2023年龍谷大学古文解説(一般入試現代語訳)「落窪物語」
赤本に載っていないため、2023年龍谷大学の一般入試の現代語訳を作りました。
本文全体の理解のしやすさを優先しているため、細部の解釈違いはあるかと思いますが、その点はご容赦下さい。
リクエスト(原文込み)がありましたら作成いたしますので、気軽にコメントにてお伝えください。
男君が前の几帳を押しのけて「ここにいます。さあ出てご対面下さい」と申したので女君は恥ずかしいけれど前に出る。父の大臣が見なさると大変美しく、すばらしく成長して、たいそう白い綾の単重ねに二藍色の織物のうちぎを着なさって座っていらっしゃった。みると、この女君よりよいと思っていた娘よりも優れている。なんで落窪に押し込めて日々を過ごさせていたのかと思うと恥ずかしく思い、「(私のことを)情のないものだと思っていたために、今まで私に知られないでいらっしゃったのですね。対面できたことは、この上なくうれしく思います」とおっしゃると、女君は「私はまったくそのようには思っておりません。私が折檻されていたときに、男君とお会いしてお話した時に、『はやりあなたのことを不都合に思っていらっしゃるのでしょう。しばらくは(父に)知られなさるな』とありましたので、隠しておりました。心では全くそのようなことは思っておらず、いつかお目にかかれることを強く思っておりました」とおっしゃれば、父の中納言は「あの時、男君から冷たい対応をされた時は、『大そう失礼なことだ。何を思ってこのような仕打ちをしなさるのだ』とも思っていましたが、今全てを聞けば、女君の事をひどく扱っていたと思われていたから罰としてこのような仕打ちをされていたのだなあと、全て納得できたので、今はかえってうれしくもあります。」と笑いなさった。女君はたいそううれしく思って、「それはそれで恐れ多いのです」と申し上げたところ、督の君がかわいらしい男君を抱いて、「この子をご覧ください。心までも美しい子であります。あの天下の北の方も憎しみを持つ事はないと思います。」と父の中納言におっしゃると、女君が「またそんなよくない事を」と気まずいご様子でいらっしゃる。
中納言はその男君を見ると老いた身として大変可愛らしい、幼げな姿に心惹かれて、「こちらに」とおっしゃると、そのような老人(中納言)を怖がりもせず、抱いている督の君の手を借りて中納言のもとに抱かれたので、「本当に天下の鬼さえ憎まないでしょう。」と督の君が言えば、「いくつになられますか」と尋ねた。「三つです。」と督の君がお返しなされば、「ほかの子もいらっしゃるのか」とお尋ねしなさる。「この男君の弟は今、右大臣のもとにいらっしゃいます。また、姫君がいますが今日は物忌中ですので、今度ご覧にいれましょう」などと申し上げなさって、食事の準備係やお供の人、牛飼いにまで大そうなおもてなしをしなさった。
(中略)
中納言も督の君もお酒が何杯にもなって酔いなさって、さまざまなお話をしなさった。「今はご要望があれば気兼ねなく言っていただけるとありがたいと思っております」と督の君が中納言に申し上げなさったので、中納言はうれしいこと限りなかった。日が暮れてかれりなさるとき、督の君は、大臣には衣箱の一対を、もう一方の方には日の装束を一下り入れて渡し、世の中でよく知られた高価な帯までそこにそえなさった。越前の前には女の装束を一式に、綾の反物を添えて渡しなさった。中納言は酔って出てきなさって、「今までの関係性を辛くおもっておりましたが、なんとも嬉しいお約束ができました」などとおっしゃる。中納言の従者は多くもないので、督の君は五位、六位、雑色にそれぞれ大そう豪華な土産をとらせた。彼らは中納言と督の君の仲が良くないと思っていたため、(これだけの贈り物をしてくれるなど)どのようなことがあったのだろうかと、不思議に思っていた。
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