構造審査よもやま話 第14話 ~剛床仮定に見る人間と機械のせめぎ合い~
全ての議論を台無しにする今日の一言
「ぶっちゃけ解除してもしなくても結果って変わらなくない?」
構造設計の大原則で剛床仮定という考え方が有ります。剛な床で接続された複数の柱は、その水平変位が一様となる仮定です。
そのように仮定しなければ計算の変動パラメータが多すぎて、構造解析の多元連立方程式が解けないため必要に迫られた仮定だったかとも思いますが、実状と合っていなかった事例も存在しない、、ハズなのでかなり正確である仮定だと考えます。
SS7ではなくSS3でもなくSS2の更に前身くらいの電算とか、BUILDだとLPとか、BUSだと1か2、の頃には2次元での解析だったわけですが、それは並進解析と呼ばれるもので、Y1フレームとY2フレームが並進することで
(Y1フレームと同じ平面にY2フレームがあると仮定し、その間に配置するダミー繋ぎ梁で変形を同一にする解析、、で良かったかなぁ?なにぶん昔のことで。)
連立方程式の未知数を減らして構造解析してました。
これも剛床仮定の大原則に沿った解析手法でした。
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数学と構造力学が好きな人じゃないと置いてきぼりにした気がする。
ちなみに私の大学卒業研究はマトリックスによる多元連立方程式を用いたFEM解析プログラムの作成です。
楽しかったのよ?今では絶対やりたくないけど。
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さてさて現在ではSS7や3次元解析のSEINなど剛床仮定やその解除さらには多剛床など、電算で指定をするだけでモデル化ができる時代です。
高齢の方から見ると
「そんな細かい設定しないでも良いのでは…」
若い方から見ると
「電算で入力すれば簡単でかつ正確なのに…」
といったところで
正確に入れること自体は悪いことではない、むしろ良いことなので、だいぶ細かく設定される方が増えている印象です。
しかし弊害として、機械的に入力されている、そんな印象も受けます。
その中には正確(正しい、とは違う)ではありますが、指定する意味あるの?と言いたくなるものも御座います。
…ここまで書いて、私が高齢に片足突っ込んでることを自覚。
「若者の気持ちになって考えてみてください」と言われても「いや私まだ若いんだけど」と返したい。
入力してるんだから良いじゃん、と言われればそれまで、です。
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基本的には電算のデフォルトは全体剛床で、剛床解除したいところを指定するプログラムと想像します。
で、床の取付かない部分、ブレースの取り付かない部分などを解除するわけですが
①地震時の剛床を解除して、長期は解除しない。
解除するなら全部解除したら、というのが本音ですが、応力状態を考えると確かに、それこそ、長期なんか解除しないでも結果が変わらないので解除する意味もないのかなぁ、と考えます。
が、そこを分ける手間が無駄ではないかと思うのですが。
②梁の付かない方向だけ解除して、梁の付く方向は解除しない
倉庫や工場など大きな吹き抜けを有する建物の中柱によく見る設定です。
梁の付く方向は同一変位だ、と言っているのですが、節点のフレーム面外方向の変形を考慮すると同一とは言い難いのでは。
しかしながら前段と同じですが応力状態を考えると解除しないでも結果が変わらないので解除する意味もないのか、と。
③
・梁のスパン長さに対して〇〇%スラブが取付いていたら解除しない
・梁のスパン長さに対して〇〇%吹き抜けなので解除する
こちらは判断が分かれる部分ですが、一部が吹き抜けの場合に解除するかしないか、〇〇%に決まりが無いので設計者さまに任せるしかないです。
ただし、少ししかスラブが付いてないのに剛床だと言い張ったりその逆もあり。見た目から違和感がヒドイ場合もあります。
私見ではRCだと、スパン長さの1/3で区分しても良いかな、1/2かな、というところです。
Sでは1/2か、2/3、、、?
④スラブの付かない梁が3方向にある場合に解除している。
この場合でスラブが付かないからって解除は違うのではないかと思います。
三角形で三辺長さが決まったら合同じゃないか、と。
そこ動くかね。動くとは思えんね。
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電算が近い将来で、厚や形状からスラブの水平バネを出せて各柱の変位を(ほぼ同一だと思いますが)出せるとするならば、
構造的な素養も不要で、ただただ形状通りに入力して剛床仮定に拠らない解析をすれば良いのだと思います。
ですが恐らくその時代はあと10年は来ません。
なぜなら剛床仮定に疑問の余地が少ないから。プログラムメーカーが急いでやることは他にいっぱいあるかと。
であるとしたら人間が人間の頭で考えて妥当な仮定をする必要があります。
審査においては、ミクロな変形イメージを考慮したうえでの違和感は大事にしたいな、と思います。
とはいえ、機械的な入力は当然考える手間を省いてくれるのでどちらかと言えば推奨です。
「汗をかいて考えることが大事」という方も居るかもしれませんが、ほら、私、まだ若いから。