「不動産ID」の仕様策定も標準化団体を設立してそこでやるべき

3月17に、国交省で「第4回不動産IDルール検討会」が開かれたことに伴い、1月28日の第3回の議事概要が公開(PDF)されました。

・複数筆合わせて取引する場合の ID 入力について、ルールを決める必要があるのではないか。
・現在、効率化や分野間連携などの目的で標準化の観点が重視されており、「コード(分野体系)導入実践ガイドブック」など、標準ガイドライン群に沿った内容となっているか確認することが望ましい。

こういう話しがぞろぞろと出てくるのは当然で、何度も何度も言っていますが、本来こういった相互運用性の話しは、中立的な「標準化団体」という独立した組織を作って、そこで関連する人・組織・企業が集まって広く透明なプロセスで仕様やルール・ガイドラインといったものを決めていくのが定石なんです。

まず、皆の「共通言語」となるデータの仕様を、使う皆で決めることが必要なのです。これを「標準化」と言います。

標準化して初めて、お互いにデータをやり取りする際の相互運用性が確保されるのです。でないと、一々相手先に合わせて使う「言語(データ形式と定義)」を確認してそれに合わせて「言語」を学習していちいち使い分けなければいけないという大変不便な状況になってしまうからです。

不動産業における「デジタル化」とは何か

これ、ウェブに限らずITの技術をやるひとにとってみれば基本中の基本の話であります。

私はIT業界の片隅にも関わって、ITの発展はかれこれ四半世紀に渡って直に見てきたわけですが、欧米では「標準化」という作業を有志をはじめとし業界を挙げて協力して行い、「スタンダード(標準)」となる仕様を策定し、皆が便利になる仕組みを作り上げてきました。インターネットとウェブそのものがその成果物です。また各種ビジネス業界でも「標準化団体」というものを結成して、「標準規格」と言った仕様を「公共財」として皆で使うものを作り上げて、業界の発展に寄与させています。

標準化が進まない日本〜理由は「自分が損をしてでも人の足を引っ張ろうとする日本人」?

このnoteでも度々紹介してきた、米国のRESO(Real Estate Standards Organization)というアメリカの不動産業界における標準化団体では、Web APIはもとより様々な仕様を標準化しており、そのなかに当然のことながらIDの仕様も含まれています

(追記>「米国版『不動産ID』、RESO UPIの事例を紹介」を書きました)

RESO Unique Identifiers – UPI, UOI, ULI

RESO creates standards for unique identifiers for properties (UPI), organizations (UOI) and real estate licensees (ULI). Unique identifiers ensure that industry data sets can be stored, shared and displayed in the most efficient and accurate way for real estate professionals and consumers.

RESOでは、固有IDとして以下の標準を策定しています。UPI(物件)、UOI(組織)、ULI(免許)。固有のIDは、不動産業界のプロフェッショナルや消費者に対して、業界のデータセットが最も効率よく正確な方法で保存・共有・表示されることを確実にするためのものです。

https://www.reso.org/reso-unique-identifiers/

不動産業においては、海外の規格をそのまま使うことが出来ません。

海外の不動産関連サービスやソフトウェアは、法規だけでなく、住環境や慣習も異なるので、まったく使えません。

不動産業界がIT・デジタル化で遅れている本当の理由

よって、日本では日本の状況にあわせて独自に標準化を行う必要が出てくるのです。

去年の7月に書いた「『不動産ID』についてひとこと 」でも、ウンザリ気味に書きましたが、「本来は、不動産IDの仕様なんて、不動産業界が自主的に標準化の一環として、とっくのとうにやっておくべきことのひとつにしか過ぎない」ことなのです。

国で「検討会」を開くことでもなければ、国が決める事でも絶対に無いのです。皆んなが使う皆んなで決められる皆んなのものオープン標準)であるべきだからです。国が主導して絡むと動きが極度に遅くなります。官僚は使う当事者でもなければ何が必要かの知識すらありません。特定の企業が主導して絡むと競合他社は使わないでしょう。

だから「不動産業界団体が主導し、標準化団体なりで標準化をやるべき」なのです。

今回の国交省での検討会も、ただ単に2020年の政府答申(PDF)で「不動産IDとしての不動産登記簿のIDの活用」するよう「国土交通省が主体的に各種取組を進め」るべし、と直にお叱りを受けたからなのかもしれませんが、国や官僚が出てくると大抵ろくな事になりません

「不動産ID」に限らず、決めなければならないことは沢山あります。

そもそも「物件情報」という一つのデータの塊に固有の不動産IDを振ることが出来るようになったって、その「物件情報」をどのような書式・形式で他のシステムとやり取りするというのでしょう。バイナリ?テキスト?CSV?行順番は?日付形式は?数値の桁は?文字コードは?XML?JSON?データディクショナリは?スキーマは?認証は?プロトコルは?

な~んも考えてないっしょ。

『不動産ID』についてひとこと

私が2002年に不動産業界に提案し、それをまとめた「不動産情報デジタル標準化の覚書」で「不動産業界団体が主導し、標準化団体なりで標準化をやるべき」とずっと主張してきたことであります。

日本の不動産業関係者はみな、「お上がやることでしょ」と思考停止してきただけなのです。

日本でやっと少し「みんなで検討して決める」という機運が出てきたこの機会に、「標準化団体」設立へ動くべきでしょう。

追記:「不動産の標準化組織 RESO(Real Estate Standards Organization)とは 」を書きました。

続き:相変わらず酷い 〜 国交省が、「『不動産IDルールガイドライン』を策定」して公開したのだけれども・・・


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