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2021年の終わりに。

何も言葉を交わさずとも、意志を感じる瞬間がある。そういう人がいる。今年感じたこと。

その人は眼から意志を感じさせる。
残留争い直接対決。チームはその事の重大さからナーバスになっていたとは思う。何も生み出さない世界最速の45分間を終え、その後の45分間も何も感じなかった。
そんなプレーをした後に、応援ありがとうございますなどとは言われたくなかった。
その選手は頭を下げなかった。その眼をサポーターがいる方に真っ直ぐ向けて、唇を嚙んでいた。
何が見えていたかはわからない。しかしただならぬ覚悟、信念、意志をそこで共有したと思っている。
来年も同じ方向を向いて、正々堂々と闘っていこう。

その人は地面に膝をつき、意志を露わにさせる。
残留に向けてもう一試合も、1ポイントたりとも落とせない状況。先制点を相手に献上するも、その直後に取り返して同点。守る時間こそ長く、再び得点を許すも、反旗を翻す準備は整いつつあった。
一年間でとてもたくましくなっていた。飄々とプレーしていた彼は鈍器のようなFW達を抑えるまでに成長していた。だがこの試合、世界を経験してきた相手との駆け引きに二度敗れ、退場を命じられた。
膝をついた。脱がなければならないユニフォームを脱ぐことが出来なかった。退かなければならないピッチをなかなか退くことが出来なかった。
背負っていた責任感、重圧、そして闘うという意志の強さ。つけてきた自信とそれが至らない現実の対比で生まれる悔しさ。言葉で表すことの出来ない強烈なインパクトをピッチの外まで与えた。
仙台で得た闘う意志、憶えた悔しさ。ベガルタ仙台出身の選手としてそれを忘れずに。

その人は走る背中から意志を伝える。
何を今更という話かもしれない。戻ってきてからの彼しか知らないけれど、その期間においては誰よりもがむしゃらに走っていた。いつでも同じ走り方。それでも二つ、強く瞼に焼き付いている走りがある。
一つは三年前。この時も譲れないものを懸けて闘っていた。リードしている状況にも関わらず、タッチラインを確実に割るボールを全力で追いかけていた。当然のことながら追いつかなかった。ゴール裏に向かって走ってくる彼の姿が忘れられない。
もう一つは今年。降格が決まった次の試合。これまでクラブに対する期待とそれに応える責任をずっと背負ってきた。降格が決まっても、その責任を全うするかのように走っていた。ただ一瞬だけ、そこから解放されたように走っている気がした。カウンター局面。彼の背中は仙台のゴール裏からどんどんと離れ、ドリブルでボールを運んでいた。なぜかはわからない。しかしドリブルが、サッカーが本当に好きなんだなと。走るその背中は感じさせた。

本当に、本当にありがとう。あなたのおかげでここ数年を闘ってくることが出来ました。頼ってしまってごめん。勝つことが楽しいことなのかと悩み、それが出来ない今が苦しいと一、瞬だけ弱音を共有してくれたこともありました。クラブのことを考え、チームのことを考え、サポーターのことも考え、色んなものを背負わせてしまいました。それでも僕らは勝たせることが出来なかった。あの夜、あの甲高い声に全く威勢がなくて、あれほど悔しいことはありませんでした。もう一回、仙台でJ1の選手にさせてあげたかったです。何もできず、無力さを痛感しています。
この別れをクラブの力に必ずしなければなりません。彼の意志を絶対に引き継ぎ、クラブをもう一回J1に戻さなければなりません。


最後に、この一年ベガルタ仙台に寄り添い闘った皆さんお疲れさまでした。現場でもその外でも、色んな立場の方々と一緒に闘った一年でした。スタジアムで関わっていただいた方々の姿勢からもクラブに対する強い意志を感じました。90分黙々とそれぞれの居場所でやり切るその姿勢に突き動かされ、終盤戦を全力で闘うことが出来ました。ありがとうございます。今後ともよろしくお願いいたします。

来年もやれることを愚直にやりたいと思います。いい年になりますように。

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