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ブリヂストン BSモーター31/41/41スーパー(Bridgestone BS Motor)の概要と区別について。

ちょっと前にパーツ屋さんにて、1950年代の自転車搭載用エンジン「ブリヂストンBSモーター41スーパー(以下BS41スーパー)」のジャンクと偶然出会ってしまい、勉強がてらお迎えして修理を進めているのですが…web上の同車種及びシリーズの情報がかなり錯綜していますので、本項で軽くまとめておきます。
 
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ブリヂストン BSモーター31(1953)

1:BSモーターシリーズの概要

第二次大戦後の1949年に親会社のブリヂストン(当時は日本ゴム株式会社)から分離独立した「ブリヂストン自転車株式会社」が自転車の販売促進策として「自転車に装着可能な補助エンジン」…つまり原動機付自転車(原付)というネーミングの由来であるカテゴリの製品を企画し、資本関係のあった富士精密工業(後のプリンス自動車!)に開発を依頼しようとしたけど忙しいとの理由で下請け企業(田中工業)に仕事を回され…
1952年に田中工業の開発にて「BSモーター21 バンビー号(23cc)」が完成するも、残念ながら性能や品質面での問題を抱えており、少数の生産販売に終わります。
 
程なくして富士精密工業による製品改良が行われ、翌1953年には「BSモーター31(38cc)」と排気量をアップした「BSモーター41(50cc)」を投入。これらの製品は好評を博し、当時の国内において同カテゴリで30%ものシェアを占める事に成功したのです。
更に1955年には小改良を加えた「BSモーター41スーパー」が登場しますが、この頃には既に国内のモーターサイクル市場が急速な発展を見せ始めており、BSモーターシリーズは短い期間ながら「大衆の手軽な足」という役目を果たして終焉を迎えました。
 
…といった具合で、田中工業開発のBS21バンビー号は上記の理由にて超希少車なので、現在お目に掛かれるBSモーターシリーズはその殆どがBS31/41/41スーパーの3種類となります。

2:BSモーターシリーズの基本的構造

BSモーターシリーズの内、現実的に乗る機会があるであろうBS31〜41スーパーの基本的構造はほぼ同一です。

(修理作業中の個体なのでマフラーやレバー固定枠・スロットル等が付いてません)

エンジンは自転車の車体後部左側に「上下逆さで」固定マウントされる倒立マウント式を採用した、シンプルな強制空冷ピストンバルブ単気筒2ストロークエンジンです。強制空冷機構は近年の強制空冷スクーターと同一の構造で、クランク軸に直結したファンによって外気が強制空冷シュラウド内を通過し、中のエンジン本体を冷やすようになっています。
あと勿論、この時代の2ストなので混合給油です。

変速機構の類はなく、クランク軸から減速ギアを介して回転する駆動用ゴムローラーをリアホイールリム内側に直接押し付けて回す!というダイレクトドライブ機構を採用しています。
駆動ローラーを保持する部分は長いクラッチレバーでスイングする構造になっているので、レバー操作で駆動ローラーを後輪に押し付けたらクラッチON・動力走行モード、離したらクラッチOFF・自転車モードという、操作方法が非常にわかりやすいのも大きな特徴といえます。
 
但し、実際に乗る際には以下の注意点があります。
〜〜〜〜〜 
エンジン始動はクラッチON状態でペダルを漕いで行う
  
※セルモーターもキックもありません。
キルスイッチもキーも無いのでエンストさせてエンジンを止める
  
※そもそもバッテリーがありません。
BS41スーパー以外は燃料残量を視認できず、リザーブモードもない
  ※スーパーは簡易的な燃料残量チェック窓(ホース)が付きます。
そもそも非常に遅い
  ※電動アシスト自転車の感覚で漕ぎを併用する運用を推奨します。
  ※メーカー曰く「ペダルの活躍でエンジンの力を倍にもできます」
〜〜〜〜〜 
なんともワイルドですが、シンプルなのはいい事です。

3:BSモーターシリーズの見分け方

上記の通り、BS31も41もスーパーも基本的には似たようなものであり、しかも現存車両の中にはパーツ交換された個体も多数存在する事から、予備知識無しでの区別は割と困難です。

3-1: BS31と41の区別方法

31と41(スーパーではない)の区別方法は銘板以外ほぼないと言ってよく、後方に突き出ているマフラーにフィッシュテール状の飾りが付いているかどうかも判断基準にはなりません。
逆を言えば、銘板にはでかでかと形式が書かれていますので一目瞭然です。
あと、BS31だと強制空冷シュラウドではなくエンジン本体にも銘板が付いている個体が確認されています。
 
また、詳細未確認ですが、BS31にはテイケイ気化器(TK)製キャブレター(通常はミクニOEMのアマル)が付いていた個体もあったようです。

3-2:BS41とスーパーの区別方法

マフラーと燃料タンクの形状が両者では大きく異なり、強制空冷シュラウド中央部(通気孔)の装飾の形状も異なります。

マフラーでの区別法
燃料タンクでの区別法

BS41スーパーはマフラー位置がエンジン後方からヘッド下へと移動し、燃料タンクが大型化して燃料チェック窓(ホース)も追加されました。

強制空冷シュラウド中央部での区別法。

で、ここからが若干ややこしいのですが、BS41スーパーは前期型と後期型で強制空冷シュラウド中央部の装飾の形状が異なっており、前期型では丸いパンチホールが沢山空いた凹み状の造形になっているのですが、後期型ではガンダムの地球連邦軍を思わせる十字の意匠が立体的に刻まれた、透明樹脂製の飾りパーツが付いています。
ちなみにBS31/41の同部分は丸い金属板に金網が貼られたシンプルなもので、表側からボルトで固定されています。これは装飾部分を外しオプションのプーリーを付ける事で紐を巻いてのエンジン単体起動を可能とし、汎用エンジンとしての運用を行うためです。
 
色々書きましたが、そもそも銘板には「BS41」「BS41スーパー」とハッキリ書いてありますので、銘板がへばり付いている強制空冷シュラウドを交換されていなければ、BS41とスーパーの区別はここでも一目瞭然です。

4:今、BSモーターに乗る意味はあるのか

BSモーターが生まれた時代は1950年代。当時の日本は終戦後のモータリゼーション黎明期にようやく達した…という段階だったので、バイクはおろか自家用車すら少なく、信号機も充分に配置されておらず、公道でのスピードレンジも低いものでした。
 
そして令和を迎えた今。バイクもクルマも溢れ返り、全国くまなく舗装路が整備され信号機が当然のように機能し、スピードレンジも自ずと高くなりました。
現行法における原付一種の制限速度である30km/hで公道を走ろうものなら、「トロトロ走るんじゃねえよ!」と怒られたりノーウインカーで強引に追い抜かれたりするなんて日常茶飯事です。
 
そんな交通事情の中、動力走行だと30km/h出せるかどうかも非常に怪しいBSモーターで「普通に」公道を走るのは、どうかしたら迷惑行為にすらなりかねません。
 
では、もうBSモーターに居場所はないのでしょうか?

拙ブログの常連、ピープル。
どうせこの子もいずれ帰ってくる。そしてまた乗る。
ただ、アイドリングできないのは大きな欠点なのでそこは改良したい

先に答えを書きますと「BSモーターの居場所はまだあります」。
 
筆者は大学を出てギャラリーに就職した頃、市街地での買物の足としてホンダ・ピープルを愛用していた時期がありました。
ピープルはBSモーターに負けず劣らずの鈍足で最高速度20km/h未満…というとんでもなく遅い「原動機付自転車」でしたが、隣町のスーパーにお米等の重い買物をしに行く時には、その非力ながらも愛らしい24ccエンジンによるささやかなアシストが有り難く思えました。
電動アシスト自転車の方がパワフルで速くて歩道も走れるのはさておき…
 
そもそも、BSモーターのアシスト力が現役当時に重宝されたのは「重量物運搬」の際だったとも聞きます。まだスーパーカブが原付市場を席巻していなかった頃、自転車は庶民の足であると同時に、立派な運搬手段でもあったのです。
 
という訳で、要するに「バイク」というよりは「電動アシスト自転車」的な運用を前提に活路を見出してみれば、わざわざ危険な広い車道に出ずとも、裏道や隘路をのんびりバタバタ走って近所をぶらぶらすればいいや!という開き直った結論に辿り着きます。
 
しかも、かわいいエンジンを愛でながら…です。
ある意味これは贅沢なライディング?スタイルなのかもしれません。

そもそも、BSモーターはガソリンとオイルこそ燃やしますがバッテリーや電子機器を一切積んでない非常にサステナブルな(?)バイクなので、これはこれで地球環境保全に貢献している…とは、言えない…かな?
 
話が脱線しましたが、BSモーター(及び同類のモペッド)はまだまだイケる!と筆者は確信しています。
 
但し、いざ公道を走るとなると、ライト等の補器類が要ります。
BSモーターは飽くまで「補助エンジン」に過ぎず、灯火類や速度計を筆頭とした補器類は別途用意する必要があります。これは現役当時でも同様で、電池駆動式のライトやウインカー、果ては小型のアポロ(手旗のように左右にニョキッ!と飛び出る方向指示器の通称)までも社外品として販売されていました。
勿論今はもうありませんので、補器類は中古品かDIYの二択です。
この辺りはちょっとハードルが高いかもしれません。
〜〜〜〜〜
※付記※
実動個体のBS41をお借りして最高速度を測定した結果、動力走行ではどう足掻いても実測20km/hは出そうにありませんでした。
この結果をソースにすれば「最高速度19km/h以下」という事でウインカーとブレーキランプの装着を省けるのですが、1950年代当時のブリヂストンは何をトチ狂ったのかBS41スーパーのスペック上の最高速度を「41km/h」とか書きやがっているので(流石に漕ぎ併用だと思います)、残念ながらウインカー&ブレーキランプ自作の道は避けられません。

令和にバタバタを走らせる、それ自体が完全なるロマンであり自己満足

あとがき

こんな何処に需要があるかもわからない記事を最後まで読んで下さったあなたは、きっとBSモーターやモペッドに興味のある方だと思います。
 
しかし、記事内でも触れた通り…1950年代生まれの非力な「補助エンジン」を「モペッド」として令和の公道を走らせるのは結構大変で、しかもリアリティのあるメリットは皆無に等しいです。
乗る事を本気で考えているのであれば、片側2車線以上の混雑した公道を原付に乗って20km/h未満の速度で走ってみて下さい。ヘンなバイク大好きおじさんの筆者ですらオススメしない理由がきっとわかるでしょう。
 
それでもBSモーターすき!あいしてる!のる!
 
…という選ばれし民なのであれば、もう止めません。
 
いらっしゃいませ、同志よ。

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