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Vol.2-#42 ハネムーン紀行⑨
アンティークの価値
朝8時。夜明け前の街を抜け、ジャミ子はヴァンヴの蚤の市にやって来た。
地元の強者は暗闇のなか、ライトを片手にアンティークを品定めしている。
ジャミ子のスタンスはもっとライトだ。専門的な知識がある訳ではない。
古い家具や道具を大切にするヨーロッパの風土や、それらを上手に暮らしに馴染ませるセンスが好きなのだ。
だんだんと日が昇ってきた。とあるお店の前を通った時、何の気なしに手に取った宝石箱。美しく重厚なデザインに惹かれたのだが、なんせ重かった。重すぎ。
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だがその箱を机に置こうとするより先に、店主が話しかけてきた。
「ボンジュ―マダム」
逃げ遅れた。。挨拶を交わし、社交辞令的に値段を聞いてみた。
「300ユーロ」
え……電卓を弾く。48,000円である。
ジャミ子にとってこの金額は完全に予算外だった。
チェコからパリに来る航空券もこれより安かった。もっかいパリからチェコ行けるやん。
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店主は押しの強い男だった。
「これはかつてブルゴーニュの城で見つかった、大変価値のあるモノだ!」
「私の息子を紹介する。彼は少し日本語が喋れる。」
「この箱も、この鳥の胡椒入れも付けよう。全部で500ユーロだ!」
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いや増えとるやないか!
「いくらならいいのだ。希望を言ってみろ!」「250にまけてやる!全部で250だぞ?!」「230!もう無理だ!」
店主は外国人っぽい表情の豊かさ、オーバーすぎるリアクションでパフォーマンスしてくる。
ただジャミ子は蓋の壊れたもう一つの箱はたいして欲しくなかった上に、この箱も…そこまでの金額を出す価値はあるのだろうか。。
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蓋が壊れている
ジャミ子は言った。「いったん考えます」
日本ではこれで逃げられる。
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だが押しの強い店主は客を決して逃がさないし、冷静になる隙も与えない。
「オッケーだ!もう分かった、150でいこう!」「息子には内緒だ。彼にバレと怒られる。今のうちに早く!」「内緒だぞ!」
ジャミ子は押しの強い男に弱かった。。。
夫は妻が別の男に言い寄られているのに傍観し、「いいんじゃない?」と言っている。
「お前、いいのかよ…」
妻は夫の目の前で店主に身を委ねた。
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こうしてジャミ子の物になった重すぎる宝石箱たち。てか宝石箱なの?これ。。これなに?
その後もなぜか箱を2つ買い、蚤の市をハシゴしにクリニャンクールにも行った。
夫は一日中、重い荷物をリュックに背負うハメになったのである。
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