オレンジの車いすに乗って。
ある頃から、凄く信頼をしてくれているケアマネジャーさん繋がりから、キャンナスの訪問看護師さんとの繋がりを持ち、この三角関係…(笑)が密になった。
新規の利用者さんが居れば、福祉用具が入り、住宅改修が入る。そして、言うまでも無いが、訪問看護師も入る。
この業界に居れば自ずと理解をしてくるだろうが、「ターミナル」といわれる利用者さんに出逢い、福祉用具を導入し、そしてその後引き上げ依頼が入れば、それは、
亡くなっている
ってこと。
そこはどう足掻いても仕方ないところだ。
ある日、ケアマネジャーさんからこの日も新規でターミナルの利用者さんの紹介が入り、訪問看護師さんも同じく入る。
利用者さんは男性で歳の頃は、今思えば30歳後半〜40歳前半位だったかな。
何の癌なのかは忘れたが、福祉用具の希望は軽量型の車いすと電動ベッド。
後日、納品に伺うと、まだ最近買ったであろう分譲住宅で、奥様、お子さん(小学生位の女の子2人)、そして利用者さん(ご主人)の4人暮らし。
玄関左手の部屋にお子さん二人分の勉強机が真横に並んでいて、その机から80cm程度の隙間を空けて真後ろに電動ベッドを配置。(今思えば、それは子どもの成長を最も間近で感じていたかったのだろうと思う)
徐々に電動ベッドが組み上がり、最後床ずれ防止マットレスを置いた瞬間に、元気な娘さん達が、
「わぁー!♫やったーベッドが出来たー!」
って高らかに声を上げ、ベッドの上に乗りピョンピョン飛び跳ね、嬉しそう。
そんな光景をご主人も奥様も一通り眺め、
「コラ!ダメでしょー!ここはパパが寝る所なんやからぁ」
と可愛く怒る。
そんな光景を側で見ながら俺も微笑む。
その後、使い方の説明をキチンとし、重要事項や契約書の書類を取り交わし、少しでも長くお使いになられるように願って、この日はご自宅を後にした。
それから、2、3ヶ月経った頃だろうか。
ケアマネジャーさんからの一報で、
「inochiさん、○○さんの所の福祉用具を引き上げでもらえませんか」
との連絡。
そう、この連絡がきたということの意味は、“亡くなられた”のだ。
私は福祉用具を引き上げるため、直ぐに伺った。
その時にはご遺体は無かったけれど、遺影があったので、最後手を合わせ、失礼をする、
はずだった。
玄関先に来た時に、奥様から、
「inochiさんが選んでくれたオレンジ色で軽い車いすね…これでね、家族最後の思い出にって、東京ディズニーランドに行って来たの。この車いすが軽い物だから、娘たちでも父親が乗った車いすを交互に押すことが出来ました。ホント、この車いすで家族の最後の思い出が作れました。有難うございました。」
と、うっすら涙目の表情で私に言って下さった。
この日を境に、私は福祉用具専門相談員として、直接手を出して支援をする訳ではないけど、キチンと選定をした福祉用具には「想いが乗るんだ!!」って、その奥様に教わった。
あれから、もう10年以上は経つ。
今、私は、介護業界で、最も熱い!?介護情報誌への連載と、介護職員初任者研修、福祉用具専門相談員指定講習会の講師を務めている。
その際、この私を変えてくれた“この言葉”を必ず購読者や受講生には伝えて(書いて)いる。
適当に選定をした福祉用具は、適当にしか機能してくれない。(そもそもこれは、選定とは言い難いが)
車いすなら、“単に人を移動させる物”としての機能だけだが、“想いを乗せる”とそこには、日々の少しの感動と、希望に満ち溢れた日常の強い味方となる。
それは、その利用者さんにとっては近くのスーパーに買い物に行くだけかもしれない。でもそこで、これまで顔馴染みの友人知人とお話が出来、ありふれた日常、それこそが、その地域で自立をしているってことになる。
もしかすると、その利用者さんにとってはそれがかけがえのない一時かもしれない。
適当な選定では、使い方もめちゃくちゃになり、かえって危険な物に豹変してしまう。
それは、そこ(福祉用具)に私たち福祉用具専門相談員も、利用者本人にも“福祉用具に想い”が無いから。
キチンと選定をする。
その答えを出すのは簡単だが、それは個々福祉用具専門相談員が日々考えながら気付いていかないといけない。
どうすれば、その福祉用具一つに“想い”が乗るのかを。
私は現在、バリアフリーリフォームを専任でしているが、手すり一本に私は“想い”を乗せる。
福祉用具専門相談員として働いている人たちは、杖先ゴム一個に“想い”を乗せてほしい。
300円の杖先ゴムが、その利用者さんのかけがえのない日常を支えてくれると信じて。
by inochi