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100万人が共創するLEGO IDEASに学ぶオンラインコミュニティの威力~あるいは共創のDXについて~

まえがき

はじめましてコミューン株式会社の駒谷と申します。
コミューンはコミュニティサイト・カスタマーサクセスポータルを垂直立ち上げできるSaaSを提供しています。
私はCSMのUnitLeaderと自社コミュニティ"SHIP"のコミュマネをしてます。

このnoteは、cmktアドベントカレンダー2021の17日目の記事です。

・私の大好きなコミュニティである"LEGO IDEAS”をもっと知って欲しい
・事例を通じてコミュニティ・カスタマーマーケティングの威力を伝えたい
・コミュニティマネージャという職種の未来を考えてみたい

と思い文章を書きました。
※この文章はコミューンのユーザーコミュニティ"SHIP”内で私が投稿した内容を元に加筆して公開しています

"LEGO IDEAS"は経営をV字回復させるレベルの力を秘めていた

LEGO社は皆さんがよくご存知であろうデンマークの老舗玩具メーカーですが、実は2000年代にTVゲーム流行の煽りをうけ310億円の赤字を叩き出し倒産寸前まで追い込まれていました。そのような逆境の中、

1.「制作ストーリー」に主眼を当てたマーケティング
2.コミュニティによるオープンイノベーション

といった取組で劇的な収益改善を達成し2014年にマテル社(バービー人形の会社)を超えトイメーカー世界一の業績を達成しています
※ターンアラウンドの成功事例として研究レポートもでています

現在も業績を伸ばし続けているLEGOですが、劇的成長の中核を担っているのが"LEGO IDEAS"というコミュニティサイトです。
ハーバード・ビジネス・レビューの記述を抜粋すると、

"過去10年間における決定的な変化の1つは、顧客コミュニケーションをコントロールする上で企業が持つ力の低下だ
LEGO Ideasを通じて、87歳の会社は、単なる顧客志向のサービス提供から、コミュニティでサービス提供する経営への移行に成功した"

https://hbr.org/2020/01/turn-your-customers-into-your-community

と記載があります。
企業よりもユーザーの力が相対的に上昇し、顧客志向経営やカスタマーサクセスを実現するのにユーザーの力を借りることが合理的になった(そのようなケースが増えた)ため、コミュニティの重要性が向上している、ということのようです。

LEGO IDEASは、なんとマーケティングの父であるフィリップ・コトラーの著書「マーケティング4.0」を着想するきっかけにもなっています。

これまでの企業は一方的に製品をつくり、それを「買うの?」「買わないの?」と消費者に提示していました。しかし、子どもの遊具であるレゴや、かなりのカスタムが可能なハーレー・ダビッドソンのように、企業と消費者が製品・サービスを共創することはできないのかと考えたのがきっかけです。

https://www.dhbr.net/articles/-/3850

オンライン×持続的な仕組み作りがレバレッジのカギ

能書きは以上にして"LEGO IDEAS”というコミュニティの説明をします。
端的に言うと「LEGOでつくってみた作品」の投稿&レビューサイトです。サイトはこちら

何度かリニューアルを行っていますが2008年からプラットフォームが存在し、現在は100万ユーザー以上、28,000件以上の投稿が蓄積されています。

以下の写真でお分かりになるかと思いますが「え、これレゴでできるの?」と驚く作品が無数に投稿されています。
なお、私のお気に入りはアラジンのFriend like meです。

ジーニーのアゴはなんと可動式です。

次点のお気にいり。タイプライターです。(普通に作ってみたい)

大規模な投稿コンテスト・アワードも定期開催されますが、

・オンラインで過去の傑作をいつでも誰でも参考にできる
・作ったらすぐ投稿できて、すぐにレビューをもらうことができる、

といった場を用意している事が大きいのではと考えています。
また、このサイトは単なる投稿サイトにはとどまらず、商品開発と密に連動しており、一種のCtoCマーケットプレイスになっています。

具体的には1万人以上に支持されると公式の製品開発が検討されます。
また、販売されたセットを投稿した製作者にはロイヤルティの1%が支払われます。

このような仕組みを作ることで、

・圧倒的な質・量の商品パッケージ開発(Product)
・様々なストーリー、ユースケースの獲得(Promotion)
・フォロワー獲得と拡散経路の確保(Placement≒Channel)
・コミュニティユーザー半従業員化(Price≒Cost)

と、マーケティング4P全域でコミュニティが持続的に貢献しています。
4Pは無理やり当てはめました感あります(汗)が様々な側面で事業貢献していることが伝えたかったです

この話しをすると「インセンティブ重要ですね」という反応をいただくことがありますが、コミュニティで無闇にインセンティブをばら撒くのはアンダーマイニング効果(内発的動機がなくなっていまう)を誘発したり、投稿の質を落としたりするリスクがあるのでので注意が必要です。
このインセンティブは"ハイエンドな貢献をした方に送るスーパーユーザープログラム”であること、またコミュニティのタイプがコミュニティストラテジストのJonoBacon氏が提唱するところの「コラボレーションモデル」(YoutubeやTensorFlowのようにユーザー大幅に権限移譲するタイプのコミュニティ)だからこそであることを補足します。

もちろん、単なるファンとの交流、関係構築だけでも十分に事業貢献することはあると思いますし、LEGO IDEASのようなコラボレーション型の座組が他の企業でもそのまま適用できるものではないと思います。
顧客を理解し顧客の力を上手に借りる座組を作ることで経営を左右するレベルのインパクトを創出した事例の存在は一つの希望である、とも思います。

当時は「これはレゴだからできるのだ」といった風潮もあったようですが、最近ではNotionのようにコミュニティ主導で成長させるためにあえてプロダクトに複雑性(沼)をもたせたり、魅力的なミッションビジョンバリュー(パーパスと言っても良いと思う)を作ったりと、むしろ如何にして「エンパワードされたヒトのチカラをつかうか」が事業の成長を左右するという逆転の発想が起きているようにも感じます。

企業の顧客ピラミッド自体が"コミュニティマーケティング的"に捉えられている

小島さん提唱のコミュニティに参加するユーザーのピラミッドは皆様よくご存知かと思いますが、これは本来"コミュニティ参加ユーザー"だけでなくサービス全体および見込み顧客も含めた顧客ピラミッドにも拡張可能な概念だと思います。

https://eventregist.com/e/CMCTokyo_8

LEGO社では顧客ピラミッドを「コミュニティユーザーとそのアフィニティ(ソーシャルネットワークでつながっている類似の嗜好をもつ人々)」の階層として捉えています。

https://weckstrom.files.wordpress.com/2011/11/the-role-of-consumer-affinity-in-selecting-consumer.pdf

通常は累計累計購買金額(LTV)、顧客ロイヤルティスコア、RFMなどで顧客ピラミッドを管理するのが一般的かと思います。しかし彼らはコミュニティのネットワークでつながる顧客の全体像を「アフィニティピラミッド エンゲージマップ」と呼んで管理しています。
ここからもコミュニティ主導でLTV経営および広義の意味でのカスタマーサクセスを行おうとしているLEGO社の本気を垣間見ることができます。


以上がLEGO IDEASの事例紹介でした。
ここからはLEGOの事例を通じて私が思ったことを書きます。

日本はコミュニティに勝機があるのでは

このように経営の中核を担う"LEGO IDEAS"ですが、実はこの企画はもともと日本で生まれたものです。
ベータ版まで日本が主導し一定の成功を収めたため2011年に本国お抱えのグローバルプロジェクトとしてリスタートしました

日本で立ち上がったコミュニティがグローバルで事業貢献しているという事実に私はとても驚き、誇らしくもなりました。一方で、

・顧客の目的達成に強く貢献する実践活動が持続する仕組みを作る
・オフラインから始め、オンラインで圧倒的なレバレッジを得る

といった点に苦戦する国内コミュニティも多い印象があります。
和魂洋才ではありませんが、上記のような方法論が補完されれば、人口減少の先進国でありコミュニティに適した国民性をもつ日本が国際水準で戦えるコミュニティ先進国になれる可能性、十分にあるのではと思いました。

そんな世界線が来たらどんなに素晴らしいことでしょうか。

コミュニティをSTP・4Pと並列で捉えたい(コミュニティ"タッチ"という考えを改めたい)

2021年は明確にコミュニティの波を感じた年でした。(コミューンに所属しているというのを差し引いても)
去年12月にアンドリーセンホロウィッツという米国最強のベンチャーキャピタルが「Community takes all」と発言したことがきっかけかも?と勝手に思っていますが真相は定かでは有りません。

コロナをきっかけにコミュニティやファンベースの検討に本格的に火が付き、2021年に顕在化したのかもしれません。
そこで語られるコミュニティは企業の市場創造に関する全体的な活動です。

一方でコミュニティタッチという言葉があります。これはエンゲージメントを高めるための顧客接点の1つとしてコミュニティを捉えた概念です。

ハイタッチとテックタッチの間を補完する「タッチポイントの一つ」や「サポートの工数削減」だけの存在としてコミュニティを捉えてしまうと勿体ないのかもしれません。

また、コミュニティは全人的な価値提供、ヒューマンファーストなカスタマーサクセスの実現に向いています。(「ビジネスとキャリアの両方をグロースする」はコミュニティの特徴を端的に表す素晴らしいコンセプトですね)

LEGOの場合は、製品開発と販売ロイヤルティの仕組みでキャリアの成功までカバーしていますが、例えばBtoBSaaS(MAツール)であればプロダクトの活用だけでなく以下のようなテーマを扱えないか検討できるはずです。

これは当事者が当事者をサクセスさせるというコミュニティの特性を利用したものなのでコミュニティ独自の価値であり、ハイタッチやテックタッチと全く同列に検討されるのは若干の違和感があります。

コミュニティマネージャの春は来るか

"チーフコミュニティオフィサーはいまやCMOとも言えるだろう"という記事もありますが、コミュニティの責任者がCXOにプロモーションする事例も増えているようです。
そういった意味でコミュニティマネージャやカスタマーマーケティングに従事される方の未来は明るいように思えます。

反面、コミュニティの重要性が高まっているがゆえにコミュニティマネージャーの期待も高くなっていくのだろうと思います。
馬田さんのSlideで引用されている"Buzzing Communities”の冒頭には「著者がはじめてコミュニティサイトを運営したとき仕事の成果をデータで示せず解雇された」という中々に背筋の凍るエピソードが紹介されています。
昇進のチャンスである一方で、コミュニティへの期待や投資に見合う仕事がガッツリ求められる時代になるのかもしれません。

以上です。長文にお付き合いいただきありがとうございました。
質問・疑問・不明点などございましたらTwitterまでお願いします!
(コミュニティ従事者とつながりたい!)


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