構造審査よもやま話 第16話 ~構造耐力上主要な部分~

法律の講釈を垂れながら自らは秘密保持義務に軽く抵触。






RC造の8階建ての審査を先日おこないました。

1~7階は外部RC階段、7~8階に建物内部をメゾネット形式でつなぐ鉄骨階段があり、質疑としては鉄骨階段の検討が全く無かったので
「鉄骨階段のササラ検討を追加ください」としました。


後日、設計者から電話があり

「メゾネット階段は法的に検討が必要なんですか?」

と口調は質問と詰問の中間くらい。ま敬語を使うだけまだマシ、と思いました。



口調に軽くカチンときたのは事実なんですが根気強く話を聞いてみると

「既製品ではないけど…オーダーメードで…まだ…」とかなんとか。


要は、まだ設計してないのでどうしたら良いでしょう。と。


コレが最初の一言だったらなぁ、、

法律を専門としている者に法的根拠で戦おうとするとか正気か、と。



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残念ながら審査機関側の全員が、特に構造担当者が、法律の専門家ではないです。

そうであれ、と思いますがどんな組織でも会社でも分野でもピンキリということです。

その質疑の法的根拠は、と問いただされてもおかしくない審査者も現実には存在します。

情けないわぁ…

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さて、構造設計一級建築士で構造計算適合性判定員で更に建築基準適合性判定員の私が解説させていただきます。


①法律

令82条など
構造耐力上主要な部分に生ずる力を計算すること。~構造耐力上主要な部分の応力度を計算すること。

法2条第五号 
主要構造部の説明に「階段」が含まれています。

ちなみに主要構造部とは防火及び耐火に関する規定の適用対象であり構造耐力上主要な部分ではありません。


令第1条第三号 
構造耐力上主要な部分の説明に「床版」「横架材」などとあり(※「階段」の記載は無し)「建築物の自重もしくは積載荷重、その他を支えるもの」と定義されています。



色々なQ&Aでも同様なのですが

『建築構造審査検査要領』(通称:スカイツリー本)において

「階段は主要構造部であるが、これを構成する部分である床版(踏み面・踊り場)、壁、柱、横架材(はり・ささら)は構造耐力上主要な部分に該当する」

と明記されています。


法文に「階段」が含まれていないのに、と少し勉強をされた方は仰るかもしれませんが定義から考えると含まれることはご理解ください。

ご理解いただけないからツリー本にここまで明記されて逃げられなくなった、という側面もあるのですが。



書いてないけど大事だよね、って紳士協定でササラの検討くらいやっていれば明記されなかったかもしれないけど、
そこを書いてないからって逃げた結果が明記を招いて、痛くもない腹のハズだった踏面検討まで言われてしまう。

(それでもなお踏面はほぼ全員、審査も設計も逃げていますが)


似た話はいくらでも在りまして、一時的に楽をすると、後に自分の首を絞めることに繋がるかと思います。


Next Torroja's HINT「やぶへび」





②倫理感

人間が使用する階段に対して断面検討しないのは不安にならないのでしょうか。


自重や積載荷重を支えられるか分からない階段とか怖くて使いたくないです。ご自宅の設計だったらどうされるのでしょうか。

建築士はある程度責任取らされる立場ですので、後ろ暗いことのないよう律した方がよろしいかと存じます。

また建築士法にも、建築士は誠実でなければならない旨ありますよ?私も含め誰一人そんな条文を読まないけど。



③慣習

例えば既製品の庇が取付く場合、現在ではその構造計算は求めていません。
本体に重量を考慮させているかチェックする程度。
(15年くらい前は求められましたかね、あの時代は全員がパニックだった)


法律から追っていくと、構造耐力上主要な部分の庇に該当するのですが
やはり人間が乗るわけじゃないというのが大きいでしょうか、既製品であれば不問とするのが現在では一般的です。



またRC造やS造の中の木造造作階段なんかも不問です。法律は?と言われそうですが、家具と同じ扱いとするのが慣習です。





厳密には法律により構造計算が必要な所を慣習的に不問としている訳であって
その範囲を拡大しろとか、そんなことを言う設計者が居るかもしれませんが、「じゃあ厳密にしまーす」と言われても仕方がないことを認識頂ければ幸いです。




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他にも

・令82条の前に法20条で「建築物は安全であること」
・構造計算適合性判定員にはモデル審査をする権限があるので個別の法的根拠に拠らない

とかもあるんですが、これは審査側が都合よく使っている感覚もあるので理由に含めるのは卑怯な気がします。



以上、RC造の中のS階段の検討は必要です。


今回の設計者さんに、既製品ですか?と助け舟を出したんですが
ば〇正直にオーダーメードで、とか、申請段階で決まっている訳ない、とか。へたくそめ。
申請にもテクニックってものがあるのよ。




「申請段階ではダミーでササラ検討して決まってから軽微変更しては」

…と私が言ったか言わなかったか、マズい気がするので濁します。濁すの遅い。



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