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2023年、バイクはどうなる?

※本項は記事配信(23.1.1)時点の情報に基づいた記事内容です※
2023.8.24 一部情報を更新。

クルマ界隈の一部では「EV元年」と騒がれた2022年。
当然、電動キックボードを含むバイクの世界でも「EV化」が大きな話題となりました。しかしながら、クルマもバイクもまだまだ「EVへの移行が本格化!」という状況になったとは到底言えないのが現実で、充電インフラや充電規格、バッテリー性能、航続距離、廃棄バッテリー回収再利用等の解決すべき様々な課題が残っています。
しかしながら、カワサキとホンダが揃ってバイクのEV化に向けた大きな発表を行ったのもまた事実であり(カワサキはHVバイクとの並行開発)、「バイクのEV化」はもはや既定路線になったといえます。
 
一方、内燃機関搭載バイクはアジア市場の盛り上がりから「中国・インド・東南アジア」の存在感がますます高まっています。ミドルクラス以下のバイクは、日欧の有力メーカーブランド車であっても中国・インド・東南アジア製の車両をアジア市場優先で販売するスタイルが普通になってきました。
今や日本では「アジア市場のおさがり」的な車両が多く販売されています…とはいえ、栄枯盛衰は世の常。かつてのバイク王国・日本の黄金時代の残滓を知る身としては寂しい限りですが、世の中そんなもんです。
 
ともあれ、本項ではそういった時代の流れを受け止めつつ
2023年、バイクはどうなるのか?」について、現在明らかとなっている情報を基に考察・予想していきます。

①EVバイクはどうなる?

ホンダはこれからバイクのEV化に本腰を入れる。
画像の試作車両は全てフロントWディスク仕様であり、
それなりに大きな車格とパワーを併せ持つと思われる

2022年、遂にホンダが小型スクーターのみならず「モーターサイクル」に分類されるバイクのEV化に向けて本格的に動き始めました。
 
しかし、モーターサイクルカテゴリのEV化において最も動きが速い国内バイクメーカーは、意外にもカワサキでした。

カワサキ Z(EV)
カワサキ Ninja(EV)

カワサキが2023年以降市販化するとアナウンスした「Z」「Ninja」は姉妹モデルで、出力的には欧州圏のA1免許の範囲内…日本でいえばだいたい原付二種(125ccクラス)に分類される車両となるようです。
多くのEVバイクの例に漏れず変速機がない代わりに「eブースト」なる緊急加速ボタンを押すと爆発的にパワーアップするギミックがあり相変わらず狂ってる熱いカワサキ魂はEV時代でも健在のようです。
ちなみにバッテリーは交換式(重量12kgのバッテリー×2個搭載)との事なので、固定式大型バッテリー搭載による航続距離延伸よりもバッテリー交換による利便性を選んだものと推測されます。
 
「125かよ?ちっさ!」と思う人がいるかもしれませんが、カワサキの125cc級スポーツには「AR125」等の名車がかつて存在しましたので、筆者としてはおおいに期待しています。電動KRとか電動KXに進化してくれたら更に素敵ですね。

ホンダ CRエレクトリック プロトタイプ

ホンダも負けてはいません。前述の通りに市販車両のEV化を宣言した一方、電動モトクロッサー「CRエレクトリック」を鋭意開発・熟成中であり、こちらも熱い走りに期待を持てます。
オフ車のEV化では先行している海外勢にどこまで追い付き追い越せるか、非常に楽しみです。

ゼロモーターサイクルズ SR/S
現在最強クラスの市販大型EVバイク。
中華バイクと混同されがちだが、アメリカ生まれである

海外では既に小型・中型・大型を問わずEVバイクが少なからず市販化されており、一部は日本国内でも購入可能です。
 
現時点ではまだまだ航続距離や充電インフラ不足ゆえに実用性こそ乏しいですが、実はそこそこ以上のパワーを持ったEVバイクだと「ウオォォォン!」という特急列車か新幹線を思わせる加速サウンドとモーターならではのトルク感を味わえ、内燃機関とはまた違った高揚感があります。
それに加え、一部のEVバイクではパワー特性をアプリ経由で自由にセッティングする事も可能となっており、そのセッティングメニューの中には何と「仮想フライホイール」というものまで含まれています。つまり、低回転時にトルクモリモリな仕様にするのも、高回転にガン振りするのも自由自在という訳です。
更に、一部のEVバイクに搭載されている「回生ブレーキ」は、通常のブレーキであればブレーキング時に排熱として捨てるしかなかった運動エネルギーを電力として一部回収・充電できるので、下り坂等でエンブレ代わりにうまく回生ブレーキを使って航続距離を伸ばす…という、ゲーム的な楽しさもあります。これは「ツーリングのルート次第では電力を多く回収できて航続距離を伸ばせる!」という事でもありますので、ツーリングライダー的にはルート考察が捗る事間違いなしですね。
 
といった具合に、EVバイクにはEVバイクの楽しさがあります。
旧車大好きアナログ人間である筆者でもその楽しさは実感できました。だから、この先EVバイク時代が到来しても、バイクという乗り物がつまらなくなる事はない!と確信しています。

②小型〜中型バイクのアジアシフトは更に進む

ファンティック キャバレロ スクランブラー500
往年のイタリアンブランドがチャイナパワーで復活。
中華バイクを否定する気はないが、相応の仕上がりではある
(価格相応であるかはさておき…)

近年、バイクが最も売れる市場は日本でもアメリカでもヨーロッパでもなく、インドと中国を筆頭としたアジアです。
従って、アジア市場における売れ筋となる小型〜中型クラスのバイクは現地の嗜好を優先して反映した製品が多くなり、生産拠点もアジア地域での現地生産となる割合が更に高くなりました。
今や日本国内においても「アジア市場優先」の影響は大きく、国内バイクメーカーの車両ラインナップにおいても…昔は普通にゴロゴロ存在していた「日本市場向けメインのモデル」は急速に数を減らしています。
この傾向は日本に限った話ではありません。

それに加え、様々なオサレ系ブランドを纏った、似たような単気筒or2気筒のレトロチックな中華バイクや「どこかで見たようなデザインが模倣されたバイク」が乱発状態となりつつあるのは、中国メーカー製品のOEMもしくはスキンチェンジ、或いは中国メーカーとのODMによる安価な(悪い言い方をすれば原価を抑えつつブランドで付加価値を盛り易い)車両開発を行う体制が常態化しているからです。
別カテゴリで例えれば、中国製パーツの組合せで似たような製品が乱発されている格安スマホのようなものです。

レオンアート パイルダー125
2004年にスペインで生まれたブランドのバイクで、中華バイクでもある。
125ccとは思えない巨体、倒立サスに片持ちスイングアームに極太リアタイヤ。
おもちゃとしては非常に面白そうな一台だが、よく見るとハリボテ感がすごいw
この手のバイクは、ネタかおもちゃとして買う分にはいいと思う

そういったバイクが単なる「安かろう悪かろう」の域を脱しつつある現状そのものは悪い傾向ではなく、むしろ歓迎です。
しかしながら「単一バイクメーカーによる開発・生産・販売」という「垂直型ビジネスモデル」ではないので、企業同士ないし販売店との提携や契約の状況、更にいえば世界情勢次第ではパーツ供給やサポートが比較的短期間で打ち切られてしまうリスクがあり、長く乗るバイクとしてはそういったバイク、特に並行輸入車については「リスキー」だと考えておいた方が良いかもしれません。
この傾向はスマホ同様に構造のアッセンブリー化が進んでいるEVスクーターだと更に顕著となりますが、それについては後述します。
 
また、2023年以降のバイクは、EV化のみならず更なる電子制御機構及びソフトウェアの進化により、昔のバイクのような「個人がDIYして治せる」箇所は加速度的に減っていき、事実上のブラックボックス化が進むでしょう。
よって、交換パーツの確保ができなくなるとバイクの修理そのものが困難となってしまう可能性も(既に近年のクルマがそうであるように)内包しつつあります。
 
そういう背景もあり…これからは、一般的なバイクの乗換サイクルないし製品としての寿命は、クルマ同様短くなっていくと思われます。

③原付の区分や免許はどうなる?

スズキ GSX-R125 / GSX-S125

以前から「原付免許」「原付制度」については改正を求める声が絶えず、様々な噂やニュースが飛び交ってきました。
 
ちょっと前にはバイク業界関係者を中心として「原付一種免許で125ccまで乗れるようにして欲しい」という規制緩和を求める声が上がりましたが実現には至らず、最近はその有力な代案として
 
原付一種の括りを排気量ではなく最高出力に改め、排気量が50ccを超えるバイクであっても出力を大幅に抑える事で原付一種に準じた扱いにする
 
というものが上がり、その実現に向けて調整が進んでいる旨のニュースが流れて大きな話題となりました。
(そもそも世界的に見れば免許区分はパワーで区切るのが一般的であり、日本のような排気量区切りは珍しい)

スズキ アドレス110(販売終了)
こういったバイクのパワーを抑える事で50cc代替にしよう、という話が出ている

即ち、現在原付二種として販売されている100〜125cc級のバイクのパワーを抑えるだけで「新たなる原付一種」として販売する事ができるので、開発費用の高騰と販売できる市場の少なさゆえ既に絶滅危惧種と化している50ccバイクの現実的な後継ともなり得ます。
 
具体的には最高出力4kw(5.4ps)以下に抑えるという案が出ており、実現すれば「加速や最高速度は遅いけど、既存の50ccバイクより大柄で積載能力と快適性に優れた原付一種バイク」が生まれる可能性もありますので、今後の法制化がどうなるかも含め、注視したいところです。
 
なお、原付一種に関連した改正において最も強く叫ばれている
「二段階右折」については、悲しい事に今回は改正されないようです。
乗ってる側としては排気量よりも二段階右折と30キロ規制をどうにか…

④電動キックボードはどうなる?

フリーマイル プラス
短期間ではあるが筆者も所有していた。
玉石混交が酷い電動キックボードの中ではかなりの良モデルといえる。
それでも、福岡市街地での走行は正直非常に怖かった(車両のせいではない)

新たなる短距離モビリティとして一躍脚光を浴び、市街地での実験的運用も開始された電動キックボード
しかしながら…日本国内外を問わず事故や危険走行が多発してしまい、今後の規制緩和や普及についてはどうなるのか予断を許さない状況にあります。
 
電動キックボードは筆者も購入して実際に乗ってみたのですが、日本の市街地の道路の多くは、電動キックボードにとって「貴重なエスケープゾーン」である路側帯に砂やゴミ・落葉などが積もっていたり凸凹があったりしている事が多く、タイヤ径が小さくサスペンションもコンパクトな電動キックボードでの安全な(一時的)路側帯走行は困難でしたし、恐怖を伴いました。
かといって普通の車線内を低速でノロノロ走っても単なる渋滞の元でしかありませんし、現状では車両性能と道路整備状況のミスマッチをどうにかしないと本格的普及は難しい…と思われます。
 
一部の海外都市のような「街まるまる車両進入禁止」な場所で乗るのならともかく、日本の一般的な道路には合わないと書かざるを得ません。

グラフィット モビチェン
原付と自転車を切り替えて乗る、という面白いアイデア。
普及すればEVモペッドが大ブレイクするかもしれない

一方、EVモペッドのナンバープレート装着部を変形させるのと同時にEV走行能力のON・OFF切替を行い、合法的にバイクにも自転車にもなれるデバイス「モビチェン」も本格的販売開始に向けてプロジェクトが進んでおり、普及すればEVモペッドのみならず電動キックボードや電動アシスト自転車にも大きな変革と可能性をもたらしてくれるかもしれません。
 
しかしながら、電動キックボードについては現在の法改正案上だと「ヘルメット装着が努力義務どまり」になるとされる…という、低速であっても車道を原付一種クラスの速度で動力走行する車両にあるまじき安全面での大問題があります。また、同案では「ノーヘル+無講習・無免許の高校生でも公道走行可能」という、アスファルトが血の海になりそうな恐るべき状況も想定されます。
適切な法整備ないし走行可能エリアの制限が求められるでしょう。

⑤EVスクーターはどうなる?

既に日本郵便や飲食デリバリー業を中心に普及が進んでいるEVスクーターですが、2023年以降はバッテリーないし充電規格の統一に向けた体制が整い次第、個人向けにも更なる販売と普及が進んでいくものと思われます。

UPQ BIKE me01
2016年に国内のベンチャー企業が自社製品として発売した折畳EVスクーター。
実際は中国製品のOEMだった

EVスクーターそのものは日本国内でも1990年代より少数ながら販売されており、特にヤマハは2002年から「パッソル」等のスタイリッシュな製品を幾つか世に送り出しましたが…時代が早過ぎました。
実は筆者も、大学を出てバイクを降りた後に某企業のEVスクーター及びEVバイクの開発試作に携わっていた時期があり(2002〜2004)、その頃のEVスクーターはバッテリーや制御機構(コントローラー)こそ大型で重くかさばったものの、単純な走行性能や航続距離は既に現行品と大差ないレベルにあったのを覚えています。
 
しかし、EVスクーター普及のネックとなっていたのは当時も今も「バッテリー性能と安全性と充電問題と価格」、要するにほぼバッテリー関連です。

ホンダ EM1e: (ヨーロッパ向けモデル)
中国で既に発売されている五羊ホンダ製EVスクーター「U-GO」に小変更を加えた製品
※追記:2023.8.24 日本国内でも販売開始

現在、EVスクーターは主に中国と台湾で著しく進化しています。
普及にあたっての大きなネックであるバッテリーの安全性とコストの問題を改善すべく、バッテリー自体の改良は勿論なのですが、EVスクーター本体側も構造のモジュール化・アッセンブリー化・電子制御の高度化が進められ、最早「走るスマホ」に近い存在となりつつあります。
 
そして、その合理的な構造ゆえに他メーカーへのOEM・ODM供給が比較的容易となっており、ブランドを超えた生産規模拡大と量産効果の反映がなされているのです。まさにスマホです。
 
しかし…それは即ち、製品ないし機械としての寿命はスマホやEVバイク同様に短くなってしまう可能性をも帯び、長期に渡るパーツ供給やサポート体制の構築は盤石とはいえない製品が少なからずあります。よって、「愛着を持って長く乗り続ける」スタイルは今後難しくなっていくでしょう。
スマホ同様、適切なタイミングで「機種変」していく乗り物だといえます。

まとめ

以上、2022年末までの情報を元に2023年以降のバイクについてあれこれ書きましたが、総じて言えるのは「エコでもゼロエミッションでもサステナブルでもないEVがバイクの未来像になった」という現実と、EVバイクorスクーターや近年の高度に電子制御化されたバイクのライフサイクルの短さに起因し「バイクとの付き合い方が変貌していくのではないか?」という予感です。
 
とはいえ、EVバイクにはEVバイクの魅力や楽しさがありますので、私達がポケベルやガラケーやPHSからスマホに移行・適応できたように、きっとEVバイクとの新しい付き合い方にも適応していけるでしょう。
 
2023年以降のバイク新時代の波、幾つかの心配要素こそありますが…前向きに受け入れていきましょう!

ラビッ! ズンズンズンズンズンズンズンズン(古い

なお、筆者はラビットとかYBとかその辺の古い2ストバイクを引き続き愛し続けてマイペースでのんびりやっていきますので、あとは皆さんにお任せします。ボクツカレタ
 
2ストはいいぞ!!!!!!
 
当ブログ「落人村」は2023年も引き続き、現在や未来への情報のアンテナは伸ばしつつもアナログ街道まっしぐらでやっていきます。

<付記>

本項ではEV(フル電動車)とHV(ハイブリッド車)を区分するため、両者が混在するバイク&スクーターのカテゴリについて「EVバイク」「EVスクーター」と呼称していますが、それ以上の深い意図はありません。
あと、既に製品が多くリリースされ国内での運用もされているEVスクーターについては(本項は未来予想記事のため)はしょった紹介に止めており、その影響でEVスクーターに力を入れているヤマハの紹介が少なめになってしまいましたが、筆者はそもそもヤマハ2スト派なのでヤマハDisってる訳ではありません。一応…

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