「皆んなが使う皆んなで決められる皆んなのもの」、という技術的な規格・仕様は、「オープンスタンダード(オープン標準)」と言われています。
特に欧米では、各種ビジネス業界でも同様に「標準化団体」を結成して、「標準規格」と言った仕様を「公共財」として皆で使うオープンスタンダードを作り上げて、業界の発展に寄与させています。
日本においても、特に国際標準を目指す分野においては、標準化の重要性は認識されています。
しかしながら、日本においては、ITの分野においてすら、欧米の標準をそのまま取り入れるケースがほとんどで、残念ながら日本においては標準化という活動は欧米ほど認知されているわけでもなく、一般化しているとは言い難い状況です。
これが日本がITで遅れを取ってしまった主要な原因の一つと言えます。
オープンスタンダードの重要性と独占の悪
インターネットやその上で動くウェブ(World Wide Web)の歴史を振り返ると、「独占という悪」と「オープンスタンダード」の戦いの歴史でありました。
古くは、マイクロソフトのWindowsが市場を独占しつつあった頃、Windows既定ブラウザーであったIEも市場において寡占が進み、オープンスタンダードがないがしろにされつつ合った時代がありました。WindowsがOSとしての独占的立場を利用してプリインストールするIEがブラウザ市場を占有しはじめ、インターネットにまつわる規格「ウェブ標準」(HTMLやJavaScriptやCSS)までもが歪んでくる(ないがしろにされる)、という現象が起きていたのです。
当時は、IEでしか見れないページ、逆にIEでは観れない(崩れる、動かない)ページなどが非常に問題となっていました。逆にこれを利用して、IEのライバルを市場から排除しようとしていた、とも言えます(ブラウザ戦争)。結果としてウェブにまつわる技術の進歩も停滞し、IEのセキュリティ問題が噴出します。まさに「市場独占」の悪い理由がここにあります。
これではいけない、と、欧米を中心に、独占禁止法にまつわる米国での裁判、EU対マイクロソフト、という法定での戦いが始まり、さらには草の根の民間ではLinuxといった自由で開かれたオープンソースのOSや、Firefoxというブラウザーが登場します。同時に、「ウェブ標準」というスタンダードを尊重しよう、という流れが強まります。皆でいかにウェブ標準に正しく準拠しているかの競争をしよう、みたいな所もあり、健全なる競争が始まったのです。
種の存続と進化の為には種の多様性が不可欠、というのに似ていて、健全な市場には多様性と競争が必要だということを、皆が再認識をしたのです。その後、新しく登場したGoogleは、Do no evil(悪は行わない)を謳って一躍有名になりました。(今ではむしろ、そのGoogleがevilになりつつあるとの指摘もありますが)
ウェブの世界は改めて「独占の悪」と「オープンスタンダードの重要性」を認識したのです。
この現在にいたる「ウェブ標準」重視の流れのおかげで、インターネットの分断や大混乱は起きずに済んだと言えます。FirefoxやChromeといったブラウザーは、ウェブ標準をベースに種々の機能を開発し利便性を追求してより便利なものとすることに注力し、ユーザーとしては、FirefoxやChromeと言った、自分の好きなブラウザーを自由に選んで使って問題なくウェブを閲覧することが出来るのです。
標準化に関する誤解
標準規格とか標準データフォーマットとか、標準化といった言葉を使ってきましたが、一般的にはなじみがない言葉のようで、非IT系の方からはビックリするようなものすごい誤解を受けることもあるので、触れておきたいと思います。
まず、間違っても「物件名称」とか「物件名」とかの用語や項目名の統一を図るもの言っているのでは無いのでそこを誤解をしないで頂きたいと思います。業務の標準化でもありません。
大昔(10数年前)、不動産流通近代化センター(現不動産流通推進センター)の天下り元官僚の理事某が、「『物件名称』とか『物件名』とか色々なんで、標準化など出来ない」という発言をしたのですが、基本中の基本を勘違いしてます。
個々の企業やサービスが、「物件名称」という表現を用いていようが、「物件名」としていようが、全然構わないのです。標準化とは、「物件名称」を用いているシステムと、「物件名」を用いているシステムが、同じ共通言語でデータをやり取りできるようにするための中間フォーマットを作る、という話しです。
標準化の主目的は「相互運用性」なのであります。
これは、関連するベンダー(機器の製造業者であったりソフトウェアの開発業者であったり)や業界団体が、その業界発展の為に、皆で協力しあって自主的に標準化団体を作って活動するものです。
例えると、種の多様性は種の存続と進化の為に不可欠だが、共通言語がないと不便、ということと全く同じです。その「共通言語」をみんなで定めるのが標準化作業です。
なので標準化団体というのはどの業界にもあって、金融・会計・財務関連の国際標準として、各種業界の各用途向けに様々存在しています。
残念な事に、日本の不動産業界には標準化団体は存在していませんが。
標準化の技術と原則
では具体的にどうするか、という解決策について触れる前に、不動産物件情報のデジタル技術標準化における技術的な要素と前提となる原則について触れておきたいと思います。
・3大原則
1.インターネット(ウェブ)
2.オープンスタンダード
3.ベンダー独立・非依存
一つ一つ見ていきます。
1.インターネット(WWWでありHTTPを使う)
当たり前すぎる話しですが、たまに変な話しが出てくるので、念のためであります。
大昔のメインフレームの時代でインターネットやウェブが普及していなかった頃のEDIを引きずるような、専用回線でやり取りするような閉じたネットワークで行う、というのは物件情報流通を促進するにあたり、ある意味時代に逆行する話しであり、参加者を排除しないネットワークつまり開けたインターネットのウェブを使うべきであります。
FTPでファイル送信などという化石のような時代の話しでもありません。
2.オープンスタンダード(非プロプラエタリー規格)
ウェブ開発の大原則であります。オープンな標準規格を利用し、策定する、独自規格は使わない、しない、ということです。
特定企業のソフトウェアやシステムの利用を強制させるのは論外です。IEでしか閲覧できないサイト、Windows(プラットフォーム)でしか使えないActiveXの埋め込みサイト、ドコモの携帯でしか見られない「i-mode」それらは、死に行く運命なのです。それは、World WideなWebでなく、オレオレNetのオレ様ネットワーク。インターネットではないのです。W3Cの仕様と規格と原則に則ったインターネットであるべきです。(ええ、2021年になってやっとIE限定が解消されたレインズの事ですよ、レインズ)
データ形式についても、特定のベンダー(製造業者)の権利のあるソフトウェアでないと、編集できないデータ形式は論外です。たとえば、マイクロソフト社の表計算ソフトのエクセルでないと編集できないデータ形式などですね。
例えマイクロソフトがなくなっても大丈夫な仕様にすべきなのです。あくまでも仕様はベンダーやプラットフォームから独立したものでなければならない、ということであります。
参考までに、EU(欧州連合)における、オープンスタンダードの定義を以下に引用します。
オープンスタンダードの標準化作業は、一企業や国や監督官庁が関係する団体によって行われるものではありません。あくまでも業界団体か、関係者(ステークホルダー)であれば誰もが参加できる独立した民間の中立的な組織が行うべきものなのであります。
3.ベンダー独立・非依存
特定の企業の独自システムに依存するのはベンダーロックインと言って、避けるべきことです。意図していなくても、外注しているだけでは自然とそのような状態に陥るでしょう。
日本独自の悪習であるITゼネコンに丸投げ、と言った事は論外です。
なにしろ、日本のITゼネコン(SIer)は、NTTデータや日立なんとかと言った、一定以上の年齢層には効果てきめんの名前を使った子会社を利用して、業界団体に取り入って、素人でも作れるようなサイトを自分達では一切作りもせず、下請けのさらに孫請けなどに丸投げし、相手がIT分からない層だからといって、いいようにお金を吸い上げてポイするようなヒルというか、吸血鬼のような存在だったからです。
最近でも、デジタルトランスフォーメーション(DX)だ不動産テック、なんて言葉が出てくると、いつものようにすわっとばかりにITゼネコン関係の人達が飛びついてきて、例のごとくバズワードを散りばめた中身空っぽの売り文句で宣伝や広告営業を掛けてきます。本来のDXとは、そういうITゼネコン依存から脱却することから始まるのですけれどもね。
追記:>この件については、レインズの所で前述しました通り、まとめて「DXは脱『ITゼネコン』(SIer)から始めよう」で書きましたので、まだでしたら、是非ご一読いただければと思います。
・XMLフォーマット
Web APIでシステム間の相互連携が出来る、という事ですが、データの形式はどうなるか、というとXML形式で記述したものを使います。
XMLはデータフォーマットを用途に応じてそれぞれ定義して利用する為の標準規格で、ありとあらゆる所に使われています。ある意味、標準フォーマットを作るための標準規格とも言えます。
ワードなどの文書ファイルも中身はXMLフォーマット、アプリの画面設計のフォーマットもXML、システムの設定ファイルもXML。いたるところで使われているので、100%間違いなく誰もが一日に一度はXMLを利用した技術を使っているはずです。
金融業界を含む各種業界でも、標準データフォーマットとして利用されているのです。
具体的な例としては、金融・会計・財務関連の国際標準フォーマットとして、XBRLというのが標準化されています。これは2000年代初期には既にあった記憶があります。(日本の場合、全銀EDIが2020年までメインフレーム時代の固定長形式を引きずったままで、XMLフォーマットへの移行ですら20年ばかり遅れを取りました)
XMLは、標準フォーマットを定めるのに最適なのは、「名前空間」というのを利用して、標準規格のフォーマットに独自の拡張を施す事も可能ですから、非常に柔軟性と拡張性があるためです。
分かり易く説明する為に、まず見て頂いた方が早いと思うので、不動産の物件情報を記述するXML形式のフォーマットを例示したいと思います。非常に簡略化しており、現実的でも無いものですが、分かり易さ優先でタグ名も日本語にしています。ごくごく単純なサンプルですが、少なくともイメージとしては分かり易いのではないでしょうか
標準のフォーマットで皆が合意して「標準」が出来たとしても、ある企業では独自の項目があって、それを含めて流通させたいこともあるでしょう。
そういう時の為に、XMLには「名前空間」という仕組みがあります。
「hoge:コメント」の太字部分は、独自の名前空間で追加(拡張)した項目で、この項目は、分かっているシステムではそれを解釈しますが、そんな項目知らんよ、というシステムでも問題なくその他の部分を処理できます。
この名前空間の拡張により、自社の独自項目を追加しても、なんの問題もなく他社システムとの連携を取る事が可能になるのです。殆どの方はこの事実を知らないで、「標準化など無理」などと言います。単に、XMLの事を知らないからそういう事を言ってしまうに過ぎません。
また、XMLのスキーマ定義を利用し、データの項目がちゃんとあるか、といった定義に即したデータであるかの確認が簡単に出来るようになっています。このスキーマ定義が仕様書としても機能し、異なるシステム間での利用に用いられます。
*因みに、中にはJSON形式を使わないのか、と言う人もいるかもしれませんが、JSONは元々JavaScriptネイティブのデータフォーマットで、ブラウザの要素を一部書き換える為のデータフォーマットとして、小粒なデータをブラウザ内のJavaScriptがサーバとやり取りしたりするのに主に利用されており、その用途で最適なものであって、不動産物件情報の流通、といった汎用的な業界標準フォーマット用途には、XMLの方が向いている、と個人的には思います。スキーマや名前空間といった便利な仕組みもありますし。まぁ、XML形式とJSON形式は、両方ともライブラリが揃っているので出入力に両方対応させるコストは微々たるもので、どうしてもというのであれば、おまけでJSON対応すれば良いに越したことはないです。
このようにして、物件検索サイト側が、データ入稿に標準のXMLとAPIに対応さえすれば、業務ソフト(自社で使う物件管理システム)から、効率的に物件情報の流れがコントロールできるようになります。
ポイントは、このAPIとXMLフォーマットは、一企業の独自仕様ではいけない、という事です。業界団体なりが主体的に動いて、関連する所すべてに働きかけて、標準化団体などオープンな形で策定すべきものです。
・WebサービスAPI
APIとは何か、というのは「Web API」や「WebサービスAPI」で検索して頂ければ山ほど情報が出てくるので調べて頂くとして、一言で言いますと、異なるシステム同士で連携する仕組みです。つまり、システムの機能の一部を切り出して、外から利用できるようにする、という意味合いがあります。(ウェブを介してやる場合はWeb APIと言った方がより正確。厳密にはWebサービスAPIと言ったりします)
これにより、AシステムからBシステムのWeb APIを使ってそこのデータを取得したりそこに新たに登録したりできるようになります。
実は、皆が使っているブログですらAPIが利用できます。どのブログでもブログ投稿APIに対応していて、様々な「ブログエディター」や「ブログ投稿クライアント」と言ったツールを利用してブログを投稿する事が出来るようになっています。例えば、あるブログ投稿ツールを利用して、Aブログに投稿し、Bブログに投稿、という事も出来るのです。
ブログAPIが共通で標準化されているからです。
厳密に言うと、ブログAPIの場合、有機的に広まってデファクトスタンダードが普及したXML-RPCと、IETFというインターネットの技術にまつわる標準化団体により標準化されたより汎用的なプロトコルの、Atom Publishing Protocolという二つのAPIが利用されています。
このAtomという標準規格は、データフォーマットのAtom Syndication Formatと、それをやりとりする通信規約であるAtom Publishing Protocolがセットになっています。このAtomという規格は汎用的な規格なので、まさに物件情報を登録し変更削除などを行うのにちょうど良い参考となる規格です。
*技術的な詳細に触れると、APIには主に二つの形式があり、RPCタイプとRESTタイプに分かれます。RESTはよりインターネットネイティブと言える方法で、この方法が現在主流となっています。RESTな(RESTfullと言います)APIは、ブラウザと同じで、あるURIに対してGET、つまりこのIDのリソース(HTMLページとかXMLファイルとか画像ファイルとか)をくださいな、とすると、取得できたりします。POSTでリソースを追加・登録です。このIDのリソースを削除してくださいな、という場合はDELETEで、更新はPUTです。CSVでデータベース丸ごとダンプしてFTPでファイル転送するような野蛮な方式とくらべて、なんとシンプルで美しい方法ではありませんか。
追記:>重複する部分もありますが「不動産APIを分かり易く解説してみる」でも解説しています。また「日本、気づけばガラパゴス 不動産API連携に後れ」でも、少しAPIについて取り上げています。
その他
・EDIという用語について
EDI(Electronic Data Interchange)、つまり 「電子データ交換」という表現が未だに国交省など官公庁をはじめとして使われている実態がありますが、殆どの「電子データ交換」がインターネット上のウェブに移行した現在ではもはや最も適切な表現とは言えません。
というのも、大昔のメインフレームの時代でインターネットやウェブが普及していなかった頃(1970年代〜)からのEDIというのがあって、システム同士が専用回線で直接接続されるものを指していたことがあります。主に製造業とかのサプライチェーンにおける異業種間における業務電子化で使われていたものです。EDIという言葉が使われている業種や分野(全銀EDIなど)はそうした過去の歴史上の経緯から、慣習的に引きずったまま使われ続けているに過ぎないところがあります。ウェブ上でやり取りが行われる現代に至ってはもはや死語というか過去の遺物というか、特殊なケース以外使われません。
英語圏でも、特にインターネット時代に入ってからのものは普通に「Webサービス(ウェブサービス)」です。
・不動産ID
不動産IDは、XMLとAPIとちょっと違うレイヤーの話しですが、必要と言えるでしょう。
本来は標準化の段階で決める様々なことの内の一つにしか過ぎないものです。標準化にあたって、日付形式や文字コードの仕様を決めますが、同時にIDの仕様も決めるのが普通です。(ただし、無くてもWebサービスAPIは運用可能です)
現在、物件情報で、個別の物件を一意に識別する確実な方法はありません。つまり、A社が登録した「XXXマンション*号室」と、B社が登録した「XXXマンション*号室」は同じ物件なのか分からないという事です。一般媒介物件だと複数の元付け会社から物件情報が回ってきますから、識別できた方が良いです。仲介先物を二次広告として流す業者もいますし。
物件の住所で分かるではないか、というのは素人の考えで(私も不動産業に入ってから知ったのですが)厄介なもので、日本では様々な表記が存在し、単なる「表記揺れ」だけにとどまらず、平たく言うと登記簿上の所在地と郵便配達用の住所、地番と住居表示という2種類が存在してたりします。名簿のような「名寄せ」で特定も確実ではなくアナログ処理バリバリで難しい所があります。
登記簿謄本にある「不動産番号」を使えば良いのでは、と思ったりしましたが、登記簿情報を識別するIDを流用するのは色々とスッキリしない点があります。区分所有の建物じゃないと、部屋ごとに番号付かないし、土地も一筆単位だったりするし・・と。
という訳で、不動産IDが新たに出来ると、業者間で物件情報をデジタルでやり取りする際に、住所や物件名の表記揺れに関わらず、どの物件情報なのかを特定する事が出来ます。(<出来ると、1つのデータにまとめたり、表示を整理できます)
因みに、不動産IDは無くてもAPIは運用可能ですが、逆に、単に不動産IDだけ決めても、物件情報流通においては何の意味もありません。
追記:>本来は、標準化作業をしていれば、とっくの昔に出来ていたことです。この件について、「『不動産ID』についてひとこと」として呟いています。
追記:>「バズワード化する「不動産ID」〜日経新聞の記事についての感想」を書きました。
追記:>「米国版『不動産ID』、RESO UPIの事例を紹介」を書きました。
追記:>「相変わらず酷すぎる 〜 国交省が、「『不動産IDルールガイドライン』を策定」して公開したのだけれども・・・」を書きました。
海外事例
米国における事情ですが、幾つかの要素が絡んでおり、また日本語では非常に不確かな情報や間違いばかりがメディアを含め出回っている状態なので、全体として系統だててご紹介したいと思います。
NAR(全米リアルター協会)
全米リアルター協会(National Association of Realtors)- 通称NARとは、米国最大の不動産業界団体です(以下、NAR)。
1908年にNational Association of Real Estate Exchangesが設立され、1913年に倫理規定(Code of Ethics)を採択し、現在のNational Association of Realtor(NAR)へと至ります。
その特徴は、NARの「厳格な倫理規定(Code of Ethics)」を遵守することを誓約するものに限り、会員であるリアルター(REALTOR®)と名乗ることが出来る、ということです。
追記:>「NAR(全米リアルター協会)とその倫理規定(Code of Ethics)」を書きました。
NARは、その発足以来、様々なことをしてきましたが、その中でも不動産の技術的な発展の中心となって動いて来ました。
ここでは海外のシステムをそっくりそのまま真似するのが良いといっているのではありません。各国の事情法律慣習に合わせて考えるべきなのは当然です。
見て欲しいのは、これから紹介するその本質と米国不動産業界のテクノロジーに対する姿勢です。
以下、NARが重要な役割を果たしてきたその功績ともいえる「MLS」、「Realtor.com」、「RETS」、「RESO」を順番にご紹介いたします。
MLSとは
米国には、Multiple Listing Service(MLS)という組織による、不動産物件情報データベースに基づく物件情報の共有・連携システムがあります。
これは、業者間流通の項でもふれた互恵関係に基づく不動産業者の集まりによって、自主的に物件情報の流通を促進する為に設立され、運営されているのです。
米国における不動産情報流通の基底にあるのがMLSですが、それを全米に普及させたのは、他ならぬNARであります。
追記:>詳細は、「米国の不動産業におけるMLS(multiple listing service)とは何か」にて解説しましたので、ご参照ください。
このMLSですが、ちょっとカジッた人にMLSの話をさせると、すぐレインズと関連付けて、あれやこれやと勝手に解釈して結論付けるので、本当に面倒であります。
「日本にはレインズがある」などと、ズレた事を仰いますが、レインズを使った事があるのでしょうか。むしろ「日本にはレインズが~」という念仏を唱えて思考停止しているだけの気がします。
レインズの事情はなんども触れてきましたが、比較の対象にもなりません。レインズとMLSの根源的な違いは、アメリカのMLSはその意義を認めた民間が主体でやっていて、日本のレインズはお上が法的に義務付けたので設置している、という違いです。
日本の不動産業界では、お上(国交省)が決めたレインズがある事だから、と考える事を放棄して、発展させることもなく、業界が主体的に動く事をしていない、と感じることがあります。
さらに、何故か日本(の一部「不動産テック」界隈)ではレインズとの絡みで「MLSは一般にも公開している」(からレインズも)とかいう話しが出回っているようですが、そんな事はありません。
追記:>「巷の、「レインズの『オープン化』論」の論点を整理してみる」で詳しく解説しました。
他にも、レインズとMLSの絡みで、日本で出回る誤解や事実誤認については、「日本の『不動産テック』に関する問題」や「米国の不動産業におけるMLS(multiple listing service)とは何か」にて具体的に幾つか例をあげて紹介していますので、ご興味あれば、ご一読くださればと思います。
前置きが長くなりました。
・Multiple Listing Service(MLS)とは何か
以下、翻訳引用するのは、一般消費者向けの検索サイト「リアルター・ドットコム(realtor.com)」での説明です。
以下は、NARサイト上での説明となります。微妙に異なるので、参考までに引用して翻訳します。
*面倒になってきて読みながら一気に直訳調で翻訳しながらタイプしているので、誤字脱字誤訳指摘歓迎です。
米国のMLSには、日本と違って宅建業法のような法的な制約がないですから、不動産業者は自分たちの物件データの使いみちは自分達で決められるというわけです。
つまり、日本と米国での物件情報の流れを比較する図にすると、以下のような形になります。
(参照:「日本の不動産屋は『イカレている』か『マゾ』のどちらかである」)
関連で、IDXというのもあります。
・Internet Data Exchange(IDX)とは何か
このIDXという技術というか仕組み(仕様とサーバー)とポリシー(ルール)によって、MLSのデータを自社のウェブサイトに埋め込んで検索させることも出来たりします。
ですから、MLSで物件情報の取り下げ(非公開)があれば、自動的にその物件情報はすべて取り下げられますから、情報の鮮度と正確性が保たれるというわけです。
Realtor.com
しばしば、「NAR(全米リアルター協会)が(主体となって)運営する」といった紹介がされる全米最大規模の不動産物件検索サイトのリアルター・ドットコム(realtor.com)ですが、これまたちょっと事情は異なります。
運営しているのは、Moveという会社です。元はRealSelectという会社だったのですが、1990年代の終わりにNARが少しだけ出資して提携(パートナーシップ)を結んで、そのRealSelectが後にMoveを買収してNASDAQへ上場し、後にMoveに社名変更、2014年にNews CorpがMoveを買収・・・という経緯(ややっこしい)。で、NARはRealtor.com というアドレス(URL)をライセンス許諾している、という・・・。(ややっこしい)
この件、関連して、「国交省が主導した『不動産ジャパン』が大失敗をした理由」でも、リアルター・ドットコム(realtor.com)について紹介しています。
RETSとは
Real Estate Transaction Standard (RETS) とは・・・。いまどきの技術を知っている20代のプログラマ相手だったら、「不動産情報の(デジタルデータ)標準規格」だよ、と言えば、全て理解できるので一行で終わってしまうのですが.... 技術用語をなるべく少なくして、分かりやすい説明を試みます。
RETSには、不動産物件情報をXMLで定義した、不動産情報の標準データフォーマットや、各データ項目などを定義したデータディクショナリ、といった様々な仕様が含まれます。
というモノです。1999年から動いているんです、アメリカの不動産業界は。
余談ですが、当時は、XMLは普及し始めていたものの、「REST」なんて概念も普及してなく、Webサービスとしてはマイクロソフトなどが推していたXML-RPC系統の「SOAP」が最新テックでしたね。
そんな時代なので、「日本の不動産情報を標準化すべきなんでは?」と、2002年に自分が日本の不動産業界に提言した内容は「XML」と「HTTP」で、みたいな今で言うREST風のものでした。(当時書いた文章は読めたもんじゃない・・・若かったなぁ)
その後、2000年代なかばぐらいからWebサービスで「REST」が普及してきた感じです。(日本でも、オライリー本の「RESTful Webサービス」が出版されたのは、2007年)
2010年頃までにはREST のWeb API が主流となり、世の中のブログブームによってブログ投稿APIやRSS/Atomフィードの普及でこれらテクノロジーが一気に身近なものに・・・(熱い時代でした)。
余談終わり。
もう少しRETSについて詳しく説明すると・・・ 私が書くよりも技術用語を避けて上手く説明してくれてますので、訳してみました。
*訳すのがだんだんだるくなってきてしまって、雑になってきている可能性があるので、読みにくければ原文を参照ください。m(_'_)m
RESOとは
元々、1999年からNARが中心となって行ってきた不動産情報流通技術の標準化の結果が、業界標準規格のRETSです。
が、このRETS、現在は、deprecated(レガシー規格で非推奨)になっています。
RESOという標準化団体を立ち上げたので、そっちでやろうという話しになったのです。
・RESO(Real Estate Standards Organization)
2011年、NAR(全米リアルター協会)が中心となって行ってきた不動産情報流通の標準化作業が、独立した非営利団体のRESOへ移管されました。作業部会が分離独立した形です。もちろんNARも全面的にバックアップしています。
RESOは、Real Estate Standards Organizationの頭文字を取ったもので(発音する場合は「リソ」)、直訳すると「不動産標準(化)組織(団体)」みたいになりますが、日本語でうまく簡単に表現できないのが面倒です。
追記:>「不動産の標準化組織 RESO(Real Estate Standards Organization)とは」で詳しく書きました。
現在(2016年執筆時点)、日本語でRESOが紹介されている文献は一切存在していないのですが、日本語情報が無いという時点で日本の不動産業界がどんだけヤバい状況なのかが推察できるというものです。
現在RESOでは、API仕様の「RESO Web API」、項目定義の「Data Dictionary」、各種IDの仕様を定めた「RESO Unique Identifiers」をメンテナンスしてます。
このRESOのパートナーとして、個々のブローカーからテクノロジー企業、今どき不動産テック企業として話題のZillowやCompassまで、物件検索サイトの大手から大小様々のブローカーを含めて、まさに不動産業界と関連サービス企業の全員大集合状態です。
そのAboutのページには、
とあります。さらに、設立当初の文面では、
との文章がありました。
で、このRESOという標準化団体において、前述のRETSを置き換える、RESO Web APIが新たに策定されました。
・RESO Web API
と、いう事です。
2002年から私が一人で言い続けている事を、アメリカでは実際にどんどん実行して、実現させている事が羨ましくて仕方がありません。
まとめと提言
以上、現状と課題と技術要素、さらに具体的な海外事情を見てきたところで、日本の不動産業界の情報流通の目指すべき姿のまとめです。
Webサービス型の不動産情報流通へ
電話やFAX、メールやホームページを閲覧、手動で情報登録・更新、ファイル転送(CSVとFTP)と言った旧来の方針のままではなく、「Webサービス型」の不動産情報の流通を目指す必要があります。
不動産情報技術標準の策定
まずは、各物件検索サイトやレインズへの入稿で、いちいち手入力やわざわざコンバートをしなければならない状況を無くすべきです。このようなケースでは、様々な利用者や複数のステークホルダーが存在しますので、不動産業界団体が主導し、「共通言語」となるべく中立的な標準化団体なりで技術の標準化を行うのが定石です。
日本でも、不動産業界団体がみずから旗を振って動き、関連する人々すべてに呼びかけ、有志を集め、標準化団体なりを設立し、標準化作業をやるべきということであります。
これは特定の企業でも、国や監督官庁が関係する団体によって行われるべきものでもありません。その標準化作業は、関連するステークホルダーすべてに開かれたものでなければならず、そのプロセスもオープンなものであるべきです。特定のベンダーに偏った囲い込みや独占を防ぐのがポイントだからです。*ITゼネコンは例外として特に排除すべきでしょうw(冗談です)
不動産情報技術標準という、オープンスタンダードの策定が必要なのです。
具体的には、
1.不動産XML(ドキュメント・フォーマット)
データフォーマットをXMLで標準化し、どのベンダーのソフトウェアからでも統一されたフォーマットで情報を入稿できるよう標準規格を整備すべきです。
当然ながら、各項目を定義するデータ・ディクショナリなども策定する必要があります。
2.不動産API(プロトコル)
標準の「不動産API」を使えば、異なるシステム・ソフトウェア同士で情報のやり取りが飛躍的に効率化され、例として挙げて来た、様々な課題や弊害が解消されます。
前述した通り、海外の不動産業界ではRESO Web APIがあります。ブログでさえ、普通にXMLのAPIをサラッと使って投稿しています。
日本の不動産業界で出来ない理由はありません。
3.物件検索サイト・レインズ入稿で標準APIに対応する
XMLのフォーマットとAPIが標準化されれば、自社物件管理システムからレインズなどに物件情報を登録(または更新・取得)する際だけでなく、様々な連携がスムーズになり、新しい利用方法も出てきます。
まず、各物件検索サイト(レインズ含む)のサーバー側が標準不動産APIに対応するれば、各不動産会社が使っている業務システム(業務支援・物件管理ソフトウェア)のソフトウェアから直接物件情報の登録・更新が出来るようになる、という事です。(CSV+コンバート+FTPでファイル転送みたいな非効率であり得ないやり方から卒業できます)
上記の図で言うと、「Webアプリケーション・プラットフォーム+データベース」の部分は、自社ウェブサイトでも、ハトマークや不動産ジャパンのサイトでも、それこそレインズとも、はたまたそれ全部ひっくるめて読み替えて頂いてOKです。
未だにレインズに手入力させたり、CSV+FTP、コンバート業者に月々3万円を払ったり、といった原始的で現近代的で非効率な状況を卒業しましょう。
標準化のメリット
ドキュメント・フォーマットとWeb APIの仕様が標準化されれば、自社物件管理システムから直接各種サービスに物件情報を登録・更新・取得することが出来、様々な連携がスムーズになり、流通が促進され、コストも下がり、新しい活用方法も出てきます。
これにより、新鮮で正確な物件情報が、より多く効率的に集められ情報共有が促進されるでしょう。標準が定まれば、物件情報のデータがいい加減なまま無法規な状態であちこちに散らばったままという事態も防げます。
他にも沢山の利点があって、なによりまずユーザー(不動産会社)に自身の好みにあったUIのクライアントソフトウェアを選ぶ自由を与えることになります。不動産会社は、もはやレインズのような酷いUIに悩まされることは無くなるでしょう。
不動産ITサービスや業務支援システムを開発提供する企業としても、標準に則ってシステムを開発できるということは利点となり、設計の簡易化や冗長な処理を省いて、一度標準APIに対応さえすれば全てのサービスに対応できることになります。開発企業が楽になり、品質や機能向上に専念できるようになれば、これは巡って利用者である不動産企業の利益となることでもあります。
それだけでなく、新たな活用方法として、例えば物件管理システムから物件情報データを業界標準のXMLベースのファイル形式で書きだし、別の(他社製)図面作成ソフトに流し込んで図面を自動で作成とか、または元付け会社が物件情報をXML形式でメールに添付して送信したり自社サイト上で配信して - RSS・Atomフィードのように! - 受け取り側の客付け会社などがそれを利用する等々、色々な有効活用の方法が出て来て不動産業界も活性化するでしょう。
標準化に向けてのコンセンサス作り
抵抗勢力の反対は大きいでしょう。
物件検索サイトなど旧来からの不動産IT事業者は囲い込みがビジネスモデルですから、情報流通が効率化して不動産業者が楽になるのは自社ビジネスにとって不利益になりうるため、裏で強硬に抵抗するでしょう。しかしそれは、近視眼的な考え方からくる誤りです。本来は、そういったステークホルダーにも大きなビジネスチャンスとなるものだからです。
経験上、そういった抵抗勢力は、大抵表立っては反対せず、なんだかんだ話しを逸らしたり、無関係な理由を持ち出して否定します。そう言った旧習にしがみつく抵抗勢力を組み伏せる必要があります。つまり、論理的に根拠を上げて説明して説得です。
また、単に「標準化を」と言われてもなかなかイメージが湧かずに、「(良くわからないから、どう変るのか分からず)現状を変えるのは嫌だ」、という不動産業の人達も多いでしょう。
そうした人達にはぜひともこれを読んで頂きたいと思います。
国交省や国交省の天下り団体の不動産流通推進センターなんてのはそもそも相手にする必要性すらありません。
これは不動産の物件情報の流通を促進するための話しであって、業法の趣旨そのままだからです。反対する役人や官僚や天下りが居たら、単に自分達の利権を維持したいが為の保身にすぎません。
不動産業界の中でさっさとコンセンサスを作って、物事を前に進めて、「業界としてこう仕様を決めたんで、よろしく」と言ってやるだけで良いのです。
そうじゃないと、いつまでたっても不動産業界は進歩(近代化)しません。
日本でも、不動産業界、腰を上げて標準フォーマットとAPI規格を作りましょうよって話です。
終わりに
この「不動産情報デジタル技術標準化の覚書」というのは、2002年10月1日原版の宅建協会への提案書として作成した文書を元に、2015年にブログ化して書き連ねてきたことをまとめてあらたに編集したものです。
私がインターネットを使い始めたのが1990年代の後半で、プログラミングを始めたのが1999年頃。縁あって不動産業と関わり始めたのが2002年頃からで、実際に不動産業界に入ったのが2010年前後でありました。なので、2002年頃からの不動産業界業界のIT化の動きを外と中から見てきた、ということになります。
実に20年前から不動産業界の人達に不動産情報のデータ流通のための標準化の必要性を説いていたわけですが、当時の業界の上の立場の人達はまさに「パソコンに疎い方々」でありまして、なかなか大変でありました。
色々資料を作ったり、懇切丁寧に説明したりした所、中には理解して支持してくださる不動産会社の社長さんもいて、一時いい所まで行ったのです。
ただ、業界団体のトップのおえらいさんまでたどり着いたは良いけれど、「標準化か、よし、それなら近代化センターだな」と、例の国交省の天下りが牛耳る「不動産流通推進センター」に回されてしまい、結局の所、そこでなんにも分かっていない天下りさんに握りつぶされちゃったようなもんなんですけどね。
自分が頑張って動いたは当時影響力のあった不動産業社長さん達や業界団体トップは皆、自分たちが業界そのものを立ち上げてきた、という気概を持っていて、なおかつ(私にとっては親か祖父ぐらいの年齢でしたが)とても物分りも良く、気風(きっぷ)も良かったです。
「昔はFAXも違うメーカー同士だと通信が出来なくてだな、俺達も色々動いてその標準化みたいなことをやったんだよ」なんて言われてね。本当に良い経験をさせて頂きました。
*因みに、本当にFAXでも「標準化」が必要だったのです。
全宅連の会長の藤田さんもお亡くなりになってもう10年近く・・。本物のオーラを発していて、まさにカリスマと言って良い人でありました(改めてご冥福をお祈りいたします)。
まぁ、2002年の日本には早すぎたのかも知れません。
それから何年経っても、「まずパソコン研修を~」の不動産業界でありましたし、不動産業界団体は本書で指摘してきたような状態で、半ば匙を投げていた所もあります。
その後、国交省でも、2008年の段階で「不動産ID・EDI研究会報告書」なるものを出しているんですよね。残念ながら、ポイントがずれている上に、EDIという化石の話しが出てきたり、アメリカのRETSなどの仕様については数行触れただけでスルーしてしまっている残念な報告書となってしまっています。当然、その後に出来たRESOの存在も言及されていません。
私はひとりで20年以上前からずっと同じことを言ってきています。この業界に身をおくもの(今や私も元が付くようになりました)として、少し情けなくなってきます。
当時から日本の不動産業界においては技術的にまったく進歩していない、という事実について、笑って良いのか嘆くべきなのか分かりません・・・。不動産情報が標準化されないと、「不動産テック」なんて始まりもしないのです。
なんで日本はこんなにも動きが遅いのでしょうかね。いや、「遅い」のではなく、まったく動いてすらいない、でした。
今、巷では盛んに「デジタル化」だの「DX」だの何だの言われるようになりました。昔と違って皆を説得するのは今なら楽なはずです。何しろ、パンデミックをきっかけに世の中で脱FAXだのペーパーレスだの、DXだの言われるようになって、今や猫も杓子も「デジタル化」の時代ですから。APIや標準化の必要性や意義はとても簡単に理解してもらえる、はず・・・。
政府も、2020年に「デジタル社会の実現に向けた改革の基本方針(PDF)」で行政のシステムにおいて、「データの標準化、データ連携基盤の整備、APIの整備・公開を図る」なんて、いまさらながら言っているこの頃ではあります。
デジタル庁も出来た政府行政のシステム改善の話しはさておき、不動産業界としてどうしていくべきか。この機会に、不動産業に関わる皆様がたにおかれましては、改めて是非ご検討頂きたく願う所存であります。
追記:書類を整理していたら、古い提案資料が出てきました。不動産業界団体への提案書です。平成14年(2002年)10月1日、つまり、今から約20年前の事です。
しかし、20年以上経っても、ここで述べて来たような現状ですから、親が生きている内に、とかいうレベルではなく、自分が生きている間に実現するのを見れるかな・・・みたいな話しになってきました。
更新履歴
2002年10月1日 原版 宅建協会への提案書
2015年6月 ブログ版 初稿
2021年7月 元ブログよりnoteへ移転
2022年4月2日 要約版の提言書(PDF)を公開。
2022年4月5日 最終更新
2022年4月16日 電子書籍(EPUBとKindle)版を公開しました。
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