見出し画像

ヤマハYA-6〜125A7〜YB125Eの歴史。

ヤマハ初のバイク・YA-1直系の末裔であり、高性能ゆえ1960年代においてモトクロッサーのベース車としても人気だった2ストローク125cc単気筒バイク「ヤーロク」ことYA-6は、今でも知る人ぞ知る隠れた傑作車としてひっそりと愛されており、ヴィンテージモトクロッサーのベース車としても健在です。
更に…そのタフさゆえ実用車にクラスチェンジした「ヤーナナ」こと125A7、更なる本格的ビジネスバイクとして改良を受けたYB125Eも併せ、本項ではこれら「YA-6一族」の歴史と魅力について紹介していきます。


YA-6一族について

ヤマハ YA-1(1955)

ヤマハ製モーターサイクルの歴史は、処女作である2ストローク125cc単気筒バイク・YA-1(愛称:赤とんぼ)がレースにて見事な戦績を納める事で華麗な幕開けを見せました。
レースに熱い情熱を注ぐヤマハの伝統は、まさに最初からだったのです。
 
海外製品のコピーから始まったYA-1も、YA-2、YA-3…と改良を重ねる毎にオリジナリティと性能、そして実用性を増していき…「YAシリーズ」は実用バイクとしても好評を博すに至りました。
改良型のYA-5(1961年)では高性能と実用性を両立させるべくロータリーディスクバルブを採用、単なる実用車としてのみならずレーシングマシンのベース車輌としても注目されますが…ロータリーバルブを含む吸気回りの構造や整備性がまだ洗練されているとはいえず、更なる改良が望まれていました。
 
なお、YAシリーズは1959年発売のYA-3の時点で既にセルダイナモ機構を搭載していました。実に、「赤とんぼ」ことYA-1登場から僅か4年の話です。

YA-6

ヤマハ YA-6(1964)

YA-5は上述の通りロータリーディスクバルブを採用したのみならず、フロントフォークを旧態依然としたボトムリンク式からテレスコピック式に改め、性能も快適性も大幅にパワーアップを果たしていました。
そんなYA-5ですが、1964年発売の後継車・YA-6(愛称:ヤーロク)YAシリーズとしての完成形を見せる事となります。
 
YA-6は市販車として世界初の分離給油機構(ヤマハでの名称はオートルーブ)を採用しながらもエンジンを全面改良した結果、
最高出力は11ps/6700rpmとむしろ混合給油のYA-5(10ps/6500rpm)よりアップしており、実用車然としたルックスからは想像できない痛快な走りを実現しました。
 
特筆すべきは、ロータリーディスクバルブがもたらした圧倒的な扱い易さと中回転域での粘り強いトルク特性で、パワーを絞り出すには高回転までブン回す必要があった当時のピストンバルブエンジン搭載車をよそに、特に未舗装路やオフロードでは抜群の強みを発揮できたのです。
かくして、YA-6は「オフ車(現代のカテゴリでいえばスクランブラー)」としての高い評価をも得るに至り、モトクロッサーに改造されたYA-6が各地で暴れ回りました。

ヤマハ YA-6D(1965)

翌65年には、ダブルシートに低いハンドルとちょっぴりかっこいいマフラーを搭載したスポーティーなYA-6Dも登場。
 
YA-1でヤマハの歴史の幕開けを彩り、YA-6でひとつの完成をみたYAシリーズですが、「YA」としてのナンバリングはこのYA-6で幕を閉じる事となります。

125A7(YA-7)

ヤマハ 125A7[YA-7](1968)

栄光のYAシリーズこそ終わってしまいましたが、YA-6はその基本構造もパワーもそのままに実用バイクとしての小改良を受け、1968年からは125A7(愛称:ヤーナナ)として続投する事になりました。

ヤマハ DT-1(1968)

同年ヤマハが初の本格的トレール車「DT-1」を発売した事もあってか日本国内におけるオフロード人気はそれまで以上に高まっており、いまだ本格的オフロード車が少なかった時代という事もあって、この「ヤーナナ」もモトクロッサーに変身し、相変わらず泥んこまみれになってブンブン走ったり転んだり茂みに刺さったりしてました。
 
余談ですが、本車輌の正式名称は上記の通り125A7であり、YA7とかヤーナナといった名はあくまで愛称・通称の類です(型番もA7から始まる)。細かい事を言えばYA-7という名は誤りではあるのですが、長年親しまれてきた呼び名である上に「事実上のYA-6改良型」という車輌の仕様上、筆者個人としてはヤーナナでも全然いいと考えています。

YB125E(A7)

ヤマハ YB125E[A7](1972)

1970年代初頭、ヤマハはバイクの命名ルールを大幅に変更しました。
このルール変更により、今なお続くビジネスバイクのシリーズ名「YB(ヤマハビジネス)」が誕生し、由緒正しき実用車である125A7も「YB125E」を名乗る事になりました。
なお、末尾のEは「エレクトリックスターター」、つまりセル始動を意味します。
 
1972年に登場した太ったヤーナナYB125Eは航続距離延伸のため燃料タンクが大型化され、ちょっぴりかわいい感じになりました。あとはメーターが視認性の高い大型のものに変わっています。
また、名称ルール変更に伴ってYB90/60/50とのシリーズとしての繋がりもわかりやすくなり、ますますかわいさが増しています。
 
しかし、丸っこいタンクに台所のハカリみたいなメーターetc.とかわいさ満点な本車輌ですが…実はYA-6の頃から相変わらず最高出力11psのまんまであり4速ミッションも変わらず、もはや完全にビジネスバイクになりきってるにも関わらず、全くデチューンされていません。1960年代後半の国内モトクロスシーンで暴れ回った愉快な走りもそのままです。
おまけに型番は125A7と変わらず「A7」のままなので、事実上のヤーナナです。実際ヤーナナとかA7とか好き放題呼ばれてますし筆者も好き放題呼んでますが、本質的には合ってますし、何よりかわいいのでいいです。

その後のYB125

ゴキブリのようにしぶとく生き延びてきたYA-6一族でしたが、1976年になって遂にフルモデルチェンジを迎え「YB125E-Ⅱ」(型番:1RO)として世代交代を果たしました。
YB125E-Ⅱは1964年発売のYA-6以来受け継いできたプレス製フレームと空冷横型単気筒ロータリーディスクバルブエンジンに代わり、パイプ製クレードルフレームと空冷縦型単気筒ピストンバルブエンジンを搭載。70年代バイクらしいシャープな角形燃料タンクを積んだ姿はなかなか精悍なのですが、どういう訳かフロントフォークはYA-6以来のものをそのまま使ってました。
いやそこは変えてやれよ…
 
2ストバイクとしてのYB125の歴史はこのモデルを最後に幕を閉じ、その後は国産4ストビジネスバイクであるYD125、そして現在は中国製(生産:ヤマハ上海工場)4ストビジネスバイクのYB125シリーズが事実上の後継バイクとなっています。が、書くまでもなくバイクとしての血縁関係はありません。

概要とまとめ

筆者にとって2代目となるA7。また遊ぶぞ!

最後になりましたが、資料も兼ねてYA-6一族のざっとした仕様とか概要とかをまとめておきます。なんでこんな大事な内容を最後にしたかと言いますと、上述の通りYA-6一族は1964年から1975年に至るまで基本スペックがサイズや重量以外ほぼ変わっておらず、歴代車種別に掲載する意味があまりないからです。
なんかどーしょーもなく適当な感じですが、そういう辺りもヤーロクらしくて筆者は好きです。

①スペック・仕様

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
全長:
1920mm(YA6) 1930mm(YA6D) 1880mm(125A7〜YB125E)
全幅:680mm(YA6) 725mm(YA6D) 745mm(125A7〜YB125E)
全高:970mm(YA6) 1045mm(YA6D〜YB125E)
車重:121kg(YA6/D) 120kg(125A7) 123kg(YB125E)
ホイールベース:1245mm(YA6/D) 1240mm(125A7〜YB125E) 
 
エンジン:空冷2ストローク123cc単気筒、ロータリーディスクバルブ
ボア×ストローク:56mm×50mm 圧縮比:6.8
最高出力:11ps/6700rpm 最大トルク:1.25kg-m/5000rpm
点火方式:ポイント、バッテリー点火(12V)
始動方式:セルダイナモ・キック併用
潤滑方式:分離給油
変速機:ロータリー式4段、マニュアルクラッチ
 1速 2.522 / 2速 1.524 / 3速 1.120 / 4速 0.823
 
タイヤサイズ:前後3.00-16 チューブタイヤ
ブレーキ:前後ドラム(リーディングトレーディング)
バッテリー:YB10L-B
 
最高速度:96km(YA6/D) 100km(125A7〜YB125E)
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

②で、どんなバイクなの?

散々書いた通りYA-6も125A7もYB125Eも基本的に同じバイクで、ロータリーバルブ搭載エンジンならではの図太いトルクと元気の良さを活かして(ピーキーな高揚感やビリビリくる繊細さこそありませんが)愉快な走りを満喫できます。エンジンもフレームも足回りも非常に頑丈で、分離給油機構+セルダイナモ搭載なので気楽に乗れます。キャブレターにも変な癖はありません。
古いバイクと一緒に何気ない日々を過ごしたり、肩肘張らずぶらぶらするには非常に良き友となってくれるでしょう。
 
但し、同年代のヤマハ製2スト125ccスポーツバイクには珠玉の名機とされる空冷ピストンバルブ2気筒エンジン(AS-1等に搭載)も存在し、非常に官能的なサウンドと回転フィールが味わえます。ドラマティックなパワー特性や一般的にわかりやすくピーキーな2ストらしさを求めるのであれば、YA-6一族よりはそっちに走った方が幸せになれるかもしれません。
AS-1も後継のRD125もかっこいいし。

ヤマハ AS-1D(1967)

あと、YA-6一族は中古価格安めのビジネスバイクという事で「カスタムしたい」と考える人もいらっしゃるかもしれませんが…もし、カフェレーサーにせよスクランブラーにせよカスタムを行うのであれば、まがりなりにも1690年代はバリバリのモトクロッサーベース車輌として使われていた程のポテンシャルを持ったバイクですから、しっかり走りをコントロールできるライディングポジションを取れるようにしておく事を強くおすすめします。
最高速度はともかく、ちゃんと整備調整して走らせたら今でもそれなりに速いバイクです。11ps出ますし。
 
スクランブラーとしての適性は比較的高めですが、今時のハンターカブ125とかに混じって林道ごっこをするには幅広なクランクケースや固定式ステップetc.が邪魔になりがちです。あくまで「改造前提」「ベース車としての適性が高い」程度の認識で考えておくといいでしょう。
 
総評としては「気さくな遊び友達」といった感じのバイクでしょうか。
気取らず、見栄を張らず、近所の姉ちゃんとスーパーに行くような感じで乗るのが一番似合うのかもしれません。

③おまけ〜筆者とA7の思い出

筆者が初めてYA-6一族と出会ったのは大学時代の事でした。
講義が終わったらいつも通っていた解体屋で、たまたま入荷したばかりのYB125E(以下A7)の不動個体を見て…そのバイクから発せられていた、何か異様なまでにワクワクさせてくれる「絶対楽しいオーラ」に心を奪われて即買いしてしまったのです。
で、ヤマハ2ストに身も魂も売って家庭も崩壊した師匠から「ヤーロク」の伝説を聞いては胸をときめかせながら、A7は割とあっさり復活しました。
 
その後はあちこちブンブン走り回ったり、福岡から当時実家のあった長崎まで長距離走行したり、時には農道や林道に踏み込んでみたりと、A7は古いバイクであるにも関わらず筆者に「よく馴染んだ旧車であちこち走り回る楽しさ」を存分に教えてくれたものです。
また、道中で軽い抱きつきを起こすも路上修理で復帰して自走帰還できた事で「車載工具と緊急修理アイテムの重要性」を学んだり、バイクにもライダーにも時折り休憩を入れる事のメリットを知ったりと、それまで「乗りっぱなし」と言っても過言ではなかった筆者の雑なライディングスタイルを抜本的に改めさせてくれたのも…他でもない、このA7だったのです。
 
その後、就職活動や生活環境の変化でA7(と後からやってきた125A7とYA-6)を含むバイクの殆どを手放してしまいましたが、その時にもA7を手放すのには最後まで躊躇し、手放した後もずっと後悔していました。
 
時は流れ、2022年。
20年振りにリターンライダーする決意を固め、ラビットと共に生きる事にした筆者でしたが…それでも、A7を含むYA-6一族は「きっとまた乗る」と確信しており、実際そうなりました。まぁ当然そうなりますね。
 
昔A7に教えてもらったバイクの楽しみ方は、今や筆者のライダーとしてのスタイルの根幹を成しており、既にわび子やサンマル子が同じ道を歩み始めています。
 
我が良き師にして古き友、A7。
もう別れはありません。とことん遊んでいきます!

いいなと思ったら応援しよう!