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説明的文章の授業をつくろう:下

 この記事の続きです。

題名読み

 今回の作業はどうだったでしょうか。魅力的な「問い」を出せば、その説明的文章教材のポテンシャルを引き出すことができます。
 「問い」は、目的に応じていくつかの種類に分けることができると考えられます。今回はその中から「題名読みのための問い」と「再読のための問い」を取り上げます。
 まず、「題名読みのための問い」①~⑤を振り返ってみましょう。ここで一つひとつについて書くことはしませんが、それぞれの問いに意図があり、「平和のとりでを築く」を読む学習で子どもたちに何を考えさせたいのかにつながっています。「題名読み」では、「平和のとりでを築く」という短いフレーズを起点として、「タイトル」に関する記憶を活性化することになります。語句の意味の捉え方が人によってちがうことに気づいたり、普段はあまり意識することのない語句の意味を問い直したりすることにより、文章を読む前の準備ができます(レディネス)。「題名読み」は、意味記憶ネットワークの活性化につながる方略です。

表現するための再読

 次に、「再読のための問い」についてです。「再読のための問い」を考えることは、その説明的文章の授業をどのように展開するかを考えることでもあります。
 教科書には、この教材に基づく「活動の流れ」が次のように示されています。

1「平和のとりでを築く」を読み、自分の考えをもつ。
2 自分の考えを確かにするために調べる。
3 意見文を書く。
4 スピーチをする。

光村図書の教科書より

 「スピーチをする」という単元のゴールに向けて、説明的文章の読みが位置づけられています。スピーチは一種の表現活動、アウトプットの活動です。ここでの読みは、アウトプットを行うという目的で行われます。したがって、ここでの「再読」は「表現するための再読」と呼ぶことができるでしょう。 
 こうした表現活動を位置づけた学習指導は、以下のような3部構成で展開されることが多いようです。言語活動の充実を通して言語能力を高めめるという観点からも、注目される再読の方略です。

 Ⅰ オリエンテーション(題名読みなど)
 Ⅱ 目的をもって読む
 Ⅲ 表現する

筆者作成

把握するための再読

 これに対し、森田信義は説明的文章教材の学習指導として次のような流れを提案しています。

① 題名読み
ーー興味・関心の喚起、読みの構え作り
・説明の対象になっている「もの」、「こと」について、読み手の認識のありようを把握させる。
・「知っていること」、「予想できること」、「疑問に思っていること」、「意見」、「説明や主張したいこと」、「説明や主張の方法」を考えさせ、記録させる。
・自分なりに、題名に即した文章を書いてみる。
② 教材の通読⑴
ーー教材文との初めての出会い、読みの過程における反応の創造、内容・ことがら中心の読み
・「題名読み」における学習内容を念頭において、文章を読み通す。
③ 教材の通読⑵
ーー反応の掘り起こしとしての読み通し
・反応(予想、同意、疑問、発見、意見、感想、批評など)を書き込む。
・反応を整理し、学習課題を作る。
④ 教材の精読
ーー教材の部分、部分相互の読み、内容・ことがらを内包しつつ言語表現、論理を対象とする読み
・教材の客観的把握(書いてあることを書いてある通りに把握する)
・通読段階で得た学習課題を解決する。
・新しい反応の創造と解決。
⑤ 教材の総合的把握
ーー教材のことがら・内容、表現、論理の全体にかかわる確認読み、及び評価読みの整理、まとめ
・先行する段階に現れた反応(学習課題)を総合的にとらえる。
・残された反応を確認し、反応の意味を考える(反応の仕方を評価する)。⑥ まとめと発展
ーー吟味・評価の最終形態としての表現活動(必須ではない)。
・教材文の総合的批評を「批評文」に書く。
・学習の発展を図る(読みの拡充 その他)。

森田信義(2010)「説明的文章教育の研究」『新訂 国語科教育学の基礎』溪水社

 引用中に「確認読み」と「評価読み」という用語があります。森田は「読み」をこの二つに分けてとらえています。

  •  確認読み:教材文に、何が書かれており、どのように書かれており、それはどのような論理構造になっているのか(筆者の立場からは、何を、どのような表現で、どのような論理構造のものとして書いたか)を確認することを目的とする読み。

  •  評価読み:学習の対象である教材を吟味・評価して、よいもの・質の高いものと、問題を抱えているものの発見とその解決などをその内容とする(読み)。

 森田の学習指導プランの中でも、⑥として「表現活動」が位置づけられています。しかし、「必須ではない」とされているように、あくまでそれは補助的なものであり、授業の大部分を占めるのは教材を読み深める過程であると捉えてよいでしょう。森田の指導過程では、「題名読み」「反応」「学習課題」などを活かして教材をくり返し読み、「教材の総合的把握」が目指されているのです。その意味で、森田の提案する学習指導プランで行われることになる「再読」は、「把握するための再読」と呼んでよいでしょう。
 おそらく、今回の作業でみなさんが考えた「問い」の多くもこちらに該当するのではないかと思いますが、どうでしょうか。
 再読の方略にはこのように、「表現するための再読」と「把握するための再読」があるようです。どちらがよいと論じたいのではなく、どちらも教材研究の中で適切に選択できることが重要です。
 しかし、説明的文章は本来、表現活動のための単なる「道具」なのではありません。そうではなく、それ自体読み深めるだけの価値を秘めた学習対象なのです。説明的文章教材をそのようなものとして児童生徒に教えるためには、「表現するための再読」だけで授業を終えないようにしたい、「把握するための再読」を疎かにしてはならないと私は考えています。

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